アルテラに関してはちょいちょい設定を捏造しています。
フェンリル極東支部、通称「アナグラ」。
対アラガミ戦線の最前線とされるこの地では、日夜ゴッドイーター達によるアラガミとの戦いが繰り広げられている。
しかし現在。アナグラは喧騒に包まれていた。
……え? 既視感凄い? 錯覚だ。
取り敢えず、あれからのことを話そう。
あのゴッドイーター達との邂逅から。俺たちは互いに自己紹介を済ませると――ポニーテールの女の子はやはり神薙ユウだった――当然のごとく疑いの目を向けられ、質問攻めにあった。
それをこの場で話すようなことではないと先送りにして、まあ事実でもあるのでそれに第一部隊の面々もしたがってくれて、全員でアナグラへと帰投していた。
道中、俺の駆除行動が功を奏したのか、特にアラガミと遭遇することもなく、平和的にたどり着くことができたのは幸いと言えるだろう。
まあ針のむしろ状態だったのは仕方ないが。コウタとユウちゃんがそれとなく振ってくれる話題に無難な返答を返し、アリサとソーマからの疑いの視線をスルーし。なんか疲れた。
墓穴を掘ることはしなかったけども。よく他の、原作知ってるやつがテンションあがって簡単に墓穴を掘るみたいな展開を見るが、もうバカなんじゃないだろうか。
気分が高揚するのは分かる。事実俺も、内心結構興奮していた。今もしてるけど。でも墓穴掘った挙げ句に「実は……」みたいな流れで、自身の境遇を話し、それがいとも簡単に受け入れられる……。
ハッキリと言おう。
――んな訳あるかああぁぁぁぁっっ!!
ねえよ!! 仮に実は僕転生者なんですう、なんて言ってみろ。怪しい奴が胡散臭い奴にグレードアップした挙げ句に、最後は信用できない奴にジョブチェンジするのは火を見るよりも確定的に明らか!!
少なくとも会って間もない奴に言うことではない。その場のノリに身を任せて身を滅ぼす奴の典型的な例だな。現実舐めすぎだ。
いや別に俺は転生者じゃないけど。男版アルテラとかいうよく分からないポジションだけど。厨二風に言うなら、よく
どうでもいい話はさておき、つまりは俺は自分の身の上話をするつもりなど更々ないということだ。実際よく分からないし、メリットも特にない。
仮に話すとなれば、夢がどうとか適当なことでぼかして話すことになるだろう。
少なくとも今の俺はアルテラだ。この世界を生きる素性不明、正体未明の人間かどうかも怪しい存在。それでいい。
これが泡沫の夢というのであれば、夢が覚めるまで生きよう。現実というのであれば、死を迎えるまで進もう。
人生は短く、一期一会だ。
となれば、このよく分からないがわくわくする現状。何がどうなるのか大筋分かっていて、どうするかは自分次第。
――なら、甘い誘いにも乗りましょう!
自分の心のままに、アルテラ的に言うならば、決められた物語を破壊しようか。
まずは――
――説明、誰か変わってくれません……?
好機の視線に晒されて、たどり着いたは支部長室。糸目の博士のその眼前。
嗚呼、説明するの面倒くさい……。
まあいいさ。何故なら俺は真顔で嘘がつける男。騙し騙されて魅せましょう。
……凄い詐欺師っぽい謳い文句だな。
◇◆◇
――アルテラ。
それが、彼の名前らしい。こうしてアナグラへの道を私たちが先導して帰投するなか、それとなく彼のことを観察する。コウタが持ち前の明るさで会話してくれるお蔭で、それも容易に行えた。
この短い時間での彼に対する印象は、正直よく分からないとしか言いようがない。時間が短いのは勿論だが、なんというかチグハグな感じがするのだ。
敬語で話しているから育ちがしっかりしているのかとは思うが、その割りには半裸だし。色々と知らないことがあるようなのだが、その割りには教えても特に驚いた様子はないし。いや、ただ反応が薄いだけなのかもしれないけど。
とにかくよく分からない。
初めての時の言葉もよく分からなかった。あの時、彼の目は酷く冷めきっていたように思う。機械的な、そこに意思が介在していないような、そんな目。かと思えば、とても穏やかな笑顔を浮かべたり。
ただ、悪い人ではないんだろう、というのが私の感じたアルテラという青年だった。
コウタの、正直私にはあまり理解できなかったバガラリー談を熱心に聞いているし。というかコウタ、ちゃっかりバガラリー布教してるよねあれ。そんなに話したかったのか。
私が話題を振れば、それもきちんと聞いて言葉を返してくれる。なんだろう、年はそう変わらなさそうなのに、雰囲気が大人だ。
性格は温厚で理性的。そんなところだろうか。
だから私は彼をあまり警戒しなかった。謎だらけではあっても、実際、私たちのことを助けてくれたから。
ソーマは疑惑の眼差しを向けてるけど。まあ、ソーマの心配も分かる。彼が持ってる不思議な剣を警戒しているんだろう。神機でもないのにアラガミを仕留めたあの武器。確かに私も気になっている。
後で話してくれるらしいけど、あれは本当に何なのだろう。分かるのは、刀身に触れたら不味い、というのが本能的に理解できることだった。
アリサもソーマと同じく、彼に疑惑の視線を――?
