IS-Lost Boy-   作:reizen

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しかしそれを彼は気付いていない。


ep.21 もはやその防壁は形骸している

「ただいまー!」

 

 元気よく挨拶すると、いつも通りベッドにベターとしていると思ったら、なんてことでしょう。僕は何かにぶつかって転がってしまった。

 

「いつつつ……一体何が……何があったの?」

「あ、おかえりー」

 

 覇気のない声。本当に珍しく虚空を見つめている布仏さんに僕は近寄った。

 

「しぐしぐは、らうらうの事が好きなの?」

「……はい?」

 

 唐突にそんな質問をされた僕は、思わず固まってしまった。えっと、どうして君はそんなことを聞いてきたのだろう?

 

「好きかどうかと聞かれれば好きかな。というよりも、放っておけない?」

「………そう」

 

 どうしよう。凄く変だ。

 ちなみに、僕はボーデヴィッヒさんを変な目で見ている気はない。……いや、ホントだよ?

 

「やっぱり、私よりらうらうの方が良いんだ」

「いや、そう言う問題じゃ……」

「良いんだ……」

 

 ………ダメだ。全然話を聞いていない。

 

「あのね、布仏さん。ボーデヴィッヒさんには絶対的な保障があるんだ」

「ほしょう?」

「うん。彼女の場合、織斑一夏を抹殺するという絶対的な行動要因があるから、僕に対してどうこうする気はないんだよ。それに、何かに向かって頑張る人って応援したくなるんだよ。それに、ボーデヴィッヒさんってツンツンしているだけで本当は構ってちゃんかもしれないし、放っておけない―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――って、言ったら何故か布仏さんに枕を放られたんだけど、何か理由はわかる?」

「私に振るな」

 

 翌日、僕はボーデヴィッヒさんと一緒に第二アリーナに来ていた。

 

「でだ、私をここに呼んだということは、実りあるものを見せてくれるんだろうな?」

「うん。たぶんBブロック内で勝ち上がってくる人が戦うからね」

 

 選手が入場してくる。片方はラファール・リヴァイヴのコンビ。そしてもう片方は打鉄のコンビだ。

 

「あれ? 布仏さんの打鉄が黄色い?」

 

 他の人のはペアの更識さんと同様通常色だ。

 

「おそらく、専用USB内の設定を変えたのだろうな」

「専用USB?」

「そうだ。専用機を持たない生徒に配布されるもので、中にはパーソナルデータが入っている」

 

 ………僕は携帯するようにと学園長から渡されたことを思い出した。

 

「その設定を弄ったから、布仏さんの打鉄カラーが黄色になっているの?」

「ああ。だがそれは2年での学習カリキュラムに含まれている。あの女、相当の技術者かもしれないな」

 

 ………そういえば、布仏さんって「手伝うよ~」とか言ってたまに来るよね。データを取りたいから武器もいくつか渡しているけど、本当は凄い人だったんだ……。相変わらず朝は苦手みたいだけど。

 試合前の掛け合いが聞こえてくる。ボーデヴィッヒさんは更識さんが一方的に罵られているのを見て何も返さないことに何かを思ったのだろうか、鼻を鳴らす。更識さんに対して言われたのは主に生徒会長のことだけど、実は本人はあまり触れてほしくないみたいなんだけどね。

 試合開始になった瞬間、ラファール・リヴァイヴが吹き飛んだ。

 

「何?」

 

 こればかりはボーデヴィッヒさんも驚いたようだ。それもそのはず、更識さんと布仏さんは同時に瞬時加速してタックル、薙刀と巨大刀を展開して吹き飛ばしたのだ。

 

「本音」

「あとはおーまかせってね!」

 

 2人はそれぞれの相手を潰しに移動する。センスがあるからか、それとも暗部だからか、どちらにしても2人の実力は高い。後、布仏さんは跳弾じゃないと当たらないとか絶対に嘘だと思った。

 

「な、何でよ! 姉の威光のおかげで専用機を渡されたくせに!!」

 

 相手がそう叫ぶ間に更識さんは容赦なく首を刈る。薙刀の扱いが上手いのは、これまでの訓練の賜物か。素人目から見てもそのレベルは高い。

 

「ん? 奴は専用機持ちなのか?」

 

 ボーデヴィッヒさんはどうやら知らないらしい。

 

「そのことに関しては後で話すね」

 

