陽乃さんと美容師の彼   作:メイ(^ ^)

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冬の空の下で君と

 

 

 

 

喫茶店での仕事を終え、お風呂で疲れを癒し、いつものように部屋でパソコン片手に日記を綴る。

 

日に日に書く内容が増えていく。

 

パソコンのすぐ横にあるのは一冊の本。

先ほど比企谷君の部屋から取ってきたものだ。机の上にぽつんと一冊だけあるのが気にかかり、持ってきてしまった。栞は終盤に差し掛かるところに指してあり、裏面のあらすじを見る限り恋愛小説らしい。

 

 

比企谷君が恋愛小説を読むのは意外だなと思いつつ、パソコンの手を休め、小説を手に取る。

 

 

特に何も考えずに開いたページの一文。

 

 

『君はどうして私に優しくするの?言いたくはないけれど、君は大切な人がいるじゃない。……哀れみや同情で一緒にいてくれるの?もしそうじゃないなら、明日デートをしましょう。君の本当の気持ちを教えて』

 

『僕の気持ちなんてそんなの決まってる。君が大切だから優しくするんだ。哀れみや同情だけで一緒にいるほど、僕はできた人間じゃない。……いいよ、明日僕の気持ちを君に伝える』

 

 

 

………。

 

 

ペラペラとページを捲る音だけが部屋に鳴り響く。

たった一文でこの本に興味を持ってしまうのは、主人公の彼女の言動や心情がが私と似ているからなのか。

 

数ページ先まで読み、パタンと本を閉じる。

 

 

………よし。

 

 

私は部屋を出て、比企谷君の部屋に向かう。今ならゲームか小説を読んでる頃だろう。

 

ガチャとドアを開けると、不思議そうに私を見つめる彼。

 

 

「比企谷君」

 

「なんです?それより、机の上にあった本知りません?」

 

「君はどうして私と一緒にいてくれるの?」

 

「………あれ?住み着いたのそっちなんですけど……」

 

「………。明日デートをしましょう。君の本当の気持ちを教えて」

 

「……」

 

「明日は水曜日だよ!美容室も休みだし!バイトもないし!暇でしょ!」

 

「小説に感化されちゃったのかなぁ……」

 

 

 

 

………

……

·

 

 

 

「ほらほら比企谷君、行くよー」

 

「休みの日なのに……」

 

「きびきび動く!たまには外の空気吸わないと腐っちゃうよ?」

 

「目は既に腐ってますけどね」

 

 

冬のやわらかな日差しが照りつける午後。空気はシンと乾燥しており、いつもどんよりと曇っている空ではなく、珍しく快晴だ。絶好のデート日より、空も見方してくれてる。

未だ冬真っ盛りなため、晴れていても気温は低く、寒風が吹くたびに身震いしてしまう。

私は寒さを紛らわすようにマフラーに顔をうずめ、彼と無駄話に興じる。

 

 

「うん、マフラー暖かいね」

 

「……それ俺のなんですけどね、返してくださいよ」

 

「落ちてたから」

 

「なんでしれっと嘘つくのこの子は……」

 

 

目的地まで浅く積もった雪の上をザクザクと歩く。美容室から出たすぐの道のりは人通りが少ないせいか、国道のように地面が凍っておらず人の足跡もまばらだ。

 

数十分ほど歩き駅につく。そこから電車に乗り、二駅ほどのとこで降車した。

 

行先はアイススケート。

 

ここを選んだのは特に理由などない。

ただ、なんとなく彼と来たかっただけだ。

 

 

「す、スケートって俺やったことないんですけど…」

 

「ふふ、なら私の出番だね。雪ノ下陽乃にドンと任せなさい」

 

「おんぶしてもらいます」

 

「振り落とす」

 

「ひどい……」

 

 

スケートでおんぶしてもらう人ほうが恥ずかしいと思うんだけど。でも、ちょっと意外だ。彼の事だから、大抵の事は卒なくこなすと思っていたんだけど、苦手なこともあるんだね。

 

 

……。よし。

 

 

ここで、お姉さんアピールだね。

 

 

いつもはダメなところ見せてるけどここで良いところを見せなくちゃ。

 

 

『陽乃さん、素敵ですね。スケート選手にも引けをとりませんよ』

 

『ふふ、手を取って。君と一緒に滑りたい』

 

『はい……、行きましょう』

 

 

………。

 

 

な、なんてね!!

