掌握 ~アメリア・ポッターとホグワーツ魔法魔術学校~   作:カットトマト缶

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07-03

 学年末試験まで残り二週間となった休日の午後、スリザリンの一年生は魔法薬学の教室へと集まっていた。純血の者もマグル生まれの者も、誰一人欠けることなくすべての一年生がいる。当然と言えば当然だが、皆の手元には魔法薬学のテキストと調合に必要な道具があった。

 集合の時間になると教室の扉が開いて二人の生徒が入室した。アメリアとレギュラスだ。二人の手にはいくつかの薬草や動物の死骸――魔法薬の材料であることは疑問にすらならない――が入った箱が持たれていた。二人はそれをスリザリン生の前にある大きな机に置くと、肩をほぐすような仕草をして皆に向き合った。

 

「みんな来てくれてありがとう」

「むしろ礼を言うのは俺たちの方だろ。教えてもらう側なんだから」

 

 友人の一人がアメリアの言葉にそう返した。アメリアは照れくさそうな顔をして、杖を取り出した。

 

「じゃあ始めよう」

 

 アメリアはそう言うと杖を振って皆の周りにあった邪魔な机を片付けた。皆はもうアメリアの魔法には驚かなくなっていて、呪文も唱えずに机を壁際に積み上げてしまったことに感嘆の声を漏らしこそしたが、それだけだった。

 

「僕たちスリザリンは決して魔法薬学で不甲斐ない点数を取るわけにはいきません。何故なら、魔法薬学の教授は我がスリザリンの寮監だからです」

 

 そう言ったのはレギュラスだ。レギュラスはテキストを取り出した。

 

「教科書の第四章、第七章……このふくれ薬と忘れ薬のどちらかが出題されると僕たちは予想しました。これらの薬、授業ではペアで作りましたが、当然試験では一人で調合しなければなりません」

「みんなにはこの二つを一人で調合できるようになってもらおうと思ってる。この二つが調合できれば魔法薬学では高得点が狙えるよ」

 

 レギュラスが息をついたところでアメリアがまた説明した。皆はやる気に満ちた顔で二人を見ていた。

 

「始める前にみんなに確認しておくことがある。それは試験の内容だ。試験では調合のほかに筆記の小テストも出題される。先輩方から聞いてる人もいるかと思うけど、それの配点は二割。知識を問う一問一答形式の問題が十点分、記述形式の問題が十点分。何が出題されるのかは、毎年一貫性がなくて予想できなかったよ。だからみんなには、どちらかというと調合に力を入れてほしい。この二つの薬のどちらが出るかはわからないけど、この二つのどちらかが出ることはわかってる。だからみんな、本番で絶対失敗しないように慣れるまで練習しよう」

 

 アメリアは机の上にある材料を箱から出した。箱には拡張魔法がかけられていたようで、見た目からは想像できない量の材料が取り出された。

 

「教授にお願いしたものと、僕が親に頼んで用意してもらったものです。何度失敗してもかまいません。替えはいくらでもありますから」

 

 そう言うレギュラスに取り巻きたちが口笛を吹いたり歓声を上げたりした。レギュラスは涼しげな顔で皆を静める。アメリアはまた杖を振って机を並べた。いくつかの机をくっつけて長いテーブルを二つ用意し、それを教室に縦に並べた。

 

「材料に極力触りたくない人はこっち、それ以外はそっちの机に移動して」

 

 アメリアの指示に従って生徒は二手に分かれた。アメリアの方にはいつも調合がうまくいかない生徒が集まり、もう一方のレギュラスの方には調合が苦手ではない生徒が集まった。アメリアとレギュラスで手分けして皆の調合を指導するのだ。

 最初はふくれ薬の調合についてのレクチャーを行うことになっていた。

 

「ふくれ薬に使う材料の中で気持ち悪いのはこの三つだよね」

 

 そう言ってアメリアが取り出した三つの瓶を皆は直視しないようにと奮闘した。そんな皆の様子にアメリアは眉を下げて笑った。

 

「まずこのホルマリン漬け。調合に使うには液体をふき取らなきゃいけないし、教授は素手で扱うようにって言ってたよね? 嫌な臭いもするし、はっきりいって触りたくないっていうみんなの気持ちもよくわかるよ。だけど、これの処理方法については逃げ道があるんだ」

 

 アメリアはそう言って薬草を取り出した。

 

「これは泥生姜の根っこだ。これを入れるとホルマリン液をふき取る手間を省くことができる。これを入れるときの注意点を言うから、決して忘れないで」

 

 アメリアの言葉に皆が頷いて、羊皮紙を取り出した。

 

 何故そんなにも魔法薬学の知識があるのか。その疑問を抱いた者は意外なことに多くはなかった。アメリアは賢い。アメリアには才能がある。アメリアは勤勉だ。その認識はもうホグワーツに入学して一年が経とうとしているこの頃には皆の中に浸透し、アメリアがどれほどの知識を披露しても、どれほど高度な魔法を使いこなして見せても、感心感服こそすれ疑問を抱く者など、少なくともスリザリンにはいなかったのである。――――ただの一人を除いては。それがレギュラスだ。レギュラスはアメリアに劣っているとは思っていなかった。いや、思いたくなかった。だからこそレギュラスはアメリアの博学を『勤勉な才能ある魔女だから』という理由で片付けることはしなかった。

