ツッコミどころは多々あると思いますがツッこまないで頂くとありがたいです。
しんみりものです。
それは夏前にしては暑く、寝苦しい夜の出来事だった。
大学に入り、ワンルームの部屋で1人暮らしを始めた俺は夜中に何かの気配を感じて起きた。
まだ目は開けていないが何かがそこに確かにいる。
シーンと静まり返っている部屋に突然声が響いた。
「……く……ん」
うわぁ超こえぇ。非科学的なものは基本的に信じない俺だが実体験したら話は別だ。超怖い。
「……きが……ん」
なんて言ってんだよこれ…。
「比企谷くん!」
は?
完全に名前を呼ばれた。
意を決して目を開けるとそこには……!
「ひゃっはろー!」
「…なんで…。…なんであんたが…」
「さぁなぜでしょー」
「だって、だってあんた、…去年”亡くなった”のに!!」
「ふふふーきちゃった♡」
「…そんな」
と、ここで急に意識が遠ざかっていく。
「あら?ビックリしすぎて気絶しちゃった?」
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてきて自然と目がさめる。
なんだか、すげぇ夢を見た気が…。
「じゃじゃーん!残念、夢じゃありませんでした!!」
「は?」
「あれ?見えてるよね?おーーい!」
「夢じゃなかっただと…」
「おっ見えてるみたいだね、よかったよかった」
「…どうして」
「んーなんかわかんないけど気がついたら比企谷くんの家に居た!」
「…わけわかんねぇ」
「だよねー。私もわかんない。別にこの世に未練なんか無いはずなのにね」
「死んだことはわかってるんですね」
「まぁなんとなく?」
そうここに居る雪ノ下陽乃は去年、突然事故で亡くなった。
なんでも街中を歩いてて子供が車にはねられそうになったところを助けたらしいが当たりどころが悪かったらしくあっさりと亡くなってしまった。
もちろん葬儀には俺も参加した。
雪ノ下や由比ヶ浜、参列者はもちろん皆泣いていた。俺もその1人だったしな。
この人のことは苦手ではあったが嫌いではなかったし。
なのに、なのに、なんで…。
「あの、本当に雪ノ下さんなんですか?」
「多分?まぁ厳密に言うと1回死んじゃったわけだし雪ノ下じゃなくてただの陽乃かな?なんちゃって」
「意味わかんねぇ…」
っていうかこの人こんなキャラだったか?
「まぁこうしてなんの因果か化けて出ちゃったわけだし成仏出来るまでよろしくね比企谷くん♡」
「えぇ…」
「こらこら、そんな嫌な声出さないの。美人なお姉さんと24時間一緒だよ?」
「せめて生きてる美人なお姉さん希望なんですが」
「あっひどーい!夜枕元に立ってやるからなーこのー!」
「いや本当謝るんでそれは勘弁してください」
「…まぁよろしくね」
「…はい」
とこんな感じで雪ノ下陽乃改め、陽乃さんは俺と行動することになった。
☆☆☆
「そういえば陽乃さん」
「んー?」
「陽乃さんのこと見えるのって俺だけっぽくないですか?」
「そうだねきっと。よかったね比企谷くん、お姉さん独り占めだよ」
「いや、そんなこと言ってる場合では…。っていうか俺大学行きますけど、どうします?」
「一緒に行く!」
「…おとなしくしててくださいよ」
大学に着いてから講義を受けてる間、頭の上には陽乃さんが浮いていた。
「あっ比企谷くん、そこ間違えてるよ」
「え?」
急に声を出したからか周りから視線がくる。
そうだよな、周りから見たら独り言だもんな。気をつけなきゃ。
上を見るとゲラゲラと大笑いしている。
「はぁ比企谷くんは本当面白いなぁ」
(この人わかっててやりやがったな)
「もちろん」
!?
「なんか考えてること少し読めるようになっちゃった。多分比企谷くんの意識が私に向いてる時だけだけど」
(相変わらず人間離れしてますね)
「おっ良い皮肉だねぇ」
(とりあえず講義中は静かにお願いしますよ)
「うんうん、わかってるわかってる」
そして大学が終わり家に帰る。
風呂に入るときも閉まってるドアから頭だけ出してきたり色々とされたりしたがそこは置いておこう。
「さて、じゃあ俺寝ますんで」
「はいはーい!おやすみー」
と部屋の中をぷかぷか浮かびながら答える陽乃さん。
いやこの人なんで化けて出てきたんだろう。
そんな生活を続けること早数日。
大学での休み時間、ある陰気そうな女が近づいてきた。
「…あの」
「ん?」
「あなた、憑かれてますよ」
「は?まぁ疲れてますが」
「そういうことではなく霊的な意味で。私霊感あるからわかるんです。あなたの背後に強い後悔をしている女の人が見えるんです」
後ろを振り返ると陽乃さんの姿。
こちらに気づいたのか呑気に手なんか振っている。
「はぁ、そうなんですか」
「悪いことは言いません。早くお祓い行った方がいいですよ。このままだとあなた…。いえ、なんでもありません。では、私はこれで」
「お、おう。どうも」
「なになに?あの子見える系?」
(自称そうらしいですよ。まぁハッキリは見えてなさそうでしたね)
でもあいつは言っていた。
陽乃さんに強い後悔が見えると。
その内容を聞いてもいいのだろうか。
だが、いきなり面と向かって聞く勇気は俺には出なかった。
☆☆☆
翌日
「あの、陽乃さん」
「?」
「今日雪ノ下と会うんですけど、どうします?」
