「………で、実際のところどうなの?」
「さぁな」
「さぁな?」
専用機持ちや教員などをボコボコにした戦士たちの棟梁―――夜塚透は目の前にいる謎の美少女の突然の出現に対して驚きもせず適当に返した。
「言っておくけど、智久を潰したらあなたを殺すわよ」
「結局のところ、特訓はそいつの努力と気持ち次第でしかない。現時点でどうだとは判断しにくいんだ。………環境も悪いしな」
「環境?」
「俺の見立てじゃ、IS学園内で生徒に限定すれば時雨智久とタイマン張れる奴は既にいない。それほど時雨智久の能力はずば抜けている。まぁ、IS操縦もまだ粗さはあるが、それは今後国家代表とぶつければ次第に克服するだろう。結局のところ、資料だけを確認するならば時雨が不得意としているのは更識楯無のみであり、それ以外は別にアレもまた蛆虫と思っているんだからな」
そう言った透は立ち上がり、窓の方に移動する。そこではまだバーサーカーと一夏が戦っていた。……もっとも、一夏は既にボロボロであり、バーサーカーは一方的にいたぶっているのだが。
「………さてと、やり方は荒いが起きてもらおうか」
そう呟いた透は外に出て、一夏たちがいる場所に向かった。
すぐに気付いたのばバーサーカー。彼は一夏を医務室に運び、北条カンパニーから呼ばれた医者に治療を受ける。
「派手にやったな」
「そういう命令でしたので。それに、あれくらいしなければ意味がないでしょう……?」
「ああ。そうだな」
透は何もバーサーカーを責めているわけではない。むしろ、よくやったとすら思っている。
一夏は気が付き、瞼を開けるとまず最初に入ったのは透の姿だった。
「……目を覚ましたようだな。一方的にボコられた気分はどうだ、織斑」
「良いわけねえよ」
「そうか。でもまぁ、自業自得だよな」
「は?」
「バーサーカーは破壊力こそ高いが、攻撃パターンは比較的単純だ。やろうと思えばすぐに対応できる。おそらく、時雨智久ならば半日あれはバーサーカーを倒せるだろうよ」
その言葉に一夏が反応したのを透は見逃さなかった。
「……何が言いたいんだ」
「お前は雑魚だ」
その言葉に正面から言われると思っていなかった一夏は絶句した。
「IS学園勢は基本的に弱すぎる。時雨智久は枷を付けている状態だから少しない部分はあるが、お前たちにはそれがない。その中でもお前は―――何の信念もない」
「信念ならあるさ! みんなを守るって―――」
「自分自身すら守れないくせに何を言っているんだ、お前は」
そう言われて一夏は動きを止めた。
「お前は甘いんだよ。ISに乗っているから死の危険がないとでも思ってるのか?」
「それは………」
「大体、福音事件もそうだがお前は余計なものまで背負い込み過ぎだ。お前程度の能力ですべてを助けれるわけもない」
「でも、放っておけないだろ!? もしその人たちが死んだらどうするんだ!?」
「別に何も。割と自業自得だろ。弱かったんだから」
そう返した透。しかし一夏はそんな透に「信じられない」という顔を向けた。
「……本気か…? 本気でそう言っているのか!?」
「本気だ。それに俺は人間自体基本的にどうでも良いしな。全く何の問題もない」
すると一夏は透に掴みかかった。バーサーカーが割って入ろうとしたが、透が制する。
「いい加減にしろよ! それでお前は満足なのかよ!?」
「そうだな。今は大した野望も何もないし。それにだ。お前はそれをできるほどの強さがあるのか? 誰にも負けないと言えるほどの。もちろん言えるわけないよな?」
「……………」
言えるわけがなかった。
一夏が誰にも負けないと言えるような状況じゃないのは、自分が一番理解している。
「だがまぁ、お前の今の型を崩さずに強くする方法はある」
「!? 教えてくれ! 俺はもっと、みんなを守るために強くなりたいんだ!!」
「…………良いぜ。ただし―――」
透は軽く払うが、一夏にとっては瀕死となる一撃となった。
壁にめり込んだ一夏に対して透は構わず言った。
「敬語を使え、クズ野郎」
そう言って透は一夏をベッドに戻し、医療用ナノマシンを無理矢理投入する。それによって一夏の身体に起こっていた異常は跡形もなく消え去った。
「さて、今日から本格的な個別の訓練に入る」
朝。黒葉高校のグラウンドに集められた専用機持ちにそう告げた。
「ねぇ、時雨はともかく一夏はどうしたのよ」
「地下に放り込んだ。奴は奴で既に特訓中だ。まぁ、他人を思いやる気持ちは良いことだが―――その余裕はいつまで持つかな」
