IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.19 それぞれのペア

 後始末のために先輩は職員室に向かって行くのを見送り、僕も帰ってトレーニングセットを持ってこようと考えていたら急に呼び止められた。

 

「ちょっといいかな?」

「何ですか? 僕、これからトレーニングしたいので……」

「あ、大丈夫。ほんの2,3分で済むから。で、ぶっちゃけた話、布仏先輩と付き合ってるの?」

「……はい?」

 

 どうしてそんな話を?

 

「いや、さっきのを見て思ったんだけど先輩にしては凄く優しく接しているから付き合っているのかなって」

「違いますよ。ただ、ちょっとした縁から何かと世話を焼いてくれる優しい人で、もしこのご時世じゃなかったら告白しているかもしれないですね」

 

 容姿や勉強やIS操縦を教える時の丁寧さ、それを含めて憧れの先輩として第一に名前が挙がるのは仕方がないかもしれない。

 

「へぇ、やっぱり君もそう思うんだ。……ところで、このご時世って?」

「女尊男卑で僕がIS操縦者じゃなければってことですよ」

 

 一般人なら、告白して玉砕ってこともあるだろうしね。というかどう考えてもそっちの方が高い。

 

「あ、でもこのことを拡散しないでくださいね。見たところ情報屋のようですが、場合によっては先輩の評価につながるかもしれませんし」

「………そういうことにしておくね」

 

 そう言ってその人はどこかに消えた。一体何だったんだろう?

 そう思って今回のことを織斑先生に報告して(も意味はないと思うけど)来ようとアリーナの外に出ると、側面から急に金属バットが襲い掛かって来た。

 僕は咄嗟に回避すると、今度は角材が迫ってくる。

 

「ちょっ、何をするんですか!?」

「黙りなさい、織斑先生の悪口をいう異端者め!」

「男の分際で!」

 

 僕はガトリングエアガンを展開して引き金を引く。顔面にクリーンヒットした人がのたうちまわり、他の人が僕に怒りを向けてきた……と思ったら急に蹴り飛ばされた。

 

「しぐしぐ、大丈夫?」

「布仏さん? もしかしてこの人って君が頼んだエキストラ?」

「え~、私は何もしてないよ~」

「この、女の恥さらしが! どうしてそんな男なんて庇うのよ!?」

 

 すると布仏さんは残っている1人の懐に入り、足払いで倒して銃を眉間に突きつけた。小生、彼女が暗部の人間だと思い知らされている。

 

「あのさ~はっきり言って困るんだよね~。君たちみたいなのがたくさんいるから、本当はしぐしぐと色々したいのに全然できないんだよ~」

 

 その()()の内容がとても気になった。

 

「だ、黙りなさいよ! 大体この男は学園の物を勝手に私物化しているのよ!? それにあなたのお姉さんだって―――」

「お姉ちゃんは元々女尊男卑なんてないし~そもそも私たちがそんな下らない思想を持つなんてありえないんだよね~。そ・れ・に、そろそろ君たちの視線はウザったいって思ってたんだ~」

 

 ―――ズガンッ!!

 

 引き金を引く布仏さん。まさか殺したのと思ったけど、まだ動いているから大丈夫みたい。

 ともかく今は援護しないと。金属バットを持って僕は布仏さんの後ろに回り込んだ。

 

「布仏さん」

「!? しぐしぐ……」

「とりあえずその人を脱がして。今からこれをお尻の穴に突っ込むから」

「ひっ!?」

 

 僕を狙った代償は払ってもらないといけないのに、何故か布仏さんに「止めてください」と本気で懇願された。その様子は少し可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? 学年別トーナメントってタッグ制になったの?」

「うん。さっきまで私はそのビラを貼りに行ってたんだ~」

 

 だからいなかったんだ。でも納得。

 僕は布仏さんから紙をもらって読んでいる。ペアか。織斑君かデュノア君のどちらとも組みたくないし、やっぱりここは……

 

「布仏さん、一緒に出ない?」

「え?」

 

 するとどうしてか顔を赤くし始める。僕、何かマズいことでも言ったかな?

