神を破壊する大王(男)   作:ノラミミ

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 完結までにお気に入り件数が100くらいいけばいいかな(適当)という意識の低さから始まったこの小説が、気付けば2000を越えていました。

 こんな世界間違ってる(錯乱)。

 ……いや本当ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。

 ※設定捏造多数あり


生贄・昼

 

 振り返って考えてみれば月日が経つのは早いもので、とうとうユウちゃんの発案、それからのサカキ博士を巻き込んだ騒動の末に、独立支援部隊クレイドルが発足した。

 

 他人事のように述べてはいるが、クレイドルの隊員として俺も誘われた。それ自体は有難い申し出ではあったのだが、生憎と極東支部に居たい理由があるために、臨時の隊員として参加するに留まった。要はコウタと同じような感じである。

 

 臨時ではあってもクレイドル。そういう訳から、俺にも他の隊員と同じく、白地にフェンリル紋章を改造した金エンブレムを施した制服が支給された。これにより、俺の半裸生活は終わりを告げることになった。

 

 制服に関して、お披露目の際にアリサが相変わらずの露出スタイルだった。

 

「アリサ……」

 

「ち、違うんですよ!? これは、その、チャックが閉まらなかったんです!!」

 

 その為、上のような遣り取りが起こったことは仕方ないと思う。ただ、以前にお詫びとして贈っていた帽子を被ってくれたことは嬉しかった。

 

「その帽子は……」

 

「あ、はい。制服も新しくなりましたし、せっかくなので。その……どうですか?」

 

「贈った俺が言うのもなんだが、似合っている」

 

「――ふふっ、ありがとうございます」

 

 はにかんで微笑むアリサの顔が、とても印象に残っている。何だかアリサの話ばかりしているが、他の面子にも思うところはあった。ソーマはフード姿を見慣れていたのでフードを取った格好は新鮮に感じたし、コウタのバンダナスタイルはイケメン度合いが上がっていた。

 

 ユウちゃんとリンドウさんは……。何だろう、元々制服そのまんまのような格好をしていたことがあってか、色違いになっただけにしか思えなかった。本人には言わないけれど。

 

「生きることから、逃げるな」

 

 しかしながら、発足にあたってクレイドル隊員が守るべき最大にして最重要の命令としてユウちゃんの口から語られた、あの名台詞を生で聞いた瞬間には思わず鳥肌が立ったものだ。

 

 此方としては場違いな感じがして、少々居心地の悪さを感じてしまう羽目になったのだが。

 

 何はともあれ、クレイドルが発足されたことによって第1部隊はコウタを隊長に据え置いて今のところ一人だけになってしまい、新しい人員が加わるまでの暫定として、他部隊のゴッドイーター達や俺が借り出されている。

 

 元第1部隊の面々は、各々が自分のしたいこと、するべきことを見据えて各方面へと動き出していき、アナグラに居ることが少なくなっている。

 

 そんな中、2の作中において1度たりとも帰ってくることのなかったユウちゃんはというと、他の面子よりもよくアナグラに居たりする。まあ人員の補充が出来ていない内に、いきなり極東支部の最高戦力に居なくなられても困るのだが。

 

 とは言え、戦力は確かに減っており、そんな時でもアラガミの襲撃は止むことはなく、減っていた戦力でもアラガミと渡り合っていた。

 

 ただ、外を警戒していたことで、中の警戒が多少とはいえど薄れてしまっていたことは、仕方のないことだろう。人は万能ではない。

 

 だからきっと、それ(・・・)が起きてしまったのは誰かが悪かったわけではないのだ。

 

 間が悪かった、とは言い得て妙だと思う。

 

 しかしそれは、起きた出来事を軽んじていい理由にならなければ、忘れてしまっていいものでもないだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 竹田ヒバリにとって、オペレーターの仕事は誇るべきものとなっている。

 

 アラガミの脅威に対して、何もせずにただ座して待つだけでは居られなかったことが切っ掛けでオペレーターに就いたわけではあるが、当初は少しばかり不満を感じていた。

 

 自分は神機候補者ではあっても、適正神機がない。だが何処かで役に立ちたかったから始めてはみたものの、これは必要なのだろうかと。若さ故の浅慮か、オペレーターの重要性を今一実感しきれていなかったのだ。

 

 しかし、続けていくうちにその考えは変わっていった。自分が彼等の生死を握っているなどと傲慢な考えをするわけではないが、確かに自分も役に立っていると。

 

 アラガミと命をかけて戦うゴッドイーター達がいて、そんな彼等、彼女等を支える多くの役割を担う自分達のような者達がいる。それは何処かが欠けていいものではなく、互いに支え合っているのだと。

