IS-Lost Boy-   作:reizen

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ep.14 女の戦争勃発中

 僕、時雨智久の特徴を第一印象で答えるとするなら全員がこう答えるだろう……「チビ」だと。

 同居人の布仏さんと同じくらいの身長という事実は少し泣きそうになるけど、それはともかく、僕は小さい。だからと言って、

 

「だからってこんな扱いはあんまりだと思うんです。先輩」

「何か問題があるかしら?」

「問題大ありですよ」

 

 モノレール内。僕は先輩の膝の上に乗せられていた。

 補足すると僕より布仏さんの方が小さい。だから乗せるのも10cmは離れているから持ちやすいんだろうけど、この扱いはあんまりだ。

 

「そう? この体勢は時雨君にも得だと思うけど? 私の胸が当たってるし―――」

「例え賠償金を払えって言われても僕は絶対に払いませんからね! こんなの不当です。これで金を払わせるなら世界なんて滅んでしまえ」

「そんなことは言わないから。もう少し大人しくしてくれると嬉しいわ」

「僕は嫌なんですよ!」

 

 結局、何故か関節を極められて目的地までこの体勢でいらざる得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私には妹がいる。妹も彼と同じくらいの身長で、今は1人でIS学園の整備室の一角を陣取ってISを作っている。

 彼女がそんなことをしている理由は、どうやら私が1人でISを作ったという謎のデマが広がっているようなのだ。当然、私はそんなことを肯定したつもりはないけど、今では疎遠になっているから余計にあの子はそれを信じてしまったみたい。というのも、昔から私とあの子とは色々な差があった。

 私の家は日本の「対暗部組織」という特殊な家で、10代以上も続いている。私の世代はどうしてか女しか生まれずにその後も中々できなかったこと、そして私はこれまで課題を難なくこなしていったから周りから期待されたこと、そして今は女が中心の世の中だから、IS学園に入学すると同時に襲名することになった。だけど流石に10代でそれは早すぎると言う両親の反対もあって、今は名前だけの立場になっているけど、部下は未だに「17代目なら大丈夫」と信頼を置いているので色々とこなしているわけだ。だけどあの子は私と同じってわけにはいかなかったようで、私が1のことを10できたとしたら、あの子は5~6しかできなかった。最初は私も両親も励ましていたけど、次第に言わなくなった。別にあの子に失望したとかそういうわけではない。ただ、励ましてもあの子を傷つけるだけなのだ。それを知ったのは、あの子を励ました時にあの子が怒った時だった。

 

 ―――お姉ちゃんなんかに、私の気持ちがわかるわけがない!

 

 その時は私も怒って、両親が止められるまで喧嘩していた。おそらく虚ちゃんが私たち2人を殴って止めなければいつまでもしていただろう。反省した私はなんとか謝ろうと思ったけど、足が竦んで動けなくなった。そして私はしばらくして、暗部の本当の怖さを知ってしまった。

 裏の部分に関わると言うことは、人を殺す必要があるということ。私は初めて人を殺した時、自分が自分でなくなった気がした。だから私は言ったのだ

 

 ―――あなたは、無能なままでいなさいな

 

 私が仮に任務中に死んでも、無能なら長にはならない。お父さんに負担はかかるけど、それでもあの子にあんな思いなんてしてほしくなかった。だから、私は可能な限りあの子を潰すことにした。ISの勉強をしたのは家を強くするための要素でしかなかった。ロシアからの申し出を受けたのは、日本が第三世代型ISの開発に遅れを取っているからだ。

 でもそこで、予想外なことが起こった。あの子が日本の代表候補生になったこと。

 代表候補生になるにはISの知識はもちろん、素人ながら訓練機でどこまで戦えるかを知るために既に代表候補生になっている人と模擬戦をする。そこであの子は圧倒的な差で代表候補生に勝ったのだ。実は一組のセシリア・オルコットが学年主席になっているけど、彼女は専用機で教員を撃破しているからである。そして二組の凰鈴音は1年で専用機持ちになった中国きってのホープと言われているけど、代表候補生で専用機がもらえるかどうかは相性やタイミングにもよるので裏を返せば「タイミングが良かった」とも言えるし、私の妹も1年と少しで専用機持ちになったんだから!

 

 ―――閑話休題

 

 ともかく、そんな実力を持ったあの子を国が期待するには仕方がないことで、あの子はいくつかの疑念を持たれたまま1年足らずで専用機持ちになった。織斑一夏という存在があり、白式の開発元が被ったことや代表候補生としての期間が短いこともあってあの子の機体の開発計画は凍結してしまったけど、今は実力も評価されて1人で作成している……決して家が関係していないことはないと思いたい。

 そんな妹を持っているからか、同じく弟みたいな彼には姉として構いたくなる。

 

「ところで先輩、僕はあなたのせいで死ぬかもしれませんが何か言いたいことはありますか?」

「大丈夫。私が守ってあげるから」

「だからあなたが原因で死ぬかもしれないんですってば!」

 

 本気で驚いて私を見る時雨君。……弟なのに姓で呼ぶのは少し変かもしれないわね。

 

