IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.34 荒れ模様

 榊原先生が馬鹿なことを言っていたので無理やり交代し、取り調べを終えた僕は必要な報告書を作成し終えた。……まぁ、人柄自体はいい先生だと思うけど、やはり男女間では認識の違いはあると思う。

 

『―――本部はまだ、私たちに作戦の継続を?』

『解除命令が出ていない以上、継続だ』

『ですが、これからどのような手を?』

 

 本部に持っていくと、中からそんな会話が漏れていた。中に入ろうとノックしようとすると、先にデュノアさんがノックした。

 

「失礼します」

『誰だ?』

「デュノアです」

『待機と言ったはずだ。入室は許可できない』

 

 まさかそんなことを言われるなんて思わなかったのか、オルコットさん、凰さんと顔を見合わせる。

 

「教官の言う通りにするべきだ」

「でも、先生だって一夏のことが心配なはずだよ。お姉さんなんだよ!」

「ずっと目覚めていませんのに……」

「手当の指示を出してから、一度も様子を見に行っていないなんて……」

「ふがいない弟に愛想が尽いたんでしょ」

 

 そう言うとラウラさん以外は僕を睨んでくる。構わずノックして自分の名前と目的を言った。

 

『入れ』

 

 引き戸を開けて素早く中に入る。

 

「これが密漁船に乗っていた人たちの聴取文です。現在、彼らにステルス装置を渡した人間のことについて更識先輩らに調べていただいていますが、名乗っていなかったんだそうですが、パソコンなどは正規品だったそうです」

「………そうか。だが急に行動するな。あの時は本当に焦ったぞ」

「ですが、あなた方に彼らの事情を理解し、同情できるとは思えません。現に彼らをああいう風にしたのは他でもない、あなたたち女ですよ」

 

 そう言うと織斑先生は苦い顔をした。弟が撃墜される原因を作ったとはいえ、彼女もそれに関しては胸を痛めているようだ。

 

「………ともかく、内容はわかった。時雨も招集があるまで待機していろ」

「わかりました。じゃあ、寝てきますよ」

 

 僕は皮肉を言って外に出ると、全員が僕を見てくる。

 

「期待するような目で僕を見ないでくれる? 別に何もないから」

 

 そう言って僕は部屋に戻ろうとすると、凰さんが言った。

 

「アンタは、何もこの状況に何も思わないの?」

「……そうだね。余計なことをしてくれたなって思うくらいかな」

 

 あの時、織斑君は作戦をふいにしただけに過ぎない。結果的にあの人たちは助かったのには変わりないけど、大を助けるなら小は犠牲にするほかない。そんなものはアニメを見る以前の常識である。船がいるから? だから助けた? そこに乗っている人たちが生存したのはあくまでも結果だ。優先度で言えばあの船なんて見捨てるべきだった。

 

 ―――ガッ!

 

 唐突に首が掴まれる。凰さんだった。相変わらず血の気が多いね。

 

「アンタ、それ本気で言ってんの?」

 

 ……本当に、女ってのは困った存在だ。はっきり言ってIS学園に入学したことを8割近く後悔している。

 

「本気だよ。余計なことをしてくれたおかげで福音は撃墜できずじまい。むしろ織斑君があんな目にあったのは自業自得だって言えるね」

「そんなことを言うなんて……」

「見損なったよ、時雨君」

「素人潰しやスパイ女が何を言ってるんだよ」

 

 その言葉に2人は怖気づいたが、凰さんはさらに強める。

 

「アンタねぇ……」

「事実じゃないか」

 

 僕は凰さんの手を掴んで無理やり離す。

 

「これから僕は寝るから邪魔しないでね」

 

 そう言ってから部屋に戻る。しばらく山田先生もいないし、ゆっくりと寝れるだろう……って思ったけど。

 

「ラウラさん、流石についてくるのはマズいんじゃないかな?」

「そうか? 悪いがあんな奴らと一緒にいるつもりはない。こっちまで昼行燈になってしまう気がしてな」

 

 まぁ、否定しないけどね。

 実際、彼女らのあの発言は正直イラッとした。織斑君の独断行動で福音は逃亡。もしこれで北条院が襲われ、全員が死亡したことになったら、僕は無能共を殺して回るだろう。

 

「………大丈夫?」

「!! ……うん。大丈夫」

 

 いつからそこにいたのか、更識さんは僕の隣に立っていた。

 

「でもごめん。シャワー浴びさせて。そして寝かせてほしい」

「………わかった」

 

 着替えを出して僕はシャワーを浴びる。終えると中にISスーツを着て浴衣の状態で布団に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ほとんどすぐに眠った智久。彼の寝顔に触れながら簪は温かい目で見ていた。

 すると引き戸が開かれ、中に誰か入ってくる。

 

「本音か。何をしている」

「ちょっとしぐしぐの様子が気になった―――」

 

