でも私はそこから勝てないフレンズなんだよ!
紫に楽園の名前、『幻想郷』を提案すると、紫は気に入ってくれたようで、二つ返事で了承してくれた。これで断られたら凄い悲しかったから良かったね。豆腐メンタルが削られずに済んだね。
その間に妹紅は紫と一緒にルールについていくつか考えてくれていた。サボってたかと思ってた。
一:人が妖怪に襲われない安全な地域を作ること。(外に出れば襲われても文句は言えない。)
二:天狗と鬼は、他の妖怪とは違った場所に住む。(そうしなければ鬼の独裁社会になる。)
三:人間や妖怪が騒ぎを起こせば、決まった人間が騒ぎを収める。《この人間を博麗の巫女と言う。》
ふむ、意外とまともに考えていた。もっとこう、人間なんか知るかー的な感じのルールを作ってるんじゃないかと思ってたね。あ、妹紅の視線が痛い。
「...で、ルールまだ三つしか決まってないけど?」
「まあ、そこは...いずれ何とかするわよ。」
「んな無責任なことを。」
「私もやる時はきちんとやるのよ。」
「どの口が言うんだかね。」
こういう会話をしていると、紫は実はそんなに凄い奴じゃ無いんじゃないのかと思ってしまう。そんな事考えてると消し炭になれるけどね。
「ねえ、優?」
「ん、何?まだ何かあるの?」
「ええ、これが最後のお願いよ。」
「その『最後』が何度もありそうで怖いわ...。んで、その最後のお願いとやらの内容は?」
「......一つ、お手合わせ願えます?」
######
いやいやいや、どうしてこうなった。
幻想郷のルールを考える。→しばらく紫と談笑する。→そこから別れる。
の流れの筈だった私の早々にここから立ち去る計画を真っ向から潰してくるとは流石妖怪の賢者!人間には出来ない事を平然とやってのける!そこに痺れぬ憧れぬぅ!
しかもお願いの内容が手合わせとか巫山戯ていやがる。もうダメだ。始まった瞬間に降参するしかない。
「降参したら私の式になってもらおうかしら。」
「誰がなるか。」「貴女よ。」「全力で断る。」
私の生きるための最後のノゾミガタタレター。
しかも私、自分の能力知らない上に紫の能力も知らないし。もうダメだー。幽香戦以上に詰みだー。
そうだ、これは妖怪が起こした騒ぎだ。博麗の巫女を呼ばなきゃ。助けて、巫女さーん。
「ほらほら、もうかかってきていいんですよ?」
「はあ、勝負受けたの私でしたよね?」
ここまで来れば仕方が無い。やるしか無い。あんまり本気は出したくないタイプなんだけどなぁ...。
「......行きます。」
そう言うと、初っ端から精神力を全開放し、拳を振りかぶって紫に殴り掛かる。
「そんな見え見えの攻撃が当たるとでも思っているのかしら?だとしたら、随分な期待はずれね。」
「期待はずれで結構!」
当然の如く、紫は軽くいなす。
......もうさ、こんなん無理ゲーやん。最速の攻撃が見え見えとかあかんやん。勝てる訳無いやん。て言うかそもそも期待されていたことに驚きを隠せない私はどうすればいいんでしょう?
