掌握 ~アメリア・ポッターとホグワーツ魔法魔術学校~   作:カットトマト缶

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04-01 クリスマス

「アメリア、クリスマスの日に私の家でパーティが開かれるの。アメリアを招待するわ。もちろん来てくれるわよね?」

 

 その言葉にアメリアは驚いて目を見開いた。目をぱちぱちと瞬かせて、ダリアの顔を見つめる。その反応にはさすがにダリアも首を傾げた。

 

「どうしたの?」

「ダリア、君今何て言ったんだい?」

「おかしなこと言ったかしら? パーティにいらっしゃいって誘ったのよ」

「まさかリドル家のパーティに呼ばれるなんて……その、すごく光栄だよ」

 

 アメリアの言葉にダリアはニコリと笑った。その笑顔はリドル家に生まれたことを心の底から誇っている顔だ。

 しかしその表情は崩れた。アメリアの続けた言葉のせいで。

 

「だけど、ごめんダリア。パーティには参加できないよ」

「なんですって? この私が招待してるのに?」

「ああ怒らないでダリア。まさか招待されるだなんて思ってもみなかったから、両親にクリスマスは帰るって言ってしまったんだ。本当に申し訳ないんだけど……」

「アメリア、あなた、私の誘いを本気で断ろうとしているの?」

「その、言いにくいんだけど、両親に直接スリザリンに入った経緯を伝えなくちゃいけないんだ。ほら、ポッターなのにグリフィンドールじゃないなんて両親も納得いってなくて」

 

 ダリアは思わず納得しかけた。誰よりもグリフィンドールにふさわしい性格をしているはずのアメリアがスリザリンに入ったのは、両親からしてみれば「何かの間違い」なのだ。アメリアは一応手紙でスリザリンに入った旨を伝えたが、それでも両親が納得できていないのはダリアも聞いていた。

 

「でも……そうよ、パーティに参加するだけだもの、問題ないじゃない」

「いや、一応私たちの親族もパーティをすることになってて」

 

 親族のパーティ。それにはダリアも納得せざるを得なかった。昨年シリウスがクリスマスに帰省したとき、シリウスの母を含めたブラック家の面々は彼に「なぜスリザリンではないのか」と鬼のような形相で詰め寄っていたのを知っていたからだ。アメリアも例外ではないのだろうと考えた。

 

「……わかったわよ。いいわ、せいぜい楽しみなさい」

「ダリア……」

 

 そっぽを向いてしまったダリアに、アメリアは心の底から悲しそうな顔をした。瞳が潤んで、今にも涙があふれてきそうなほどだった。それにはダリアもわがままを言いすぎたかしらと思い直して、また顔をもとの位置に戻した。

 

「来年こそはいらっしゃいね」

「ありがとう。きっと行くよ」

「そうだわ、夏休みにうちへいらっしゃいよ。そうよ、それがいいわ!」

 

 ダリアは名案だと言って目を輝かせた。しかしそれに対してアメリアの表情は浮かない。ダリアはまた何かあるのかと思って唇を尖らせた。

 

「私の家は、毎年夏は長期の旅行に出てて……」

「私と旅行、どっちが大切なの!?」

「ダリア怒らないで。もちろんその二つだったらダリアに決まってる。けれどね、私たちは親には年に数回しか会えない。そうだろう?」

「……」

「私の両親は私とジェームズに会うことだけが楽しみなんだ。さみしいさみしいっていつも手紙に書いてくれる父さんと母さんに、これ以上さみしい思いはさせられないよ」

 

 ダリアは無意識にまた唇を尖らせていた。アメリアの言い分は納得できる。母も自分がホグワーツに行くのを心底さみしがっていたのだ。もし逆の立場だったら、絶対にグリフィンドールの名家の家になんて泊りに行かせてもらえるはずない。ダリアは納得するしかなかった。

 けれど感情とは厄介なものだ。ときにそれは思考とは独立して、人を苦しめる。

 

「いいわよ、私、ホグワーツではアメリアとずっと一緒にいられるもの」

 

 そう言ってダリアは目元を隠した。

 そんなダリアに、アメリアは切なそうな表情をした。

 

「泣かないでダリア……」

「泣いてなんかないわ!」

「休暇には手紙を書くよ。それで許して」

「そんなの、あたりまえ、でしょう」

 