 

「あ、嫌ならいいんだ」

「い、嫌じゃないよ! 凄く嬉しいよ! ………でも、ごめん。一緒に出たい人がいるんだ。今から誘いに行くの」

「そっか。じゃあ、僕は整備室に行くから」

 

 そう言って別れようとすると、布仏さんも整備室の方に向かう。

 

「あれ? 布仏さんもこっちなの?」

「うん。実は誘いたい人はいつもここにいるの」

「へー……って、ここって……」

 

 僕らが来たのはアリーナ各所に設置されているアリーナ。しかし第三アリーナは他の所よりも校舎や寮に近く、いつもとある人物が一角を陣取っている。その人物は―――

 

「かんちゃーん。いるー?」

「………何の用?」

 

 更識簪さん、その人である。

 そう言えば、布仏さんは暗部関係者で、更識さんは更識先輩の妹だから知っていて当然なんだっけ。

 

「あのね、かんちゃん。今度の学年別トーナメントがタッグ制になったから、一緒に組もう?」

 

 僕は打鉄を展開して、固定アームに支えてもらって解除する。出力調整や僕らが長期で借りている武器開発場の作成状況も調べながら、会話を聞くことにした。

 

「私はいい」

「でも、1年生は全員強制参加だよ?」

「………私は専用機がないから」

「でも、事情が事情だからかんちゃんは借りれるよ」

 

 まぁ、ISの開発計画を凍結させたのって、明らかに企業に問題があるだけだしね。そもそも、勉強熱心な人ならともかく織斑君みたいな人の専用機を渡して、更識さんみたいに努力してきた人の専用機を凍結するなんて本当に頭がおかしいとしか思えない。

 

「………時雨君とは、組まないの?」

「そ、それは……」

「うん。僕はボーデヴィッヒさんと組む予定だから」

 

 そろそろ、何かしらの結果を残しておかないといけない気がするからね。布仏さんがダメな以上、勝率が高い人と組むのがベストだろう。

 

「どうせなら、更識さんも布仏さんと組んだらどう? 知らない人とよりも顔なじみと組んだ方が連携も取れやすいし。それに布仏さん、多分強いし」

「…………」

 

 そうじゃなかったら、あそこで銃を撃って黙らせる芸当はしないはずだ。

 

「…………わかった。組む」

「ホント!? ありがと!」

 

 本当、傍から見ると微笑ましい。

 僕は思わず温かい目を向けていた。見るだけなら十分に可愛いと思うんだよねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕らは一度別れ、単身でボーデヴィッヒさんの部屋に訪れていた。

 ドアをノックするとボーデヴィッヒさんが現れて、僕の姿を見るなり睨んでくる。

 

「何の用だ?」

「僕と学年別トーナメントのタッグ、組んでくれない?」

 

 最近、布仏さんの面倒を見てたりとか先輩に面倒を見てもらっていたとかしていたからだろう。僕は同い年の女子の部屋に行くことも、乗り込むことも、頼むこともスムーズになりました。

 

「学年別トーナメント? ああ、私が優勝必至な奴か。個人戦と聞いていたのだがな」

「前にちょっと色々とあって、急遽タッグ制に変更になったんだって。それで、ボーデヴィッヒさんと組んでもらおうかなって思って」

「………ほう」

 

 断ると思ったけど、意外な反応に少し驚いている。

 

「何故私だ? 織斑やデュノアなど他に男子はいるだろう」

「君が周りとは違うからさ」

「……何が言いたい?」

「君は周りのことを、ISをファッションとして見ているって言ったよね? はっきり言ってそれは僕も思っていたんだ」

「ふん。下らん種馬如きが私の気持ちをわかるかと言うのか?」

「…………じゃあ聞くけどさ、女の本来の役割が何かってわかる?」

「本来の役割?」

「そう。女の本来の役割は前線に出て戦うことじゃない。家で子どもを守り、育てることだ。このご時世で言うことじゃないってわかっているけど、女にできて男にできないことの1つに「子どもを宿す」という機能がある。君は妊婦を見たことがあるかな?」

「ああ。ドイツで何度か。それと日本の空港で一度見たことがある」

 

 ……妊婦さん、子どもを大事にしましょうよ。

 

「じゃあ君は、その女性をどう思った?」

「動きにくそうだな、と」

「そう。実際思うまでもなく動きにくいんだよ。まぁ、中学の頃に妊婦体験をしたことがあるだけの僕が言えるわけじゃないけど、妊婦ははっきり言って、逃亡にも戦闘にもまったくもって向かない。だけどどうしてか、ちょっと女の権利を主張すると、何を考えているのか彼女らは自分たちを強いと勘違いを始めた。まるで水を得た魚のようにね。だけどそれは勘違いから来るものだ」

「………勘違い?」

 

 ボーデヴィッヒさんってちょっとズレているかもしれない。普通ならこんな話をされたら切れるだろうに。

 

「そう。自分たちがいつでもISを使用できるという勘違いだ。ISはコアが無ければ運用できない。仮にここでISを使って暴れまわったら、現時点でISを持っていないものは間違い死ぬ。つまりはほんの一握りしか生き残れない。君はそれすら理解していない人間と、それを理解して周りよりも先に上のステップを目指す人間、どっちの方が組みやすい?」