 簪の様子を見て本音は固まった。

 

「……かん…ちゃん……」

「来たんだ」

「来たんだ、じゃないよ! 何してるの!?」

「本当は膝枕をしようと思った」

「何で!?」

 

 その様子を見ていたラウラは軍に直接つながる携帯端末を出して、今の状況をクラリッサに聞こうとしたが、今は作戦中だと気付いたのですぐにしまう。

 

(………これが「修羅場」という奴、か……)

 

 その様子を見守っていた時、また扉が開いた。

 

「ちょっといい……って、何でアンタがここにいるのよ」

「……それはこっちのセリフだよ。一体何の用?」

 

 本音と鈴音が睨み合う。だが先に鈴音が折れ、ラウラに言った。

 

「これからアタシたちは福音を倒しに行くから、力を貸して」

「……正気か?」

「もちろんよ。後はアンタと時雨がいたら、戦力的に問題ないわ」

「……話にならん」

 

 今、智久は爆睡している。寝がえりを打って形的には簪のある部分を注視している状態になっているが、それに何かを言う人間はいなかった。

 

「確かに戦力的に申し分はない。私には狙撃用のパッケージが届いて量子変換済みだが、だからと言って待機命令を無視する気か?」

「そんなの従ったところで、現状を打破できるわけないじゃない」

「だとしても、対抗手段がなければ犬死するだけだ」

「どうしても来てくれないっていうの?」

「当然だ。私も、そして智久も出撃する理由はない」

 

 智久の場合は寝ているということもあるが、もし仮に起きていても出撃する確率は限りなく低かった。彼には十分にその動機はあれど、それだけで積み上げてきた信頼とキャリアを潰したくはないと思っているからである。その考えは本州にいる家族を見捨てているともとれるが、智久の場合はいざとなれば日本が止めると思っているからである。それができなければ、彼は一夏を殺すつもりでいた。

 

「………わかったわ」

 

 これ以上の説得は望めない。そう判断した鈴音は潔く諦めて部屋を出る。ラウラはすぐに開放通信で作戦本部に繋いだ。

 

『ボーデヴィッヒか。どうした?』

「先程、凰が私と時雨に無断出撃の勧誘に来ました。今すぐ捕縛を―――」

『織斑先生! 近くでISの反応が! これは専用機持ちのです!』

『ちっ。ボーデヴィッヒ、済まないが奴らを止めてくれ!』

「わかりました」

 

 通信を切ってラウラは部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐かしいと思った。

 初めて会ったのは1週間ぐらい前なのに、この暗い世界は少し居心地がいいと思う。

 

「………でも、やっぱりいないか」

 

 ここで僕は2つの意思にあった。1つは僕ともう1つの意思を救うために犠牲になったけど。そしてそのもう1つの意思とは、あれ以来会話していない。シャワー中とかに何度かコンタクトを試みようとしたけど、応答がなかった。

 

「……まさか、消えちゃったとか?」

「……大丈夫」

「おわっ!?」

 

 近くにいるとは思わなかった僕はすぐにそこから飛び退いた。

 

「……い、いたんだ……」

「おかげさまで」

「良かった。ずっと君を呼んでいたけど、会えないから消えちゃったのかと思った」

 

 そう言って智久は現れた女の子に触れる。

 

「……トモヒサは、温かい」

「ありがとう。……ところで、この世界に来たってことは何か起こるの?」

「……違う。ただ、私があなたと会話をしたかっただけ。ずっと新しいところに慣れるのに忙しかったから」

 

 ああ。だからずっと出て来なかったんだ。

 

「……でも、私が邪魔になったらいつでも消してくれていい」

「たぶんそれは10年はないかな」

 

 機体の改修はほとんど最初にもらったカートリッジで十分だし、1本ずつ2人に渡そうとしたら断られたから容量が空きすぎている。

 

「でも、10年経ったら追い出されるんだ」

「価格相場で言えば、10年後はカートリッジが倍になっているだろうからそれはないよ。だから1本を君にあげる。君が住みやすい場所に作り替えればいい。あ、そうだ」

 

 ずっと、この子にあげたいものがあった。

 

「そう言えば君って名前はあるの? 前のどさくさで聞くの忘れていたけど」

「……ない」

「良かった。考えたかいがあった」

 

 僕は彼女の頭に手を乗せてこう言った。

 

「……何を考えたの?」

「君の名前。ヴァルキリーって、確か戦死者を天上の宮殿ヴァルハラへ導く半神を英語で読んだものでしょ? 確か北欧神話の原語だと、読みは「ヴァルキリア」。だから君は今日から、「ルキア」って呼ぼうって思って」

「……名前?」

「そ。まぁ、どう呼べばいいのかわからなかったし、今まではシステムだったんだから名前はないのかなって思って。それにラテン語で「光」って意味も含まれているから、それはそれであり―――」

 

 すると女の子は僕を見て笑っていた。

 