 もうかなりの人が知っていることだろうけど、だからと言って容易に言いふらすことじゃない。後でゆっくりと説明することを心に決めた僕はデータを取り続けた。

 結局、試合は一方的な展開になった。更識さんは言わずもがな、布仏さんも危なげなく勝利した。

 

「相手が弱すぎる。これだけのデータでは判別つかないな」

「……もう少し後の方が良かったかもね。ごめん」

「気にするな。貴様がここまで警戒すると言うことは、決勝か準決勝で当たるのだろう?」

「その可能性が一番高い組だね。たぶんさっきのですべての手札は見せてこない……いや、考えてみたら僕と同じですべての手札を見せる気はないかも」

 

 その言葉に疑問を浮かべるボーデヴィッヒさん。そのしぐさで君は何人の男を落としてきたんだい?

 

「何故そう言い切れる?」

「この大会はありがたいことに、優勝候補がそれぞれのブロックに分かれているんだ。Cブロックの場合は僕とボーデヴィッヒさんだね。僕はともかくボーデヴィッヒさんは強いから、警戒されてしかるべき。だから最初の試合みたいにより有利に試合を進めようと比較的簡単に倒せる僕を狙ってきたわけだ」

 

 試合がなかった布仏さんに撮ってもらった試合データを開いて見せる。

 

「2対1ならば私に勝てると思っているのか、馬鹿者共が」

「僕は最初は布仏さんと組む予定だったから、それなりの武装は積んでいるんだけど……」

「ほう。できれば聞いて……いや、止めておくか」

 

 周りが聞こうとしていたのを察したのか、ボーデヴィッヒさんは話を中断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけなんだけど、ボーデヴィッヒさんに話していいかな?」

 

 昼食の休憩は残念ながらないけど、僕らは時間を見て食事をしていた。

 テーブルには僕とボーデヴィッヒさん、そして布仏さんと更識さんのペアがいる。

 

「……わかった」

 

 僕が説明しようと思ったけど、更識さんが説明してくれる。すると、ボーデヴィッヒさんは冷静に考えて答えを出した。

 

「……なるほどな。それならば織斑を憎んでもおかしくはない。……本人は気付いていないだろうがな」

「普通なら一言あるべきだよね、やっぱり」

 

 傍から聞いていれば、織斑君だけが悪いとは流石に断言はできないけど、それでも自分の機体の事情を聞いたら謝りに行くのは当然だろう。本人にその気はないとはいえ、彼女の機体開発を凍結させた原因ではあるのだから。

 

「もっとも、一番の問題は会社だろうがな」

「? どうして?」

「考えてもみろ。元々開発して渡す契約だったのに突然織斑の機体に携わると言って契約を切ったんだ。それでコアを渡すのは正直どうかと思うが、そうするくらいなら他会社に権利を渡したりするのが普通だろう。それで何の後処理もしないのは少々問題だと思う」

 

 僕と布仏さんは同時に柏手を打った。

 

「まぁ、今ここでそんなことを言っても仕方がない」

「そうだね。でも、試合の時に挑発でも使わないでね」

「流石の私でもそんなことはしない。だが、勝ちは譲るつもりはないぞ」

 

 良かった。いつものボーデヴィッヒさんだ。

 少し安心していると、嫌な奴の気配がした。

 

「でも大丈夫? Cブロックはかなり強豪が揃ってるけど~?」

「大丈夫。だって相手はアニメを見ていないんだから僕が開発している武装は攻略されない。それにボーデヴィッヒさんがいるから問題ないしね」

 

 仮に僕が敗北しても、ボーデヴィッヒさんだったら余裕で相手を倒すだろうし。

 

「―――随分と舐められているんだな、私たちは」

 

 やっぱりこいつだったか。

 僕は声を聞いた瞬間、布仏さんを掴む。隣に座らせておいて良かったよ。

 

「一体何か用かな? 第1学年のがん細胞さん?」

「………何が言いたい?」

「目障りだから消えろってことだよ」

 

 そう言えば、Cブロックにもこいつがいたんだっけ? 可哀想に。さっきから後ろの女の子が篠ノ之さんを恐る恐る見ている。

 

「随分な言い草だな。あの2人を助けておきながら、卑怯なこの女と組んだくせに」

「仲良しごっこでできるほど、僕が置かれている環境は生易しいものじゃないからね。君は篠ノ之束の妹のくせにそんな簡単なこともわからないのかな?」

 

 有名人の弟妹というのは比較されるから辛い。それを知っている僕は敢えてその言葉を口にした。

 

