IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.24 学年別トーナメント、終局

 突然の爆発に動揺したのは智久だけではなかった。先程の攻撃でシールドエネルギーが大幅に減らされたシャルル・デュノアもまた、その事変に驚きを露わにしていた。

 

(でも、今がチャンス!)

 

 準決勝で智久とラウラが勝ち上がった時、2人は驚きながらも感謝していた。ラウラを倒した相手が決勝に進んだとしては、苦戦は必須。何かの間違いで自分たちが負けるかもしれないと思っていたからだ。

 だが相手は、代表候補生とはいえ同じ訓練機に深手を負った相手と、訓練機に後れを取った専用機。部品の替えが利くため智久が復帰し、決勝戦に出場できることは予想していた。

 

(落ちろ!!)

 

 シャルルはアサルトカノン《ガルム》を展開し、智久に銃口を向けて引き金を引く。それを智久は大型シールドで防ぐ。

 

「なら!」

 

 射撃を一時中断。そして彼女は接近して仕留めることを選択したのだ。

 そのまま接近し、突然射撃が飛んでくることを警戒してランダムに動く。智久は動かずにいて、シャルルは智久が持つシールドを踏み台にし―――たつもりだった。

 タイミングを見ていたのか、それとも勘か、智久はシャルルがシールドを利用しようとした瞬間に引いて足場を失わせて動揺させた。目論見通りシャルルは慌てるもそれは一瞬ですぐにPICを利用して停止しして連装ショットガン《レイン・オブ・サタデイ》展開して引き金を引いた。

 

 ―――ドンッ!!

 

 智久はとても冷静だった。

 躊躇いなくスピアを展開してシャルルの腹部に突き刺す。多少のダメージは浮遊するシールドで防いでやり過ごしたのだ。

 そのままボールを投げる要領で一夏とラウラの方へと放った。

 

「高がメインブースターがやられただけだ。戦えないわけじゃない」

 

 大型の長方形を展開した智久。背部におまけを思わせるような小さな引き金を引いて発射させる。 シャルルはすぐさま防御を、そしてラウラはその場から瞬時加速して回避したが一夏は間に合わずにまともに食らう。

 

「ぐわあああああああッッ!?」

 

 一夏が苦痛で叫ぶ。しかし智久は同じような物を展開してもう一度同じように行動する。

 

『シャルルはラウラを!』

『わかった!』

 

 個人間秘匿通信でそうやり取りをした2人は各々の相手に移動する。

 

「そんな武器を使うのはもう止めろ!!」

 

 一夏はそう叫びながら瞬時加速を行う。

 だが彼は知らなかった。そう行動すること自体、智久の狙いであったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はこの日のために、織斑一夏を攻略し、僕が上だということを証明するために学年別トーナメントで彼らの試合の時間の時はいつも立ち見で情報を集めていた。英中コンビがいなくなったことで唯一の専用機持ちタッグとなったが故に、2人が上がってくること自体は読めていたからだ。

 情報収集の過程で、僕は瞬時加速が始まる瞬間に激しく風が舞うことを知った。そして彼が攻撃方法は上段からの振り下ろし。

 

 ―――ガキンッ!!

 

 僕は電磁フィールドを展開して敢えてシールドで《雪片弐型》を受け止める。結局はエネルギーバリアとも呼べるそれは《雪片弐型》のエネルギー消失効果を発生させるが、その代償として彼はシールドエネルギーを消耗する。つまり、これは保険なんだ。

 

「―――この瞬間を、待ってたんだ!!」

 

 僕は開いている左手で織斑君の腕を掴み、パイルバンカー《リヴァルグ》を展開して腹部に先端をぶつける。全部で6発撃てるそれに、僕はおまけを足した。エネルギーサーベルの刀身を出すと言うおまけを。

 全弾撃ち尽くしたけど、装填している時間はない。僕は男が最も嫌う方法で潰すことを選択した。

 

「死ね!!」

 

 打鉄の右脚部装甲が織斑君のある部分に向かって伸びる。そして当たる瞬間、僕は《リヴァルグ》の先端部分の予備の杭を展開してぶつけた。それ1つが2つあるうちの1つにクリーンヒットし、ハイパーセンサーに新たな知らせるが送られる。

