色を無くした問題児が異世界からやって来る様ですよ!! 作:毛利 綾斗
あぁ、なんでテラスで大暴れしてるんだよ。
周りの視線も痛いし何より落ち着けないだろ・・・・・。
レンガがひかれた広場に面している店。
テラス付きで小洒落ているからだろう。客入りもそこそこいい店のテラスの角。
そこではテーブルが倒れ、1人の男が少女に組み敷かれる。そんなカオスな状況が展開されていた。
〜2時間前〜
真っ暗だった視界が急に明るく、そして青く染まったと思うと身体に浮遊感を感じる。そこでやっと自身がどこかのはるか上空にいること、他にも何かが落ちていることが分かった。周りから何かが聞こえてくるがわからない。ただ俺は目を閉じるとそのまま地面に衝突するのを待つ、これで漸く終われるのだと考えながら。
そんな希望は砕かれた。水に落ちたことで衝撃が分散され身体には全くと言っていいほどダメージはない。そのまま身を任せ水中に沈んでいこう、そう考えたがそうもいかなかった。水中に漂い続けていると肺が空気をよこせと叫びだす。苦しい、そう感じると恐怖が全身を襲い身体が空気を求めてもがき始める。
もがきだしたのが遅かったからだろう。目が霞み始め、そして俺は暗くなった水中で意識を手放した。
・・・スタート前に死なれても困るし今回は特別だよ
気が付くと俺は青々と茂った草の上に寝ころんでいた。
だんだんと意識が覚醒するにつれて周りの音も聞こえてくる。風の音、草の揺れる音、鳥のさえずり、・・・そして騒がしい声。
・・・ミミガー、とかヤハハ、とか聞こえてきた俺はもう一度目を閉じることにする。だってやばいでしょ。なんなんだよ、うさ耳を付けたきわどい格好の女の子がいたりその周りでいい笑顔で耳を引っ張ってる3人の男女。関わりたくないし、何より俺は他人と関わってはいけない。つか、あのうさ耳っ娘痛いって言ってたけどあれってつけ耳じゃないのかよ。アロンαか何かでくっつけてんのか?
それから大体30分後、静かになり何やら説明が始まったようで、恩恵がギフトでーとかゲームがーとか言っている。
恩恵が神からのギフトというのであれば俺の呪いは何だろうか?
この自分も周りも不幸にするこの呪いは恩恵では絶対にない。
それに説明している奴は焦っているようにも感じる。が、俺には関係ないだろう。彼女が求めているのは恐らくだが優れた恩恵を持った者だ。俺みたいな呪われている人間は切羽詰まっている彼女の足を引っ張るだけの存在だ。俺はまた拒絶されるだろう。
それも当たり前だろう。俺だって俺みたいなやつが現れたら関わらないようにする。
それに俺は誰かの邪魔をしたいわけではない。邪魔をする前に俺は立ち去るべきなんじゃないだろうか。
「・・・おい、そこで寝てるふりし続けてるお前。今からゲームをするから起きろよ」
「・・・・・そ、そうなのですヨ。早く起きてください。どうやら話は聞いていたようなので黙っていましたが、早く起きてこっちに来てください」
うんうん、と他に二つの女性陣の声が聞こえてくる。どうやら全員に気づかれていたらしい。
仕方がない、全員に気が付かれているのであれば起きるしかないだろう。
出来るだけ関わらないでいいように、一番の希望は誰とも話さず、触れず、目も合わさないようにただ空気になる努力をしよう。
立ち上がり、4人が集まっているところへと行く。
そこには平原には似合わない重そうなギャンブルに使われる机と、その上にトランプが置かれている。
「それでは全員集まったようなので内容を説明させていただきます。今回のギフトゲームはこの机の上に並べられたトランプの中から1枚めくり、絵柄を当てていただくという簡単なものなのですヨ。っと、このゲームもクリアできないような雑魚はいないとは思いますがその方は足手まといになりますので皆さま頑張ってくださいね」
うさ耳の彼女がそう言い終わると同時に目の前に羊皮紙のようなものが現れる。
「これがギアスロールでございます。こちらに詳しいルールをまとめましたのでご覧ください」
『ギフトゲーム “スカウト”
プレイヤー一覧:逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、伊藤綾斗
クリア条件:机の上のトランプ52枚の中から絵札を引く
・挑戦権は一人一度のみ
・トランプには一度しか手にしてはいけない
敗北条件:降参、又はプレイヤーが上記の勝利条件を満たせなかった場合
宣誓、上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催する
