神を破壊する大王(男)   作:ノラミミ

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 長くなりましたので分割して2話同時投稿ですので悪しからず。
 中途半端に途切れているのはそういうことです。



華麗なる新人達(一人目)

 第1部隊、通称討伐班。

 

 暫定的にコウタ一人となってしまっていた第1部隊だが、遂に人員が補充されることが正式に決定した。

 

 配属されるのは誰であろう華麗なるゴッドイーター、の血を引くエリナ・デア=フォーゲルヴァイデとその自称ライバルであるエミール・フォン=シュトラスブルクの2名である。

 

 コウタの初となる部下としては少々アクが強い気がしないでもないが――特にエミール――隊長として、そしてゴッドイーターの先輩として、是非とも後進の育成に努めてほしいと激励しておいた。

 

 正史通りであるなら諸々の問題点はいずれ、ブラッドの隊長が来てから何とかしてくれるだろうから丸投げでいいだろう。

 

 

 

「おーい、アルテラ! 待ってたぜ!」

 

 ――と思っていたのだが。

 

「……一応聞いておくが、俺を呼んだ理由は?」

 

「いやー、俺一人だけじゃ色々と見きれないところがあるからさ。アルテラにも手伝ってもらいたいんだよ」

 

 言いつつ手で示されたのは、二人のゴッドイーター。言うまでもなくエリナとエミールである。二人とも現れた知らない人間に対して訝しげな顔を――いや、エミールは何か興奮してるわ。

 

 コウタに呼ばれて来てみれば、示されたのは新人二人。後は分かるね? ……分かりたくないです。

 

「俺は神機の扱いは知らない。そういったことはユウかアリサあたりが適任だと思うのだが……」

 

「神機についてとかは俺が教えるからさ、アルテラには戦い方を教えてほしいんだ。俺が遠距離でアルテラが近距離。役割としてはぴったりだろ? ユウとかアリサとかはあんまり帰ってこないし、アルテラは強いから適任だと思うんだよ」

 

 俺のささやかな抵抗の意思は、笑顔のコウタによる正論でもって砕かれた。くそぅ、この爽やかイケメンめ。いつからそんなに大人っぽくなったんだ。服装か、服装変えた時からか。

 

 しかし、実際問題ゴッドイーターではない俺が教えることなど余り無いような気がするのだが。得物も違うし。コウタは一体俺に何を期待しているのやら。

 

 思いつく可能性としては、純粋に戦闘技術を参考にさせようとしている。もしくは新人二人連れての任務で不慮の事態が起こった場合のカバー要員。大穴、特に何も考えてない。……いや、流石にそれはないか。……ないよね?

 

 とは言え、特に断る明確な理由が有るわけでもない。敢えて言うのなら、新人の将来に対する責任の一端を負いたくないという程度の薄っぺらい理由ならあったりする。まあこんなものは、コウタの頼みを断る要素とはなり得ないわけで。

 加えて言うのであれば、今までに一緒に任務に行ったことのあるゴッドイーター達にも指導、ではないのだが、思ったことがあればその都度伝えたりもしているので今更な話である。

 

 コウタは座学はあれだが、どうしようもないほど頭が悪いわけではない。俺に対して何かしらの期待を感じているのなら、その期待に応えることにしよう。

 

「……分かった。お前が何を期待しているのかは知らないが、出来る限りの協力はする。いつも通りに思ったことを言っていけばいいか?」

 

「おう、それで頼むよ! ……と言うわけで、しばらく一緒に任務に同行してもらうことになったから。ほら、挨拶挨拶」

 

「フッ……僕はエミール。栄えある第1部隊所属の騎士、エミール・フォン=シュトラスブルクだッ!」

 

 髪をかきあげ、役者張りの大袈裟な身ぶり手振り。それから目を大きく見開かせ、彼は名乗りを上げた。うん、取り敢えず声が大きい。それと第1部隊所属なのはわざわざ言わなくても分かっている。

 

 そして近い。こう、対面して伝わる圧が凄いのだ。名乗りながらズイズイ寄ってくるんじゃない。何を興奮してるのか知らないが俺にそっちの気はありません。引き気味に「あ、ああ……」と返すのが精一杯だった。

 

「……エリナ・デア=フォーゲルヴァイデです。よろしくお願いします」

 

 そんな遣り取りを素知らぬ顔で自己紹介するエリナ。こっちは逆に距離感が凄い。全身から素っ気ないオーラが漂っている。

 

 対称的な二人だな、とぼんやりと思いながら自分も自己紹介をしようとしてはたと気付く。エミールはまだしもこの状態のエリナにゴッドイーターではないなどと自己紹介をすれば、面倒な説明が必要になる。まあ腕輪を着けてない時点でバレバレなのだが、無駄に警戒心を高めさせる必要もないだろう。

 

 ではなんとするか。

 

