俺ガイルの新刊、延期って知らないで本屋さんを探し回ったのは俺だけでしょうか?
それではどぞ、基本的には甘々です。
after ① spring day
『……陽乃さん、陽乃さん』
遠くから私を呼ぶ声がする。
その声は暖かさを持っていて心地よく、夢見がいい私にとっては逆に安心して深い眠りに落ちてしまう……そんな声。
声は次第に大きくなり、今度は優しく肩を揺すられる。
ゆっくりとまぶたを開けると、そこには大好きな人の姿が目に映る。すると、じんわりと幸せな気持ちが胸いっぱいに広がる。
ゆっくり起き上がり、比企谷君の顔を見ると自然とほほが緩み、比企谷君のお腹に抱きついてしまう。
「比企谷君、おはよ」
「ん、おはようございます。もう9時ですよ」
「休みの日くらいいいじゃん」
「だらしないのはダメですよ。……それとお腹でぐりぐりしないでください」
「えへへ、いい匂い。……私の大好きな匂いだ」
「……」
少しため息をついた比企谷君は、ゆっくりと優しく私の頭を撫でる。
その事が嬉しくて、私は更に抱きつく力を強めた。
「陽乃さん、苦しいですよ」
「もっと撫でなさい」
「はいはい……」
「ふぁぁ……」
「はは、変な声出てますよ。……ご飯できてるんで食べましょう」
「ん……」
このまま彼と二度寝を決め込みたい気持ちをぐっと堪え、お腹に回した手を離す。
名残惜しい気持ちになり、少しばかりの寂しさを覚える。
私はベットから立ち上がり、そっと手を差し出す。
「……何してるの?」
「繋いで」
「飯冷めるんで早く行きますよー」
「もーー!」
春の麗らかな日差しが部屋を照らす。
何気ない朝の一幕。
こんな日常がどうしようもなく愛おしい。
彼との距離はもっと近くなり、一緒にいればいるほど好きという気持ちが溢れ出す。
今日は一日何をしようか考えつつ、比企谷君と一緒に美味しい朝食があるリビングに向かった。
******
「比企谷君って朝はパン派だよね」
トーストにサラダにスクランブルエッグが並ぶ今日の朝食。
こんがりときつね色に焼かれたトーストにハチミツを塗りながら彼に話しかけると、少し考える素振りをして答える。
「ご飯がいいですか?」
「……比企谷君がいいかな?」
「……」
「無視しないでよ!恥ずかしい!!」
「……朝から何言ってるんですか」
「……赤いよ?」
「イチゴジャム塗ったからな」
「ふふ、そーなんだ」
そっぽを向きながら頬を掻く比企谷君にニヤニヤと視線を送る。
すましてるように見せて意外と照れ屋な彼。
付き合ってから彼の新しい一面がどんどん見つかる。
まだまだ知らないことが多いけど、もっともっと彼のことが知りたい。
私は立ち上がり、窓を開けると、四月のポカポカした陽気が感じられる。
どこからともなく春の息吹が漂い、花の匂いがする。
「比企谷君……、お花見行こっか」
「……遠慮します」
「行くよ!」
………………
………
……
…
·
「…………」
午後1時過ぎ。
お弁当やお菓子、お花見で楽しめるものを用意して、桜が綺麗に咲いてるスポットへと向かう。
隣に歩いてるのは比企谷君。
吹いてくる風は心地よく、生暖かい日差しが私たちを優しく包み込む。
だけど、私の心の中は落ち着かない。
その理由は。
「比企谷君。女性に荷物を持たせて恥ずかしいとは思わないの?」
「……それお前の荷物だからな?」
「先輩、荷物ちょーおもいですー」
「ヒッキー重い」
「ナチュラルに俺に荷物を預けるな、捨てるぞ」
………。なんでみんないるのよ!