 

【白式、シールドエネルギー残量0を確認】

 

 元々白式の装甲自体が少なく、エネルギー消費が激しい機体だ。その弱点が顕著に現れた結果だろう。

 

「何で……エネルギーが……」

「君が馬鹿だからだよ」

 

 そう言って僕はすぐに反転した。

 

「行っても無駄だぜ。それにその機体は機動力が―――」

「それは馬鹿の理論だね。何の意味もない」

 

 僕にはまだ秘策がある。だからこそ僕は慌てなかった。

 大型ビーム砲を展開して背部に向け、自動反動相殺機能をカットし、撃った。

 改めて見ると、ボーデヴィッヒさんはデュノア君に追い詰められている。たぶん僕のクレイモアでダメージを負ったからだろう。装甲の一部が吹き飛んでいた。

 

「それがどうした! 気を逸らして間合いに入ったところで第二世代型の攻撃力では、この機体を墜とすことなど―――」

 

 そう叫んでいたボーデヴィッヒさんは何かに気付いた顔をする。

 

「この距離なら、外さない!」

 

 ボーデヴィッヒさんが攻撃を食らって吹き飛んだ。デュノア君はそれを瞬時加速して追いかける。

 

(原理はわかる。後は実践のみだ……持ってくれ、ブースター!!)

 

 僕はビーム砲の1発目が切れた瞬間、今まで先輩と一緒に練習してきた瞬時加速を行う。視界が一時的にスローになり、僕が行きたい場所にいた。同時にブースターが完全に使い物にならないことを知らせてきた。

 

 ―――お膳立てはしてあげたわ。決めなさい

 

 どこからかそんな声が聞こえてきた。僕は頷いて僕がいたことに驚くデュノア君に《リヴァルグ》を叩き込んだ。

 

「そんな、一夏は―――」

「他人なんか気にしてぇえええ!!」

 

 左手に大型エネルギーソード《ディストラクション》を展開した僕は下段から上へと振り上げる。上へと飛んだ彼を追うために僕はもう一度ビーム砲を下に向けて発射―――その間にもう1本《ディストラクション》を展開して連結し、回転させてながら追撃を食らわせる。

 

「この―――」

「加速して突撃しないからいなされる!」

 

 伸びる《灰色の鱗殻》を足で蹴り飛ばし、連結を解除して2本でデュノア君を叩きつける。そして僕は彼をロックしてミサイルポッドと大型ビーム砲、エネルギーライフルを2丁展開して一斉射撃を行った。反動で少し上がったけど、そのまま自由落下して《リヴァルグ》を叩き込もうとしたところでハイパーセンサーからの情報と共にまた声が聞こえた。

 

 ―――タスケテ

 

 デュノア君をクッションにして着地すると、ボーデヴィッヒさんの機体に異変が起こった。

 

 ―――タスけて

 

 ボーデヴィッヒさんがいる方から声がする。

 今も機体の装甲が溶けていくボーデヴィッヒさんの機体を眺めていた時、今度ははっきりと聞こえた。

 

 ―――もう誰も、私で殺したくない!

 

 ブーストハンマーを即座に展開した僕は、ブースターによる加速を使用して接近。電気が帯びているけど僕は構わずハンマーを捨てて機体に抱き着いた。

 

「君の声は聞こえている! だから僕を、僕だけを受け入れて!」

 

 声の主は誰だかわからない。けれどその声は、かつて殺されかけた僕を思い出させた。

 ボーデヴィッヒさんの身体を掴むと、ボーデヴィッヒさんを呑み込もうとした何かが離れていく。それを見た僕はすぐに無理やりボーデヴィッヒさんを剥がした。

 

「智久!」

 

 エネルギーが少し回復したのか、織斑君が僕の名を呼んだ。

 

「打鉄、強制解除」

 

 そう言うと打鉄の装甲が開いていく。僕は自分からそのナニカに沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 主を失った打鉄は電撃に吹き飛ばされ、力なく落下する。

 だがそのことを誰も気にしない。いや、気にする余裕もないのだ。

 智久を呑み込んだ泥は人の形を構成しており、右手にはある武装を持っていた。

 

「ゆ…《雪片》……」

 

 一夏が呟く。彼はそれが何かを知り、怒りがこみあげてくるのを感じた。

 だがそれを察知したのか、人型を構成した泥は一夏を攻撃する。

 

「ぐっ!?」

 

 下段から放たれた一撃で吹き飛ばされた一夏。回復したエネルギーもそれで切れたが、敵は上段に構えて容赦なく一夏に向けて振り下ろした。

 

 ―――ガッ!!

