ep.13 ちょっぴり豪華なご褒美
クラス対抗戦が終了したさらに数週間が経った。
日曜日は他の日と違って時間に余裕がある。その日の起きる時間は大体遅い。それでも、ゆっくりする人は9時とかに起きるから7時に目が覚める僕は異常なんだろう。
(………布仏さん)
クラス対抗戦以降、布仏さんは僕のベッドで寝ることが多く……いや、もう毎日同じベッドで寝ている。僕が小柄で小学生っぽいと思われているからかもしれないけど、同い年なんだからもう少し警戒してほしいものだ。ただでさえ、見た目からは想像できないほど胸が大きんだから、僕の理性が持ちそうにない。……実のところ、何度か彼女を欲望が赴くままに襲いたいと思ったことは1度や2度ではない。
(……ホント、少し自重してほしい)
もしこれが普通の男の子ならば襲っていることは間違いない。……というか、普通に進学していたなら僕は間違いなく襲ってる。
「しぐしぐ~」
起き上がろうとしていた矢先、布仏さんは僕に抱き着いて胸の間に頭部を挟む。特殊な界隈な人にとってはご褒美でしかないその行為は僕の神経をガリガリと削っていった。
(……そういえば、今日か)
同じくあの日以降の事だった。この部屋にストーカー……いや、生徒会長がこの部屋に来襲した。
―――クラス対抗戦後の休日
ゴールデンウイークというものは、IS学園にはない……と言うのは少し違うけど、何故か少し遅れて設けられている。クラス対抗戦の影響だろうかはわからないけど、それはともかくだ。
土曜日に授業の一つとしてクラス対抗戦があったので、その翌日は日曜日。少し遅めに起きてまどろんでいた僕らに襲撃があった。
「私、参上!」
まだ眠たかった僕は近くに置いてある工具用の金槌を取って殺しにかかる。近くには布仏さんがいるし、僕も部屋の鍵を失くしたわけじゃないから入ってくるとしたら不審者以外はありえない。
「ちょっ、何するの―――」
「不法侵入……それすなわち敵」
「待って! 私よ! 更識楯無よ!」
「………安眠妨害と指定時間の飲食妨害は万死に値すると思う」
ただでさえ、昨日は一度寝てたから眠れなかったのにその邪魔をされるのは素直に腹が立つ。
「―――だから言ったでしょう。突然の訪問は相手にとって害なのですから、突然現れたら迷惑なので止めるべきだと」
「こういう時はサプライズが大事だと思うのよ!」
「……織斑君と同類か」
「それは流石に不本意なんですけど!!」
考えてみれば、警察に連絡すれば良かったなぁって後から思った。
「それで何の用ですか? 事と次第によっては生徒会長は男がいる部屋に不法侵入する変態ビッチストーカーと言いふらします」
「残念。時雨君の言葉はあまり通じないと思うわよ?」
「………では、その時は私も協力しましょう。ショタが好きということも広めればより効果は増すかと思います」
「虚ちゃん、それは本気で言ってないわよね?」
目をこすると、頭に包帯が巻かれている女生徒が視界に入ってくる。ところで、そんな性癖があるなら僕にこんなことをしないでほしい。
僕は近くに隠している防犯ブザーを出して引っ張ろうとすると、変態さんにひったくられた。
「ごめんね。今ちょっと人に注目を浴びるのは避けたいのよ」
「………やっぱり専用機は僕に渡すべきだと思う」
何で後ろ盾がある織斑君なんかに渡したんだろう。そう考えると大人たちをひたすら殺して回りたいと思い始めたけど、高が無能な屑共を殺して前科を持つのは気が引ける。
「例えそうだとしても、あなたじゃ私に勝てないわ。……まぁそれはともかく、今日はちょっと大事な話があるのよ」
「……僕があなたの話を聞くとでも?」
「たぶん聞くと思うわ。一度あの家に帰れると言ったら、ね」
「―――!?」
………確かに聞くかもしれない。
僕はこれまで何度か外出許可届を提出しているけど、悲しいことに許可できないの1点張りだった。実はもう一つの方も申請しているけどたまたま聞かれた織斑先生に「自分の立場を考えろ」と怒られた。アルバイトをしたいと言ったら怒られるなんて理不尽だと思う。
「でもその前に、彼女の話を聞いてほしいの」
「………えっと」
誰だっけ? と僕は頭上にクエスチョンマークを浮かべていると、先にその女生徒が言った。
「初めまして、時雨智久君。私は布仏虚」
「………」
僕はゆっくりと何故か僕のベッドに寝ている同居人の方を見る。
「……ごめんなさい。あなたたちの噂は色々と聞いているわ。妹が迷惑をかけているみたいで」
「別にそういうことで彼女を見たわけじゃないですよ。……ところで、妹ってことは昨日中継室にいた人ですよね?」
「ええ。昨日はありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
……素直にお礼を言われて僕は思わずのけぞってしまった。
「……虚ちゃんはあなたに心から感謝しているのよ。ここは素直に受け取っておきなさい」
「…わかりました」
それでも僕は少しお姉さんを警戒する。どうしても過去のことを思い出すのだ。
「…………」
何だろう。警戒心を強めたら少し悲しそうな顔をしたんだけど。……そして何故か生徒会長はため息を吐いているんだけど、この人にそんな反応をされるのはムカつきを覚える。
「時雨君、ちょっと来て」
「何ですか?」
「いいからちょっと来なさい。虚ちゃんはここにいて」
有無を言わさず僕を廊下に連れ出す生徒会長。何故か鍵を閉めて寮内に設置されている用具室の中に入った。
(……何でこの人、こうもたくさんの鍵を持ってるんだろ?)
