ジリリリリリ
目覚ましが鳴っている。
目を覚まし日付けを見る。
なんだよ今日、日曜じゃん寝よ。
慌てて起きる。違う、今日は結婚式だ…
そう、今日は結婚式なのだ”雪ノ下と葉山”の。
高校、大学と卒業し早数年俺ももう20代半ば。
それまで高校時代からの知り合い、奉仕部の繋がりは途切れなかった。
葉山と結婚するという話を聞いたのは1年前。同窓会というか奉仕部の3人だけで開かれた飲み会での席で雪ノ下の口から告げられた。
「私、結婚するの」
そう告げた雪ノ下の顔は諦めがついた、スッキリした顔だった。
「今までも母から何度も縁談の話を持ちかけられたわ。その度断っていたのだけれどもうそれもおしまい。葉山君も悪い人ではないし、ね?」
雪ノ下は何を諦めたのだろうか。
母との諍い?それも考えたが今まで断ってこれたのだからそれはないだろう。
考えがまとまることはなかった。
ついぞ、もう結婚式の日になってしまった。
はぁ行くか。
☆☆☆
「久しぶり!ヒッキー」
「おぉ久々だな」
「…ゆきのん結婚しちゃうんだね」
「…そうだな」
「ヒッキーはさ後悔してることある?」
あるさ、今までずっと後悔ばかりだ。
だがお祝いの席でわざわざそんなこと言うことじゃないだろう。そう思い由比ヶ浜に言葉を返す。
「ないよ」
「…そっか」
会話を終え、会場に入る。
高校の知り合いも僅かに居る。
他に知り合いも居ない俺はその中に混じりつつも会話はしなかった。
式が始まる。
県議会議員とその顧問弁護士の子供同士の結婚式なだけあって派手な結婚式だ。
ウェンディングドレスを着た雪ノ下は綺麗だった。もし、その言葉を告げたら「当たり前よ」と言いそうだと1人想像し笑ってしまう。
披露宴が始まった。
小学生、中学生の頃の2人の写真のスライドショーから始まる。
高校の写真に差し掛かった。
いつ撮ったのか、それは奉仕部3人の写真だった。
懐かしいなこの頃に戻ってみたい。
戻って約束した、いつか助けてね。という約束を今なら守れるだろうか。
そう考えて居ると周りから会話が無くなった。というか誰も動いていない。
は?何が起こった?
周りの状況に混乱していると声がかかる。
「青年、過去をやりなおしたいか?」
何言ってんだこのおっさん。
「はい?というか誰?そしてこの状況は…」
「私はこの式場の妖精をしている。で、過去に戻りたいか?」
怪しさを覚えつつ返事をする。
「はぁ、戻れるなら戻ってみたいですね。戻れるならね」
「戻れるさ。強い想いがあれば。求めよさらば与えられん」
「…どうやって」
「写真にむかって、ハレルヤーチャンスとポーズを決めながら言いたまえ」
はぁ?何言ってんだこいつ。
と思いつつも俺はポーズを決めた。
ハレルヤーチャーンス!!
☆☆☆
「せーんぱい」
「うぉっ」
気付いたら目の前に一色がいた。
驚いて思わず尻餅までついてしまう。
ここは、奉仕部の部室か?
もしかして本当に戻って来たとでもいうのか?
だが、一色の顔や周りを見るにどうも本当に過去に来たらしい。
それに、雪ノ下もまだ幼さが残っている。
「どうかしたの?そんな驚いた顔して。目の前であり得ないことが起きたような顔ね」
あり得ないことが起きたんだよ…。
「あ、いやちょっとな」
携帯の日付を見るに、高校3年の時に戻って来たらしい。
「私の話聞いてました?」
「は?」
「あー!やっぱり聞いてなかった!」
「悪い、ぼーっとしてた」
「まぁ、いいですけど。それであの前に流れた噂がまた流れてるんですけどあれどうなんですか?」
「噂?なんの?っていうかわざわざ耳元で言うなくすぐったい」
「あれですよあれ。雪ノ下先輩と葉山先輩がーっていうあれ。こんなこと大きな声で聞けないじゃないですか」
そうだった。
この頃、2年の時にも流れていた雪ノ下と葉山が実は付き合ってるという噂が流れていた。
あの頃は雪ノ下が怒って確認を取って来たやつを片っ端から論破して噂は流れたのだ。
「あぁあれな。嘘だろ。前と同じだろ。ほっとけ」
「ですよねー。まぁわかってましたけど」
「なにかしら?」
「い、いえなんでもないです!」
と手をわちゃわちゃさせながら一色は雪ノ下にビビりつつ答えていた。
「比企谷くん?」
この比企谷くん?には、ちゃんと説明しないとわかるわよね?という言葉が続くんですねわかります。
「いやあれだ、お前と葉山がなんたらっていう噂が…で…すね…」
話すに連れて絶対零度の視線を受け言葉が詰まる。
「はぁ。またそれね。実は母から縁談の誘いだったのよ。それで葉山君に会って来なさいと言われて仕方なくよ」
「え、ゆきのん結婚するの!?」
「しないわ。冗談はやめてちょうだい。母には逆らえないから仕方なくよ仕方なく」
思えば、この頃から縁談の話があったのか。
その攻防が何回もあった末に未来、つまり俺の時代には結婚だもんな。
だがどうすればいいんだ?
