Pixivで短編のストックが結構溜まったので適当に放り投げときます。
2月某日。部室から見る外の景色は曇天模様に覆われていた。
雪が降らないことで有名な千葉だが流石に真冬ともなると数回は降る。
未だ溶けきっていない雪と曇天が外に出なくとも寒いことを知らせている。
そんなある寒い日、2月も終わりなのに何故か俺たちは相変わらず奉仕部の部室に居た。
「小町さんの元気がない?」
「ああ。多分受験が終わった疲れだと思うんだけどな」
だが家に帰ると今までより明らかに元気がない。
話しかけても、うん。とか、わかった。とか一言で返されることも多々ある。
嫌われてるわけじゃない。決して嫌われてはいない!…はず。
「先輩の妹さんって総武受かったんですよね?」
「そうだが」
「うちって割と偏差値高いっちゃ高いから勉強も大変だったろうし、その疲れですかねー」
一応進学校(仮)だしなぁ。
そういえば最近ガールフレンド達に会えていないな。おっと(仮)の方な。まぁそんな仮を強調しなくてもガールフレンドなんていないけども!
というか、カタカナを見るだけで海浜総合の某会長を思い出す。
いや本当思い出したくないわ。
「私も勉強大変だったなぁ」
「小町には由比ヶ浜が受かるレベルだから余裕だったろ?とは言ったがな」
「どういう意味だし!」
「まぁそれは置いといて、何か困っているの?」
「置いとかれちゃうんだ!?」
実際、小町が合格できるかはギリギリだったと思う。
兄の目線から見ると、あんなに頑張っていたのだからその努力が報われてよかったと素直に思う。
「何か、元気づける方法ないか?」
「そうね、考えましょう。未来の後輩のためよ」
「そろそろ小町ちゃん誕生日だし、プレゼントは?」
うーん。と気の無い返事を返しながら思考する。
小町が欲しがるもの…なんだろうな。あの子意外と変なところでリアリストというか…。白物家電が欲しいとか言っちゃうような子ですし。
「小町ちゃんの欲しいものはわかってるのー?」
「全くわからん」
「それはあなたがそれとなく聞くしかないんじゃないかしら」
「だよなぁ。それとなくそれとなく…」
「あっこれダメなやつですね」
だって小町ちゃん勘が鋭いというかそんなこと聞いたら色々とバレバレになるし…。
流石小町。勘も鋭いとか、うちの妹欠点なさすぎぃ!
ちょっとアホっぽいところも可愛い!
やだ!ただの妹自慢みたいになっちゃった!
「では、今日のやることは決まったみたいだし帰りましょうか」
「ではでは先輩達、お疲れさまでーす!」
「ばいばい、みんな!」
思い思いの別れの挨拶をして部室を出る。
暖かい部屋から寒いところに出た為か、ぶるっと身震いをした後に白い息を出しながら雪ノ下に別れの挨拶を告げた。
☆ ☆ ☆
家の近くまで来ると、我が家から明かりが漏れている。
小町は既に家にいるのか。
最近は少しばかり小町の方が俺より早く帰っていて誰もいない家で家族の帰りを待っている。
ふと、昔のことを思い出して申し訳なくなる。あの時の約束を守れていないことを小町は気付いてしまっているだろうか。
「ただいま」
「おかえり。今もうすぐご飯出来るよ」
リビングに入ると炬燵から顔だけ出している猫、かまくらがいた。
…こいつふてぶてしい顔しやがって。
わざとかまくらの横に座ると、ふんす!と言った感じで炬燵から出て自分の餌の方にむかっていった。
あいつ家に誰も居ないと俺の腹の上とか乗ってくるくせに…。
「お兄ちゃん、制服から着替えてきなよ」
「おう」
外が寒かったから炬燵に直行してしまったがそういえばまだ制服のままだった。
部屋に行った後適当な服に着替えてリビングに戻る。
ふむ、今日はカレーかな。
小町が俺の前に座り、いただきますの声に合わせ二人での晩飯を食べ始める。
何か欲しいものがあるのか聞くのはこのタイミングでいいんだろうか…。
「な、なぁ小町」
「ん?」
「お前、なんか欲しいものあるか?」
「誕生日プレゼントならお兄ちゃんがちゃんと小町のことを思って選んでくれたやつなら何でもいいよ」
ですよねーバレバレですよねー!!