“サウザンドアイズ”』
最後に回ってきたそれを見る。名前を名乗っていないのに勝手に知られていたことに少し驚きはしたが今はどうでもいい。
ルールはわかったし、自分ではクリアする目途すら立たない。というよりクリアする必要性が感じられない。
「条件は確認した。それでゲームなら何か賭けるんだろ?それはどうするんだ」
「そうですね。もしあなた方が勝てば一ついうことを聞いてあげます」
ヤハハと笑いながらうさ耳の彼女の豊満な胸を凝視する逆廻とそれをジト目で見つめる女性2人組。その視線に気が付いた彼女は胸を隠すように腕を巻き付けるがそれでも隠せない胸は逆に誘っているようにも見える。
「た、ただしいやらしいお願いはだめですよ」
「別に冗談だ。それで俺たちが負けた場合はどうする。恩恵でもかければいいのか」
「いえ、あなた方が負けてもこちらは何も要求しません。ですが、そうですね。負ければプライドに傷がつく、というのはどうでしょうか」
「面白い。この勝負乗った」
「不正がないか確かめさせてほしい。もっと言えばトランプを確かめさせて」
逆廻が少しぎらついた笑みをこぼしながら言い放つと冷静な声で短髪の女性が確認をさせてくれと頼む。うさ耳の女性はトランプを手渡し、それを金髪と赤いドレスはただ適当に流し見、短髪はトランプを確認しながら時々何かをこすりつけている。他にも机の確認もしているようだ。俺はというと確認も何もせずに、というか受け取ることもなくゲーム開始を促した。
「それではゲーム成立デス!」
そう高らかに宣言した彼女はトランプをシャッフルし机に一列に並べる。
一番手にと逆廻が前に出る。
「そうそう、言い忘れていたのです。黒うさぎの耳はこの『箱庭』の中枢につながっています。不正などは行わない方がいいですよ。すぐにわかりますので」
わかったよ、と返事をした逆廻は机の前に立ち、思いっきり手をたたきつける。
彼の手の風圧によってトランプが舞い上がる。表裏がめちゃくちゃな状態で地面に落ちたトランプの中から表になっている絵札を拾う女性陣。俺はというと机の前に立ちトランプを確認する。机の上のトランプの枚数は逆廻が触れている一枚とすべて表を向いた数字。
それだけ確認するとトランプに触れることなく元居た場所へと戻る。
抗議したそうな黒うさぎの雰囲気に逆廻は先回りしたかのように
「いっておくが別に俺はルールに抵触していないぜ。トランプに触れたのはこれだけだし他の奴らも一回だけだ。まあ、トランプに触れてないやつもいるけどな」
「そ、そうなのです。今クリアが確認されているのは飛鳥さんと耀さんだけなのですよ。十六夜さんと綾斗さんは」
何言ってんだよ、と心外そうな顔をする逆廻はトランプを拾い上げる。
「俺がひいたのも勿論絵札だ。それにもうゲームは終わってるぜ。確認してみたらどうだ」
うさ耳をぴょこぴょこさせていた黒うさぎは急にうなだれる。
「箱庭の中枢からこのゲームは有効、勝者は皆さまだという判定が下りました。ですが、なぜ綾斗さんまで。トランプをとっていないはずでは」
彼女はそう言いながらこっちを見る。彼女は本当に気が付いていないのだろうか。というか他の3人はわかってるんだから笑ってないで早く説明してあげろ。くそ、意地でも説明しないつもりだな。
「机の上に絵札がなければルール違反。だから俺だけじゃなくてあの二人もいうなれば不戦勝」
それを聞いた黒うさぎは机へと向かい確認する。
肩を落としながらこちらへとやってくる黒うさぎに対して追い打ちをかけるように逆廻は告げる。
「早速言うことを聞いてもらうぜ」
黒うさぎは慌てながら再び自身の身を隠すかのように腕を巻き付ける。それは逆効果だと思うがどうでもいい。だってやましい感じはしないし。
「せ、性的なことはだめですよ!」
「それも魅力的だが・・・俺が聞きたいのは、手紙に書いてあったのは本当か」
何ですか、と頭にクエスチョンマークを浮かべる黒うさぎ。
それに対して少し問い詰めるかのような口調になる逆廻。
「この世界は・・・本当に面白いのか」
どうやら他の二人も同じことを考えていたようで先ほどまでとは変わり真剣な面持ちで黒うさぎの返答を待っている。
それもそうだろう。すべてを捨ててまでこの世界に来たのだ。それに見合うだけのモノの存在は重要だ。
「YES!『ギフトゲーム』は人を超越したモノたちだけが参加できる遊戯。この箱庭には森羅万象が集い競い合っています。元居た世界よりも格段に楽しむことが出来ると黒うさぎは宣言しましょう」