「私はこれでも学園最強よ。ただのテロリストは無効化できるわ」

「あ、大丈夫ですね。実は後方100mに1人、僕を殺そうと睨んでいるんですが」

「でも一般人よね?」

「流石に気付いていましたか」

「これでも私はかなり鍛えられているのよ。だから大丈夫」

 

 慌てふためく時雨君……もとい、智久君と手を繋いでいるからか、今日は人が多い。

 

「そんなに私と歩くの、嫌?」

「ええ。凄く」

「酷い! 私は智久君と仲良くしたいのに………」

「今の世の中が女尊男卑じゃなかったら懐いているかもしれませんよ」

 

 これだから女尊男卑は嫌なのよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ようやく北条院に着いた……けど、道中凄く疲れた。

 大体、何でああも僕ばかり睨まれなければならないんだろう。僕は何もしていないのに。……でも今は、更識さんの番か。

 

「……………えっと、幸那ちゃん。私、何かしたかしら?」

「いえ。何もしていませんよ。ただちょっとこの腕が千切れないかなって思っているだけです」

「思春期乙女がそんな物騒なことを言っちゃダメでしょ?」

「そうですか? ともかく今すぐトモ君の手を離してもらえませんか?」

 

 笑みを浮かべる幸那。でも、その笑みには冷たさを含んでいる。その証拠に僕らの姿を見て駆けつけようとした子どもたちは回れ右して部屋に逃げて行った。

 

「幸那、もう離したから落ち着いて」

「………わかりました」

 

 そう言って更識さんを睨んでから僕の手を掴んでそのまま中に入る。

 

「お邪魔します」

「更識さん、その前にはっきりとさせたいのですが、あなたはトモ君の何ですか!」

 

 何故顔を赤くして聞いているんだろ?

 疑問を感じていると、更識さんは何かを察したように俺の腕を引っ張った。

 

「それは護衛よ」

「だったらそこまで近づかなくても良いですよね?」

「―――こらこら、お二人ともそこまでにしておきなさい」

 

 第三者の介入に更識さんは僕から離れる。

 

「お久しぶりです。アキさん」

「久しぶりね。智久君は粗相しなかったかしら?」

 

 先生、お願いですから幸那を刺激する言葉を言わないでください。僕のライフが危ないです。

 

「大丈夫です。今のところそんな報告はありません」

「そう? 良かったね、幸那」

「…………知りませんよ」

 

 そっぽを向く幸那は可愛いと思う。本当なら今すぐハグしたいけど、流石に彼女もお年頃なので僕は自重することを選んだ。

 

「今日はゆっくりして行ってね」

「はい」

 

 そんな和やかな会話をしている二人を置いて、僕らは手を洗ってうがいをしてみんなが遊んでいるであろうリビングに入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 その頃、IS学園では打鉄を借りた本音が虚と模擬戦をしていた。どちらも高レベルの戦いをしていた。

 

「遅いわよ!」

 

 虚が近接ブレード《葵》を振り上げる。それをナイフで防いだ本音は何度か回転しながらアサルトライフル《焔備》を展開、動きをその場に固定して引き金を引く。

 それをラファール・リヴァイヴのシールドで防ぎつつ手榴弾を放る虚。すると、近くに現れた本音が《焔備》の引き金を引いて虚に攻撃した。

 その動きはとてもつい最近まで一般人だった人間のものではなく、もしこれをスカウトマンが見ればすぐにオファーが来るものだ。元々、虚も彼女の学年では最強の一角として囁かれていたため、整備科に行くと聞いた時は周りが本気で驚き、止めようとしたほどである。

 そのこともあってか、現在2人がいるアリーナは教員・生徒どちらも入ることはできなくなっており、本音のことは完全に秘匿されている。当然、管制室はバリアを張る程度の機能しか働いておらず、カメラは動いていない。後で戦闘ログは厳重なセキュリティが敷かれている生徒会用サーバーにのみ保管してから削除する程だ。

 

 本来なら、こんなことをする必要はないのだが、楯無は補欠とはいえ国家代表である以上は国の強化合宿に参加する義務が課せられ、学園を開けなければならない。そのため、緊急的措置として理事長と学園長の許可を得て生徒会権限で虚と本音には専用機が支給されることになっている。そのために今も試合をしているのだ。元々、どちらも優れた戦闘員として鍛えられていたこともあって、戦闘力はかなり高く、接戦が繰り広げられているほどだ。

 

「はぁあああ!!」

 

 大型ブレードを展開した本音は瞬時加速で虚との距離を詰める。虚は軌道を予測して、スピードに合わせて刀身に触れて機体を上げる。

 

「チェックメイト」

 

 虚はアサルトカノン《ガルム》の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはぁ~。水がおいしいよ~」

 

 対戦が終わり、本音は持って来た水を飲んでいると後ろで虚がため息を吐いた。

 

「どうしてこの子はこうなのかしら」

「これでも緊張感は持ってるつもりなんだけど~」

「あなたの場合、その緊張感が完全に消えていくのが問題なのよ」

 