でも小町ちゃんってばちゃんと選んだら何でもいいなんて出来た子!…でも去年必死に選んだプレゼントを使ってるところ見たことないのは気のせいかな?
「そうは言っても何か候補とかをだな」
「じゃあお姉ちゃんで。もちろんお兄ちゃんのお嫁って意味で。この際、雪乃さんでも結衣さんでも可〜」
「無理難題なんだよなぁ…」
☆ ☆ ☆
次の日、部室にて昨日の報告をすることに。
「それで?何かわかったの?」
「いや何も。お姉ちゃんが欲しいとか抜かしやがったくらいだな」
あの、雪ノ下由比ヶ浜一色さん?なんでそんなに勢いよく僕の方をむくんだい?
「え、えっと、つまり何もわかってない?」
「まぁそうだな」
「ダメじゃん!」
そう言ってもなぁ。あいつ欲しいものないんじゃないか?
言われてみたら小町は本当に欲しいものは自分で買うか上手いこと親父に頼って手に入れるだろうしなぁ。
「まぁでもプレゼントは気持ちですし、先輩が一生懸命選べば妹さんも喜びますよきっと!」
「何かプレゼント以外にも出来ることないか?」
「あっ!じゃあ誕生日パーティーとか?」
「お前本当パーティー好きね…」
パーティー好きって言うとどこかのセレブみたいだな。あぁそういえばパーティーやるようなセレブはうちの部活にも居たわ。
「でも誕生日パーティーは良いと思うわ。誕生日を人から祝って貰うのはやはり特別なことよ」
そういや1月誕生日だったもんな雪ノ下は。
「じゃあその感じで企画しましょうか!」
「おう」
「先輩の家は使えるんですか?」
「あーどうだろうな。21時か22時くらいには親が帰ってきそうなところだが」
「じゃあ私の家を使うといいわ」
「雪ノ下、平気なのか?」
いくら一人暮らしだとしてもあまり散らかされたりするのは嫌だろ、やっぱり。
って、今こいつの家魔王城と化してなかった?
「ええ。姉さんなら旅行に行くと言って出て行ったから後1週間は戻らないんじゃないかしら」
「あっなら当日色々と手伝いに行ったりしても大丈夫ですか?」
「私も手伝うよ!」
「そうね、では頼めるかしら」
着々と進んで行く計画。
小町は喜んでくれるだろうか、疲れを吹き飛ばしてくれるだろうか。少しでも楽しく感じてくれるならいいが…。
☆ ☆ ☆
そして誕生日会当日。
由比ヶ浜からの連絡が来た。
どうやら雪ノ下の家に一色と由比ヶ浜が到着したらしい。
由比ヶ浜も少しは料理が上達したのだろうか…いやしてくれてないと困るぞ今日は。
「小町、今日暇か?」
「んにゃ?別に何もないけど」
なんだその返事可愛すぎか!…おっとあまりの可愛さにトリップするところだった。セーフセーフ。
「ちょっと買い物行こうぜ」
「あっそうだ晩御飯の材料なかったところだしいいよー」
これで小町を連れ出すことが出来る。
あれ、これちょっとデートしてから行っても問題ないよなぁ!?
妹とデートって言い方はおかしいか。いやおかしくない!(反語)
まぁ普通に雪ノ下の家行くんですけど!