 友人にことごとく誘いを断られて、ダリアはとうとうぽろぽろと涙をこぼした。それにはアメリアも目を見開いて、とうとうダリアを強く抱きしめた。

 

「ダリア、ごめんね。ありがとう」

 

 アメリアは小さなリップ音を立てて、ダリアの目元にキスをした。ダリアは涙をキスで攫ったアメリアに驚いて顔を真っ赤にする。アメリアがそんな赤いダリアの頬にもう一度キスを落とすと、今度こそダリアは泣き止んで恥ずかしさから顔をそむけた。アメリアがもう一度ごめんねと囁くと、毎日書かないと許さないんだからね、なんて語気を強くして返した。そんな可愛らしいわがままを言うダリアにアメリアはほほ笑んで、自分のとは違ってまったくクセのついていないダリアの艶やかな髪に指を通した。

 

* * * * *

 

「お招きいただき誠に恐縮です、我が君」

「ああ、今夜は楽しんでいけ」

「ありがとうございます」

 

 ブラック家当主のオリオン・ブラックと、マルフォイ家当主のアブラクサス・マルフォイが、直属の上司でありこのパーティの主催であるトム・リドルに挨拶をしにやってきた。彼らの後ろにはいつにも増して煌びやかなオーラを纏っているルシウスとナルシッサ、そして不機嫌そうなシリウス、不愛想なレギュラスがついていた。シリウスは今年こそはホグワーツに残ろうとしていたのだが、母が絶対に帰るようにと念を押したので渋々参加したのだ。それに今年は去年残っていたリーマスとピーターが帰省すると言ったのも理由の一つだった。

 トム・リドルは万人の上に立つに相応しい立ち振る舞いをする男だ。威圧的な態度は娘にも受け継がれたが、それでもやはり格の違いを感じるような、絶対的な何かがあった。レギュラスはトム・リドルを前にすると、先ほどまでの不愛想が嘘かのように顔に笑みを浮かべた。トム・リドルはレギュラスの憧れの人だったからだ。

 シリウスは会場を見回して、また視線をトム・リドルの横のダリアに戻した。仲がいいと言っていたのでこのパーティにも参加しているかと思ったが、アメリアの姿はどこにもなかった。そのことをとても残念に思って、シリウスは大きくため息をついた。しかしそのため息に誰かのため息が被る。シリウスはきょとんとして、その音の出所を見た。ため息をついたのはダリアだった。

 

「どうかしたのかい、ダリア」

 

 トムがダリアに尋ねた。他の人に対する高圧的なものではなくて、それは優しい声色だった。トムは妻とダリアにだけ、このような優しい柔らかな雰囲気で接する。それは若かりし頃には信じてもいなかった『愛』というものを、二人が教え、与えてくれたからだった。

 ダリアは父にぶっきらぼうに答えた。

 

「アメリアがいないからつまらないわ」

「アメリア? 招待したんだろう?」

「家族と過ごす約束をしてしまったんですって。ねえお父様、今更だけれど、来年のクリスマスにはアメリアを招待してもいいかしら?」

「もちろんだよ。今年は残念だったね」

 

 そう、アメリアの不参加を残念に思っていたのはシリウスだけではなかった。いつも隣にいてくれたアメリアがいないことを残念に思っているのはダリアも同じだった。アメリアがいないだけで、楽しいはずのパーティもどこか味気なく感じる。

 ダリアは腕のブレスレットにそっと触れた。

 

 トムはダリアの手紙に必ず書かれている『アメリア』を思い出した。箒から落ちたところを助けてもらってからずっと一緒のアメリア・ポッターは、ダリアが唯一名前を出す女生徒だったので一番の友達なのだろうとトムは思っていた。以前彼女のことを『ポッター家の異端児』と記していたのと打って変わって、今となっては彼女の名前が出ない手紙は一つもない。そのことをトムは少なからず不満に思っていた。しかし、ダリアが快適なホグワーツ生活を送れるようにしてくれたポッター家の娘には感謝もしていて、今回の不参加もトム自身残念に思った。

 

「ほら、そんな顔していないで踊ってくるといい。レギュラス君、いいよね」

「もちろんです。行きましょうダリア」

「ええ」

 

 トムに声をかけられたレギュラスは、嬉々としてダリアの手を取った。トムに会うことができた上にダリアとのダンスを勧められた今日のクリスマスパーティは、きっと今年一番の思い出になっただろうと、レギュラスは幸せな気持ちでいっぱいになった。

 

 


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