短編集。   作:ゆ☆

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添い寝フレンド はるのん

 

 

 一人暮らしの男臭い部屋に今日は良い匂いがする。清潔感がありながらも甘い匂い。

 その匂いは隣の女性から漂ってきていた。

 

 たまに家に来ては知らぬ間に消えている人。

 最初の時なんかは夢なのかと思ったが寝具に微かに残った残り香がそれを否定した。

 

「比企谷くん寝ないの?」

 

「あっいや寝ます。じゃあ失礼して…」

 

 そして今日もまた、俺は雪ノ下陽乃と眠りにつく。

 

 別に付き合っているとかいう訳ではない。と、思う。

 たまに今から行くねと連絡が来て一緒に寝るだけの関係。言うならば添い寝フレンドだ。

 もちろんやましいことはない。あったら未だに童貞なんて肩書きはとうに捨てている。

 まぁ、色んなところ触れてしまってるはいるけどわざとじゃないんだからね!

 

「今日は腕枕してくれる?」

 

「えーあれ起きたら腕の感覚ないんですよね…」

 

「役得でしょ?それに比企谷くんが起きてもその頃には私居ないし」

 

「毎回言ってますけど、家出る時起こしてくださいよ」

 

「…もしかして寂しいの?」

 

「寂しいというか、喪失感みたいなものがあるんですよ」

 

「ありゃ、可愛いこと言うね今日は」

 

「とにかく、そういうことですんで。おやすみなさい」

 

「ふふ、おやすみ比企谷くん」

 

 

 俺のその言葉はまたしても破られた。

 起きた時に残っているのは微かな腕の痺れ。まだ出て行ってそんなに時間は経っていないようだった。

 まるで猫のような人だ。

 

 

 俺達がこういう関係になった経緯、それはわからないの一言だ。

 

 家の場所を何故か知っていて俺の連絡先も何故か知っていた雪ノ下さんはいきなり遊び行くねと連絡をしてきて家に来た。十中八九教えた犯人は我が妹だろうが。

 

 わかっているのは家に来るときは何か訳ありの時だけ。

 多分母と折り合いが悪いとか家に居たくないとかだと思っている。

 深くは聞かない。俺に出来るのは話を聞くことではなくて一緒に居ることだけだから。

 

 一緒に寝ることになったキッカケは覚えている。

 初めて遊びに来た日に終電を逃したらしい雪ノ下さんは泊まることになった。モチロン拒否した俺だが、そんなものあの人が聞いてくれるわけがない。

 

 布団は1組だけ。俺は床に雑魚寝すると言ったんだがなぁ…。

 

「今日だけ特別に一緒に寝てあげる」

 

「いや、ちょっとガード甘すぎませんかね」

 

「まぁ比企谷くんだし?」

 

「俺も男なんですけど…」

 

「本当に襲われて困る人にこんな事言わないよ」

 

「…聞かなかったことにします」

 

「つれないんだから」

 

 とのやり取りもあった。もちろんその日、何もなかった。それどころか起きたら居なかった。

 起きたら居ないのは最初からだ。

 理由はわからないけど、どこか あの人らしい。

 

 この日から時たま、我が家に遊びに来るようになったのだった。

 

 すっかりと一緒に寝ることに慣れてしまってることに危機を感じる。

 女性としての魅力がないとかではない。そんなもの溢れ出る彼女だ。

 抵抗しない自分になってしまったことがやばいのだ。

 

 そんな彼女は今日もやってくるらしい。

 

 優しい言葉などかけてもあの人には響かない。同情をするなんて以ての外だ。だから何も聞かないくらいがちょうどいい。

 

 夜、寝る前のゆったりとした時間。

 

「比企谷くんは何も聞かないんだね」

 

「聞いてほしいですか?」

 

「ううん。でも、ちょっと嫌なことがあったら一緒にいてほしい。寝て起きたらいつもの雪ノ下陽乃にちゃんと戻るから…」

 

「役得ですし、喜んで…」

 

「はは、やっとお姉さんの魅力に気づいたんだ」

 

「いえ気づかないふりをしてるんです。これまでも、これからも」

 

 きっと、明日の朝も起きたらこの人は居ないのだろう。

 

 でもそれは、いつもの雪ノ下さんに戻れたってことだから。

 

 俺にくらいは弱い姿を見せてもいい。どうせ言う人もいないしな。

 

「おやすみ、比企谷くん」

 

「おやすみ、雪ノ下さん」

 

 

お わ り

 

 


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