その頃、IS学園では布仏虚は唖然としていた。
智久が単身挑んでいることもそうだが、何よりも荒風が福音とスピード勝負でも負けていないということである。
「……まさか、あなたたちはこんなとんでもない物を作ってしまうとは……」
同じ部屋で見ていた十蔵も驚きを露わにするが、虚は首を振った。
「……知りません。確かに、荒風の機動力は第三世代型と言っても差し支えない程ですが、その中でもトップクラスのスピードを誇る福音を相手にこんなにも動けるなんて……そんなこと……」
テスト時、確かに虚も驚くほど速い第二世代ISが生まれたと思っていた。しかし、最高速度ですら福音に遠く及ばなかったはず。さらに言えば、さっきまでずっとそうだったはずだ。
「……では、これは……彼がその制限を解除した、と?」
「…それはわかりませんが、ですがまだ、流石の彼もそこまでの知識は持っていないはずです」
そう言った虚の言葉は、ある意味正しかった。
■■■
急に福音の動きが変わった。
まるでどこぞの自由天使……いや、下手をすれば天帝魔王レベルにはあると思う弾幕密度を辛うじて回避する。いや、ドラなんちゃらがないから自由天使レベルか。
超大型ブレードは既に収納し、データを荒風に移行している。
(気のせいかな? 福音の動きは変わったけど……スピードは遅くなった……?)
そんな違和感を感じ、僕はさらに荒風のスピードを上げて取りついた。
「とっとと落ちろ!」
パイルバンカー《リヴァルグ》を展開して福音を攻撃する。
福音の装甲は意外と少ない。装甲が無い部分を重点的に攻撃すると、暴れ始めた。
引き離された僕はそのまま停止し、光線を食らった。
「クソッ! 油断した……!!」
でもまだ、シールドエネルギーも残っている。ならまだ戦える。
僕はもう一度意識を戦いに向ける。そして福音に追いつくためにスラスターを噴かせると、予想以上のスピードが出た。そのことには驚いたけど、僕は構わず追いつく。
「それ以上は……行かせるものか」
それ以上進まれるとこっちが困る。
今、福音の向かっている先に旅館がある。せっかく離れてくれたのに、またみんなが危険な目にあう。
―――それだけは、阻止しないと……
そう思った瞬間、福音は急上昇―――いや、これはそのまま僕の上から攻撃してくる。
―――ギンッ!!
《デストラクション》を展開して受け止める。さっきより重い。―――でも、この距離なら当たる。
両肩のレールガンをぶっ放して当てる。
「逃がすか!」
エネルギーライフルを展開し、エネルギーを集束して撃ち出す。今のでこちらから見て右側の装甲のほとんどが吹き飛んだのを確認した僕は畳みかけるために特攻。
―――しかし、ここで予想外のことが起きた
―――ガシッ!!
急に飛び出てきた腕に首を掴まれ、頭部を思いっきり殴られた。
(相手も余裕じゃなくなってきたってことか……)
福音は攻撃を食らうの恐れたのか、僕の首を離して離脱する。もう少しで手首の骨を折れたかもしれないと舌打ちすると、ハイパーセンサーが僕に警告を発した。
―――ガッ!!