「………どうしたの?」

「…ちょっと、可愛く見えた」

「傷つくからそれは止めて」

 

 内心悲しんでいると、その女の子も……ルキアも泣きそうになってしまう。

 

「ごめんなさい。でも、本当に可愛いし……見た目が」

「そ、それは少し複雑だよ……」

 

 たまに可愛いとか言われるんだよね。でも僕だって男なんだから、可愛いと言われるのは凄く困る。

 

「……ルキア……私の名前は……ルキア……」

 

 でも、喜んでくれて何よりだ。僕は彼女の頭を撫でていると、何かに気付いたようにハッとした。

 

「………大変」

「ん? どうしたの……?」

「今すぐ戻って。あなたのいる場所が―――燃やされちゃう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういい。撤退しろ」

 

 千冬はそう言うと、何人かは異議を唱えたが千冬が沈黙を貫いたので渋々撤退を選んだ。

 結局、無断出撃した専用機を誰一人として捉えることは叶わなかった。それもそのはず。箒が紅椿を展開し、全員を牽引して離脱したからである。

 結局、旅館から20㎞離れたところまでは追ったが、それ以上は福音との戦闘に巻き込まれると思った千冬は追撃部隊に帰還を命じたのだ。

 

 

 

 

 そしてしばらくした、シャルロットの先制攻撃で戦闘は幕を開けた。

 ラウラがいれば彼女の砲撃から死角からの強襲をかけることができたが、その彼女は智久と共にいるため現在は離脱している。追撃部隊の1人として参加していたが、彼女の機体は元々高機動型ではないため、機動力は紅椿は言わずもがな、ブルー・ティアーズ、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡには劣る。もっとも、カスタムⅡでなければ追いつけるのは言うまでもない。さらに、離脱時には紅椿の力もあって差が開いてしまった。

 

 福音との戦闘は、本来の機体数がないため難しいものとなっていた。しかし、鈴音たちは予めラウラと智久が参戦しないことを前提とした作戦を練っていて、そちらを採用したのである。

 福音は攻撃力よりも機動力が厄介と見られていて、まずは弾幕による牽制で機動力の制限を行った。その役目がシャルロット、そしてセシリアである。シャルロットが弱った風に見せかけ、接近戦を仕掛けてきたところでセシリアが乱入。ブルー・ティアーズは高機動パッケージ「ストライク・ガンナー」を装備しているため、レーザー並びにミサイルビットはスラスターとして機能している。その分の火力は新たに追加された全長2m以上ある大型レーザーライフル《スターダスト・シューター》によって補われている。さらにもう一つ、セシリアにはあることが解禁された。

 

「逃がしませんわ!」

 

 シャルロットから離脱しようとする福音と平行移動しながら《スターダスト・シューター》の引き金を引く。放たれたレーザーは福音に直撃した。

 セシリアにはビットを使用する際に彼女自身は自由に動けないという欠点があった。元々、適性値が国内で高いこともあり、代表候補生で専用機持ちに選ばれたのだ。IS学園に入学する前まではほとんど忙しい日々を送っていて、同時移動を両立させることができなかった。だが、ビットじゃなければ話は別だ。それでもやはり命中鮮度は落ちるが、牽制になり動きを封じる。

 福音はこの場からの離脱を放つが、それをブレードビットが遮った。

 

「当たれぇッ!!」

 

 動きを鈍くされた福音に火の玉が連続で直撃。機能増幅パッケージ「崩山」によって透明化を失わせた代わりに威力が上がった炎の砲弾となった衝撃砲だ。

 炎が雨のように降り注ぎ、福音に攻撃する。その隙間を縫うように1つの赤い光が間を縫って福音へと接近した。

 

「はぁあああッ!!」

 

 2本の刃が福音の胴体に直撃。福音が体勢を崩している間に箒は離脱し、3方向からの一斉射撃が襲い掛かる。

 それでも福音は抗うようにその場から離脱する―――が、箒が進路を阻び、2基のブレードビットが遅れて現れて福音の背部スラスターを2基、刻む。

 

「止めだッ!!」

 

 箒は連続で刻んでいく。そして最後に身体を回転させて踵落としを食らわせ、海に叩きつけた。回転しきった紅椿の脚部装甲には展開装甲の赤い光が漏れている。

 

「………やった……私たちの勝ち―――」

 

 ―――ドォンッ!!

 

 箒が言い終わる前に海が爆ぜ、球体が浮いてくる。その中央部にいる何かが、光の翼を生成した。

 

「……アレはまさか……二次移行(セカンド・シフト)!?」

「そんな……このタイミングで?!」

 

 シャルロットの言葉にセシリアは驚愕する。

 4人で倒し、自分たちの勝利と喜んだのも束の間。新たな姿を顕現した福音が海上に姿を現した。




気のせいか、世界が回って見える気がしなくもない。

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