 

 赤紫色の機体が斬撃を阻み、アサルトライフルを展開して敵に向かって撃った。

 

「あ、あなたは……」

「今すぐ離れなさい、織斑君」

 

 虚はそう言い、敵に向かって何度か撃った。だがその弾丸を敵は容易く弾く。

 

「ドイツも厄介なシステムを組み込んでくれたものですね」

 

 そう呟いた虚は近接ブレードを展開すると、下から声が聞こえた。

 

「それがどうしたああああ!!!」

 

 一夏は絶叫し、謎の敵に接近する。虚は慌て一夏を掴んで迫ってくる敵を回避する。

 

「離してください! アイツは俺が―――」

「暴れないでください!」

 

 虚はそう叫んで一夏を止めようとするが、それでもなお一夏はもがく。一夏を落ち着かせながら敵の攻撃を回避しようと思った虚だが、攻撃が飛んでこない違和感に気付く。

 怪しみながらも、一度着地する虚。そしてすぐに突っ込もうとする一夏を抑え込んだ。

 

「な、何するんですか!?」

「あなたこそ、いい加減にしなさい。今がどういう状況かわからないのですか?」

「ですが―――!?」

 

 一夏は反論しようとしたが、それは無理やり止められた。

 

「これ以上、余計なことを言うのならば是が非でも黙っていただくことになりますが?」

「……でも、あれは千冬姉のデータなんです! それを放っておけって言うんですか!?」

「ええ」

 

 さも当然と言わんばかりに答える虚。彼女の目には呆れが含まれており、今すぐ叱責したいと思い始めていた。

 

「あなたがどのような理由でアレに敵対しようかなんてどうでも良いです。今あなたがするべきことはあの敵を倒すことじゃない。今すぐこの場を離れて安全の確保をすることなんです」

「ですが―――」

「いい加減にしてください!」

 

 急に怒鳴られたことで一夏は萎縮した。

 

「………もう良いです。わかりました。本音、ボーデヴィッヒさんの容体は?」

「気絶しているみたいだよ~」

「じゃあ、そのまま運んでちょうだい。私は少しこの馬鹿を動けなくするから」

 

 そう言って虚は鎖を出して一夏を拘束した。

 

「お嬢様、その相手をお願いします」

「わかったわ」

 

 ピットから楯無が現れ、先行していた虚と本音は下がることを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……えーと)

 

 不思議なこともあるんだね。そう思った僕は周りを見回す。

 さっきから辺りを見回しているけど、これと言った異常が見つからない。

 

(さっきの声も聞こえないし、もしかして見当違い、なのかな?)

 

 どこからともなく声を聞こえる、そう言ったのは実はこれまで何度かあった。

 子どもを捨てる人間は何を考えているのかわからない。溝に捨てる人もいれば、死ぬことを期待してか敢えて見えないところに隠す人もいる。缶と瓶を入れる場所に捨てる人も残念ながらいた。施設にいる赤ちゃんのほとんどは僕が見つけてきたのが多く、今回もそれに似た現象と信じて疑わなかったけど……

 

(流石に、これはないよね?)

 

 少なくとも、僕が今いる場所は普通じゃないことは間違いない。

 辺りを軽く散策しても、というか散策した感覚すらないとなれば僕はさしずめ夢を見ているアリスみたいな状態なのかもしれない。

 そんなことを考えていると、さっきまで真っ暗だった僕が見ていた景色が変わった。

 

「……ここは?」

 

 すべてが黒かそれに近い色で構成されているような世界だった。

 まるで主人公たちが空を飛ぶ前に訪れた世界のように暗いけれど、さっきよりも明るい世界。僕はどうしようかと考えていると、急に気配が感じ取れたので振り向いた。……倒れている女の子がいたけど、もしかしてさっきの声はこの子なのかな?