 

 

よし、イメージは完璧だ。あとは実行に移すだけだね。スケートリンクを滑走する私に彼はメロメロになるはず。

 

 

慣れた動作で先に履き替えた私は、ブレードをカツカツと鳴らしながらスケートリンクに足を踏み入れる。

 

 

久しぶりのスケートだけど、すぐにカンを取り戻せそう。

 

 

少し滑った後にチラッと彼の方を見る。初めてのことだから、きっとあたふたしてるに違いない。

 

 

しかし、想像とは違い悠々とリンクに立ちスィーと滑る彼の姿が目に映る。

 

 

その光景に思わず絶句してしまった。

 

 

私に気づいた彼は、ポケットに手を突っ込みながらこちらにやってくる。

 

 

「意外と出来るもんですね、楽しいです」

 

「……。なんでよ!こけてよ!尻餅ついてよ!想像と違うよ!!」

 

「!?」

 

 

結局想像通りにはならなかったけど、駄々をこねた結果、手を繋いで滑ることができたから満足だ。

昔練習したダブルアクセルを見せると、素直に褒めてくれたのが少し恥ずかしく、すごく嬉しかった。

 

 

それからは二人で悠々自適に滑り、時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

スケート場から出たら、空は既に茜色に染まっており太陽は柿色に変化していた。

 

 

ひたすら滑っていたため、足は重く疲労感が伺える。

 

 

足を休ませるために近くの喫茶店に入った。中は私が働いてる喫茶店とは違い、どこか騒がしげな印象を受ける。

彼に促され席に座ると、コーヒーを二つ持ってきてくれた。彼の手元には大量の砂糖。

 

 

「ん、ありがと。いくらだった?」

 

「いいですよ。今日のスケートのおごりです」

 

「そう、なら奢られよっかな。それと砂糖は1つだけね」

 

 

彼が持ってきた砂糖を1つ残して奪い取る。

 

「死ねと申すのか……」

 

「そんなに!?」

 

「ほら、砂糖くれ」

 

「虫歯なっても知らないからね」

 

「クリアクリーン♪」

 

「……」

 

 

まったく……。

いつもは落ち着いていて、いかにも大人!って感じなのに、こういう時は子どもっぽい。未だ甘いものが好きな彼を見てると、無意識に口元に笑みが生まれてしまう。

 

 

「何ニヤニヤしてんすか」

 

「し、してない!」

 

 

恥ずかしくなり、マフラーに顔を埋めてしまう。マフラーから香るのはいつもの彼の匂い。知らずのうちに嗅いでしまう。

 

 

「……。私比企谷君の匂い好きだな」

 

「……」

 

「……あ//」

 

 

私何言ってんだろ……。うぅ、恥ずかしい。

無意識のうちに声に出していたらしい。

 

 

「そ、そろそろ行こっか」

 

「そ、そうですね。行きましょう」

 

 

少し顔が赤い比企谷君と喫茶店を出る。

冬特有の冷たい風が吹いても、私の顔が熱いのは変わらずまたマフラーで顔を隠してしまう。

 

 

空はだいぶ暗くなり、お日様で出てる時間もかなり短くなり気温も太陽が隠れるのに比例して寒くなっているように感じる。

 

 

彼と私との距離は少しだけあいており、その距離が私と彼との隔たりを表してかのように小さな不安が生まれてしまう。

 

 

その不安を塗りつぶすかのように、私は彼の腕に抱きついた。

 

 

「っ……。なんです?」

 

「……、ほら、寒いから」

 

「なら、仕方ないですね」

 

「うん、仕方ないね」

 

 

二人で寄り添いながら帰路につく。

本当は聞きたいことがあったけど、彼の温もりを感じるとその疑問は頭の中から自然に消えていた。

 

 

気づけばちらほらと雪が舞っている。足にはスケートの疲れがじわりと残っており、今はその疲労感さえも彼の隣だと心地いいと感じてしまう。

 

 

雪が降る中、君とふたりぼっち。

 

 

ずっとこの時が続けばいいな。

 

 

そのことを切に思いながら私達の家までの道を歩いた。

 

 

 

 

 




SAOやノゲノラとかの映画楽しみ。

特に楽しみなのはfateかな、一章いつあるんやろ。

それと、ゲーガイルもしたい!!

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