翌日の昼休み、僕は早速3年の教室に向かった。
「失礼します。布仏先輩はいますか?」
3年生は就職活動中ということもあって少しピリピリしている。中でも性格がキツそうな人が僕を見て睨んで来たが、すぐに来た先輩が僕を教室から離して場所を移動させたことで事なきを得た。
「どうしたんですか?」
「実は、前々から考案してきたものを持って来たんですが」
「……え? もう?」
「はい。このファイルを見てください」
そう言って僕は「考案ファイル・武装編」を渡す。先輩は中を見ると、次第に顔を青くしていった。
「あの、時雨君」
「何ですか?」
「あなたはこれを相手に向かって撃つことができるんですか?」
そんな質問が飛んできたので、僕は内心驚いていた。
「撃ちますよ。酷いと思いますが、いざとなれば撃たないといけないと思っています」
「………そうですか」
「だって、僕には帰りを待ってくれている子どもたちがいるんですから」
大げさって言われそうだなって今思った。
でも実際そうだ。そうじゃなかったら僕が帰っただけであれだけ楽し気な反応はしないはず。
「わかりました。早速今日の放課後からやりましょう」
そう言って浮かべてくれた笑顔は、年上なのに可愛いと思ってしまった。
布仏先輩に手伝ってもらいながら武装を開発していると、気が付けば土曜日になっていた。
僕は先輩に「IS訓練もしてきなさい」と言われたので、布仏さんと一緒に射撃練習をしていた。
「うーん。難しいよ~」
1セット終わったらしい布仏さんはそう呟く。確かに暗部の一員の割に総合100中60ポイントは低いんじゃないかな? ちなみに僕は80ポイントを獲得した。
もう少しでアリーナの閉館時間だけど、実は少し種を巻いていたので僕らは来るのが遅く、ほとんど何もしてない。
「ねぇ時雨君。僕と模擬戦しない?」
射撃のフォームが悪いのかと考えていると、デュノア君がそう誘ってきてくれた。
「ごめん。僕はいいかな」
「でも、もうすぐ学年別トーナメントだから試合経験は積んでおいた方が良いんじゃないかな?」
「僕は良いよ。そもそも基礎もまともにできていないし、自信ないから……」
「でも―――」
ウザったいので、僕はあることを言った。
「まるで織斑君並のウザさだね」
するとデュノア君は固まった。
「ごめん。僕が悪かったよ。無理強いなんて酷いことをしてごめんね」
「いいよ。これから気を付けてくれれば」
たぶん彼も織斑君改めホモ斑君に苦労しているんだろうね。
デュノア君が転校してきてからというもの、何故か僕の方に「一緒に着替えよう」と誘って来ることが多くなった。前々からそういうことはあったけど、最近は特に酷い。あまり酷いあだ名を考えないようにしているけど、彼に対しては前のことがなくても最低評価だったかもしれない。
「やっぱり、ちょっと怪しいね」
「そうだね~。しぐしぐの戦闘データが欲しいのかな?」
「僕のを集めたところで何の得もないのにね」
自虐をしていると布仏さんは意外にも首を横に振った。
「得なら十分にあると思うよ~」
「え? そうなの?」
「うん。仮にあの人の目的がISの奪取なら、しぐしぐの実力もはっきりわかっちゃうからね。だからさっきみたいに相手にしない方が良いと思うよ~」
なるほど。そう言う見方もあるのか。
そう思っていると僕の方に銃弾が飛んできた。
「流れ弾?」
幸い、僕の頭に当たることはなかったから良かったけど。気のせいかな、僕の方を見て睨んでいる人がいるのは。
まぁでも、第三アリーナはかなり人がいるから模擬戦している時に流れ弾とか飛んでくるのは仕方ない―――と思っているけど。
(流石に、少し注意はしておいた方が良いかな)
そう思った瞬間、また銃弾が飛んできた。
「しぐしぐ、そこを動かないでね」
そう言うと本音は見えない角度で僕の打鉄のシールドに銃弾を飛ばす。跳弾したかと思ったらスラスターに吸い込まれて模擬戦中の機体に当たった。
「ちょっと! 何するのよ!」
跳弾を使って器用に当てたことに本気で感心していると、再度怒鳴られる。
「すみません。なにせ下手くそなもので」
「こっちは模擬戦中よ。気を付けなさい」
「はーい」
良かった。もしかしたらわざとかと思ったけどどうやら本当に流れ弾みたい。
『ところであれ、狙ったの?』
『跳弾だったら何故か百発百中なんだよね~』
凄いカミングアウトを聞いた。
すると辺りがざわつき始めたかと思うと、Cピットに見たことがない機体が現れた。
「ねぇ、ちょっとアレ……」
「ウソ、ドイツの第三世代型だ」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」
ドイツってことは……ボーデヴィッヒさんだ。
布仏先輩からある程度、2人のことを聞いていたからデータは知っている。
「おい」
彼女の目を見て、視線を辿る。織斑君をご所望のようだし、僕は我関せずでいよう。
スナイパーライフルを展開して射的をしていると、会話が聞こえてきた。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」
「嫌だ。理由がねえよ」
「貴様にはなくても私にはある。貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成しえただろうことは容易に想像できる。だから私は貴様を、貴様の存在を認めない」
? どういうことだろう?