いきなり結婚するなとも言えないし、言ったところで今現在はするつもりもないだろう。
ふむ。
「っていうかなんでお前?雪ノ下さんじゃなくて?」
「姉さんは将来的には県議会の道に進むらしいわ。だからしばらくはまだ結婚しなくてもそのうち相手から言いよって来るだろうって。その代わり私には会社の方を継いでもらいたいらしくて会社のこともわかっている葉山君のお父さんが葉山君をきちんと教えるから婚約相手にどうだ?って推してるみたい。困った人達だわ」
「あー大変だなお前んち」
「でもよかったよーゆきのん結婚しちゃうのかと思った」
「しないわ。するとしても大学卒業してからじゃないとまともに考えもしないと思うわ。まだ”依頼”が全部終わったわけじゃないですもの」
と由比ヶ浜に話してる途中で俺に視線を合わせ微笑んでくる。
依頼か。果たして、俺の依頼は解決したんだろうか。そして雪ノ下の依頼も解決に導けたのか。それは”現在”の俺にもわからなかった。
「そういえば由比ヶ浜先輩」
と、由比ヶ浜と一色の会話が始まってしまった。
もはや席の移動が始まった…。
珍しく雪ノ下の横だ。まぁ横と言ってもそれなりに距離があるが。
「なぁ雪ノ下」
本を読む横顔に見惚れながらつい声をかけてしまった。
「なにかしら?」
「…お前との約束、俺頑張るから。いつになっても絶対助けてやる」
柄にもなくそんなことを言ってしまった。羞恥で悶えそうだ。
「ふふっ、そうね。頑張って頂戴」
と雪ノ下まで頬を染めながら微笑んだ。
「あっその笑顔、いただきでーす!」
と声がかかり思わず振り向く。
その瞬間、フラッシュが目に入る。
そうかあの写真はこの写真か…。
昔はこの会話をしてなくてお互い本読んでて、そのセリフと共に俺の横でピースを決めた由比ヶ浜と本読む2人だったんだが、おそらくこれはピースを決めた由比ヶ浜と頬が赤い2人という写真になるだろう。
☆☆☆
ん、戻って来たのか?
周りを見ると過去に行く前と変わらない。
はぁやっぱりダメだよな。あんなんじゃ。
だが、確かに写真は変わっていた。
「この時のゆきのんさ、いい笑顔だよね。どんな会話してたの?」
「さぁな」
これは語らなくていい。語ったら価値を失ってしまうと思った。
次の写真に移る。卒業式の写真だ。
卒業式ねぇ。色々と思い出す。やらかしてたなぁ卒業式。戻りてー。戻ってあのやらかしをやりなおしてぇ…。
パチン。
あの感じだ。まさか?
「いやいやいやまさかお前が過去に行って出来たことは写真の表情を変えただけとは…」
「俺にしては勇気を出したんですけどね…」
「まぁそんな簡単に人の運命は変わらないということだ」
と言いながら妖精を名乗る男は唐揚げを頬張っていた。
「ちょ、唐揚げ…。っていうかそれ言いに来たんですか?」
「まさか!この写真の時に戻りたいという想いを感じてな。この唐揚げに免じてまた戻してやろうかと思ってな」
「唐揚げもう一個食べます?というか本当ですか?是非お願いします」
「ふん。さて青年よ、求めよさらば与えられん」
じゃ、じゃあいくぞ?
ハレルヤーチャンス!
1話目ですのでそんなに話は動かしてないです…。