IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.50 不必要な機体

 北条カンパニーから出た僕は、ここに来た時に乗った車とは違うタイプの物に乗って移動している。

 

「智久様、気分はどうでしょう?」

「……少し、眠いかな?」

「そうですか。では私の膝を枕にして眠ってはどうでしょう……?」

 

 あの時の拒絶っぽい色はどうしたのやら、北条さんは僕にそう言って自分の膝を叩く。

 

「……うん。ごめん。ちょっとそれはまだ無理」

「恥ずかしがらなくても良いんですよ? 朝はあんなことをしたのに」

「だからそれは誤解なんだって!!」

 

 どうやら僕はあの試合の後、シャワーも浴びずに寝ていたらしい。どうやらそれは彼女も同じだったようで、さらに恐ろしいことに夏なのに2人ともエアコンをつけることをすっかり忘れていたのだ。

 そして僕らは、寝惚けていたということでとんでもないことをしていた。掛布団は床に落ちていて、北条さんは下着姿。僕に至っては全裸だ。目を覚ました時に何かいるなぁと思って隣をいた時は本気で固まった。

 

「いい? 僕は本気で何もしていない。お互いあんな状態だったから信じてもらえないだろうけど、僕は本当にエロいことはしていないから!」

 

 バスタオルを被せてシャワーを浴びたぐらいだろう。予備の着替えを準備していて本当に良かった。それをしていなければ、今頃僕は同じパンツを履いていただろうから。

 

「そこまで全力で否定しなくても……それに、私は別に良いんですよ? どうせ智久様がカンパニーに入社すれば私がマネージャーになりますので。当然、すべての世話は私がします。当然、その、性欲の処理も―――」

「心から学業に専念してください。お願いします」

「……ここまで拒絶されると、流石の私も傷つきますよ?」

 

 まだ嫌われた方がマシだ。

 確かに北条さんはとても可愛い。でも、やっぱり幸那の友人に手を出すのはかなり気が引ける。それに―――

 

「マネージャーって言ってもどうせIS学園に入れないし……」

「大丈夫です。IS学園には裏口入学で入りますから」

「せめて普通に受験して!」

 

 車の中だからいいけど、堂々と裏口入学を宣言するのは本気で止めてほしい。

 

「後、首輪もお願いだから止めてください。特殊なプレイと勘違いされます」

「……以前から思っていたのですが、智久様はかなり性遊戯の幅が広くありませんか? もしかして、幸那に変態的なことを仕込もうとか考えていたとか……」

「うん。それはない」

 

 ただ、中学の頃に男友達の話に付いていけなかったから本を借りて学んだだけだ。……まさかそれが18歳未満閲覧禁止の本だとは思わなかったけどね。

 車のスピードは徐々に遅くなり、車が完全に停止したことを確認して百合の花束を持って車から降りた。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 そう言って僕は車から離れて、かつての家の敷地内に入った。

 四十九日ができるかどうかわからないから、墓をすぐに作ってもらっていた。ちょうど、桜の木が近くにあったので僕はそこに墓を設置してもらい、中にみんなの骨を入れてもらった。

 桜の木には千羽鶴が大量に吊られていて、子どもたちの手紙なども同様にくくられている。僕は近くに百合を植えて、それを終わってから報告した。

 

「……たぶん、そろそろそっちに行ったと思うけど、ようやくみんなの仇を討つことができたよ。まぁ、僕が討ったわけじゃないけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまなかったね」

「……はい?」

 

 家を出る前、僕は政道さんに呼ばれた僕はテラスで少し豪華な食事を摂っていたところ、そんなことを言われた。

 

「……君自身の手で制裁を下せなかったこと、怒っているのではないのかい?」

「……ああ、そのことですか。ですが、どっちみち僕にはあの人たちを殺すことはできませんでしたよ。慣れていないというより、未来を考えていたんです」

「……未来?」

「……僕は、将来あの家を継ぐつもりでした。IS学園に入学したのも、その資金を貯めるため。どうせ国なんか頼りになりませんからね。ですが、本当に望み通りになった時、僕は胸を張ってみんなの親になれるかと考えてしまったんです」

「……なるほど、な。だけど、それは人として当たり前のことだと思う」

 

 僕は思わず持っていたナイフとフォークを落としそうになる。

 