ISに関しての知識は本当にからっきしだ。そういえば前のモンド・グロッソの優勝国はイタリアだって聞いているけど。
それでも織斑君にはやる気がないのか、断った。
「また今度な」
「ふん。ならば戦わざる得ないようにしてやる!」
そう言うと大きな音がしたと思ったら、何かにぶつかって……こっちに飛んできた!?
咄嗟に布仏さんを―――と思ったけど後ろには何故か生身の生徒が。僕はハンマーを咄嗟に展開して地面に叩き落とした。
「こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「そういう君は目測が甘いよ! もう少しで死人が出るところだった!」
「え? あ、ごめん……」
たぶんアレは何を言われているのか理解していないんだろうなぁ…と思ったら個人間秘匿通信が開かれた。
『本当にごめん! 後で謝罪させて!』
『謝罪なら後ろにいる人たちにしてください』
そう言えば、個人間秘匿通信って僕らの妄想を具現化したような感じだよね。だからこそすんなりとできるんだけど。
「フランスの第二世代如きが私の前に立ちふさがるとはな」
「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代よりは動けるだろうからね」
………それにしても、ボーデヴィッヒさんと布仏さんって身長はあまり変わらないのにある部分の格差が酷いね。別に僕はボーデヴィッヒさんの控えめな体型もありだと思ってるよ。ただ布仏さんがある意味異常なだけで。
『そこの生徒! 何をやっている!』
アリーナ内に教員の声が飛ぶ。騒ぎを聞きつけた担当者が叫んだのだろう。
「ふん。今日は引こう」
そう言ってクールに去って行くボーデヴィッヒさん。その姿を眺めていると、声をかけられた。
「あの、時雨君」
「? 何かな?」
「さっきは助けてくれてありがとう」
どこかで見たことがある人にそう言われた僕は、警戒心を上げた。
「別に。僕がなんとかせずに君たちが死んで、僕のせいにされるのが嫌だったから」
そう言って僕は面倒なことになる前に第三アリーナを出る。
「布仏さん、僕はこの後、機体の確認のために整備室に行くから先に帰ってて」
「私も行くよ~」
「じゃあ、帰ったら意見を聞くよ。まずは1人でどうにかしたいんだ」
すると頬を膨らませる布仏さん。
「もしかして~お姉ちゃんと密会~」
「何でそうなるの? 今あの人は緊急の会議に出席しているって話だけど?」
だから僕が第三アリーナに来たわけで。
「わかった~。じゃあ後でね~」
大人しく引き下がってくれた布仏さん。僕は作業着に着替えて整備室に向かおうすると、叫び声が聞こえてきた。
「―――何故こんなところで教師など!」
僕は思わず隠れてしまう。唐突の事に少し驚いた。
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ」
……その役目、ちゃんとできているかどうか凄く疑問だ。
しかし何でこんなところで? やっぱり聞かれたくない話があるからかな?
