神を破壊する大王(男)   作:ノラミミ

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 ※これは話の進まない、ただの悪ふざけ話です。


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 ――アルテラ。

 

 先日フラりと現れた褐色の青年。年齢不詳、詳しい素性も不明。

 

 何故だか上半身に服を身に纏っていない半裸スタイル。その上半身には謎の紋様の白い線が奔っている。

 

 ゴッドイーターではないというのに、不思議な三条の光彩を放つ「軍神の剣」とやらでアラガミを討伐できる異例中の異例。

 

 世界の常識に正面から喧嘩を売っているような存在だが、それも思わず納得できてしまうほどに彼の戦闘能力は逸脱している。それこそ、熟練のゴッドイーター達を凌ぐほどに。

 

 それが証明されたのは、討伐班と称される第一部隊隊長、神薙ユウと共に当たった任務でのこと。

 

 討伐対象のグボロ・グボロ堕天種が2体居るというイレギュラーな事態の中、確認されていたザイゴート堕天種の群れも含めて、その全てを一人で討伐。

 

 それを報告したのが神薙ユウということも相まって、彼を疑っていた者も、その疑惑が彼に対する興味へと移り変わりつつある。

 

 特に、彼と共に任務を行った者達の間では、彼に対する信頼は高い。冷静な思考と的確な状況判断。加えて彼自身の卓越した戦闘能力。絶対数が少ないこともあるが、彼と共に出撃したゴッドイーターの生還率は10割。それも怪我ひとつなく、だ。

 

 そう遠くない内に、彼の信用は不動のものとなるのではないだろうか。

 

 普段ではラウンジに入り浸り、千倉ムツミと談笑する姿が見受けられている。また、度々外部居住区へと向かっては、そこに暮らす人々との交流を行っているようだ。

 

 任務で得た報奨金の半分以上を孤児院等への寄付に当てていることから、彼の人格者としての面も伺える。

 

 以上より、今後の活躍が期待される。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「何だ……これは……?」

 

 ある日のこと。今日も任務を受けようとヒバリさんの元へと向かった。結果、上記のような内容が書かれた付箋を貼り付けた紙を渡された。

 

 ……説明プリーズ。

 

 視線でヒバリさんに疑問の意思を訴える。真の英雄は目で殺す――!! ではなく目で伝える。

 正確に意図が伝わったようで、ヒバリさんの説明がなされた。以心伝心だよ、やったね。

 

「実は、ターミナルのアーカイブにアルテラさんの情報を載せることに決まったので、その為の情報を持ち寄って戴いたんです」

 

「それで、これは……?」

 

「載せるにあたって、本人に確認をしていただきたいんです。何か問題があるようでしたら、ご指摘ください」

 

「なるほど……」

 

 つまり誰かが情報を売った、と。

 

 何てことだ。個人情報駄々漏れじゃないか。一部の人達がざわついてしまう。今にもプライバシーの侵害だ! と叫ぶヒステリックボイスが聞こえてきそうだ。

 

 この場合、犯人を吊し上げて人生没落コースに追い込まなくては筋違いの怒りの炎は収まらないのだ。人間って怖い。

 

 それはさておき、犯人はお仕置きだな。

 

 誰だ一体。

 

「これは、誰が持ってきたんだ?」

 

「ユウさんですけれど、それがどうかしましたか?」

 

「いや……」

 

 ギルティ。見つけ次第お仕置きだ。

 

 相手がユウちゃんであるなら遠慮はしない。初めての任務以降、結構仲良くなってるからな。多分。

 

 

 さて、問題があるか、だったか。

 

 

 ――大有りだ。

 

 

 何だこの異常に美化した評価は。どこのスーパーマンの話なの? 俺? 違います。別人です。

 

 まあ、信用がどうたらの下りまでは、俺の主観は関係ないだろうから許容する。ラウンジに入り浸っているのも事実だ。アーカイブに載せるのはどうかとは思うが、別にいいだろう。

 

 だが外部居住区、テメーは駄目だ。

 

 それと寄付、テメーも駄目だ。

 

 事実と違う。断じて違う。何、他人から見るとそう見えるの? 美化フィルターどうなってるんだ。即刻修理しろ。

 