あれ? 何か少し違うような……。
アリサはチラチラと、しきりにアルテラの体に視線を向けている。心なしか顔が若干赤い。――なるほど。
気持ちは分かるよ、アリサ。
だって凄いもんね、彼の体。無駄のない筋肉、それでいて整っていて、まさに完璧な体という言葉がピタリと当てはまる。そして、あの白い不思議な紋様が妖しさと色気とを醸し出す。
――端的に言って、エロい。
そう、エロいのだ。これがマッチョだったらゴツいとなるが、アルテラはそれに当てはまらない。別に肉体美を誇るわけでもなく、ただひたすらに自然体。それがアルテラの雰囲気と相まって、色気を助長させる。
プラスして時々浮かべる綺麗な笑顔。不覚にもドキリとしてしまう。だからアリサが彼の体をチラチラ見て顔を赤くする気持ちも分かる。
だけどねアリサ。貴女も大概エロい格好してるからね?自覚してないんだろうか……。やっぱりちゃんと言ってあげた方がいいのかな……?
そんなこんなでアナグラにたどり着く。エントランスでは、いつものようにオペレーターのヒバリさんが出迎えてくれた。実際にアルテラを見て驚いた様子だったが、そこはプロ。すぐに支部長がお待ちですと伝えると業務を再開した。
だけど私は、ヒバリさんがアルテラの体をチラリと盗み見ていたところを見逃さなかった。
閑話休題。
現在。支部長室は、重厚な空気に包まれていた。多くの疑問、多くの謎。それがアルテラから語られるのだ。すぐにでも急かして聞いてみたい衝動をグッとこらえ、流れはサカキ博士に一任することにした。
一体、彼は何者なのか――?
「まずは挨拶からさせてもらおうか。初めまして、私はこのフェンリル極東支部の支部長を務めているペイラー・サカキだ。気軽に博士とでも呼んでくれ」
「それでは、サカキ博士とお呼びさせていただきます。初めまして、アルテラです。色々と聞きたいことがあるかとは思いますが、その前に一つよろしいですか?」
「うん、何かな?」
「前提として、私が話せることはそう多くはありません。これは話したくない、ということではなく、私自身も分からないことが多いからです」
「……それはつまり、君はどうして自分があの場所にいたのか分からない、そういうことかな」
「端的に言えば。付け加えるならば、自分がどういった存在で、どこで生まれて生きてきたのか、そういった自分に関するパーソナルデータが、アルテラという名前以外分かりません」
それってつまり、記憶喪失というやつなのでは――?