「………比企谷君が呼んだの?」
「違いますけど……」
「乙女の勘ってやつですよ!」
無い胸を張ってフフンと言い張るいろはちゃんにじろりと視線を送るとビクリと震えて、比企谷君の背中に隠れる。
しかも「怖いですよー、せんぱーい」なんて言ってるし。
……あざとい小悪魔め。
「いろはちゃん、比企谷君の背中から離れなさい」
「くっついちゃいました」
「あ、あたしもくっついちゃった」
いろはちゃんに続きガハマちゃんまで彼の背中にくっつく。
「お前ら暑いんだけど」
「えへへ、ゆきのんもどう?」
「ふふ、結構よ。……これが正妻の余裕って奴ね」
「離れなさい」
「やです」
「そこは私の場所よ!離れなさーーーい!!」
ギャーギャーと喚きながら目的地まで歩く。
こんな騒がしいのも久しぶりだ。
相変わらず胸の中はモヤモヤで不快感が募るけど、こんな賑やかなのも悪くない。
少し顔を緩ませる比企谷君が気に食わないけど。
***
ふわりと、柔らかい春の風が足元を通り過ぎる。
視線を上に向けると満開な桜が風に揺られ、ひらりひらりと小学生の遊戯のように踊る。
いつか読んだ小説で、桜の落ちる速度は秒速五センチメートルということが思い出される。
みんなに目を向けると、私と同じように桜に魅入ってる。
それほどの桜景色。
「綺麗だね………知ってる?桜の落ちるスピードは秒速五センチメートルなんだって」
「あれはいいお話でしたね。……確かに綺麗ですね、来てよかったです」
「うん……」
落ちる桜を追いかけながらはしゃぐガハマちゃんといろはちゃんを、穏やかな目で見守る比企谷君と会話をしつつ桜の樹の下に大きめのシーツを敷く。
雪乃ちゃんは桜の木に手を添えて顔を綻ばせてるし、みんなで来て良かったかな。
「ほら、遅めだけどお昼ご飯食べよっか。……美味しいご飯作ってきたから」
「……俺が作ったんですけどね」
「ヒッキー何気に料理得意だからね」
「喫茶店員の私が審査してあげますよ」
「ふふん、私には敵わないでしょうけど食べてあげるわ」
「なんでそんなに偉そうなの?」
比企谷君が作ったお弁当にはハンバーグや唐揚げ、卵焼きなど美味しそうなおかずが彩りおにぎりがもっともっと美味しくなる。
時間がゆるりと穏やかに進む。
目を瞑ると気持ちのいい風がさらに感じられる。
桜の匂いが鼻をつき、穏やかな気持ちになる。
少し目を瞑っていると、ぽすっと頭に誰かの手がのっけられる。目を開けると比企谷君の姿が目に入り、びっくりして頬を染めてしまう。
「どうしたの?」
「……いや、頭に花びらが乗っていたんで」
そう呟く比企谷君の顔も心なしか赤い。
気づけば顔の距離がだいぶ近くにあるように感じられる。
いつも腐ってる目ではなく、透き通った比企谷君の瞳に吸い込まれそうになる。
だんだんと近づく距離。
2人だけの世界に入り込んだような感覚になった、その時。
「な、な、何してるんですかー!!」
いろはちゃんが怒涛の勢いで割り込んできた。
その切羽詰まったような表情が面白くて、比企谷君と顔を合わせて吹き出してしまう。
2人して笑っているといろはちゃんがむくれ、その一部始終を見ていたガハマちゃんは顔を染め、雪乃ちゃんは不機嫌な表情で冷たい視線を向けてくる。
少し桃色な雰囲気を取り除くために、それからは鬼ごっこやガハマちゃんが持ってきたトランプをしたりした。
大富豪では比企谷君が何故か強くて、雪乃ちゃんが悔しげにしていたり。
途中でいろはちゃんが王様ゲームをしようと言い出して、とんでもない命令を出したりしたけど、とても楽しい時間が過ぎていった。
気づけば空は茜色に染まり始め、お開きの時間がやってくる。
ゆるりと過ぎていくと思えば、あっという間に時は過ぎる。
気を利かせてかどうかなのか、私と比企谷君以外はこれから用事があるとか。いろはちゃんは文句たらたらだったけど。
いまは彼と2人だけで帰り道を歩く。
霞にいきれるような春の暮れ。
春の残暑が私たちを照らす。
散々遊んだせいか私の口数も少ない。
だけど彼の手から伝わってくる温もりは安心して、自然とほほが緩む。
みんなとのお花見も楽しかったけど本当は比企谷君と二人っきりで来たかったな。
なんて、心の中でひとりごちる。そんな気持ちを察してか、彼が握る力が少し強まる。
彼の方を振り向くと少し照れたような表情。
「陽乃さん、来年は……毎年、お花見行きましょう」
「……うん、ずーっと一緒だよ?」
春、夏、秋、冬って書こうかな。
何か書いて欲しいシチュあったら言ってね。