 以前、虚はとあるアニメで見たことを思い出す。機械仕掛けの景色が映し出された光景は画質が綺麗だったこともあって鮮明に覚えている彼女だが、その景色の歯車をお菓子に変えてピンク色の景色を投影したのが自分の妹が持っている魔法ではないかと考えている。………もっとも、布仏姉妹のみならず、魔法なんてものは存在しないが。

 

「一応、言っておくけどこれは―――」

「知ってるよ。お姉ちゃんはみんなを、私はしぐしぐ……時雨君を守るためなんでしょ」

 

 以前の襲撃、生徒には暴走した機体が乱入したと説明しているあの出来事は彼女らにとっては汚点でしかなかった。生徒会長の不在にシステム面による妨害やたまたまいた場所も悪く、対応が遅れるという事態。挙句、虚に至っては気絶までにしてしまった。

 結局、守るべき彼らに任せてしまったことにより無力さを痛感してしまったのである。しかもあのことでたくさんの人間を救った人間だというのに、智久は一部の女生徒たちに「無能」と叩かれる始末。

 

(……なんとか、私たちで彼の助けにならないと)

 

 虚は内心決意を固め、本音に気付かれるほど拳を固く握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 たぶん、今日は一人で帰ってくるべきだったんだ。そう思った僕は布団を被りながら震えていた。何故って? 目の前で行われている二人の戦いに介入できないからです。

 

「護衛だからって、一緒の部屋に寝る必要はありませんよね?」

「でも、万が一ってことがあるし。それに、3人は流石に手狭じゃないかしら?」

 

 聞こえてくるのは更識さんと幸那の声だ。

 護衛だからということで、更識は1歳しか違わないはずなのに僕と一緒に寝ようとしてくるので幸那が怒っていると思うんだけど。

 

「あなたの監視のためです! 先生はあなたのことを信用しているみたいですが、私はあなたを信用していません」

「…………私、何かしたかしら?」

「していませんよ。でも、するかもしれないじゃないですか」

 

 でも、どうしてだろう。いつもなら大人しく引き下がる幸那がここまで一生懸命になるのはおかしい気がする。

 

「ねぇねぇ、幸那。たぶん大丈夫じゃないかな?」

「何故そう言い切れるの? もしかしたら、この人はトモ君を襲って既成事実を作りに来たかもしれないのに」

「それは否定しないけど、彼女の家は名家だから婚約者ぐらいいるかもしれないでしょ?」

「でも、もしかしたらその婚約者がデブで不細工で汗臭い人だったらトモ君としてもおかしくないかもしれないじゃない!」

「………その発想はなかった」

「待って。私は別に彼にそういう感情を持っているわけじゃないの。ただ、仕事として一緒にいるだけなのよ? あと、私に婚約者はいないわ」

 

 意外な真実を聞かされた僕は驚いていたけど、幸那は容赦なく続ける。

 

「やっぱり既成事実を作りに!?」

「………このままだと堂々巡りになる気がして来たわ」

 

 頭を抱える更識さん。僕は珍しいものを見れたと思って内心ガッツポーズする。

 

「幸那、あまりこの人を悪く言っちゃダメだよ。確かに平気で人の部屋に入ったり更衣室に入ったりする変態さんであることには変わりないけど、一応は人のことを気遣うことはできるんだから」

「やっぱりトモ君を狙っているんじゃ………」

「大丈夫。本当に、本当にそう言う目で見ているわけじゃないから、その怪しげな目を見るのは止めてもらえる? 時雨君も、幸那ちゃんに余計なことを吹き込まないの!」

 

 でも事実だしね。仕方ないね。

 

「じゃあ、こうするのがどうかな? 僕が奥で寝て、幸那、更識さんの順に寝ればいいんじゃないかな?」

 

 そうすれば、僕は幸那の隣で寝ることになるし、幸那は更識さんの隣だから僕が襲われる心配しなくていい。

 すると幸那は渋々といった感じで了承した。

 

『ねぇ、幸那ちゃんのことに気付いている?』

 

 個人間秘匿通信で僕に話しかける更識さん。外でのIS使用は原則的に使用禁止じゃないんだっけ?

 

『………ただの妹としての反応にしては過激ってことぐらいは』

『……織斑君と変わらない認識かもね』

『いや、気付いていますから。でも、今の僕が受け入れられないくらいってのはわかってますよね?』

 

 それに、僕以上に良い人はどこにでもいそうだけど。それに、僕は少し自信がない。

 

『でも末恐ろしいわね。気付いているのにそうやって自分側に置くなんて』

『昔から一緒ですからね。もう慣れましたよ』

 

 出会った頃から幸那はよく僕に構っていた。僕が殺されそうになってから荒れていた時も、その後もずっと僕に付きっきりだった。別の意味で恐ろしい妹である。

 

『大丈夫です。少し進んだ関係になることはありませんよ。現状では特にね』

 

 パジャマ姿で抱き着いてくる幸那。足もかけられていて、少しドキッとしたのは内緒である。


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