「……ああ、勘違いしないでほしい。確かに私は既に100以上の人を殺してきている人間だが、だからと言って人の心までも殺した覚えはない。だが、時が経つほど人はいずれ過去を捨て、思い出に変換する。いつまでも過去にすがったところでしかし意味がない。それを教えてくれたのは、僕は子どもたちだ」

「……雫さん、ですか?」

「そしてあと2人、既に大学生の子どもが2人いるがね。ちなみに22歳と20歳だ」

 

 ……だとしたら、彼女を産んだのはいつだという話だ。

 

「妻が既に死んでいることは既に聞いているかね?」

「……初めて知りました」

「今から5年前、部下の1人に裏切られてあわやというところで庇ってくれてね。当初は悲しかったが、僕にはまだ自立していない子どもたちがいた。親としては子どもを守る義務と責任があるし、ここで後を追ったところで怒られるって思ってしまったんだ。ああ、君と違って死者の幻を聞くことも見ることもできないし、対話することもできないから、結局は想像でしかないけどね」

「……」

 

 そう。それは間違っていない。

 でも僕があの時感じたのは、どうしても想像や幻の類ではないのは確かだ。

 

「君のように、轟家に生まれた人間は霊と対話することもできるけど、でもそれは何かが変わる兆しとして見せることが多い。君の場合は、心のセーブを解放して闇鋼を作り出したことだろうけどね」

「……兆し、ですか」

 

 考えてみれば、ある意味僕の変化かもしれない。

 VTシステムだったルキアと出会ったこと、それによって僕は他者を受け入れるように、必要もない人間すら救ってしまった。守るつもりはなかった結果、僕は―――

 

「……力を持つと、余計な存在すら救うので本当にままならないですね」

「それについては否定するつもりはないが……」

 

 過去のことを思い出してそう言うと、何とも言えない顔で僕を見てくる。

 

「……でも詳しいですね」

「おそらく寝首を掻くために集めた情報が、何故か家にあってね」

「笑えませんね」

「安心してくれ。我々はそのつもりはない。それに、その必要もないしな」

 

 ……まぁ、滅んじゃったしね。さらに言えば、僕が必要と思ったものは回収しちゃったし、そして壊れたので後はすべて破壊するぐらいしか再生の方法はないと思った方が良いかもしれない。

 

「……じゃあ、娘さんを僕の傍に置く必要はないですよね?」

「それとこれとは話が別。ああ、それとのその話だが、君は学園に好きな女の子はいるのかな?」

「……いいえ。いませんよ」

 

 考えてみればそんな目で見たことはなかったな。というか、みんなを養うためって考えがあったからそんな興味がなかったっていうのが正しいかもしれない。

 

「せっかく国から多妻許可が出たんだ。遊んでみてはどうかな?」

「……え?」

 

 たさい? それって一体―――

 

「聞いていないのかい? 君は国に貢献したという理由から複数の女性と結婚する許可が出されている」

「……あの、ちょ、それってどういう―――」

「正式に国から認められた、ということになる……ということは―――」

「ないですよね?」

 

 言葉を無理やり奪うと、政道社長は笑った。

 

「……そうだ。だが、君の実力も上がってきている。それは確か―――」

「……僕は、誰とも結婚しない方がいいがいい、そうじゃないですか?」

「……何故、そう思う?」

「日本政府の狙いは、僕が子どもをたくさん残すことです。それも日本人限定で。もし僕が日本人女性10人と結婚し、それぞれ3人ずつ子供を産ませれば、単純に30人ものIS操縦者が現れます。もしかしたら数人は動かせないかもしれませんが、だとしても比率的には2/3は見込んでいる」

「……確かに、噂に違わぬ警戒っぷりだ―――が」

 

 ―――パンッ

 

 軽く僕の頭を叩かれた。

 

「全く。君は子どものくせに余計なことを考えすぎだ。そこまで気負ったところで何も変わらない」

「……ですけど」

「何、心配するな。あの人の意思を受け継ごうとしているのは君だけじゃないということだ」

 

 ため息を吐いた政道さんは、場所によっては絶対にモテるだろうと思えるほどのスマイルを見せて言った。

 

「期間は1週間。その間に遊ぶのも良いが、こちらに帰ってきてもらいたい」

「……僕がここに所属することは決定事項、ですか?」

「そうだな。まぁ、白式を手放す勇気があれば考えなくは―――」

 

 ―――ゴトッ

 

 僕は手首のガントレットをテーブルに置いた。

 

