ーーー♪
枕元に置いてあるアイフォンからアラーム音が鳴り、眠りに落ちている私の耳朶に触れる。
ゆっくりと目を開けると、いつもと変わらない私の部屋の天井。しばらくこの部屋で生活していたから、すっかり自分の部屋に様変わりしている。
寝惚け眼の状態でアイフォンを開くとそこには6時30分とデジタルな時刻が表示される。
まだ、比企谷君は起きていないだろう。
ベットから起き上がり、窓を開けると朝の和やかな陽射しが心地よく照りつけられ目を細める。
空は青く澄み渡っており、遠くの空には鳥が飛んでおり耳を澄ませばさえずりが聴こえてくる。
その光景に少し顔を綻ばせ、窓を閉める。
あらかじめ用意していた服に着替え、部屋を後にする。
だいぶ春に近づいているとはいえ、朝の廊下は肌寒い。
洗面台に着き、パシャパシャと顔を洗うと水は冷たく、寝起きの状態からじんわりと覚醒していく。
タオルで水滴を拭き取り、リビングに向かう。
用意したのは一枚の紙とボールペン。
私は少し迷って文字を綴った。
きっと勝手に出ていく私を比企谷君はどう思うのだろう。
怒るのかな、呆れるのかな、それとも心配してくれるのかな。
だけど、私にはけじめを付けなきゃいけない人がいる。
比企谷君に面と向かって好きと言うために。
だから、
「比企谷君、いってきます」
春が近づく早朝。
私は最低限の荷物を持ち、カランといつもの音を立て美容室をあとにする。
一枚の置き手紙を残して。
ーーー比企谷君へ。
大魔王を倒しに行ってきます。
待っていてください。
陽乃よりーーー。
******
目が覚めた。
学生の頃とは違い、規則正しい生活を送ってきたせいか朝起きるのも決まった時間に起きるのが多くなった。
ベットからのそりと起き上がり、背伸びをする。
固まった関節がパキパキと音を立て、眠気が少しづつ消えていく。
朝ごはんの準備をしようと思い、リビングに向かうと机の上には一枚の手紙。
少し驚き文字に目を移すとそこには陽乃さんからのメッセージ。
はぁ……あまり心配をかけないでくださいよ。
「……行ってらっしゃい」
その言葉は誰に聞こえるまでもなく空気の中に消えていく。
責任感が強いあの人のことだから、きっとこの時が来るだろうとはおもっていた。
だから、
陽乃さんが帰ってきたら、そのときは甘やかしてあげよう。
怒りはするけど…。
…………
……
…
.
伝えるべきことを伝えた。
今までの事、逃げたこと、そしてこれからどうしたいかということ。
空気がピリピリと張り詰めていると思うのは私だけだろうか。
数年ぶりに会う母親は50代を過ぎたにも関わらず、私を射抜く眼光は鋭い。
着物を着ている母はあの頃と何も変わらず、一つ一つの所作に気品が表れている。
私の言うことを黙って聴いていた母が口を開く。
「まず陽乃」
「っ、は、はい」
「……帰ってきたらまずはただいまでしょう?」
「へ、あ、ただいま!」
「ん、お帰りなさい。紅茶を準備するわね」
そう言うと立ち上がり、キッチンの方へ向かっていった。
………。
お、おかしい。
私の予想では母さんはカンカンに怒っていると思っていたのに。
予想とは裏腹に私を歓迎しているように思える。
げ、解せぬ。
一体何が……。
「はい、マリアージュフレールよ。雪乃が好きだから、あなたも好きでしょ?」
「うん、ありがと」
紅茶に口を付ける。
あ、……おいし。
母はティーカップを置くと、少し厳しめの口調で語りかけた。
「陽乃……聞いているとは思うけど、今は雪乃が頑張っているのよ」
「……うん、知ってる」
「……本当のことを言うとね、貴方にはガッカリしたわ」
「っ!?」
「だけど……、それは私が悪いのよね」
「そ、そんなことは……」
「いいえ。私は貴方に期待して、願望を押し付けて、それが正しいと思い込んでしまったの。……娘の気持ちも考えずに、ごめんなさいね」
「……」
「陽乃、勝手を承知で頼みたいことがあるの」
「うん…」
「雪乃を手伝ってあげて。……確かに雪乃は目を見張るほど優秀だけど……少し危なっかしい。だから、貴方が姉として……一人の家族として面倒を見てくれないかしら」
「……うん、大丈夫だよ。お姉ちゃんに任せなさい」
「そう、なら安心ね」
そう言うと母は屈託なく笑う。
久々に見る母の笑顔に私も自然も顔を綻ばせる。
そこからは親や子水入らずの会話を楽しんだ。
母さんとの間にあった壁は綺麗に取り払われ、笑顔が絶えることはなく、話は次第に私の幼少の頃の思い出を語り始めた。
私の気持ちは晴れやかで、これでやっと比企谷君に正面から好意を伝えることが出来る。
だから、私は思い切って伝える事にした。
「あのね、お母さん」
「どうしたの?」
「そのね、私、すきな人がいるんだけど……」
「ふふ、いいのよ。自由にしなさい。……あ、そういえば雪乃も何か言ってたわよ」
「ん?」
「確か、比企谷さんという方と結婚したいとか」
「……私の」
「え?」
「それは私の!!」
「!?………な!?……そ、その比企谷さんという人を連れてきなさい!わ、私の娘を誑かして!」
「………」
あ、やばいかも……。
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ーーー
ーー
ー
「て、言うことがあったんだけど」
「……」
「ちょ!どこに行くのよ!」
「ふ、ふざけんな!いきなりママのんなんかと会えるか!」
「なんかとは何よ!私のお母さんよ!」
「完全にとばっちりじゃねえか!」
「……私のこと嫌いなの?」
「……嫌いじゃないけど…」
頬をかきながらそっぽを向く比企谷君に自然とほほが緩む。
比企谷君の手を取り、上目遣いで言葉を紡ぐ。
「私は比企谷君のこと好きだよ」
「……あざとい」
「……」
「痛い痛い!抓るな!……はぁ、わかりましたよ。俺も覚悟を決めましょう」
「うん……」
「まあ、あれです。……最初の頃は居候で迷惑なだけだったんですけど、今じゃ居てもらわないと困るというか、落ち着かないんで、その……傍に居てもらえますか?」
「……うん、ずっとそばに居るよ!比企谷君大好き!!」
開いてる窓から優しい風が頬を撫でる。
春はもうすぐそこに。
今もこれからも、この陽だまりの場所は変わらない。
嬉しさのあまり比企谷君に抱きつくと、私の大好きな香りが胸いっぱいに広がる。
きっとこれからも、たくさんの事が起こるだろう。
辛いことや悲しいことも、でも彼となら乗り越えられる。
そして、その何倍もの幸福が待っている。
「浮気したら殺すからね!」
「怖い!」
ーーーfin。
これで本編は終わりです。
今まで見てくれた方、感想くれた方ありがとうございます!!
途中疾走したみたいな感じになったけど、皆さんのおかげで頑張れました。
要望あればafterとか書くかも。
ちなみにサキサキの方もよろしくです。
次書くなら、雪のんか、いろはすかきたいかな。
それではまた。