☆ ☆ ☆
「ちょっとお兄ちゃん?どこなのここ。いいから付いて来いって…それはお姉ちゃん候補に言いなよ」
「まぁまぁもう少しだから」
怪しいナンパみたいな言い方をして小町と歩く。
ちょっとだけだから、すぐ済むから!とか言い出したら多分完璧。
「ここだ」
「マンション?…お兄ちゃん小町に何する気!?」
「…あほか。ここは雪ノ下んちだよ」
「なにそれ!?ちょっとどういうこと?」
後ろでごちゃごちゃとうるさい小町を尻目に雪ノ下の家のチャイムを鳴らす。オートロックだからね開けてもらわなきゃ入れないんですよ。セキュリティは大事だからね仕方ないね。
無言でオートロックを開けてもらってエレベーターに乗る。
確か…15階だよな。一回しか来たことないから確信はないけど。
雪ノ下の家と思わしき部屋の前に着いてチャイムを押した。
ピンポーンと音が鳴り、雪ノ下が出てくるのを待つ。
「…お兄ちゃん後で説明してもらうからね」
「はいはい」
そんな会話をしているうちに雪ノ下が出てきたみたいだった。
「小町さんいらっしゃい。どうぞ上がって」
「雪乃さん!?はわわわわお兄ちゃん、家着雪乃さん可愛すぎるよ!!」
「お、おう。とりあえず入ろうぜ」
下駄箱を抜けてリビングのドアを開ける。
雪ノ下はさりげなく消えており、小町を先頭にリビングに入った。
パン、パン、パン!!とけたたましい音の後に紙吹雪が舞う。
…これ雪ノ下後で大変そうだな。
「小町ちゃん誕生日おめでとー!」
「おめでとうございますー!!」
「おめでとう、小町さん」
「…え?」
という言葉の後にすぐさまこちらを振り返る小町。
なかなか良い表情をしている。うん、可愛い。
「みなさん、ありがとうございますぅ!!小町こんなこと聞いてなかったから凄いビックリです!…どうりでお兄ちゃんが怪しかったんだ」
「ぐっ、お前な怪しいとかいうなよ」
「だってどこ行くの?って聞いても、後ちょっとだからとかいいからいいからとか変なナンパみたいだったよ?」
「比企谷くん、後でその辺聞かせてもらうわ」
あのちょっと?そんな怖い顔して聞くような話でもないからね?
「さぁ小町さん座って。今料理を持ってくるわ」
「小町ちゃん、私達も作ったんだよ!」
「結衣さんそれ大丈夫ですよね!?」
そう言いたくなる気持ちはめちゃくちゃわかるが雪ノ下と一色の監修だし平気だと思うぞ。
こうして、小町の誕生日会が幕を開けた。
☆ ☆ ☆
ダイジェストで今までの流れを言おう。
まず、料理を食べた。
「ふぉー!お兄ちゃん!見て!フランス料理だよこれ!」
「イタリアンなのだけれど…」
その後に雪ノ下と一色が作ったケーキが登場。
「お兄ちゃんケーキの上にパンさん!雪乃さん凄い!」
「それは私が作ったんだよ小町ちゃん」
「あっどうも」
「こんにちわ一色いろはです。私は先輩の…先輩のなんだろ?」
「お嫁さん候補追加の予感!?」
「ちょっと黙ろうな小町」
からのみんなからのプレゼント。
まぁここは小町が貰ったものだし俺が紹介することじゃないので省略。
ついでに俺からのプレゼントもあげた。中身は学校生活で使えるものとだけ言っておく。
夕方を過ぎた頃、辺りはすっかり真っ暗で雪ノ下の家から見える夜景と夜空に輝く星のコラボは綺麗だった。
「さて、そろそろ帰るか小町」
「そうだね」
「帰り、気をつけてね二人とも!」
「4月からは学校でね小町ちゃん」
「比企谷くん、くれぐれも気をつけるのよ」
「ではでは、みなさんありがとうございました!すみません雪乃さんお片付けもせずに…」
楽しかった時間は過ぎるのが早いという。
この時間は小町にとってはどうだったのだろうか。
二人で夜道を歩く。左手には小町の右手。
「なんだ小町珍しいな」
「まぁたまにはね?」
「楽しかったか?」
「今年1番だよ!びっくりしちゃった」
「…最近、帰り遅くてごめんな」
「ううん平気。なんて、嘘。やっぱりお兄ちゃんなんかでも迎えてくれると嬉しいものなんだよね。小町が逆に迎えるようになって改めて思った」
「…小町。まぁまだしばらくは俺がお前を迎えてやるし、お前が俺を迎えてくれ」
「小町的には早く結婚して出てってくれてもいいんだけどなぁー?」
「ばーか、俺は小町が居れば充分だっつーの。これ八幡的にポイント高い」
あー!パクられた!なんて言うツッコミを受けながら二人で手を繋いで帰る。
暗い道、夜空を見れば一番星が輝いていた。
まだ3月、気温はまだまだ寒いけど繋いだ左手は暖かかった。
お わ り