 

 まず外部居住区の人々と交流してる、だったか。全く違うとまでは言わないが、別に俺が進んで交流しに行っているわけではない。

 

 そう、あれは任務の為に防壁の外へ出ようとした時のことだ。やたらとガタイのいい大工のようなおっさんにいきなり腕を掴まれ、戸惑う俺におっさんが言ったのだ。

 

「バカ野郎! 命は大事にしやがれ!」

 

 どうやら、ゴッドイーターの腕輪を着けていない俺を、自殺するために外に出ていこうとする奴だと勘違いしたらしい。

 

 ――良かった、良い男とか言われなくて。

 

 おっさんには悪いが、真っ先にその感想が浮かんだ。その後、弁解する言葉を適当に聞き流したおっさんに連れ回され、何故か仕事を手伝わされた。

 

 何でも、考える暇もないくらい忙しければ、そんなことする気も起きないだろうとのこと。

 

 いや、元々自殺する気ないんだが。

 

 しかし、おっさんには通用しない!

 

 そんなこんなで、おっさんの部下達と物資を運搬したり、防壁の補強をしたりで日が暮れてしまい、結局任務には行けなかった。

 どうやらおっさんはおっさんでも、おっさんカーストの上位に位置する親方という名の称号を手にしたおっさんだったらしい。

 

 ……何だおっさんカーストって。

 

 ともかく、それ以降、おっさん含めた部下の野郎共に見つかる度に絡まれて、仕事を手伝わされる羽目になっている。

 

 無視すればいいって思うだろう?

 

 だがしかし、おっさんに死角はなかった。1週間経っても見かけなければ、即座に防壁の外まで探しに行ってやらあ! という有難い脅し文句を言われてしまったのである。

 

 会ったばっかの半裸の男に命懸けんなよとは思ったが、気遣いはありがたいと感じたし、流石にそんな自殺行為をされるのをみすみす放っておけるほど腐っていない。

 

 結果、週一のバイト戦士の枠に収まった。

 

 いや、うん。何でこうなった……。

 

 つまり交流しているのではなく、おっさん共に絡まれてバイトさせられているというのが正しい。

 

 だがまあ、バイトの後にはタダ飯にありつけるので別段文句はない。男ばかりでむさ苦しいくらいのものだ。さすが俺、安上がりな男だぜ。

 

 とは言うものの、この間違いを指摘するのか? おっさんに絡まれているんだって?

 

 いやなんかヤダ。こう、尊厳的なものが損なわれるような気がする。誰が進んでおっさんに絡まれてるだなんてカミングアウトしたがると言うんだ。

 

 よし、スルーだ。知らなくていいことって世の中沢山あるからね。是非もないネ!

 

 

 さて、孤児院等への寄付の件だが……。

 

 これは完全に原因はヒバリさんだ。チラリと様子を伺うと、首を傾げて、何ですか? と言わんばかりの態度を示す。変わらぬ営業スマイルときょとんとした顔は可愛いが、俺は騙されないぞ。

 

 寄付金を援助することになった切っ掛けは、ヒバリさんの「実は……」から始まる子供達の現状のトーク。そして此方への流し目。

 

 ここまで話したんだから当然報奨金の寄付するんだよな? あ? と語っているように俺には感じられた。何か、プレッシャーを感じたのだ。

 

 情報収集のために質問していたことが裏目に出てしまったことを後悔しつつ、ここでこの話を切り上げて何事もなかった風に出来るほどの鋼のメンタルを持ち合わせていない俺は、「なら任務の報奨金から寄付をさせてもらえないか?」と聞いた。聞いて、しまった。

 

 ヒバリさんは驚いた様子で、念を押すように本当によろしいんですか、と再度聞き直してきたのだが、その時は妙な義憤に駆られていたせいか、それを肯定。

 

 では任務の報奨金の内、どれくらいの金額を寄付するのかという話になったのだが、正直、普通はどれくらい寄付するものなのか知らない。

 

 2割3割くらいだろうかと考えてヒバリさんに伝えたのだが、伝え方が問題だった。

 

「なら8割くらい(残す感じ)で頼む」

 

「は、8割ですか!?」

 