私だけじゃなく、この場にいるコウタ、アリサ、ソーマからも驚愕の気配が伝わってくる。嘘を言っているとも思えないし、サカキ博士もそう判断したみたいだ。
「そう、なのかい。参ったね、中々厄介な状況みたいだ。記憶喪失のようなものなのかな」
「記憶喪失、かどうかは分かりません。元から記憶が存在していないという可能性もありますし」
「……それはつまり」
「察しの通り、
「「「「なっ……!?」」」」
声が重なった。それもそうだろう、彼の口から語られた言葉は、衝撃的に過ぎた。自分が人間じゃない可能性があるだなんて。
それを彼は淡々と話す。まるで感情を感じさせないその語り口は、驚きを通り越して恐怖を覚えるものだった。
サカキ博士はそれを聞いて瞑目する。博士も同じく驚いたようだ。だが、私たちとの違いは、それでも博士は冷静であったということだ。
「アルテラ君。君と第一部隊との会話はモニターをしていたから聞いている。そして今、こうして君と言葉を交わして、私は君が理性的な人間であると感じた。だからこそ聞くが、君が自分をそう判断する根拠は一体何かな?」
確かに、博士の言う通りだ。彼が何の根拠もなければ意味もないようなことをこの場面で話すとは、どうしても考えられない。
「根拠はこれです」
アルテラが提示した根拠、それはあの不思議な剣だった。三条の色彩を放つどこか未来的な意匠の剣。不思議なものではあるが、それがなぜ根拠になるのだろう。
「すみません、何か細長い棒のようなものを貸していただけませんか?」
細長い棒のようなもの? 疑問に感じながらも、博士がデスクにあったペンをアルテラに渡す。けど、それでどうするというのか。
「この剣は、元々その辺に落ちていた木の棒でした。ですが、私がそれを武器とすると認識して持つと、例えなんであれ、この軍神の剣に変化します。見ていてください」
そう言ってアルテラがペンに対して意識を集中させる。すると、ペンは三条の色彩の、あの不思議な剣に変容し、その代わりに先程まで剣だったものは、ただの木の棒になっていた。
……もう驚きすぎて声もでない。理屈も理論も全く見当もつかない。手品かなにかだと言われた方が、よっぽど納得のいく光景だった。
全員が見たのを確認すると、アルテラは再び剣をペンに、木の棒を剣に変化させた。見るに、あの剣が同時に二つ在ることは出来ないみたいだ。
「見ての通りです。触れたものが剣に変わるだなんて、明らかにおかしい。だから人間でない可能性を示しました」
また、淡々とした口調。だけどそれを話している時のアルテラは、どこか悲しそうだったように感じた。
「君の言い分は理解したよ、アルテラ君。確かに、こんな現象、そのメカニズムは正直見当もつかない」
沈黙の中、切り出したのはやはりサカキ博士だった。そのいつも通りの表情から、感情を伺い知ることはできない。
「君が果たして人間か、そうでないのか。現状、それを確信づけることはできない。だから、その事は取り敢えずは置いて、君の話を聞かせてほしい」
「私の話、ですか……?」
「そうだ。君がいつからあの場所にいて、どのように今まで過ごしたのか。それなら話すことはできるだろう?」
「……そうですね。それであれば、そう長くもなりませんし、話すこともできます。では、面白い話ではありませんが、語らせていただきます」
そうして彼は語り出す。
日没の数で数えて丁度1週間前にあの場所、愚者の空母の高台にいたこと。
困惑していたところをアラガミに襲われたこと。そしてそれを、手に取った木の棒を変化させた剣で討伐したこと。
人を探して、あちこちを探索したこと。結局見つからずに、元の場所に戻ってきたこと。
そうして、私たちに出会ったこと。
それは、たった1週間の出来事というには中身の濃い内容の話だった。相変わらずの淡々とした語り口ではあったが、食事の話と朝から晩までアラガミと戦っていた話に関しては、何かやたらと力が籠っていた気がした。
「――私については、大方こんなところです。何か質問があればお答えしますが」
「アラガミを倒した、と言ったね。その剣で。だが、それはおかしいんだ。アラガミを構成するオラクル細胞は、同じオラクル細胞を用いた神機を使わなければ致命傷を与えることはできない。それが常識として通っている。普通の兵器ではアラガミは倒せない。つまり、その剣は神機か、それに相当する何かということになる。君はその剣が何かを知っているのかい?」
「……知っています。信じるか信じないかをお任せするような話ですが、お聞きになられますか?」
何やらまた、信じられないような話をするらしい。けどこんな聞き方をされて、聞かない選択肢なんてない。全員の肯定の意思を感じたのか、アルテラは再び口を開いた。
「これは、軍神の剣。軍神マルスの剣です。この剣の刀身は、『あらゆる存在』を破壊し得る、らしいです」
「らしい?」
はっ!? 思わず口を挟んでしまった!
いやだって想像を遥かに超えたスケールの話だったから……。けど、話が本当なら刀身が危ないという直感は間違いじゃなかったことになる。
「まあ、実感としてあるわけではなくて、自分の中にある情報を話している感じですから、どうしても伝聞調になってしまうのは許してください。ですが、これは神造兵器。アラガミなどという名前だけの存在とは違って、本物の神様の剣みたいです」
……いや。いやいやいや。
神様ノ剣ッテナニ――!?
本物ノ神様ッテナニ――!?
ソレヲ持ッテルアルテラッテナニモノ――!?
思わず取り乱してしまったけど、これはもう仕方ないことだよ! というか何で当の本人は、さも自分関係ありませんみたいに苦笑してやがるの!?