「え? それってどういう―――」
するとシャルロットが何かに吹き飛ばされる。その何かとは―――全長5mあるロボットだった。
「シャルロット・デュノア。お前はこいつを生身で倒せ」
「た、倒せって―――」
「安心しろ。ちゃんと装備を支給してやるし決して勝てない相手じゃない。俺ならワンパンで倒せる」
「透様はそもそも生身でISを倒せるんですから引き合いに出しては可哀想です」
アクアがそう突っ込んだ。周りもそれに賛同するように頷く。
「流石にISを殴って倒すのは無理だがな」
「じゃあどうやって倒すのよ」
「そっちの生徒会長が水を操っている原理と一緒だ。俺の場合はそれを含めて全属性と熱線やミサイル、光弾を無限に飛ばせる。魑魅魍魎が跋扈する常識に囚われてはいけない某世界に行っても空も飛べるからたぶん生き残れる」
他にも発明だけなら束並みのことは軽くできるし、戦闘能力は千冬を凌駕しているのである意味無敵だ。
「そ、それは―――」
「あ、ちなみに無駄乳ポニテはっと」
指を鳴らした透。すると箒の脚に重りが装着される。
「何だこれは!?」
「お前は二刀流を極めてもらう。流石に空の域に達しろとか短時間で無理だが、少なくとも片腕が独立して動かせるようにしろ。本格的な戦闘訓練はその後だ。それで、凰鈴音は―――今度はバーサーカーに勝て」
「なっ!?」
既に戦闘態勢を取っているバーサーカー。しかし、バーサーカーも嫌な顔をする。
「ご冗談でしょう? こんなガキの相手を俺がするんですかい?」
「そうだ。それにちょうどいい相手だと思うがな。お前は190もあるんだからチビの相手はしづらいはずだ。まぁ、相手がド貧乳な上にそそらない上に魅力が0だから気持ちはわからなくもないからな」
その誰かの何かが切れたが、バーサーカーは気付いていないのか構わず続けた。
「わかりましたよ。じゃあ、今日はこのド貧乳……もといドペッタンコの相手をします」
バーサーカーは咄嗟に左腕を上げる。鈴音はバーサーカーの左腕を潰す勢いで蹴ったが、バーサーカーの筋肉の鎧に弾かれた。
しかし鈴音は気にしていないようで、そのまま仕掛ける。
「死ねぇぇえええええええええええッッッ!!!!」
鈴音は手段を選ぶことを止めた。
今の彼女を突き動かすものは殺意。近くにあった刃物を持ち、バーサーカーに向かう。しかしバーサーカーも手練れでありナイフの相手は慣れているので当たらないように捌く。
(中々の精度だな。見た限りこいつにはそのような特技があるとは思えなかったが)
伊達にたった1年で専用機持ちに上り詰めた実力は伊達ではないと言わんばかりの猛攻。これには透も状況はともかく性能は予想外で、内心納得する。
(………ああ、恋か)
これまでは「一夏」という恋する相手がいたからこそ無意識で己をセーブしていた。しかし今はおらず、あそこまで弱点である胸のことを言われて怒り心頭と言ったところだろう、と透は予想する。
(………難儀なやつ)
透は決して胸などで女を判断するということはしない。故にレアやアクアのような胸が小さい女の子に好かれるのだ。それに透を好く女子は2人以外にもいる。
(ともかく、焚きつけることには成功したか。じゃあ俺は織斑一夏の様子でも見に行こうかね)
アクアに伝えた透は地下に向かいつつ、IS学園の様子を外部から確認した。
セシリア・オルコットは疲弊していた。
彼女は今、俗に言うサバイバルゲームをしているが、自分は1人に対して相手は10人。しかもその内1人は指揮に専念しているものの、容赦なく自分を狙い撃ちしている。
「君に足りないものは、空間を把握する力だ」
講師と名乗った男に唐突に言われた後、行われた休憩なしのサバイバルバトルだった。
渡されたのは迷彩服のセットにメインウェポンとなるライフル。さらにナイフと拳銃を渡されてプラスチック弾に予備弾倉。
初日はもちろん、5日目まで一方的に倒されたのである。
「野生になれ。それができないようならば、勝つまで風呂に入ることを禁じる必要があるな」
今日、始める時にそう言われて彼女は本気で焦った。
それゆえにおそらくいつもよりも本気で取り込んでいるが、いつ攻めてくるのかわからない。
―――ザザッ
聞こえた音に反応したセシリアは離脱。これまでのパターンだ。
向こうは突貫狙いか、セシリアの方に迷いなく迫ってくる。
(………どうして止まらないんですの?)