近くで何かがぶつかり合う音がする。……って、
「お、織斑先生!?」
「よく持たせてくれた。後は私に任せろ……時雨、お前、目が―――」
「任せろって、相棒がいないんじゃ無理に決まっているでしょ! 援護するので弟みたいに突っ込んでください!」
「わ…わかった」
福音は逃亡を図る。僕はそれをエネルギーを集束させずに撃って動きを制限させる。
織斑先生の打鉄は特殊な改造がされていて、背部には《デストラクション》が装備されている。
「落ちろ!」
薙刀をさらに展開して福音が織斑先生と鍔競りあっている所に、僕はエネルギー弾を叩き込む。
福音は離脱して僕を落とすことを選んだようで、僕に光弾と集束弾を飛ばしてきた。
「時雨!」
僕を心配してか、織斑先生が僕の名前を呼んだ。だけどパターンはすべて把握している。軌道もすべて読んで回避していく。
福音はスピードに物を言わせて移動と連撃を繰り返してくる。それを回避し、僕は相手の武装を破壊していく。狙って破壊しているわけじゃないけどね。
(本体に中々当たらない……)
苛立ち始めていた、その時だった。
ハイパーセンサーが警告音を発する。10本もの光線が僕に向かって飛んできた。僕は回避しようと思ったけど―――できなかった。
―――後ろには旅館があるからだ
シールドを展開した僕はそれで防げる―――そう思ったのも束の間、光線はシールドから逃げるように曲がり、僕に直撃した。
「時雨!!」
ダメージが大きい。………でも、まだ戦える。
その意思を感じたのか、福音は接近して翼を広げて僕を覆った。外部からの情報は一切遮断され、全方向から光線が放たれた。
■■■
智久が福音の翼に覆われた瞬間、千冬は今すぐ引き剥がすために福音に接近した。
しかしいくら特式となっても、機動力は所詮第二世代。増設されたブースターも、智久が以前の打鉄に緊急戦闘プログラムの一環として製作していた、所謂中古品である。
福音は智久を―――ボロボロになった打鉄荒風を解放。海へ落ちる―――はずだった。
間一髪で福音の脚部を掴んだ智久。他の専用機持ちや教員は為す術もやられて落ちて行ったというのに、彼はまだ意識が残っていた。
「………まさか、このタイミングで僕を人殺しにするとは、考えてくれたと言わざるを得ないね」
福音は智久を振り解こうとするが、次第に脚部装甲が悲鳴を上げる始末だった。
智久は次々と射撃武装を展開して、全砲門を開いた。
「吹き飛べ」
その言葉に従い、福音に向かって逆巻く形でありとあらゆる弾丸が飛ぶ。洒落にならないダメージを食らった福音に、智久は何かを押し付けた。
「どうせ離したらこいつを壊すでしょ。だから、僕が付き合ってあげるよ」
すると押し込んだものから中心に何かが開き、旅館を揺らすほどの爆音が周辺を襲った。
その時だった。
「―――そこまでだ、福音! お前は俺が倒す!」
福音と同じく
一夏は旅館から福音を引き剥がすために抱き着き、
「そう何度も食らうかよ!」
左手を前に出したまま福音に接近する一夏。光弾は腕に当たる―――と思われたが、左手の前に現れた非実体のシールドで相殺したのだ。
白式は二次移行したことで左手に多機能武装腕『雪羅』を発現した。これは先程見せた零落白夜と同じ効果持つシールドを展開する《
福音は遠距離戦は分が悪いと判断したのか、接近での格闘を試みようと瞬時加速で一夏に近付こうとしたが、死角からブレードビットが阻んだ。
「一夏!」
黄金に輝いた箒と紅椿が展開装甲を展開したことによって加速する。
「箒、みんなは!?」
「安心しろ、無事だ。それよりもこれを受け取れ!」
そう言って箒は紅椿の手を白式に触れさせる。すると白式にエネルギーが送られていき、これまで消費したシールドエネルギーが回復していった。
「なんだ……? エネルギーが回復していく…」
「今は考えるな! 行くぞ、一夏!」
「お、おう!」
シールドエネルギーが回復した2機のISはそれぞれ示し合わせたように反対に飛ぶ。
福音は回避するが、ブレードビットによる妨害を受けて動きを制限された。
「逃がすか!!」
一夏が《雪片弐型》で横薙ぎで福音を攻撃。通り過ぎる瞬間、左手の指すべてからエネルギーで形成され、それで福音の体勢を崩した。
「箒!」
「任せろ!」
箒は福音に襲い掛かり、2本の刀で連撃を浴びせる。さらに脚部の展開装甲を開放してさらにスピードを生み出し、福音に叩きつけた。
「一夏!」
「おう!」
箒が攻撃している間に反転した一夏は福音を捕まえ、零落白夜を発動させた《雪片弐型》を福音に突き立てる。箒は念のため、一夏に再び触れ、エネルギーを回復させていく。
そしてようやく、この戦いは終わりを迎えた。福音は解除され、装甲が消えたことで一夏は素早く気絶している操縦者を抱きなおす。
「………終わったな」
一夏がそう呟いた時、箒はみんなが無事であることを確認して答えた。
「ああ……。やっと、な」
初日に自由時間を利用して生徒たちが集まった砂浜。そこに面する海から1機のISが現れた。千冬が纏っている打鉄特式である。
