城下町のダンデライオン 長男のドタバタ生活 作:てこの原理こそ最強
「葵、お前はこのままでいいのか?」
国王選挙が今週末に迫った今日、オレは葵の部屋を訪れていた。オレが聞いても葵は机に向かって黙ったままだった
「お前が何を悩んでいるかは知らんがな、何か悩んでるってことはわかるんだからな」
「…神君」
「葵はこのまま選挙戦に臨めるのか?その姿で国民のみんなの前に出る気か?」
「それは…」
「国民のみんなは本当の気持ちを聞きたいと思うぞ」
「…そうだね。ありがとう神君!お父さんと話してくる!」
そう言って部屋を出ていく葵。もう大丈夫みたいだな
ー選挙当日ー
『ご覧ください。王宮には次期国王になる方々の演説を生で見たいと言う国民が大勢集まっており、さながらお祭り騒ぎです。』
いつものサクラダファミリーニュースが今日は生中継で放送されている
『それでは会場に集まった人の声を聞いてみましょう。君達は誰に投票するの?』
『もちろん、光…じゃなかった。5女の光様です!』
『私達、クラスメイトなんです!』
光、よかったな
『そうなんだ。光様に決まるといいね』
『はい!』
『次はあそこの人達にも聞いて…うっ!』
『気合い入れていくぞー!』
『おー!!!』
『…みるのはやめましょう』
今の声は…親衛隊のやつら今日もいるのか
『以上サクラダ城からでした』
『すごい熱気でしたねー』
『はい。我々も…』
ピッ
ここで茜がテレビを消した
「なんかすごいことになってるね」
「今更何言ってんだか」
「奏動くな。ちゃんとできないだろ?」
「はーい♪」
今オレは奏の髪を整えている
「よしできた」
「ありがとうございました♪お兄様♡」
「どういたしまして。岬おいでー」
「はーい♪」
今度は岬だ
「私ライブとかで慣れてるから全然平気」
「さすがです姉上!ぼぼ僕は緊張のあまり新しい獣が目を覚ましそうです」
「お兄ちゃんお水」
「まぁそう固くなるな、輝」
「しかし兄上」
「そうだよ、輝。リラックスだよ」
まぁ輝はまだ小学生だからな。でも栞の落ち着き具合はすごいな…
「ほれ終わり」
「ありがとう、神にぃ♪あたしかわいい?♪」
「あーそうだね」
「もう、照れちゃって♪」
コンコン
「はい」
「失礼します。皆様、そろそろ会場の方へお願いします」
「わかりました。ところでみんな…演説の順番どうする?」
「クジでいんじゃない?」
「え!私やだよ!」
「じゃあ年齢順かな」
「じゃあ栞からね」
「えっ!下からなんだ!」
「おいおい」
「大丈夫か?栞」
「平気」
「みんな」
みんながガヤガヤいている中、葵がみんなのことを呼ぶ
「私…最初に話したいことがあるの。お父さんの了承は取ってあるから」
そうしてオレ達の演説は葵から始まることとなった
「国民の皆様、櫻田王家長女の葵です。本日は大勢の方に集まっていただきありがとうございます。また一年間に渡る選挙活動、大変お騒がせしました。」
葵は一度礼をして続ける
「いきなりですが私櫻田葵は国王選挙を……辞退させていただきたいと思います。」
「えっ!」
「ウソ!」
中では知らなかったみんなが驚いている
「実は私の本当の能力は【絶対遵守(アブソリュートオーダー)】というものです。この能力は命令した相手を絶対服従させるものです。私が王様になるといろんな命令や指示を出すことになります。ですがそれが必ずしも適切だとは限りません。だから王様にはなれません。それに私はみなさんとの生活の中でいろんなものに気づきました。友人や家族と分かち合う時間です!これからも公務を続けるつもりですが、それ以外普通の人として自分の道を歩んで行こうと思います」
葵の懸命な演説に国民のみんなはわかってくれたのか拍手がわく。中では栞と岬がオレに抱きついて泣いている。葵、オレはお前を誇りに思う
すると拍手が突然鳴り止んだ。そして国民はざわついている。何かと思い飛び出すと飛行船が城に迫っていた
「どうした!なぜ警告しない!?」
楠さんが状況を聞いている
「陛下、早くご家族を安全なところに」
「修!」
「あぁ、様子を見てきます」
オレの指示に即座に反応した修が能力を使って移動した
修が帰ってくると操縦士らしき人を連れてきた
「様子が変です。」
「早く介護班を!栞、修のお手伝いをしてくれ」
「うん!」
「修頼む!」
「わかった。ちょっと行ってきます、父さん」
「あぁ」
栞に修の手助けを頼み、修は栞を連れて移動した
「茜頼む!」
「うん!」
茜は勢いよく飛び出して行った
「オレもここでやってみる!遥は着陸できそうなとこの割り出しだ!他のみんなは避難の誘導を頼む!」
『はい!』
みんなオレの指示に従ってくれる。本当にできた弟や妹達だ
オレは能力で上昇気流を生み出す。修成功したのかプロペラが回り始めた。しかし少し遅かったのか船底部分が城にぶつかってしまった。こっちもこっちでパニック状態だな…すると葵が能力を発動させようとする
「葵待て!」
「でも…」
「任せろ!な、みんな!」
「そうそう!」
すると
『国民のみなさん、櫻田家次男修です。今から言うことを落ち着いて聞いてください。私達兄妹が必ずみなさんのことをお守りします。』
修?
「私には好きな人がいます。その人が毎日笑って暮らせるようにしてあげたい。国民のみなさんにもそのような人がいると思います。自分の大切な人が暮らせるようにする。そのために王家を利用してください!私達兄妹はこの先もずっと皆様をお守りし、笑顔が絶えない国にしていくようここに誓います!」
修、いいこと言うじゃん!オレもがんばるかな!
そうこうしているうちに遥が場所を特定してくれた。オレ達はその場所に移動する
ー河川敷ー
飛行船を川に着水させようということらしい
遥の指示で奏は大きい柵を生成し、その後ろにオレが土の抑えを作る。オレはさっきから能力を使い続けていてヤバい状況なんだがな…
「これでいいかしら」
「…こんなもんか?」
「うん…作戦なんて言えたもんじゃないけど…」
「50パーセントか…」
「きたわよ」
「もうあんなに低くなってる!」
「ふぅー…やるしかないだろ。輝、頼むぞ!」
「はい!」
飛行船はまっすぐ柵に突っ込んでくる。直前に落ちてきたワイヤーを輝が全力で引く。オレも風でスピードを相殺する。
飛行船は柵に落ちた…
しかし止まらない。堤防を越え国民がいる方へ突っ込もうとしている。ヤバい…!オレは能力を全開にし堤防にある土を盛り上げ止めようとする
「止まれーーーーー!!!!!!」
止まった。
『うぉーーーー!!!!』
歓声が上がっているようだがオレはどんどんそれが聞こえなくなっていく。
「神君!」
葵…
「兄さん!」
修…
「お兄ちゃん!!!」
奏…
「神ちゃん!」
茜…
「神にぃ!!!」
岬…
「神兄さん!」
遥…
「神君!」
光…
「兄上!」
輝…
「兄様!!!」
栞…
妹と弟達がこっちに走ってくるのを最後に目の前は真っ暗になった
次回で最終回となります
読んでいただいた皆様には大変感謝しています