 

 だからこそ、ヒバリは自分の職務に誇りを持っている。

 

 ゴッドイーターを送り出し、そんな彼等が無事に帰ってきた時に「おかえりなさい」と迎えることが出来ることは、彼女にとって何ものにも代え難い嬉しい瞬間なのだ。

 

 

 

 そんな中、突然現れたアルテラという青年は、ヒバリにとって目下心配の種となっていた。

 

 彼が戦えることは勿論分かっている。今まで、彼が傷一つでもつけて帰って来たことなど1度もない。そして、共に任務を行ったゴッドイーター達の評判もいいことから、その実力の高さも伺えている。オペレーターを担当していると時々ヒヤッとする場面はあっても、概ねは安心できる内容だった。

 

 しかし、とヒバリは考える。

 

 アルテラは、あの褐色の青年は、ゴッドイーターではないのだ。偏食因子を宿している訳でもなければ、特別身体が頑丈そうという訳でもない。生身の人間なのだ。

 

 だからだろうか。戦ってくれている彼に対して、その覚悟に失礼だと知りながらも「怖くないんですか」と聞いてしまったのは。

 

 聞いた直後に失言だったと慌てることになってしまったが、今さら聞かなかったことにしてくださいなどと恥の上塗りのようなことをどの口で言えようか。結局ヒバリは好奇心も相まって、アルテラの答えを待つことにした。

 

 ヒバリの疑問に対してアルテラが、困ったように笑っていたことが今なお彼女の頭から離れない。

 

「恐怖はある。だが……俺には破壊(これ)しか出来ない。自分に出来ることをしているだけだ。お前が気にすることではない」

 

 宝石のような赤い瞳で優しげに見据えられたヒバリは、情けないやら恥ずかしいやら申し訳ないやらで目を合わせることが出来なかった。失言を謝罪すれば「気にするな。俺も気にしない」と逆に慰められる始末。

 

 その上「休憩の時にでも食べるといい。疲れている時には甘いものらしいからな」とクッキーまで渡されてしまっては、もう何も言えなかった。タツミが何やら喚いていたのは聞こえなかったことにした。

 

 それからアルテラと話す機会が増えたヒバリは、彼の人柄を知るにつれて、心配の度合いも増していくこととなった。

 

 ヒバリから見たアルテラという青年は、温厚で理性的かつ包容力のある人間。ただ――どこか一歩引いたところがある、という印象だ。積極的に会話に加わるよりも、その会話を優しそうに眺めている方が多いような感じを受けていた。

 

 それは心配するような要素とはならないのだが、そんな穏やかな一面と反するように、彼の行動は生き急いでいるかのようだった。毎日任務へと出掛けるのは当たり前。日によっては幾つも任務を受けることもあり、事情が有るでもなければ人の頼みも基本的に聞き入れる。

 

 アルテラ自身は苦にしてはいなさそうだったが、ヒバリはいつか倒れるのではないかと心配だった。孤児院への寄付の件も、それとなく考え直すよう勧めてはみたが、結果はなしのつぶて。

 

 何より、ヒバリが心配する素振りを見せた時にアルテラが見せる、困ったような笑顔が彼女は苦手だった。それを見せられると何も言えなくなってしまうし、その笑顔が一番の心配の要因だったのだ。

 

 だってそれはまるで――心配されると困ることがあるかのように思えてならないから。

 

 最前線でアラガミと戦っている人間が、心配されると困ること。ヒバリには、1つしか思い当たることがない。

 

 もしかして彼は――。

 

 ふと、そこまで考えて思考を止める。そんな筈はない。彼は此処での生活を心の底から楽しんでいる様だったのだ。自分の考えすぎだろう、と。

 

「はぁ……」

 

 溜め息を吐いて切り替える。どうにも自分はあの青年に入れ込んでいるところがあるようだ。これではいけない。オペレーターとして、必要以上に誰かに入れ込んでしまっては、他の皆に申し訳がたたない。それに、アラガミと戦っている、ということはいつ死んでもおかしくないのだ。

 

 もしその時が来てしまった時、狼狽えることなく業務を変わらずに続けられる自信が、ヒバリには無かった。

 

 業務の傍らでそんなことを考えていると、民間からのコールが入っていることに気付く。相手を確認すると、外部居住区の孤児院からだった。まさかアラガミの侵入を許してしまったのか。

 

 頭を完全に切り替え、コールに応答する。

 

「此方――」

 

「こ、子供達が!! 妙な男達に連れていかれたんです!! 早く、早く子供達を!!」

 