「このような極東の地で何の役目があるというのですか!」
弟を守るため、だったりするのかな? だとしたらさっさと消えてもらいたい。
「お願いです、教官。我がドイツで再びご指導を。ここではあなたの能力は半分も生かされません」
「ほう」
「大体、この学園の生徒など、教官が教えるに足る人間ではありません」
そう言えば、前も似たようなことを言っていた気がする。
「何故だ?」
「意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションかなにかと勘違いしている。そのような程度の低い者たちに教官が時間が割かれるなど―――」
「そこまでにしておけよ、小娘」
僕は思わず震えあがった。でも、1つ疑問がある。今のどこに間違いがあるのかと。
「少しみない間に偉くなった。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れいる」
「―――そう言うなら、兵器を持っただけで自分が強いとふんぞり返る今の女は全員選ばれた人間を気取っていると思いますけどね」
そうじゃなければ、女尊男卑なんて存在しないんだけど。
「……時雨か。今お前がこの話に割って入る余地などないぞ」
「それはどうでしょう。それに、彼女が言っていることのどこが間違いですか? 確かに、中には信条を持って己を研磨している人も中にはいますが、それでも大半が彼女の言う通りでしょう? それとも、同じ女尊男卑思想を持つあなたにとって、かつての教え子の言葉に耳が痛いから先程のように無理やり言葉を切りにかかったのですか? いえ、そうでしょうね。なにせあなたは自分の弟の評価が下がり、自分の評価が下がることを良しとしない最低最悪教師なんですから」
「……貴様……」
ボーデヴィッヒさんを援護したつもりだったのに、何故か僕が睨まれた。
「言っておくが、貴様も含まれているのだぞ」
「僕はまだ、自分の立場を理解しているよ? まぁ、今では僕より織斑君に専用機を与えられたのは気に食わないですがね」
まぁ、剣1本だけっていうのは流石に嫌だけど。
「ところで、織斑先生ってそんなに優秀なの?」
「そうだ! 落ちこぼれだった私を救ってくださった! それにこの方はモンド・グロッソで優勝されているのだぞ!」
「僕にはただ、肌を晒して飛び回っている風にしか見えないビッチ集団にしか見えないけどね。でも、それだと僕らでは意見が食い違うのも当たり前だね」
「どういうことだ?」
「僕は織斑先生は教師として無能としか思っていない」
するとボーデヴィッヒさんは殺気を出してこっちに近付いて、首に刃物を光らせた。
「訂正しろ! 彼女は優秀だ!」
「止めろボーデヴィッヒ! 国際問題に発て―――」
何だろう、この気持ち。段々と何かが薄れてくる。刃物? これを見ていると何故か―――とても怖くなった。
■■■
―――ドガッ!!
唐突だった。智久の首にナイフを当てていたラウラが吹っ飛んだのだ。
千冬ですら何が起こったのかわからず、智久が足を上げていることからやったことを理解する。
「貴様、よくも!」
「止めろ!」
千冬の制止を無視し、ラウラは智久に迫る。だが智久の反応は薄く、気が付けば彼女が持っていたサバイバルナイフが宙を舞い、落下した。
すると千冬の目の前で信じられないことが起こった。呆然としているとはいえ、ラウラは現役軍人だ。それなのに一般人の智久はいともたやすく腕を捻り、背後に回って自由だった左腕も左脇で固定した。
「き……さま……」
「時雨、いい加減にし―――」
すると智久は信じられない行為に出た。唐突にラウラの秘部を膝で攻撃し始めたのである。
「止めろ、時雨!」
しかし智久は止まらない。それどころか余計にしつこく攻撃し続ける。
「止めろ……このような屈辱……よくも―――」
「―――知ってる」
距離が近いこともあって、ラウラは耳元でささやかれたことで変な気持ちになった。
「君たち戦士はプライドを傷つけられるのが一番嫌がる。本来なら器具を用いて拷問し、羞恥で死にたくなるようにしてから殺すのがベスト。相手が女なら男を、男なら女で攻めるのが効果は最大と化す。だから―――死にたくなるまで虐めてあげる」
「―――いい加減にしろ」
智久の行為を止めるため、千冬が攻撃しようとした。だが智久はタイミングを合わせて素早く蹴りを入れて吹き飛ばした。
「
そう言った智久はさらにラウラを虐めようとした瞬間、後ろから衝撃を加えられて倒れた。
「この―――」
ラウラはすぐに智久を潰そうとするが、それよりも早く腹部に衝撃を加えられて動けなくなる。
「まったく。珍しい組み合わせだなと思ったら……これはどういうことですか?」
「……私にもわからん」
そう答えたのは千冬。現れたのは虚であり、今彼女の視線はナイフへと向けられていた。
「……この件は不問にさせてもらいますね」
「なんだと!? 私はその男に辱めを受けられたのだぞ!!」
「………では、何故軍用ナイフがそこに落ちているか、あなたが一連の行動を説明してもらえますか?」
言われたラウラは口を開こうとすると、千冬に叩かれて中断された。
「不問で構わない」
「そうですか。では私はこれで失礼しますが、そちらの方の処理はお願いできますね?」
「ああ」
千冬は頷くと、虚は手慣れたように智久を背負って1年生寮へと向かった。内心、役得だと思いながら。
虚「まるで弟ができたみたいだわ。妹より手がかからないけど」
今回のラウラ説得編は原作ではなくアニメを参考にしています。
虚さんって、アニメだと出てこなかったりあまりモテていない設定とか見るけど、やまやと同じでお見合いしたら絶対にモテると思う。