「では、お返しします」

「……えっと……」

「僕には闇鋼があれば十分です。それに万が一解析などして使えなくなったというオチを僕は望んでいませんし、というより、展開しているだけでエネルギーが減るクソ兵器なんて不要ですよ。まだ闇鋼の方がエネルギー効率は上ですから」

 

 それに、闇鋼の場合は武器を仕込んでいるからエネルギーの消費は抑えられるし、戦闘パターンは多彩だ。

 

「それに何より、織斑一夏のおさがりなんて嫌だ」

 

 そう答えた僕は席を立って、軽くお辞儀をしてその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 報告と共に墓を綺麗にした後、車はしばらくしてIS学園に着いた。

 車から降りた僕はお礼を言って校舎の方に歩いていく。まずは更識先輩に挨拶をして、いや、十蔵さんに挨拶する方が先か。

 なんて考えていると、織斑先生とバッタリ会った。

 

「ゲッ……」

「会ってすぐに嫌な顔をするな。私だって傷つくのだが……」

「いや、半殺しにした相手が生きていて、平然と歩いているというのは、した側としてはかなり複雑なんですけど……」

 

 というか、殺すつもりで刺したはずなのに何で生きてるんだろ……。それに―――

 

「ところで時雨、最近織斑の姿を見かけたか?」

「……はい?」

 

 予想外のことを聞かれた僕は思わず変な声を出してしまった。

 

「織斑だ。最近姿を見かけなくてな」

「……何かあったんですか?」

「少し意見の食い違いが起きてしまって、それ以来見ていない」

 

 ……物凄く嫌な予感がするんだけど。

 わざと、盛大にため息を吐く。もしこれで僕にとって不利益なことにしかならなかったら本気で潰してしまうかもしれない。

 

「あー、たぶん気が向かんだろうが、もし会ったらたまには顔を出すように言ってくれないか? 頼めるような間柄ではないのは承知しているが」

「……ま、それくらいなら別に良いですよ」

 

 関わること自体が悪かったらもうどうしようもないけど。

 それにしても珍しいことがあるもんだ。基本的に姉にべったりな織斑君と織斑先生の意見が食い違うとは。このまま何も起こらなければいいんだけど。

 

「では、僕はこれで―――」

「ああ、その前に―――白式はどうした?」

 

 め、目ざとい……。

 というかこの人は待機状態が変わったとかは考えないのだろうか。

 

「今の開発場所に置いてきました。理由はどうあれ、今の僕には不必要なものなので」

「……私と同じ武器を積んでいるからか」

「というより、燃費が悪いクソ機体に乗せられるほど僕の実力は高くありませんし、白い機体ってあまり好きじゃないんですよね」

 

 ただし主人公機は別である。

 

「……まぁいいがな。時雨なら問題は起こさないだろうし」

「もちろんですよ。どこかの誰かさんと違って鈍感クソ野郎ではありませんし、ラッキースケべを起こす奴らはただの馬鹿です」

「……」

 

 何か言いたげな顔をしている織斑先生。何? 文句なら受け付けな―――

 

「―――しぐしぐー!!」

 

 ……あれ? 本音さん?

 勢いよくこっちに走ってくる本音さん。少し涙目に見えるのはおそらく気のせいだろう。

 跳んできたのでなんとか受け止めると良い匂いがした。

 

「おかえり、しぐしぐ」

「ただいま、本音さん。……ところで、さっきから笑顔なのに殺気を放っているのは何で?」

「別に怒ってないよ? 勝手にどこか行ったことに、全く怒ってないからね?」

 

 ……どう聞いても怒ってるよね?

 さっきから凄く黒いオーラを放っているんですが、気のせいですかね?

 

「落ち着いてくれないかな? そ、そりゃあ少数にしか伝えていないけど、だからってそこまで怒らなくても……」

「何も怒ってないって言ってるでしょ?」

「あ、はい……」

 

 これ以上、何か言ったら姿変わって大剣で消し炭にされそうな気がした僕は言い訳を止めた。

 

「……クソはともかく、鈍感に関しては時雨は人の事を言えないと思うぞ」

「そ、それは無いですよ! 僕は鈍感じゃありません!」

「しぐしぐ」

 

 本音さんに冷たい視線を向けられた僕は、明日の朝10時に8月にできたばかりの「ウォーターワールド」という、どこかで聞いたことがありそうなプールに行くことを約束させられた。




ここから展開が180度変わります。

シリアスばかりだと、みなさん楽しめませんしね。そして私のモチベーションも下がりますしね。

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