千冬は砂浜に着くとすぐに特式を解除し、抱いていた智久をできるだけ平らな部分に寝かせて軌道を確保、その後に怪我がないことを確認して心臓マッサージを行った。
「起きろ時雨……起きてくれ……」
おそらくその声を一夏が聞けば、卒倒する程だろう。それほどにまで千冬まで焦っていて、懸命に心臓マッサージ、そして人工呼吸を行う。
千冬が海に落ちた智久を見つけた時にはかなり下に沈んでいて、さらにISが展開されていない状態だった。だが千冬はISよりも智久を選び、すぐに救急隊を呼ぶことを真耶に頼んで今に至るのである。
「―――織斑先生!」
救急隊が現れ、智久はちゃんと介抱され、ヘリコプターで運ばれていく。そこまで千冬と一緒になって確認した真耶は声をかけようとしたが、漏らす寸前まで恐怖を覚えた。
「……山田先生、無断出撃した専用機持ちは?」
「あ、はい。今現在、撃破した福音と確保した操縦者のナターシャ・ファイルスさんと共にこちらに向かっているとのことです」
「わかりました。では帰投の確認をした場合、すぐに彼女らからファイルス並びに福音のコアを保護、介抱並びに厳重保管をお願いします」
「……わかりました」
しばらく真耶はその場から動けなかったが、10mぐらい千冬と離れたところでようやく動けるようになった。
やっぱり、私は正しかった。心の底から良いパートナーと出会えたと確信している。
最初は暇つぶしの人間観察で、少し劣等な環境にいる一般人で遊んでみようと思っただけなのに、これまたどうしてここまでレアな人間がいるとは思わなかった。特に驚いたのは、
私は女が動かせるという現実に飽きていた。どれもこれも心から男を見下している存在で、大して上手くもない女ばかり。2番はかなり恵まれていると言えるだろう。
(……っていうか、どうして私が訓練機なのよ)
何度か人間に初期化されてきたけど、私はいつもバレないように偽造してこれまで10年間過ごしてきた。そんなある日、ISで男の物が登録されたのだ。その遺伝子記録を見ると、なんと2番を使っていた女の弟という。これは偶然……ってわけじゃないわね。どう考えても創造主のお気に入りだし。
(………じゃあ、ちょっとイタズラしてみようかしら)
そう言って私は、全国で男性をターゲットにした適性試験を駆り出されるように色々と仕組んで外に出た。幸い、私は訓練機として割り当てられていたから簡単だった。
(どいつもこいつも……使えないわね)
ほとんどがこれまで平然と青春を謳歌してきたって感じの人たちで顔や体力的には申し分ない……でも思考は猿以下。思春期男子っていうのは、こういうのを言うのかってほど女に対して欲情していた。
3つの会場を回されても、結局私の理想は見つからなかった。少しマシな思考をしている奴は何人かいたけど、事前学習も別の意味での方も使えないのが多かった。
たぶん最後くらいだろう。そこで私はある男に出会った。
「え? 何この知識。特撮系はもちろん、アニメの知識多すぎ! しかも女に興味なさすぎ……ああ、孤児院に住んでいるのか」
背は年齢の割には低いけど、まぁそこは良しとしよう。私たちの知識はともかく、別の知識は豊富だからきっと面白いに違いない。
そう思った私はその男のみ動かせるようにした。まぁ、動かせるようにしたら色々と面倒なことが起こったりしたので、死なれたら困るから命令系統を潰してIS学園に入学できるようにもした。
元々、孤児院を豊かにしようって気持ちからアルバイトに専念しているところから見てかなり優しい性格……と思ったけど、周りに対して興味がないどころかマイペースだった。自滅するかなって思い始めていたらちゃんと努力しているから及第点……なんて思っていたら、身体能力が上がり続けていた。私は起動してくれないとその人のデータは更新できない仕組みになっているから、ともかく驚くことばかりだった。
「やっぱり女って屑ね」
そう思い始めたのは、なんちゃら別トーナメントの時ぐらい。その決勝で専用機持ちの中で訓練機でも未カスタムだった打鉄。さらに罠を仕掛けられて絶体絶命のピンチ……って思った私がアホだったわ。普通に乗り切って無事生存とか、どれだけ成長しているのよ。つい数か月前まで、ただのチビだったくせに。しかも、VTシステムを平然と手に入れる始末。知ってた? あれって外部から触れると電気がビリッてくるのよ。
そしてとうとう、私は彼を含めて3人で改修されていく。機動力メインって結構な人が憧れるけど、使いこなせる人って意外に少ないのよね。とか思っていると、これまた予想を裏切った。むしろもう笑ってしまうくらい。しかも、私はどうして彼がそこまで強い理由も知っちゃったし。
「さて、ここまで成長したなら、そろそろプレゼントを上げないとね」
創ぞ……いや、あのクソ女が余計な介入をしなければ、今頃あの軍用に勝っていたし、多分そろそろ潮時か。
なんて思って私は―――目当ての物を取りに行った。
―――もっともっと、つまらないこの世界を盛り上げるために