 

 ボーデヴィッヒさんは考える。一度顔が歪み、赤くし始める。

 

「聞きたいことがある」

「? 何かな?」

 

 これ、たぶん恋愛シミュレーションゲームならば間違いなく選択肢が出ているかもしれない。

 僕は表に出さない程度に身構えて質問を待つ。

 

「貴様は、仮に女を攻撃する際にどこを攻撃する」

 

 ………それはちょっと予想外だった。

 僕は最初にボーデヴィッヒさんに頼んだ。

 

「ごめん。それはちょっとデリケートな話になるから中に入れてくれる?」

「ん? 別に構わんが……」

 

 何故か警戒されている気がする。気のせいかもしれないけど。

 中に入れてくれた僕は、初めてちゃんとした他人の女の子の部屋に入ったことに内心感動したけど、考えてみればこれは世間一般の女の子の部屋ではないことは確かだ。

 

「じろじろ見るな。少し恥ずかしい」

「ごめん。特に恥ずかしがる要素はないと思うんだ」

 

 コレクションなのか、銃がたくさんあって、机の上には「反せい文」と書かれた紙がある。

 でも何でだろうね。銃を見ていると心が躍る。僕も男の子だからかな?

 

「それで、貴様は女を攻撃する際にどこを攻撃するんだ?」

「あ、確かその話だったね。僕はまず、女性の恥部……胸とか股を中心に狙うね」

「ほう? 何故だ」

「中学時代に、エロ関係に詳しい人がいたんだけどその人が言うにはAV? っていうのにそういうプレイ? みたいなのがあるらしいんだ。エロ本を何度か見せてもらったけど、実際そういう部分を責めているシーンもあったし、効果あるのかなって」

 

 するとボーデヴィッヒさんは少し固まった。

 

「……………た、確かにそう言う拷問があると聞く。しかし、だからと言ってそんなことをするなど―――」

「あ、やっぱりマズい? まぁ、流石にそう言うのは本気でやる気はないけど、殺そうとする人たちには仕方がないかなって思うよ?」

 

 さっき殺されかけたことを思い出しながらそう言うと、ボーデヴィッヒさんも「ならば仕方ないな」と同意してくれた。

 

「……時雨、貴様はまさか普段からそんなことをしているのか? 同居人が女と聞いたが……」

「むしろ孤児院にいたことを鮮明に思い出させてくれるよ。日頃から世話を焼いているから」

 

 朝、起こしては食事を作り、顔を洗いに行かせて、食べ終わったら歯磨きさせる。僕は高校生に何をさせているのだろうか。

 

「そういえば、資料にも孤児院暮らしと書いてあったな。他にもアニメ観賞とか」

「止めて! 僕のプライベートをばらさないで!」

「いや、副官もアニメを見ているが。確か花よりなんとかだったか……?」

 

 ……それって合計2回ドラマが放送されて、映画化した奴のタイトルじゃないかな?

 

「と、ところでタッグのことなんだけど………」

「あ、そうだな。別に組んでもいいぞ」

「そうなの!?」

 

 僕は思わず驚いた。

 考えてみれば、僕は散々彼女が大好きな織斑先生を否定しているから何だかんだで断られると思ったけど……。

 

「り、理由を教えてもらっていいかな?」

「なに。他の奴と組むより貴様と組んだ方がマシだと思ったからだ。だがこれだけは言わせてもらうぞ。織斑一夏は私がやる」

「それは流石に承服しかねるかな」

 

 個人的には、たぶん組むと思うデュノア君の方を抑えて欲しいんだけど……たぶん彼の技量は高いし。

 

「そもそも、どうしてボーデヴィッヒさんは織斑君に拘るの? EUのイグニッション・プランを考えてオルコットさんを潰すことには理解はできるけど、僕が言うのもなんだけどあんな小物をわざわざ相手にする理由は正直わからないかな」

 

 だって、普通なら白式みたいに刀1本だけしかないならすぐに取り外して長物タイプのライフルを入れてブンブン飛び回りながら乱射すると思うけど。相棒? デカい赤カブトだよね。

 

「……ただタッグを組むだけの貴様に言う必要はないと思うが?」

「あ、それもそうだね。ごめんね」

 

 もしかしたらデリケートな問題なのかもしれない。ミスったな。いつもなら聞かないのに。

 

「じゃあ、名前をお願いね」

「わかった」

 

 そしてボーデヴィッヒさんはよくあるペンを使って名前を書く。言うまでもないけど凄く綺麗だ……綺麗だけど……。

 