「すまない、少なかっただろうか」

 

「そんな、多すぎるくらいです! でも、本当によろしいんですか?」

 

「構わない」

 

 お分かりだろうか。問題に気が付いたのは、次の任務を終えて報奨金を確認した時のことだった。寄付の分を引いているのだから、提示額より少ないのは当然だが、少なすぎた。

 

 なにせ――8割減っている。

 

 つまり、ヒバリさん視点から見れば、俺の言葉はこうなっていたということだ。

 

「なら8割くらい(寄付する感じで)頼む」

 

 分かる分かるスッゴい分かる。俺の言い方が問題だったって、はい。

 

 敢えて言わせてもらうのならば、「俺は悪くねえっ!」だろうか。それとも『僕は悪くない』だろうか。

 

 何にせよ、結局のところ、別に報奨金が少なかろうが俺としては不便を感じたことはない。つまり、大丈夫だ問題ない、ということだ。

 

 足りないのなら任務を数こなせばいいだけの話。そもそも初めは金など無価値の状態からのスタートだったのだ。2割でも多いくらいと言える。

 

 まあ、金の使い道なんて、飯にありつく以外ほぼほぼありはしないのだから、当然と言えば当然と言える。神機に使う分の金がかからないのだ。軍神の剣様様である。

 

 

 ……こうして考えてみると、別に指摘すること無いな。過度な期待をかけられるのは願い下げだが、客観的な事実としては間違いではないし。少々美化し過ぎだとは思うが。

 

 つまりは、あれだ。

 

 俺が言うべき言葉は――これしかない。

 

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

「分かりました。では正式な文章に変換してからアーカイブに追加させていただきますね」

 

 

 ……くたばれ神様。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 神はいない。

 

 正確に言うのならば、人間に都合の良い神様なんていない。

 

 とある破戒僧も言っていた。神は人のことなど見てはいないと。

 

 この理論でいくと、神様のミスで死んだ人が転生するというよくあるパターンが全て否定されることになる。なぜなら、神にとって人間など居ても居なくてもどっちでも変わらない、その程度の存在なのだから。

 

 仮に神のミスか何かしらで人が死のうと、まあいっか、で済むだろう。いや、気にも留めはしないだろう。

 

 人間なんていくら滅ぼしても、勝手にぽこぽこその辺から生えてくる、もぐら叩きのもぐら、路傍の石ころ、その辺りの認識ではないだろうか。

 

 まあ仮にこの理論でいくとしても、神のミスで死んだ人が転生するというよくあるパターンを、良い感じに納得させる答えはある。

 

 

 簡単だ。

 

 つまりそいつらは全て――自称神だ。

 

 

 ……何てことだろうか。あの、ライトな小説ではよくあるパターンに登場する神の、その全てが、自称神だなんて。

 

 自称ほど世の中で信用ならない言葉があるだろうか。

 

 自称メディアクリエイター、自称イラストレーター、自称ゴッドイーター。

 

 自称と付けるだけで、全てが嘘臭く思える。しかも自称の後が片仮名だと、なお嘘臭さが増大する。

 

 

 ――衝撃、衝撃である。

 

 

 ライトなノベルのテンプレートの神の前提を全て覆す、圧倒的衝撃――!!

 

 もうこれは人間が生まれながらにしてニートというのと同じくらいの衝撃と言っても過言ではない――!!

 

 

 ……いや、やっぱニートの方が衝撃だわ。

 

 

 とにかく、神はいないのだ。

 

 いるのだとしたら、この胸に燻る様々な不平不満をぶちまけて、ついでに『涙の星、軍神の剣(ティアードロップ・フォトン・レイ)』をぶちかましたいところではあるが、いないものには意味がない。

 

 つまり、である。

 

 やたら美化された人物像をアーカイブに掲載されたことに対する、妙な気恥ずかしさやら何やらをぶつけるのは(八つ当たりとも言う)、人しかいない。

 

 それも、情報を流した人。

 

「ユウ」

 

「ん? アルテラ? どうしたの?」

 

「お前を探していたんだ。お前と、少しO・HA・NA・SIがしたくてな」

 

「え、わ、私と? いいけど、急にどうしたの?」

 