 此方の応答を聞くこともなく、焦った様子の女性の声が響く。事態が逼迫していることを察したヒバリは、何とか落ち着かせてから情報を集める。

 

 そこから判明したことは、アラガミを信奉する教団の人間によって、孤児院の子供達6名が生贄として連れ去られたという最悪の事態だった。

 

 直ぐ様、女性の情報をもとに教団の人間が向かった場所を特定する。方角からいって、恐らくは贖罪の街。教団を名乗ることから見て、教会に向かった可能性が高いだろう。

 

 後は今すぐに派遣できるゴッドイーターを、それも子供達の護衛等を考えると、実力の高い人を送るだけなのだが――。

 

「いない……!?」

 

 探しても、誰もが何かしらの任務に赴いている。こういった場合に頼りになる第1部隊は、先日にクレイドルが発足したことで散っており、今は戻ってきていない。

 

 何てことかと舌打ちしたくなる気持ちを抑える。こうしている間にも事態の深刻さが増すばかり。こうなれば、不安があっても今動かせる者達に頼むしかないか――?

 

「何があった!?」

 

 そこに差し込む一筋の光明。そうだ、彼がいた。何処かから戻ってきたのか、焦るヒバリの様子に気付いたアルテラがゲートから小走りに近付く。ヒバリは即座に判断を下すと、簡潔に事情を説明した。

 

「アラガミを信奉する教団を名乗る人間数名に孤児院の子供達6名が連れ去られました。向かった場所は――」

 

 言いかけて、言葉が止まる。先程、アルテラの事を考えていたせいか、帰ってこないイメージを幻視してしまった。

 

「ヒバリ?」

 

「――! 場所は贖罪の街、恐らくは教会に向かったものと思われます!」

 

「すぐに向かう!」

 

 気遣うような声音に我に返り情報を伝えると、一言残して駆け出していく。その後ろ姿を暫し見送ると、ヒバリは再び溜め息を吐いた。

 

 一体自分は何をやっているのか。私情で彼を向かわせることを躊躇ってしまうなど、あるまじき失態だ。

 

 ……取り敢えず反省は後にして、今はとにかくオペレーションに集中しようとヒバリはモニターを始めるために画面の雑多な情報群へと目を向けた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ――走る、奔る、(はし)る。

 

 神秘の秘匿など欠片ほども考慮することなく、惜し気もなく身の内に宿る魔力を使用。身体強化をすると同時に、瞬間的に魔力を放出して速度を更に上昇させる。

 

 その様は『駆けていく』のではなく、まさしく『飛んでいく』と言うのが正しい。まるでかの騎士王さながらに魔力でかっ飛んでいくアルテラが考えるのは、一刻も早く子供達の居るであろう場所へと辿り着くこと、それのみである。

 

 その為、このままでは魔力の残量が少ないだとか、そこからアラガミと戦うことになることへの配慮だとか、そういったことは全て度外視されている。

 

 アラガミと戦う以上、命が危機に曝されることなど、そう珍しい話ではない。言うなれば、常に命の危機には曝されているのだ。しかし、それはあくまでもアラガミと戦う意思と覚悟を持った者達の命が危機に曝される、という話だ。

 

 世界がこんな状態な以上は、例え誰であっても命の危機とは無縁とは言わないが、少なくとも拐われた子供達はそんな意思も覚悟も未だ持ち合わせてはいないだろう。仮にそれがあったとしても、その力が子供達には無い。

 

 己は万能の神ではないが、子供達に対するアラガミの脅威を退けるだけの力はある。だが、間に合わなければ力があっても意味はない。

 

 だから――速く、もっと速く!!

 

 瞬く間に移り変わり続ける景色を瞳に映しながら、アルテラは飛んでいく。音すら遅いとばかりに置き去りにして、ただ願うは子供達の無事。

 

 子供は、未来の可能性だ。それこそ、将来性という点に於いては大人などよりもずっと価値がある。しかし、可能性を示すには未だ彼等は幼い。

 

 だからこそ、此処で死なせるわけにはいかない。希望の芽を、此処で潰えさせるわけにはいかない。

 

 大人であろうと子供であろうと、彼等も『今を生きる人々』には違いないのだ。助ける理由など、それ一つで十二分に過ぎる。

 

「――――!!」

 

 視界の先に贖罪の街を捉えると、声もあげずに速度を更に上げるのだった。

 





 魔力放出:当然、アルテラに魔力放出のスキルはありません。ですが、これって要は魔力を纏わせてから瞬間的に放出することなので、魔力量を度外視すれば誰でも使えるのではないか、という考えのもとで使っています。設定遵守?大丈夫、設定捏造のタグが(ry。

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