只今、病院の3F。
廊下の先に人盛り……リンさん達だ。
「遅く、なりました……っ」
走ってきて息の上がっている私を見てリンさんがすまなさそうな表情になる。
「大丈夫です、わざわざ来てもらってすいません」
「いえ。……ナルは?」
「まだ中に......」
リンさんの視線の先には処置中の文字、それはもぎたての苺の様に赤く輝いていた。
「ナルのことも心配ですが、真夜さんに話があります」
リンさんが私の方に向き直りそう言った。
リンさんが歩いていく。
私も追いかけた。
リノリウムの床に二人分の足音が響く。
廊下を曲がった辺りでリンさんが立ち止まる。
「ナルはPKを使い、一旦は心停止しました。真夜さんがいなかったからです」
心停止……!?
死にかけたってこと……?
「そ……れは、すいませんでした。肝心な時にいなくて」
「いえ、真夜さんを責めているわけではありません。これで、貴女に予知の能力がないことが分かった」
「へ?」
もしかして、ナルに疑われてた件?
「私はナルがPKを使う前にナルから伝言を頼まれました『今、ここに真夜が現れないということは、真夜に予知能力がないということだ。つまり、僕の予想は外れた。すまない、と伝えてくれ』と」
「疑いは晴れて嬉しいですけど、そんなの……遺言みたいじゃないですか」
すまない、はナルの口から聞きたい。
また、お茶をいれたい。
ナル……。
「何言ってるんですか、本人にちゃんと謝らせます。ナルは嫌がるかもしれませんが、必ず」
「そうですね」と言って私はリンさんに笑いかけた。
リンさんも微笑みを返してくれた。
来た道を戻った。
廊下で腕を組んで立っていた綾子さんがこちらを見る。
「二人とも、どこで油売ってんのよ。ナル、もう処置室から出たわよ」
三人でナルの病室へ行った。
病室の窓から光が差す、眩しいと感じた。
ベッドサイドにいた麻衣さんが顔を上げる。
「真夜、遅いよ!」
「ごめんなさい、麻衣さん」
「んもぉ」
「真夜さん、夏風邪はもう大丈夫そうですね」
少し日焼けした安原さんが、窓辺に立っていた。
こんなところまで気にかけてくれるところが彼らしい。
「はい、もうバッチリです」
そう私が言った途端、彼のメガネが光った気がする。
「じゃあ、これからこき使えそうですねぇ」
「それは、やめて下さい」
安原さんにこき使われるなんて、どんな目にあうか分からない。
「あはは、嘘ですよ。やだな~」
安原さんの嘘は嘘に聞こえないんですって!
病室を見渡すと、ベッドサイドに麻衣さんと真砂子さん。
彼女達の後ろに綾子さん。
部屋の奥の窓辺に安原さん。
部屋の奥、角にぼーさん。
私とリンさんが出入り口付近にいた。