コウタなんてもう途中から話についていけなくなっちゃってるんだよ!? ブッ飛びすぎてて私もついていけないけど!
周りを見渡してみれば、皆が皆ポカンとしていた。ソーマのそんな顔は珍しいよ。サカキ博士でさえ普段の糸目を見開いているし。
「ね、信じるか信じないかをお任せするような話だったでしょう?」
そうだったけどさあ……。
……そう言えば、何か忘れているような気がするんだけど、何だろう? 報告で何かあったような……?
「あのー、正直、ちょっと信じられないような話ばっかりで混乱してるんだけどさ。結局、光の柱ってアルテラと何か関係あるの?」
おおっ! それだよコウタ、ナイスアシスト! 光の柱の問題が全く解決されてなかったんだよ。
光の柱、という単語を出した時、アルテラの肩がビクリと跳ねていた。……絶対何か知ってる。
というより――
「アルテラが原因なんじゃないの?」
全員の視線がアルテラへと向けられる。フイッとあからさまに視線が逸らされた。
「えーっと……」
「サカキ博士、絶対アルテラが原因です」
「みたいだねえ。どうなのかなアルテラ君」
視線に堪えきれなくなったのか、がっくりと肩を落とすと、自分がやったことだと白状した。証拠が見たいのなら見せることもできる、とも。
それは一先ず後日となり、話題はこれからのことへと変わる。アルテラはこれからどうするのか、どのように扱われるのか。
「さて、それでは今後の話をしようか。まず確認しておくが、ゴッドイーターでもなく、神機を持っている訳でもない君がアラガミを討伐できるというのは、極めて特異な例だ。前例がない、と言ってもいい」
「ええ、そうみたいですね」
「だから正直、こちらとしても君の扱いには困っていてね。取り敢えずは、君の意見を聞かせてもらいたい」
何もそんなハッキリ扱いに困っているなんて言わなくても、とは思ったが、サカキ博士は意味なくそうはしない。だからきっと、ある程度の信用がおけると判断したからそう言ったのだろう。それがアルテラにも伝わるとも。
「そうですね……。仮に他のゴッドイーターと同じように扱うとするなら、私の場合は必ず同行者が必要になります。というのも、ゴッドイーターはアラガミを討伐してそのコアを回収するようですが、私にコアの回収はできません。できるのは、ただ壊すことまでです」
「成る程、確かにそうだね。まあ元々、一人で作戦に向かわせるようなことはあまりないからその辺りは問題ないだろう」
「それ以外の場合だと、正直力にはなりません。ただ怪しい市民が一人増える結果になるだけだと思います」
いや、怪しい市民ってレベルじゃないと思うけど。喉元まででかかった言葉を飲み込んだ。危ない、余計な口出しをするところだった。
でも、今アルテラが言ったことって――
「ふむ……。ではアルテラ君、君は
「どうしたい、ですか?」
「そうだ。今君が言ってくれたのは、君がどうしたいかではなく、君がどうなるかだ。私は、君がどうしたいのかを聞きたい」
そうだ。彼が語ったのは、こうしたらこうなるという客観的な事実だけだ。そこに彼の意思は介在していない。彼自身がどうしたいのか。私もそれを聞きたい。
「私がどうしたいか……。私は――」
少し悩んでいるかのように瞑目するアルテラ。誰もそれを急かすことなく、沈黙が場を支配する。
そしてその目を開いた時、その瞳には強い意思の光が宿っていたように感じた。
「……このアナグラまでの道の途中、防壁の中で生きる人々を見ました。アラガミが地上の大部分を支配しているような、そんな時代でも、それでも、彼等は生きていたんです」
それは、もう先程までの淡々とした、感情を押し殺したような口調ではなかった。およそ初めて聞くその熱を帯びた言葉に、自然と惹き込まれる。
「私は、私に出来ることは、破壊することだけです。この体も、この剣も、その為だけの機能を有しています」
なぜだろう。
そう親しい訳でもないというのに、今の言葉はどうしても否定してあげたかった。
それは違うと。それだけなんかじゃないと。
だけどきっと、それは今じゃない。今私がそれを言っても、彼には届かないんだろうと、そう感じた。
だから今は彼の言葉を。彼の意思を。
「私は、どう取り繕ったとしても戦う者です。戦うことに、破壊することに意義を、意味を見出だす、そんな存在。その行動の全ては、自分の為のものです」