「姉さんは関係ない!」

「だったら今すぐ退学しろよ。本来なら君はその程度じゃ済まないことをしたんだから。だと言うのに、君は反省文も書いていないじゃないか。よくそれで平然とできるよね?」

 

 大体、もう忘れたのかな? 可能性としてはなくはない……というかその方が高いか。

 

「まぁ、精々頑張ってね。僕らに当たる前にやられると思うけど」

「その言葉、覚えておけ! 準々決勝で貴様らを潰してやる!」

 

 そう言ってどこの悪役だよと突っ込みたくなるほどの言葉を吐いて去って行く。

 

「大丈夫だよ、しぐしぐ。もう大丈夫だから」

「……あ、ごめん」

 

 左手で彼女の手を掴んでいたのを忘れていた僕は、顔を赤くしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで学年別トーナメントの日数が過ぎ、僕はボーデヴィッヒさんのおかげで順調に準々決勝にコマを進めた。ちなみに相手は篠ノ之さんと鷹月さんのペアだ。

 

「………驚いたなぁ。まさか勝ち上がってくるなんて思わなかった」

「聞けば貴様と話をして以降、まるで鬼武者のように敵を倒していったらしいな」

「まぁ、大した障害じゃないから問題ないよ。よろしくね、ボーデヴィッヒさん」

 

 A,Bブロックは既に決勝トーナメントに進出する人が決まっているようだ。進んだ人たちは言わずもがな、ってね。

 

「あの時は聞かなかったが、随分と仲が悪いんだな」

「まぁね。訳は聞かない方が良いよ。君が大好きな織斑先生に嫌われたくなければね」

 

 あの襲撃事件の後、僕らは緘口令を敷かれた。理由はわからないけどそれほどまでの敵と戦っていたのには驚いた。………だからこそ、あの人は僕の打鉄にとある細工を施させてくれたんだけど。

 

「まぁいい。いつも通り障害を排除する」

「その意気だよ」

 

 ボーデヴィッヒさん、そして僕の順に中に出る。向こうも同じタイミングで出てきたようだ。

 篠ノ之さんは打鉄。そして鷹月さんはラファール・リヴァイヴを装備している。

 

「どうだ! 私がやられていない気分は!」

「あ、ごめん。実は9割がたは上がってくると思っていたよ」

「負け惜しみを………」

「Cブロックは強豪揃いだけど、ISの質は僕の頭脳でも十二分に対応できるほど低いからね。それでいて、より攻略がしやすい人が多い。特に君は篠ノ之束の妹と思えないほど馬鹿だから、より高い勝率で勝てる」

「減らず口を!!」

 

 挑発はこれで十分。向こうがどれだけ作戦を練って来たとしてもこれで瓦解しただろう。

 試合開始のブザーが鳴り、僕はすぐに叫んだ。

 

「ボーデヴィッヒさん!」

「言われなくても!」

 

 それにしても、随分と丸くなったなぁ。出会った時は「私に近付くな」ってオーラが漂っていたのに。

 

(もしかして、あの練習が役に立ったのかな?)

 

 なんて思いながら僕は篠ノ之さんの前に躍り出た。

 

 

 

 

―――少し前

 

「ボーデヴィッヒさん、少しでも早く鷹月さんを倒してきてほしいんだ」

「実力からして篠ノ之箒の方が上だろう? ならば、私が相手をするべきだと思うが?」

 

 相手の前の試合を見ながら僕らは2人で昼食を取っていた。そこで僕はそう提案したけど、ボーデヴィッヒさんは通称、ロリコン殺しに首こっくんをしながら尋ねてくる。

 

「普通はね。でも彼女は弱点が多いんだよ」

「………ちなみにどこのことを言っているんだ?」

「すべて、かな。頭のてっぺんから足元に向かって。特に女性は男性と違って股間だけじゃなく胸にも急所があるから、そこに触れたら勝負は決まったようなものさ。あ、これはあくまで僕個人の意見なんだけどさ、女性が一番嫌がるのは知らない男に犯されること。特に俗に「キモデブ」という部類に含まれる男たちにされたら、恐怖と絶望なんてどころじゃな……あの、ボーデヴィッヒさん? どうしたの? さっきから顔を青くして……」

 

 

―――現在

 

 何故かボーデヴィッヒさんに引かれたけど、それはそれ、これはこれ。今は篠ノ之さんを倒すとしよう。

 

「ところで篠ノ之さん」

「何だ?」

「今、妊娠何か月?」

 

