ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 作:ハヤさん。
第10話
[運命狂乱/漆黒人形]
「ルミナさん...その...」
「はい? どうしました?」
俺達は、キャンプ場に戻るため、緩やかな山道を下っていた。リューさんと二人っきりとか...平静を保つ事が難しいのは勿論、普通に喋ることも難しい。あぁくそ。なにドキドキしてんだよ。
「聞きにくい事なんですが...その、セツナさんと...」
...え? もしかして...
「もしかして、見られてました?」
「...はい。すみません...」
...ぬおおおおおおおおおおおおおおお!?!?!? なにこれ!? 新しいいじめ!? めちゃくちゃ恥ずかしい!! しかもリューさんに、リューさんに見られた!? ...やだ、死にたい。
「あああ、あのぉ...その...あれは、深い事情がありまして...」
「い、いえ。話せない事ならば構いません。しかし、これだけは教えてください」
「はい...?」
「...ルミナさんと、セツナさんはそのような関係で...?」
...は? そのような、関係...? つ、つまり...? そのような...そのような...そのような...? あっ!!!!
「ちっ、違いますよ!!!! 本当に、断じてそのような関係じゃ...!!!
てか、リューさんにその疑いは掛けられたくない。
「そ、そこまで否定するのもどうかと思いますが...でも、違うんですね」
「はっ、はい。俺とセツナさんは仲間ですから」
...仲間...そう。俺とセツナさんは仲間だ。だから、そんな関係ではない。
「ふふっ。そうですか...良かった...」
...? 良かった? どういう意味だろ...? 最近、リューさんの行動は変わってきた。最初、会った時は、軽い会釈程度。料理を運んでくる時は無言。だけど、懸命に声を掛けて、毎日通って...今思えば、なんで俺はあんなに躍起になっていたんだろう? でも、多分。セツナさんと同じなんだろう。あの時のリューさんも、空っぽに見えたんだ。
だから、初めて、おはようございます を言ってくれた時は飛び上がるくらい嬉しかった。いらっしゃいませ と言ってくれた時は、思わず笑みがこぼれた。そして、今。リューさんは、俺に笑顔を向けてくれる。笑顔で、いろんな事を喋ってくれる。
それが、とても嬉しい。
「...そろそろ見えてきましたね」
「あ、本当だ。そういえば、今日の昼食はシチューでしたよ。とても美味しかったですから、リューさんも食べてみてください!!」
「そうなのですか? ルミナさんが言うなら、間違いないですね」
こんな他愛ない話ができるようになったのも、つい最近で。でも、ずっと前から友達だったかのように、今は仲が良い。今は、これで良い。これで良いんだ。
俺は、皆の元へ駆け出した。
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「ふむ...予定と違うな...でも、予定通りっちゃ予定通りなんだよなぁ...」
今回のベル誘拐。"ヘルメスは関与していなかった"予定では、ベルを魅惑の覗きに誘い、その後に...という予定であったが、誘おうとした時点で、ベルは居なかった。誰かが、ヘルメスと同じ考えを持っていたという事になる。
「ま、これはこれで面白そうだけどね♪ な?」
ヘルメスの唇が動く。しかし、その声は、突然吹いた風により掻き消された。
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「それは本当か!?」
「はい! ベル様が誘拐されたと...見知らぬ人から...」
「見知らぬ人?」
俺は、キャンプ地に戻ってきていた。そして、そこでは"ベルとヘスティアが拐われた"という話が飛び交っていた。なんでも、最初にヘスティア、その話を聞き付けたベルが、助けにいったのだという。そして、ベルまでも拐われた...と。ん? おい、リリ。お前ヘスティア様の事忘れてない? 絶対忘れてるよね? ねぇ?
「はい。黒いローブを着た、背の低い人でした」
「...そうか...駄目だ。俺が見てきた限りじゃ、背の低い奴なんて街には居なかった」
「リリ、すまん。私にも心当たりが無いな...」
くそ...手掛かり無しか...でも、何でベルとヘスティア様を...? 拐った意味はあるのか? 何でだ...何が目的なんだ?