走りながら、セシリアは考える。そもそもどうして向こうは突貫できるのだろうか、と。
相手は10人ではあるが、とはいえ流石に遠慮がないように見える。普通ならただの突貫ではなく、攻撃の1つもしてくるはず。
そう考えたセシリアは比較的大きい大木に背中を付け、いつでも撃てるように持って来た2丁を構えた。
「足が止まった」
「どこかに隠れて―――」
そして彼女は―――馬鹿正直に姿を現した2人を撃った。
審判ロボが2人のリタイアを判定する。どうやら即死らしいが、セシリアに自ら「講師」と名乗った男はため息を吐いた。
「やれやれ、ようやく気付いたか」
彼女の行動パターンを予測する講師。とはいえ先行させた2人は「ナイフ」しか持たせていないのだから行動パターンは誰でもわかる。実際、2人から武器を回収したセシリアは「馬鹿にして」と呟いていた。
今回、講師はとあることを仕組んでいるが―――セシリアはまだそのことに気付いているかわからない。
「そろそろ狩りを始めるぞ。気を引き締めろよ」
そう部下に指示した講師は自らも銃を構えて部下に指示した。
地下に降りた透。そこには装置に身を任せ眠る一夏の姿があった。
彼は今、透が見せている闇と戦っている。その映像はレアが録画しているが、レアは笑いこけている。
「順調か?」
「はい。でもー、ちょっと青臭すぎますねぇ。だから言われた通りにぶち込みました」
モニターには、ラファール・リヴァイヴを全身装甲にした機体と白式を装備した一夏が戦っていた。しかし、シャルロットが以前まで使っていたタイプとは違って機体は高性能となっている。それもそのはず―――そのラファール・リヴァイヴは通常のカラーリングでありながら、幸那が使用していた機体と同様の効果を持っているのだから。
残像を見せながら接近し、一夏を惑わせて隙を作る。一夏は簡単に引っかかって攻撃を食らうのは彼の思考が単純故だろう。
『同じ近接タイプなのに……何でこうも……』
悔しがる一夏の言葉に噴き出した透は、一夏が使用する装置と同種のものに身を預けた。
「ちょっ透さまぁ!?」
「なに。ちょっと介入してやろうと思ってな」
レアもこれ以上言ったところで聞き入れてくれないことを理解しているのか、仕方なく操作した。
一夏が戦っている相手の動きが急に変わった。
剣技だけでなく蹴りなども入れてくるようになり、一夏はなんとか防げるタイミングでいなした。
「ちょっ!? 卑怯だぞ!」
「その思考がお前の弱点だ、織斑一夏」
急に発せられた声に驚く一夏。するとさっきまでラファール・リヴァイヴだったそれは姿を変え、姿としては透がISに搭乗している形となった。
「アンタは……」
「勝負は常に命のやり取り。生存競争だ。そんな戦いに卑怯も糞もない。どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。お前の理論は所詮ぬるま湯理論だ。本当に生き残りたければごねるなよ」
―――やりがいねぇじゃん
その言葉と同時に発せられる大量のレーザー。それらが一夏に向かって飛ぶ。
一夏は咄嗟に回避するが、それらのレーザーがほぼ反射されたように一夏の背中に向かった。
「なっ!?」
「何驚いてんだよ。今の、ただの
思い出した透は噴き出す。その行動に一夏は怒りを覚えたが、透は容赦なく言った。
「ムカつくか? だがこれが現実だ。もっとも俺の場合は全人類の中からのエリートだ。戦闘面でも、技術面でも期待されているしお前たちの同年代で革命を起こし、家で偉ぶっていた奴らを全て壊し、IS並みの戦闘可能なパワードスーツも作成した。凡人が作り上げたEOSを改良作業中だ。それに、ビット兵器を使っている間は自分が動けないという馬鹿な欠点なんて抱えたこともない。ましてや、高が4基程度で苦戦するなんてありえない」
一夏に次々とレーザーが襲う。
「覚えておくんだな、織斑一夏。お前の周りは総じて雑魚だ。唯一の例外は時雨智久のみであり、百歩譲って生徒会の面々か。そんな強者に守られている時点で貴様らは負け犬だ」
次第にレーザーの数が増え、一夏は攻撃が一切できなくなった。
「死にたくなければ生まれ変われ。お前がこれまで生き残ってこれたのはお前自身のおかげじゃない。お前の姉のおかげであり、時雨智久のおかげだ」
レーザーの嵐にとうとう一夏は意識を失った―――が、容赦なく覚醒させられ、先程までの記憶を思い出させられる。
「お、俺は………」
「お前は弱い。そして、このまま強くなったところで織斑千冬という色眼鏡をかけられて比較されるだけだ。「流石は千冬様の弟ね」とな」
「………………」
「当然だ。《雪片弐型》を持っているからこそそう思われるのは道理。お前個人として見られることは永遠にない」
そうはっきりと言われた一夏は、精神が落ちていった。