「ボーデヴィッヒさん、悪いけど上にカタカナで振り仮名を振っておいてくれないかな? あまりにも凄すぎて僕には読めない」

「そうか。確か日本人のサインは筆記体をもじったものだと聞いているが」

「僕、アイドルとかあまり興味ないから」

 

 というかそんな奴らの興味を持つ気がなかった。

 

「そうか」

 

 僕もペンを借りてついでに書いて、お礼を言って部屋を出る。

 先に職員室に提出しようと校舎に戻っていると、織斑君とデュノア君とバッタリ会った。

 

「あれ? こんな時間にどうしたの?」

「俺たちはタッグトーナメントのペアの申請していたんだよ。あと、鈴とセシリアのお見舞いに」

「ってことは、君たちは男子2人でペアを組んだわけだ」

 

 予想通りだ。おそらく自分しかデュノア君の正体を知っている人間がいないと思っているんだろうね。今すぐにでもばらしたい気分だよ。

 

「そうだよ。……そういえば、時雨君とも話し合うべきだったね。ごめんね、君のことすっかり忘れてたよ」

 

 ―――ブチっ

 

「お気遣いなく。僕は僕でちゃんとペアを選んだから」

 

 君たちみたいに仲良しこよしでペアを選んだわけじゃないしね。

 大体、君たちデュノアは僕を馬鹿にし過ぎじゃないかな? 僕だって怒る時は怒るんだよ?

 

「それより智久、聞きたいんだけど何であの時にもっと早く止めてくれなかったんだ?」

「もしかしてあの模擬戦?」

「そうだ」

 

 ……本気で言ってるのかな? それとも、この人はただ人を見ていないだけ?

 

「仮に止めたとして、僕に何のメリットがあるんだい?」

「何?」

「そもそも、あれは3人が勝手にした模擬戦だよ? 勝負がついてオーバーキルだったから止めたけど、そもそも無駄にプライドを持ったせいでさっさと降参しなかったからあんなことになったんじゃないかな?」

 

 僕から見て、オルコットさんの攻撃は完璧なタイミングだった。でもそれが捌かれた以上、素直に相手の技量を認めて降参するのが得策だったはずだ。模擬戦は所詮模擬戦。本番に合わせての調整程度と思っておくべきなのに。

 

「その言い方は2人に失礼だよ!? オルコットさんも凰さんも全力で戦ったんだよ?」

「だったら何? 僕には関係ないよ。正直なところ、ボーデヴィッヒさんには感謝しているくらいだ。余計な人たちが消えてくれたからね」

 

 僕を除いて1年の専用機持ちは残り4人。更識さんの除けば3人か。

 

「本気で言ってるのか! もしかしてそれで2人を助けたのを敢えて遅らせたって言うのかよ!?」

「むしろ最高のタイミングだね。そうじゃなければあの2人のことだ。僕を攻撃していただろうから」

 

 おそらくもっと早く入っていたら、嫉妬しただけで織斑君を攻撃した2人は僕に攻撃しただろう。あの2人より山田先生の方が魅力的なのは言うまでもないのに。

 

「ふざけんな! 何が最高のタイミングだ! おかげで2人は戦えなくなったんだぞ!!」

「ああ。やっぱりダメージレベルはCを超えていたんだ。通りでいつもより装甲がなかったわけだね」

 

 思い出しながらそう言うと、織斑君は僕の胸倉を掴んで拳を振り上げたけどデュノア君がそれを止めた。

 

「ダメだよ一夏。それ以上は問題になっちゃう」

「だけど―――」

「まぁ、君が試合に出たくないってなら僕を殴れば?」

 

 敢えて挑発してやると、織斑君は僕を睨んで掴んでいた服を離す。

 

「賢明だね。馬鹿な君でもそこまでの計算はできるようになったんだ」

「何だと!?」

「一夏!!」

 

 邪魔だな。あの男……いや、あの女、か。早々に退散してほしいものだ。

 

「正直、僕も時雨君の乱入は最適なタイミングだと思う。でも、君のその考え方には賛同できないよ」

「あっそ。別にいいさ。僕は何も君たちの賛同を得るために行動しているわけじゃないんだから」

 

 そう言って僕は校舎に向かう。

 

 ―――まぁ、僕も正体がバレたっていうのにさっさと帰らない君の考えに賛同できないけどね

 

 数少ない彼女の秘密を知った状態で、内心毒を吐きながら。




はい、完全に一夏とのことで亀裂が入りました。
でも代表候補生のプライドの高さは一級品なので、本当に場合によって智久が謂れもない中傷を浴びそうで怖いです。

そして智久は一夏を見下し始めています。いや、前からか。

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