「あー、そっか。やめとくお留守番してるよ」
「そうですか。じゃあ行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
☆☆☆
待ち合わせ場所に着くと雪ノ下は既に居た。
「おう。久々だな」
「こんにちわ。ええそうね。どうしたの?急に呼び出したりして」
「いやまぁここじゃあれだし場所変えようぜ」
と、不思議そうな顔をした雪ノ下を連れ近くのこじんまりとした喫茶店に入った。
「じゃあまぁ本題から「待って」なんだよ」
「あなた最近ちゃんと寝てる?隈が凄くて生気が薄いわよ」
「なんだよ、話を止めてまで罵倒か?」
「いえ違うわ。真面目な話よ。どうしたの?」
「心辺りはー、あるちゃあるが」
「言ってみなさい」
「まぁこれは本題に近いんだが、お前って幽霊って信じる?」
「は?馬鹿にしているのかしら?」
「まてまて、気持ちはわかるが」
「まさか幽霊が出るから夜眠れないとか言いたいの?」
「いやそういうわけであってそういうわけじゃないんだが…」
「はっきりしないわね」
「なんか、俺取り憑かれてるっぽいんだが」
「…続けて」
「でも普通に寝てるし今までと変わらない生活をしてる。それなのになぜ日に日に隈が増えたりするんだろうな」
「これは仮説でしかないのだけれど、やっぱりあなたに取り憑いているという霊のせいじゃないかしら」
「…だよな」
「私から言えるのは、早くお祓いに行きなさいとしか言えないわね」
「いやまぁそうなんだが、なんつーか無理矢理成仏させるより何の悔いもなく逝かせてあげたいというか」
「…呆れた。お人好しにも程があるわよ?」
「あーそう思うよなやっぱり。でもさ、俺に取り憑いてるって人に心当たりがあるっぽくてさ」
「…誰?」
「それは言えない。でもその人は何か後悔してるらしいんだよ。その後悔を払ってやればいいのかなって」
「…そう」
と雪ノ下は呟くと、一筋の涙を流した。
「お、おい」
「ごめんなさい。何でもないの」
「何でもってお前」
「いいの」
「そ、そうか。まぁ相談つーのはこんな感じだ。悪いな変な内容で」
「いえいいのよ。こっちも力になれなくてごめんなさい」
「いやいい。ただお前に話を聞いてもらいたかっただけだ」
それから、これまでの陽乃さんとの生活を陽乃さんの名前は出さず俺は雪ノ下に語った。
雪ノ下は何故か懐かしむような顔を見せたり時折悲しそうな顔をしながら俺の話を聞いてくれた。
「じゃ、またな」
「ええ、そうね。あっそうだこれを」
とどうやら喫茶店のペーパーをメモ用紙代わりに使ったらしいメモと思われる物を渡してきた。
「なんだこれ?」
「あなたは見ちゃだめよ。強いていうなら、あなたに憑いてる人用のメモかしら」
「?まぁよくわからんが受け取っておくわ」
その会話を最後に雪ノ下と別れ、帰路についた。
☆☆☆
「おっかえりー」
「ただいまです」
「それで?雪乃ちゃんと何話してきたの?」
「えっとですね」
と所々隠しながら今日の会話を陽乃さんに話していった。
「…そっか。比企谷くんに元気がないのは私のせいかもだね」
「いえそんな!」
「ううん。私は幽霊だもん。誰が考えたってわかるよねこんなこと」
「でも俺は、俺は…」
「ダメだよ比企谷くん。私はもう存在しちゃいけない存在なの。その続きはダメだよ」
「…けど」
「でも、比企谷くんからの気持ちは嬉しいなぁ」
と陽乃さんは静かに涙を流し始めた。
その涙はとても綺麗だった。
「もう、お別れだね比企谷くん」
それは突然の別れの宣告だった。
「…なんで」
「このままじゃ比企谷くんはダメになっちゃう。だからお別れ」
「最後に1つだけ聞いていいですか?後悔ってありますか?」
「…!ない、よ」
「そうですか…。これ最後に雪ノ下が渡してきたメモです。陽乃さんの名前は出してないので何が書いてあるかわかりませんが」
そういってメモを渡す。
何が書いてあるのかわからないが頼むぜ雪ノ下…!
そして、それを読んだ陽乃さんはさらに泣き崩れた。
それこそ声を出して泣くくらいの大泣きだった。
「ど、どうしたんです?」
「ふふ、…雪乃ちゃんに励まされて怒られて勇気をもらっちゃった!」
「へ?」
「これが、”雪ノ下陽乃”が言えなかった言葉よ」
比企谷くん、あなたが好きです。
「え?えっとあの」
「やっと、言えた。あっ返事はいらないよ?もう私はダメだから」
と寂しげでしっかりとした表情でそれを告げられた。
「ん?あっこれが成仏の理由だったんだね」
そういうと陽乃さんは足元からゆっくり消えていっていた。
「…陽乃さん、俺あなたのこと嫌いじゃなかったです」
と最後に俺は嘘をついた。
過去の出来事や最近の生活ですっかり俺は陽乃さんのことが…!
「うん。それでいいんだよ」
「比企谷くん好きだよ。捻くれてるところも好き、そのアホ毛が出てる可愛いところも好き、朝寝起きが悪くっていつも以上に鋭い目も好き、あとはやっぱりその優しいところが1番好きでした」
大好きだったよ八幡!
最後に満面の笑みを浮かべて陽乃さんは逝ってしまった。
この数日間の出来事を俺は忘れないだろう。
そしてしばらくはまだ、この心にある感情も忘れられないだろうと思う。
けど、ゆっくりでも、進んで行くので見ててください。
あなたが、好きでした。
了