 僕はとりあえず彼女を抱きかかえるために触れると、変なイメージが頭に流れてきた。

 

 

 

 

 どこかなんてわからないその場所。そこではISスーツを着た小学生くらいの子どもがISを装着していた。

 

『では、実験を開始します』

 

 そう言って白衣を着た人がスイッチを入れる。すると機体が変貌し、装甲がさっきのシュヴァルツェア・レーゲンのように泥へと変わって再構成された。この姿は……現役時代の織斑先生?

 確か、第二世代型の世界シェア2位の打鉄は、元々は織斑先生が使用していた「暮桜」という機体をベースにしているって話を布仏さんから聞いたことがある。だから1年生は大抵、初心者向けの打鉄を最初に選ぶ様だ。……僕はそんなことはどうでも良かったんだけどね。

 そんなことを思っていると、テストが行われた。すべてが本来ならその操縦者ではありえない成績を叩き出したようで科学者たちは喜びながら機能を停止させた。だけどその操縦者は物言わぬ体になっていた。

 

(……なに、これ……)

 

 似たような映像が繰り返される。やがて、僕の中で何かが冷たくなっていくのを感じた。

 

 

 そんなことが何度か繰り返されたある日、研究中に施設の天井が崩れ始めた。原因と思われるそれは転がり、生きている端末にケーブルを差し込む。今度は僕の身体が何かに蝕められている感触がした。

 

 

 ―――イキタイ

 

 機械仕掛けの声が聞こえた。夢から覚めたような感覚を味わってよく見るとさっきまでいた灰色の世界で、女の子がいた場所にうずくまっていたようだ。

 

「―――これが、私の記憶」

 

 声がした方に顔を向けると、さっきまで倒れていたはずの女の子が立って僕を見ている。

 

「何で、ここに来たの?」

「………君が、助けてほしいって言ったから。それに君はボーデヴィッヒさんを助けてくれたでしょ? だったら、無視しちゃいけないって思って」

「……私を求めた人は、あなたの何?」

「……放っておけない人、かな」

 

 僕はボーデヴィッヒさんを見てふと思ったことがある。彼女は目的を見失ったらどうなるんだろうかって。

 元の役職に戻るんだろうって考えたけど、しばらくは浮足立つんじゃないかなとも考えた。ただ、それだけだ。

 

「それに彼女は、凄く辛そうな顔をしてた。僕も一度、とても辛い目に遭ったことがあるから放っておけないんだ」

 

 そう答えると、後ろから嫌な予感がした僕は目の前の少女の方に走り、掴んですぐに横に飛ぶ。さっきまでいた場所に亀裂が入った。

 

「―――人間を信じるのか?」

 

 少女を抱えた状態で立ち上がり、すぐに僕が盾に慣れるように移動する。男が刀を持って近付いてきた。

 

「……でも、この人は私の呼びかけに答えてくれた」

「確かに初めてのことだ。だが、それがなんだ。所詮こいつも人間だ」

 

 声がどこかの堕天使みたいだな。おそらくライバルは仮面を付けたロリコンだろう。

 

「……なら、試して欲しい」

 

 急に後ろで光だしたのでどういうことだと思った。少女は剣になり、空中を漂っている。

 

「…私を掴んで」

「………ちょっと待って。これはつまり、君を掴んだから男の人と即バトルって展開だよね?」

「……そう」

 

 いや、そこは「そう」って断言しちゃいけない! それに、僕は少し2人に言いたいことがある。

 

「ちょっといいかな?」

「何だ?」

「……何?」

「話を勝手に進められて、正直困ってる。だからまずはノートとシャーペンを用意してほしいんだ!」

 

 心から本気で言ったけど、何故か2人はしばらく固まった。




映像見せられて、急にバトル……なんてことにならないのが智久。男の声は読者の皆様の想像にお任せします。

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