 視線を下げてみると視界に入る白い制服を見て、そういえばこれがあったと内心苦笑しながら自分も挨拶をした。

 

「独立支援部隊クレイドル所属、アルテラだ。しばらくの間、よろしく頼む」

 

 「クレイドルと言っても、臨時の隊員だがな」と付け足しておくのを忘れない。その際にコウタと目が合って、互いに苦笑を溢した。

 

「挨拶も済んだことだし、そろそろ行こうか。諸々のことは移動中に話し合うってことで」

 

 コウタのその言を音頭に、俺たち四人(第1部隊プラスα)は任務へと出立していった。

 

 

 

「アルテラさん、お気を付けて」

 

「お前やっぱりヒバリさんと!?」

 

「だから誤解だと」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 道中、戦術面や任務内容等について話し合いながら目的地へと進んでいく。どうやら新人二人は通過儀礼のようなものとなっている小型アラガミの群れの討伐は既に終えているらしく、丁度今日から難易度を上げて中型の討伐へとステップアップするらしい。まあコウタはそれを見越して俺に協力を要請したんだろうけど。

 

 そんなわけで、栄えある新人の踏み台となる中型アラガミ第1号は、極東においては最早カモ以外の何者でもない! とユウちゃんが豪語するコンゴウ君である。特筆するべきことが耳がいいくらいしかなく、踏み台として討伐されるという悲しき運命を持つアラガミだ。

 

 聴覚の発達ゆえに戦闘音を聞きつけて乱入してくる点は少々鬱陶しいが、某雪猿のごとくバックステップと同時に蹴りを加えてくるようなアクロバットな動きをするわけでもなければ、尻尾を振り回して薙ぎ払うような攻撃をするわけでもない。

 要は常に背後を取るように立ち回っておけば、大体なんとかなる。時々の体の振り回しとブレスにさえ気を付けておけば、新人とは言え遅れをとるようなことはないだろう。

 

 そんな極東に染まりきった脳筋思考を有する俺とコウタを主導とした作戦会議は、新人二人が主体的に戦って俺たちはそのサポートという結論に落ち着いた。まあコンゴウ程度のアラガミに全力で軍神の剣を振るった場合、下手すれば一撃で倒してしまいかねないからね、仕方ないね。

 

 新人二人はほぼ安全に経験を積めて、俺たちはその動きをよく見ることができる。単純ながらメリットの大きい作戦だろう。

 

 任務内容はコンゴウ基本種1体、お伴の小型アラガミ少々を添えて。俺たちの役割としては、小型の乱入を防ぎながらエリナとエミールの戦闘の補助ということになる。実に楽なお仕事である。最近はサカキ博士の無茶振りを聞いていたせいか、余計にそう感じる。 ……あれおかしいな、目から汗が。こんなブラックに誰がした。

 

「覚悟するがいい、闇の眷属よ! 僕と、このポラーシュターンの輝きを――」

 

「いいから戦いなさいよ!?」

 

 二人の戦闘を見つつ、小型を殲滅しながらこんなことを考えていられるくらい楽なお仕事だ。嗚呼、素晴らしきかな通常任務。初めは少し面倒な気がしていたけど、こんなに楽ならもうずっとこのままでいいと思えてきてしまう。

 

 コクーンメイデンは案山子だし、オウガテイルは脆いし。何より戦うのが一人じゃないということが良い。負担が減って万々歳だ。今度サカキ博士の無茶振りがきたら、この手伝いを理由に断ろう。むしろ全部断ろう。

 

 ……ああ、でも時たま真面目なやつとかもあるからそれは引き受けなくては。それ以外はスルーでいいだろう。しつこいようであれば、書類の山を崩壊させることも辞さない。「書類を抱いて溺死しろ」くらいは言ってやる。

 

「エミール、そっち行ったわよ!」

 

「いいだろう、掛かってくるがいい! この僕がいる限り、君達の好きにはさせない! 僕の、騎士の誇りにか――ぅぶほぁ!?」

 

「エミィィィィィィィィル!?」

 

「……元気だな」

 

 ブレスに巻き上げられて空を飛んでいくエミールを見ながら思う。今日は平和だな、と。

 

 

 

 

 何度か危ない場面や、エミールが fly away することはあったものの、誰一人欠けることなく無事に任務は達成された。とは言え課題は山積み、というより初めから分かっていた、というか。

 

「まずエミール」

 

「皆まで言わなくても分かっているさ。僕の華麗な勇姿に目をうば――」

 

「お前には『前口上はいらない』とか『さっさと攻撃しろ』とか色々と言いたいことはあるが……」

 

「全部言ってますけど……」

 

 シャラップ、エリナ。エミールの戯れ言とエリナのツッコミはおいといて、だ。やはりと言うか何と言うか。ブーストハンマーを活用する上でエミールには重大な欠陥があるのだ。

 

 予想はしていたことだが、実際目の当たりにすると勿体無いとしか言いようがない。任務達成率向上のためにも、円滑な任務達成のためにも、やはりいち早くの自覚・強制が必要だ。

 

 え? ブラッドの隊長に任せるのはどうしたって?