 特徴的な黒いポニーテールを揺らし、どこか照れたかのようにはにかみながら対応する、その様を見て。俺は、バレないように口角をつりあげた。

 

 ――お仕置きだ。馬の尻尾娘。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 「少し待っていてくれ」と言い残し、何処かへと消えたアルテラを、椅子に座って待つこと数分。戻ってきたアルテラは、何故かロープを肩にかけていた。

 

「あの、それ、何……?」

 

 何か嫌な予感を感じた私は、椅子から立ち上がり、アルテラから距離をとる。それを逃さぬとばかりに無言のまま、薄っすらと笑みを浮かべながら追い詰めてくるアルテラ。

 

 ――な、なんか怖い!!

 

 じりじりと後退しながら、逃げる隙を伺う。状況は絶望的だ。なにせ、私が下がった先は、廊下の行き止まり。壁しかない。どうにかアルテラを抜けて脱出するしか道はない。

 

 だが、抜けられるのか? アルテラを?

 

 ネガティブな考えが浮かび、それを必死に否定しながら隙を伺うことをやめない。まだ、諦めるには早いはずだ。なんとか、なんとか手立てを――!

 

 しかし、現実は無情だ。思考に気をとられ、壁との残り距離を測り損ねた私に、勝機はなかった。

 

「――あ」

 

 背が壁に触れる。その瞬間、一気に距離を詰めたアルテラが両手を伸ばし、私を逃さないようにと左肘と右手で逃げ道を塞ぐ。

 

 ってこれ壁ドンだ――!?

 

 近い近い近い!? 顔とか体とか近いから!?

 

 なんか吐息が耳にかかってくすぐったいし、アルテラの体エロいし!

 

 恥ずかしさで顔に熱が集まる中、アルテラは私の耳元に顔を寄せると、一言、呟いた。

 

「ユウ……」

 

「――!?」

 

 ぞっとするほどの色っぽい声に、体が痺れてしまったかのような感覚に襲われる。心臓が激しく脈を打ち、吐息が荒くなることを自覚する。

 

 こんな、こんないきなりなの……? 私、そういうのはまだ心の準備が――! ああ、でもそんな嫌じゃないとか思っちゃってる私――!

 

 変な気分になり、思考が飛躍する。

 

 それを、アルテラはぶった切った。なんの遠慮もなく、なんの配慮もなく。

 

「お仕置きだ」

 

「――へ?」

 

 急速に冷えていく頭。今の言葉の意味するところを私が解するよりも前に、アルテラは行動を起こす。

 

 それは、まさに迅速。目にも止まらぬ神業。

 

 あっと言う暇もなく、私は両手両足をロープで縛られ、正座の姿勢で固定するように身体中もロープで縛られた。

 

 とどめに、頭から、何かプラカードのようなものをかけられる。首を伸ばして見てみると、そこには「私は縛られて興奮するド変態です。邪魔しないでください」との文字が。

 

「な、何これえええええ!?」

 

「言っただろう。お仕置きだ」

 

「何!? 何の!? 私、何かした!?」

 

「自分の胸に聞くんだな、ド変態」

 

「違うよ!?」

 

 私の叫びも空しく、アルテラには届かない。一体私が何をしたと!? 全く心当たりがないのに! 

 

「まあ、うん……。誰かが気付いて助けてくれる、と、いいな……」

 

「今助けて!? 自信無さそうに言われると不安になるから!!」

 

「よしよし」

 

「――あ、う、うぇへへ」

 

 私の叫びを無視して、あやすように頭を撫でてくるアルテラ。あ、なんか気持ちいい。手つきが優しくて――って違うだろ私ぃ!!

 

 何ちょっと喜んでんだ!! 

 

 これじゃ縛られて頭撫でられて喜んでる本当の変態みたいじゃないか!!

 

 私は変態じゃない!!

 

 

 結局、一頻り私の頭を撫でた後、アルテラは私を助けることなく置き去りにして去っていった。

 

 ……酷すぎる。なんて理不尽だ。

 

 アリサが気付いて助けてくれるまで、暫くそのままだったことは言うまでもない。凄い引き気味だったけど。

 

 


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