ふう、くよくよしても仕方ないので、無理やりに気持ちを切り替え、手数で攻めることにする。対する紫は結界を張り、守りの姿勢。
「その程度の結界、無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」
「くっ...!」
1発当てる度に軽い衝撃波を出し、結界にヒビを入れていく。妹紅の防御手段が結界だった事も加わり、結界の破壊には慣れている。
「とぉりゃぁぁっ!!」
「ぐふっ......!」
最後の1発を当てる瞬間に先程よりも強い衝撃波を出し、結界を破壊。それと同時に紫を吹き飛ばす。壁にぶつかり、砂煙が巻き起こる。手応えあり。...手応えは、あるのだが。
「ふぅっ、...まあっ、当然、っちゃあ、当然、か。」
そこには、当然のように無傷の紫が立っている。回復したのか元から効いていないのか、どちらかは分からないが、心に来ることには変わりない。
「もう終わりかしら?」
「はぁっ、はぁっ、んな訳...。」
「じゃあ、こっちから行かせてもらうわ。」
そう言うと、足元が光る。目を凝らして見ると、魔法陣の様な物が描かれている。まずいと思ったのも束の間、利き足である右足は拘束されており、1ミリたりとも動くことは出来ない。
「ちなみに紫、この魔法陣はいつから?」
「優とルールの話してた辺りからかしら。」
「そんなの用意周到過ぎて怖いわ...。」
「そうでなきゃ
「あー...。やっぱり、バレてる感じ?」
「ええ。もちろんバレてる感じ。」
私の力量を見抜くなんて、一体紫はどこまで化け物なのかね…。その紫に言わせれば私は化け物以上の化け物なんだろうけど。
......私は、本気を出せないんじゃない。出そうと思えば簡単に出せる。幽香と戦った時も、7割程度しか出していない。今だってそうだ。
...私は、本気を出すのが怖いのだ。
######
私が鬼に拒絶されたのは角が無いからという理由だけでは無い。まだそれだけなら誰かが構ってくれたかもしれない。
私はまだ小さかった頃、たった1人の友達と散歩に出かけた時に妖怪に出会った。果たしてその妖怪が襲ってきたのは、私が人に見えたからなのか一緒にいた鬼もまだ子供だったからなのかは分からないが、とにかく私はその妖怪を撃退した。
...いや、撃退ならまだ良かったのだろう。
私は身の危険を感じ、一瞬でその妖怪を肉塊に変えてしまった。二秒程度しかかからなかった。
その時の友達の鬼の目は未だに忘れることは出来ない。完全に怯えきった畏怖の目。その目は容易く私の心を貫いた。そして、誤解を解こうとし、近づいた。
そうだ。この時近づいたのがいけなかった。
ーーーいやっ!来るな!この.........化け物!!
次に気が付くと、辺りは血で染まっていた。いつもなら確実にパニックになっていただろうが、その時の私は何故かひどく落ち着いていた。
ああ、私は、友達を殺したのか。たった1人の友達を、この手で、殺したのか。
雨が降っていた。周りの血も今起こった全ての事も流していく。友達の生きた証も流していく。私の心も、流していく。
全ては、戦ったから。全ては、本気を出したから。全ては、私がこの世に存在しているから。
友達に付いた血を、水で綺麗に洗い流し、里の門の近くに横たわらせた。もう、私が
私は、人里へと歩みを進めた。
後ろで叫び声が聞こえた気がしたが、聞こえなかった。今の私にとっては、あんな奴らの声なんかノイズのようなものだ。
どうせ私は疑われるだろう。だが、それでいい。私は永遠に鬼から疎まれる存在になるのだ。
人里が見えてきた。私の生きる場所だ。そこで私は、生きていく。自分の力を封印して、生きていく。
こうして私は、『鬼』を捨てた。
######
「へぇ。鬼を捨てた、ねぇ。」
「ええ。私は今日まで『少し強い人間』として平和に生きてきたんですよ。私のことを鬼だって知ってる人は数えられるほどですね。」
「まあそれはいいのよ。それで、本気。出すの?」
「はい。出します。だから壊れズに、しっカリ受ケ止メて下さイネ?」
ゾクリ、と背中に悪寒が走る。
妖怪の賢者としての本能が、こいつはまずいと言っている。こいつとは戦うなと言っている。
ピッと舌を出す。でも、面白い。やってやる。
ここで死ぬ死なないは問題では無い。本気の優と戦うことに意味がある。
「行キまス。」
優の狂気じみた声が聞こえた。反射的に構える。
魔法陣が壊れるのと同時に、真紅の鮮血目に映る。下を見ると、優の腕が自分の腹を貫き、こちらをじっと見ている。
「......わた、しには、まだ、はやかっ、た、みたい、ねぇ...。」
倒れる私を見つめる目は、どこか悲壮感を含んでいた。
ガチの優は軽く狂気状態です。危ないです。
取り敢えず、話的には一段落ついたって感じですね。章分けはしませんけどね。
それでは、また〜。