「それはね、ムーが遊ぶためなの」
突然聞こえた、幼い声。しかし、それに含まれた、凍えるような冷気に俺は、俺達は"ただ呆然と、その少女を見ることしかできなかった。"
「はじめまして、お兄ちゃんお姉ちゃん。ムーは、【ムー・ノワルドール】。ムーは、遊びに来たの。だから...」
その[ムー]と名乗った少女の後ろから、"漆黒の毛皮を持つコボルトが現れた。"
「ムーと遊んでくれる?」
コボルトが放った漆黒の火炎弾に、俺は反応することが出来なかった。
「ルミナさあああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!」
刹那、俺の目の前で、疾風が弾けた。
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「...ちっ、ムーの奴勝手に動きやがって...」
赤髪の少年は、舌打ちをし、爪を噛む。彼は[ミュート・ガーネット]。ムーと同じ【異端児/ミュータント】である。
「...まぁいい。あいつの好きにさせてやるか...」
すると上空に、巨大な影が現れる。最上級モンスター[ガーネットドラゴン]を越えた突然変異種[スカーレットドラゴン]。それは、ミュートの側に舞い降り、彼を頭部に乗せ、遥か上空へと飛び立った。
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「次、そこなのです」
「くっっそ!!! なんだこいつら!?」
俺達は、ムーと名乗る少女が放った、二匹のコボルトに苦戦していた。こいつらは、あの少女の命令を聞いているように見える。少女の手に巻き付いている、あの蔦にも見える道具の力なのか? さっきからチカチカ光ってやがる。...とにかく、今は!!!
「セツナさん!!!」
「おうよ!!!!」
俺は、詠唱準備をし、両手を前に重ねる。セツナさんは、人差し指と中指を口の前に立てる。俗に言う忍者ポーズだ。
『閃光付与/レクレールサヴェーション』
『影入斬裂/シャドウケイズ』
俺の身体に電流が走り、血が沸騰したような感覚に陥る。これは身体中が活性化した証拠だ。そして、セツナさんは居なくなっていた。しかし、セツナさんがいた場所からは、長い影が延びていた。そして、一匹のコボルトに、斬撃が走る。
「...ルミナ君!!!」
「うおおおおおおおおっ!!!!」
衝撃により、空中のかち上げられたコボルトの、無防備な腹に俺の双剣が炸裂する。斜め十字型に斬撃の痕が残る。まだまだ!!! 俺は下に降り下ろした剣を上に持っていき、同じ箇所を、次は下から斬りつける。より痕が深くなり、形容できないうめき声がコボルトから漏れる。...あぁ、最低の気分だ。
「...だから、もうこんな気分にさせないでくれ...」
俺は、止めに剣の痕が交差している中心部分に、剣を突き刺す。そして、一気に引き抜く。びちゃびちゃ と粘着質な音と共に、どす黒い血のような物が身体に付着する。...あぁ、嫌だなぁ...。
「なぁ、ムーちゃんよ...止めにしようぜ?」
「え? なんで? ムーまだ遊び足りないよ」
「...は? がふっっ!?!?」
刹那、少女の顔が目の前にあったかと思うと、瞬間的に俺は吹き飛ばされていた。...なんつー瞬発力、それにパワーだ...あの身体からは想像できな...え...?
少女は、身の丈に合わない長大な杖を携えていた。そして、その先端から漏れ出す、電流らしき物を帯びた、蒼き薔薇の莖。
「これは、[精霊王の杖]。ムーの玩具なんだ...ムーの友達、殺したね...? 絶対に許さない...死ぬまで、ムーと遊んでもらいます」
瞬間、俺の閃光は消し飛び、代わりに、蒼き閃光が辺りを包んだ。
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「...うっ...ここは...?」
おかしいな...僕、街を歩き回っていたんだけど...ていうかここどこ? なんか、木に縛られてるし...ん? 隣に誰かいる。
「ベル君!! 目が覚めたかい!?」
そこには、歓喜の表情を浮かべた、魅力的な胸と、童顔の神様、ヘスティア様がいた。あれ...? 神様...? そうだ!!!
「神様!!! 大丈夫ですか!? 怪我とか無いですか!?」
「...僕は大丈夫だよ。そんな事より、早く脱出しないと...」
あまり時間は、無さそうだからね...
遠くで、巨大な、遠吠えが響く。それは、異端によって歪められた、黒き巨人[ゴライアス]。このモンスターもまた、漆黒に変異した、変異種であった。
ついに、[迷宮楽園/アンダーリゾート]での、大規模戦闘が、幕を開ける。
第10話
[運命狂乱/漆黒人形]
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次回が長そうなんで短編にしました。