短編集みたいになった。
ほのぼの回。
ポツポツと地面を打つ雨音が窓越しに耳に届く。
カラリと窓を開けると、空は灰色の分厚い雲に覆われ、パラパラと終わりがないように雨が降り続ける。
時刻はお昼の3時過ぎ。
季節は梅雨を迎え、来る日も来る日も雨が降り続ける。
毎年の事とはいえ、こうも降られると外に遊びにも行けないし、洗濯物も部屋干しとなってしまう。
雨はそこまで好きではない。
ため息を漏らし窓を閉めて、しばらくぼーっとしてると、だんだんと窓が結露しくもり始める。
「………」
少し考えた私は、すっとくもった窓に指を走らせる。
ハートを書いて、その下に傘を書く。
えっと、陽乃っと………。
「陽乃さん、なにしてるんですか?」
「ふぅわ!?………え、えっと、ほ、ほら……、陽乃って書いたよ!」
「うん、そうですね」
「……んん、次は君の番だよ」
「……はぁ、仕方ないですね」
「えへへ。……どれどれ、……って小町って書いてあるんだけど!」
「ははは、シスコンは加速する」
「いや、シスコンはガチで引くんだけど」
「お前に言われたくねえよ!」
***
【ゲーム】
「ふふ、比企谷君はワルイージなのね。……似てる」
「……似てないからね?そういう陽乃さんはデイジーなんですね、陽気なイメージがあります」
「そうかな。………あ、さあ!始まるよ!……マリカーなんて久しぶりだね」
「外は雨ですからね、暇つぶしです」
「ふふん、比企谷君はドッスンに潰されてなさい」
「そんな安易な手に引っかかってたまる……·ってどっちゃん!どしおくん!」
「どしおくんって何なのよ……」
***
【お買い物】
ざわざわと人々の喧騒に飲まれながら大型モールの中を手を引かれながら歩く。
外は雨が降っており、濡れている傘を所持している人が多いせいか、湿気が高く髪の毛がはねている人がちらほらと見受けられる。
それは彼も同じようで、彼のアホ毛があっちへヒラヒラこっちへヒラヒラと動き回る。
見ていて楽しい。
私の手を引き、先導してくれる彼の手から伝わる体温が心地よく、いつもより頼もしく感じる。
「比企谷君から手を繋いでくれるって珍しいね」
「……ほっといたらはぐれそうですからね」
前を向いているため表情は分からないけど、いつもの照れ隠しに表情が緩む。
彼の照れ隠しはわかりやすい。
「今日の夕食はパスタがいいかな」
「食べに行きます?」
「今日は私が作るよ」
「珍しい。ならカルボナーラお願いします」
「あとでスーパーよろっか」
「そうですね」
他愛もない話をしつつ目的の店まで歩く。
今日は彼の買い物の付き添い。美容道具を買いに来たらしい。
しばらく歩くとお店が見えてきた。
「ここ?」
「ん、ほとんどここで揃えてます」
そう答えると彼は私の手を離し、中をゆっくりと歩きながら物色し始める。
「……」
感じていた体温が離れ少し寂しい。
私も彼のあとを追いながら店内の美容道具を見て回る。様々な種類の散髪ハサミに櫛、そして可愛らしいヘアコーム。
美容道具はよく分からないけど、色々なシャンプーや髪留めがあるから私も見ていて楽しい。
少し見て回っていると一人の女性店員がニコニコしながら彼に話しかける。
「比企谷さん、こんにちは。今日は何をお探しですか?」
「……ちょっとハサミを買い替えにな」
「ふふ、彼女さんも一緒なんですね。ごゆっくり」
「……」
「……あの女誰よ」
「まてまて、店員さんな。声のトーン低いから」
「親しげに見えたけど」
「前に道具についてお世話になっただけだ」
「それだけならいーけど」
プイっとそっぽを向いてしまう。
ささいな事で嫉妬してるしてしまう自分が情けない。こんなに嫉妬深いなんて私自身も知らなかった。
しょぼくれていると、むぎゅっと頬を抓られる。
彼らしくない行動に少し驚いていると、いつもより柔らかい表情で優しく語りかける。
これも彼らしくない言葉。
「俺には陽乃さんだけですよ」
だけど私はその言葉を信じる。
緩む表情は止められない。時々見せる彼の大胆な言動は私を困らせる。
ひねくれていない彼の言葉は破壊力がすごすぎる。
頬をつねる手を取り、笑顔で私も彼に言葉を返す。
「私も比企谷君、だけだよ」
………
……
…
.
比企谷君のお買い物を終え、スーパーで買い物を行う。
後ろからカートを引くのは比企谷君。周りから見たら夫婦に見えるのかな、なんて思いながら食品を探す。
「えっと、カルボナーラの材料ってなんだっけ」
「卵やパスタ麺はうちにありますし、生クリーム、ベーコン、チーズとかじゃないですかね」
「おっけー。……付け合せにトマトのサラダしよっか」
「うん、食べないからね」
「好き嫌いしちゃだめだよ」
「あれは元々観賞用の物だったんですよ、改良するなんて悪魔の所業だわ」
「美味しいと思うんだけどなぁ」
カルボナーラで扱う材料に、お菓子や酒類を選び、レジに並ぶ。順番が来ると、さり気なく会計を済ませてくれる比企谷君にお礼を言いつつ買ったものをレジ袋に詰めスーパーを出る。
時刻は既に夕方の時間なのだが、雨が未だに降り続けている。私と彼の手元にはそれぞれの傘が一本づつある。
だけど比企谷君の両手は荷物で空いていない。
……。これはチャンス。
「ほら、比企谷君。……傘に入って」
「自分のありますよ」
「両手空いてないでしょ」
「……」
渋々納得した比企谷君と相合傘をしながら帰路につく。
聞こえるのはポツポツと傘を打つ雨の音。時折彼の肩が当たる度に胸が高鳴る。
周りの喧騒は何処へやら。
たまに当たるくらいならと、大胆に彼にくっつく。
横顔をちらりと見たら頬が少し赤い。それはお互い様なのだろうけど。
雨はそこまで好きでは無いけど、雨の中を彼と歩くのは結構好き。
「帰ったら一緒に料理しようね」
「トマトはだめだからね?」
リクエストあったのはそのうち書きます。