疑問に思っていた。彼の過ごした1週間。そこで彼は朝から晩までアラガミを見つけては討伐していたと言った。だが、それをわざわざする意味が分からなかった。
だけどそれは、そういうことだったのだ。戦うことで彼は、生を実感していたのだ。
「ですが、あの生きる人々を見て私は、誰かの為に戦いたいと思いました。決して自由でも平等でもなく、それでも今を生きる人の為に、その為に、私は戦いたい!」
その言葉が嘘だなんて、誰が思うだろう。
言葉に込められた熱が、強い意思が。その純粋な願いが偽物だなんて、誰が思うだろうか。
だってそれは、この部屋にいる皆の心にしっかりと響いていた。熱い実感となって胸へと届いてきたのだから。
「……追い出すというのなら、それも仕方のないことでしょう。自分で言うのもなんですが、私は怪しいところが多すぎる。ですが、誰かの為に戦うことは、どうか許してほしい。それが、それだけが私の望むことです」
そう彼は締めくくった。
部屋には、不思議な静寂がおりていた。それは決して居心地が悪いようなものではなく、むしろ逆。
静かに佇む彼の意思は、確かに受け取った。後は私たちがそれに応えるだけ。
もう、答えは出ていた。
「サカキ博士」
「ああ、分かっているとも」
コウタ、アリサ、ソーマと顔を見合わせて、博士に声をかける。それだけで、言わんとしているその全てが伝わっていた。
「アルテラ君、君は自分が人間ではない可能性を言ったね。だけどね、今君はこうして私たちと言葉を交わし、心を交わした。それはつまり、分かりあうことができるということだ。君が仮に人間でないとしても、私は、私たちは、君をこのアナグラに歓迎しよう。そして一つ言っておこう。今自分の意思を伝えようと悩み、苦悩した君は、誰よりも人間らしかったと」
人間かそうじゃないか、本当のところがどうなのかなんて分からないけど、それはきっと些細な問題だ。
だって彼とは分かりあえる。
そんな確信があるから。
それに――
「ありがとう、ございます……」
今こうして、顔を俯かせて声を震わせる彼が人間でないだなんて、誰が信じるのだろう。
こうして、ゴッドイーターとしてではなく、協力者として、このアナグラに新たな仲間が加わった。
「今日から君も我々の仲間だ。だからそんなに堅苦しい言葉遣いをしなくてもいいよ、アルテラ君」
「それは……」
一段落したとき、サカキ博士が軽い感じでアルテラに声をかけた。確かに、いつまでも敬語でその上敬称までつけられたら、ちょっとむず痒いものがある。
いいの? と言わんばかりに私たちを伺うアルテラに頷きを返す。
「それじゃあ、少し砕けさせてもらう。あ、ですがサカキ博士に対してはきちんと敬語で話させていただきます」
「そうかい? ソーマ君みたいに砕けてもらっても構わないんだよ?」
「いえ、目上の方ですし、流石にそれは」
「おい、その言い方だと俺が失礼みたいだろうが」
途端に談笑が始まり、穏やかな空気が流れる。ソーマも、警戒は解いてくれたみたいで安心した。
「そうだ。ユウ、コウタ、アリサ、ソーマ」
話を切り上げてアルテラが私たちの名を呼ぶ。
何だろうか急に。
「正式にここの一員になったから、改めて自己紹介を。俺はアルテラ。この軍神の剣にかけて、お前たちの力になることを約束する。これから、よろしく頼む」
そう言って笑う彼の笑顔は、やはり見惚れてしまうほど綺麗な笑顔だった。
「ああそうだ、アルテラ君。一つ君に謝っておかなくてはならないことがあった」
「えっと、何でしょうか……?」
解散してご飯を食べに行こう、という流れになり支部長室を出ようとしたところ、サカキ博士からそんな事を言われた。
私たち、何かしてたっけ?
「実はここでの会話なんだが、君の扱いの辺りの下りを、放送で流していてね」
「え゛」
そんなことしてたの!?
アルテラがお前たちもグルかと言わんばかりの視線を向けてくるのに対し、それを首をブンブンと横に振ることで全力否定。
流石にそれは知らなかったから!
「君をここに受け入れることに反対する人を押さえるためには、君の言葉を聞かせるのが一番と判断してそうしたんだが、すまなかったね」
「……いえ、そういう理由でしたら、構いません」
理由があることに納得はしたのか、一応謝罪は受け入れていたけど……。顔がすごく苦みばしってるよアルテラ。
「ああ、この夢は……いつ覚めるのか」
その所為か、物凄く現実逃避っぽいことを呟いていた。