 

 知るかそんなこと。手伝いを決めた以上、半端な仕事をするつもりはない。そもそもブラッドが生まれない可能性もあるわけで。早めに強くなるに越したことはないだろう。だって極東はブラックだからネ!

 

「エミール、何故『罠』や『スタングレネード』を活用しない? お前の神機を活かすには、敵の足を止めるのが最も手早い道だろう」

 

「それは……。 ……ふっ、見抜かれてしまったのなら仕方ない。君の慧眼を評して白状しよう。 ……考えてしまうんだ。いくら敵は悪逆非道なアラガミとは言え、そんな卑劣な手段を講じていいのか? 騎士ならば、もっと正々堂々と己の腕のみで戦うべきではないのか?!」

 

「……いいかエミール。誇り、矜持、信念。これらを持つことは大事なことだ、否定しない。それは良いだろう。だが――お前は何だ、エミール」

 

「僕が、何か……?」

 

「お前は、騎士ではないのか? 自身を騎士と称して戦うのであれば、騎士足らんとするのであれば、誇りより矜持より信念より先ず何よりも――騎士であるならば人を守れ、エミール・フォン=シュトラスブルク」

 

「――――!!」

 

「アラガミの脅威から人を守るために『罠』や『スタングレネード』を使うことは恥ではない。倒せるはずが倒しきれずに逃してしまい、誰かが犠牲となってしまうことこそ恥じるべきことだ。人を守るよりも大事な決意など捨ててしまえ。そもそも、正々堂々戦うにはお前はまだ未熟だ。そういうことは強くなってから言え」

 

「……なんて……ことだ……ッ!!」

 

 握り締めた拳を震わせて顔を俯かせるエミール。その表情を伺い知ることはできないが、反応から見てそれなりの効果は期待できるだろう。流石に一度言った程度で改善すると思うほど楽観視はしていないが。

 

 だが改善は必須だ。ブーストハンマーの威力を活かすには、やはり動きを封じてタコ殴りが一番いい。そのための第一歩がこれだ。これが改善次第、スタンさせる段階に移るつもりだ。

 

 しかして、予想は裏切られる。顔を上げたエミールは、真剣な面持ちで叫んだ。

 

「僕を殴ってくれ!!」

 

「任せろ」

 

「ごふぅっ!?」

 

「ちょぉぉぃ!? 何やってんのアルテラ!?」

 

 言われた通りにエミールを間髪いれずに殴ったのだが、コウタにツッコまれた件。違うんです、反射的に手が出てしまっただけなんです。だからそんなドン引かないでエリナ。

 

 いやまさか此処で「殴ってくれ」を言われるとは思わなかったから、テンパった結果即断即決で殴っただけなんだ。 ……即断即決で殴るとかヤバイな俺。休みを貰わなくては。癒しが足りないんだきっと。

 

「ま、待ってくれ。決断が早いのは素晴らしいが、話は最後まで聞いてくれ。 ……君に言われて気付いたんだ。僕の人々を守るという覚悟が足りなかったことを。人々を守ることより、己のプライドを守ることを優先してしまっていただなんて……ッ!! 今すぐに改めようとは思うが、それだけでは僕は自分を許せない。だから、これはけじめなんだ。今までの情けない僕から変わるために、そのために、僕を殴ってくれ!! 遠慮は要らない!! さぁ!! 殴ってくれ!!」

 

「……いいだろう」

 

「いつでも来い!!」

 

 目を閉じて歯を食いしばるエミールから俺は一歩、二歩と距離を取っていく。ああ全く、素晴らしい覚悟だエミール。だから此方も全力を以てそれに応えよう。

 

 魔術回路を起動、魔力を全身に行き渡らせて身体強化をしながら、体を深く沈める。一つ大きく息を吐き、視線の先にエミールを捉える。瞬間、魔力放出でその場から消えたかと見紛う速度で接近しながら右手を大きく振りかぶる! 

 

「はあっ!!」

 

「ごはぁぁぁぁああ!?」

 

 ――完璧だ。

 

 全てのエネルギーを右手に一極集中させて放った理想の一撃。まさしく完璧な――アッパーだった。

 

 ドシャッ! とエミールの落下音を聞き終えてから、振りきって残心していた右手を戻す。これでエミールの頭もスッキリしただろう。

 

「エ、エミィィィィル!?」

 

「……す、素晴らしい……一撃だっ……た……ぐふっ……」

 

「エミールが死んだ!」

 

「この人でなし!」

 

 何故それを知っている。

 


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