アメリアの実力を測るという意味でこの試験はレギュラスにとっては重要だったし、彼女に勝つために日々の努力には決して妥協してはいけなかった。

 

 アメリアの調合のアレンジは驚くほどに有用で、確かに精度は正規の方法で作られたものに劣ってしまうが、調合が苦手な者たちにとっては感激してしまうほどの出来に仕上がった。この日はダリアも頑張って一人で調合したが、不慣れだったため不安は残った。アメリアはダリアを含めた数人の面倒を残りの二週間見てやることになった。

 

 * * * * *

 

 試験前の一週間、アメリアには一人になる時間がただのひと時も存在しなかった。授業はもちろんのこと休み時間には友人たちが一緒だったし、放課後もスリザリンの友人たちに勉強を教えてやらなければならなかった。あえて一人になれるときを挙げるとすれば、シャワーを浴びるときとベッドに入ったときくらいか。それ以外では入れ代わり立ち代わり、アメリアの隣に友人が座って教科書を差出し、やれここがわからないだの覚え方のコツは無いかだのと質問攻めした。友人思いのアメリアはその質問に一つ一つ答え、アメリアの説明を理解できないときには一緒になってその問題に向き合った。

 ダリアはアメリアが勉強する時間を確保できていないのではないかと危惧し、皆に少し質問を控えるよう言ったが、アメリアがそれを制した。アメリア曰く、同じ範囲を勉強しているのだから良い復習になるとのことだ。ダリアは少し不安そうな顔をしたが、アメリアが「ダリアももっと頼って」と言うとその不安も吹き飛んだ。アメリアがそれを望んでいるなら自分が止めることはない。それに自分もアメリアと楽しく勉強をしたいという気持ちが大きかったので、ダリアも結局は言葉に甘えることにした。

 

 * * * * *

 

 試験当日の緊迫感は言葉にできないほどだった。七年生や五年生は大きな試験を受けるため、他の学年とは比べものにならないほどの緊張感を放っていたが、まるで自分たちもそれを受けますと言わんばかりの緊迫感を、スリザリンの一年生は放っていた。その筆頭がレギュラスである。そしてレギュラスの緊迫感に触発された友人たちもまた、一年生とは思えないほどの雰囲気を纏っていた。

 

「ダリア、本当に飛行術のテストを受けないつもりなのかい?」

「ええ、そうよ」

 

 アメリアの質問にダリアが答えた。ダリアは平然として紅茶を飲む。アメリアは眉を下げて心配げにダリアを見つめていた。

 

「飛行術のテストを受けなくても進級はできるわ」

「まあ、そうだけど」

 

 アメリアが言葉を濁すのも無理はない。ダリアが試験を一つ蹴ると言っているのだから。

 ダリアは飛行術の試験は受けないと言い張った。というのも、ダリアは初めての飛行で死を垣間見るほどの恐ろしい体験をしてしまったからだ。ダリアはあれから飛行術の授業に関しては見学で終わらせたり、乗ったとしても地上近くをゆっくり飛ぶだけだったから、教授の出す「競技場を一周し、それにかかる時間を評価する」という試験は恐ろしくてとてもではないが受けられそうになかった。教授もそれを認めるほどの事件だったため、ダリアは最低点数をつけられるかわりに試験を免除された(要するに点数は最悪だが試験を受けたことにしてもらえるということだ)。ダリアは他の教科に自信があったので、たった一教科最悪の点数を取ったとしても、目も当てられない結果になるはずないと思っているのである。そしてそれは正しくて、飛行術の穴を埋められるほど、ダリアは他教科の成績は優秀だった。

 

 試験は滞りなく終了した。ダリアは(飛行術以外の教科では)自分の実力を発揮できたし、レギュラスも空欄などただの一つも存在しないほどに充実した答案をつくることができた。

ダリアの唯一の心配の種だった魔法薬学も、アメリアとレギュラスが予想した通り忘れ薬が出題され、それを間違いなく調合することができた。提出するときの教授の顔ときたら、「さすがトムの娘だ! やればできると信じていたよ!」と今にも叫びだしそうな表情だった。そのことに機嫌をよくしていたダリアは、今後少しは調合に参加してやってもいいかという気になった。

 そしてダリアに加えレギュラスの機嫌も最高潮だった。飛行術のテストで学年一の記録を出したからだ。当然、アメリアを超えた記録である。レギュラスは友人たちから英雄のような扱いを受けた。称賛する者たちの中にはアメリアもいて、アメリアは惜しみなくレギュラスを褒め称えた。レギュラスははじめライバルに褒められて苛立たしさを覚えたが、しかし最後に見せたちょっと悔しそうな顔が、レギュラスの自尊心をそれ以上ないほど満たした。レギュラスはそんなアメリアの表情を見て、素直に称賛を受け取ってやろうという気さえ抱いた。ちなみに、アメリアのタイムは学年で三位だった。

 

 




飛行術、学年二位は誰だろうね?

 

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