 腹部に視線を注いで聞くと、顔を赤くしていることが窺える。

 

「……は……は……」

「は?」

「破廉恥だぞ! 恥を知れ!!」

 

 突進してくる篠ノ之さん。ボーデヴィッヒさんの方では鷹月さんが巨大な何かを展開しているけど、たぶん大丈夫だと信じている。

 

「恥も何も、年頃の男女が同じ部屋で暮らしているのに何も起こらないわけがない」

「そ、そう言うお前はどうなのだ!? 布仏とか言う女子と寝食を共にしているではないか!」

「残念。僕は君が大好きな彼とは違って―――とと」

 

 咄嗟に近接ブレードの軌道を読んで回避した。

 

「篠ノ之さん、顔が赤いよ?」

「許さん……許さんぞ貴様!!」

「おっぱい揺らして僕にアピール? ビッチだね」

 

 そう言って僕は近接ブレードの峰で胸を叩いた。

 

「な、どこを触っている!?」

「おっぱい。パイオツとも言う。っていうか君の女性的部分ってそこしかないし、今後誰にも触られることはないか、君のお姉さんをどうにかしたい人には人質として捕まって、暇つぶしにやられる程度なんだから別に良いんじゃない?」

 

 振り下ろされるブレードを受け止める。

 

「許さんぞ、この変態が!!」

「……男が変態で何が悪いの?」

 

 流石は剣道の全国大会で優勝した猛者。意外と力が強い。

 

「そもそも男というものは、女を孕ませることを潜在的に組み込まれているんだ。自分の遺伝子を残すためにね。それこそオスがメスを孕ませる行動なんてそのものなんだし、あまり気にしない方が良いんじゃない? もっとも、君や織斑先生とやれと言われても僕は性格を重視するから「チェンジ」って叫ぶ自信があるけど―――ね!」

 

 ウインクしてますます敵意を煽り、股間を蹴り飛ばした。

 

「貴様、どこを―――」

「ところで、君の仲間が倒れているけどいいの?」

 

 丁寧に教えてあげる。ボーデヴィッヒさんは鷹月を一方的に潰していたけど、精神的な問題は大丈夫かな?

 

「何ッ!? 鷹月が使用していたのはクアッド・ファランクスだぞ?!」

「何でボーデヴィッヒさん相手にそんな重装備を使わせているの? やっぱり馬鹿でしょ」

 

 僕から注意を逸らしたことも含めて、ね。

 背骨に杭の先端を引っ付けて遠慮なく撃った。

 

「ぐがぁあああああッッ!!」

 

 シールドエネルギーが大量に消費されたことは想像できる。だって僕が装備しているパイルバンカーの威力は桁違いだからだ。

 

「シールドエネルギーが一気に半分も……」

「あ、やっぱりこういう時に股を狙えば良かったかな。絶対防御が発動して女の子の大事な膜が守られるかどうかも確認したいしね」

 

 批判殺到? そんなことはどうでもいい。

 

「でもね篠ノ之さん。本当なら僕はこの試合を辞退しようと思ったんだ」

「急に何を―――」

「だって、君を倒すのは僕じゃなくて布仏さんに譲るべきだと思ったし、どっちにしろ君たちの優勝はまずないしね。でもさ、僕らとボーデヴィッヒさんの意見が合致したから―――ここでやられてもらうよ」

 

 篠ノ之さんはさっきから動かない。当然だ。動かさないように言ったんだから。

 僕は篠ノ之さんの顔に杭を当てる。

 

「ま、待て! 何故顔なのだ!?」

「大丈夫。ISには絶対防御があるから―――

 

 ―――だから、女の子って男より強いんでしょ?」

 

 僕はシールドエネルギーがなくなるまで撃ち尽くして

 

 ―――カラカララン……

 

 空薬莢が地面に落ちる。僕はそれを装填して最後に言った。

 

「君が以前、木刀で殴った人。今だから言うけど、君みたいなゴミと違って価値が上だから」

 

 それだけ言って僕はピットに戻った。

 しばらくすると、明日から行われる決勝トーナメントの抽選が行われる。

 決勝トーナメントはA~Cブロックを勝ち上がった3組の内1組にシード権を与えられる。

 結果が出て、僕は小さく呟いた。

 

「……あと1つ、か」

 

 明日の準決勝の相手は―――更識さんと布仏さんのペアだった。




タイトルの意味を分かった人がいてくれたら、作者としては凄く嬉しいですね。

ということで、次回はあの2人との対戦になります。

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