自在にIS学園の施設を行き来する生徒会長に対して疑問を抱いていると、彼女から有無を言わさない威圧感が発せられた。
「時雨君、今まであなたの態度は仕方ないと思って来たわ。私だってこれまでの女のやり方が異常だってわかってるつもりよ。私に対する反応も過剰だとは思ったこともあるけど、それも眼を瞑って来た。でも、今のは流石に許せないわ」
「だったらどうするんです? 僕を自分の権限を使って政府の研究施設にでも売り渡すつもりですか?」
「それをするつもりはないわよ。でも、虚ちゃんに謝って」
僕は少し黙ったけど、すぐに反論する。
「僕が彼女を助けたのは結果論です。篠ノ之さんがしたことの先を予想した。だから出たんです。それに、お礼をしたんだから何か要求する可能性だって否定できない」
「虚ちゃんはそんなことはしないわよ。あの人は女尊男卑じゃない」
「じゃあ、何がそれを証明するって言うんですか!」
同じ女が言ったってそんなの信じれるわけがない。信じようとするなんて無理がある。
「……あなたがそこまで女を嫌うのは、過去にあなたが殺されそうになったから?」
僕はすぐさま生徒会長の胸倉を左手でつかんで引き寄せる。
「誰に聞いたんですか、それは」
「…北条アキ、あなたが1か月前までいた「北条院」の院長よ」
…先生が? どうしてこんな女に?
わけがわからなかった。どうせこんな女なんかにそのことを明かしたのか。
「と言っても、仔細までは聞いていなかったわ。隠蔽したのが私の父だって聞いたから、詳しいことはこっちで調べた」
「………生徒会長っていうのは他人の知ってほしくないことも知れるんですね」
「私は特別よ。だって私は日本の対暗部組織の長だもの」
………日本政府のスパイ、か。
僕の中にあった彼女に対する信頼度が完全に無くなった。……元々無いに等しいものだったけど。
「そんな人がよく「信じてほしい」なんて言えましたよね」
「そうね。本当ならこんなことは明かさない方が良いに決まってる。でも、「更識」自体が暗部って知っているのは日本政府内でも代々の内閣総理大臣だけよ」
「……秘密を教えたんだから自分のことを信じてさっきの人に謝ってほしい……そういうことですか?」
「察しが良くて助かるわ」
僕は生徒会長を離したけど、それでも彼女に対する警戒は解くつもりはない。
「わかりました。ここでこれ以上は問い詰めたって仕方ありませんし、あの人に謝ってきますよ」
そう言って僕は用具室を出て自分の部屋に向かう。そしてドアの前に立ってあることに気付いた。
(……部屋の鍵、閉められたままだ……)
自分の部屋なのにチャイムを鳴らすことに少し悲しく感じつつも、ボタンを押して鍵を開けてもらう。出たのは布仏さん……ではなくてお姉さんの方だった。
中に入れてもらった僕はドアの鍵を閉めて、本題に入る。
「……さっきは、ごめんなさい」
自分で言っておいてなんだけど、ぶっきらぼうだなぁ。それに許してもらえる保障なんてないし、僕とこの人の……ひいては布仏さんとの関係はこれで完全に切れただろう。
そう思っていると、お姉さんは僕に抱き着いてきた。
(…………ダメだ)
あの時のことがフラッシュバックする。僕をまるで捕食者のような目を向けて今にも襲おうとする女性。僕は縛られていて、ズボンをズラされて秘部に触れられる。それだけじゃない。僕はあの時、秘部を斬り落とされそうになったんだ。「こんなものをつけてちゃだめ。いらないものよ」って何度も言われて。
今にも突き放したい。そう思った時に何故か僕に睡魔が襲ってきた。
ふと何かの感触を感じて目を覚ます。
というか頭の部分が柔らかい。程よい柔らかさを楽しんでいると、ベッドがここまで柔らかくなかったことに気付いた。
慌てて顔を上に向けると、布仏さんのお姉さんがうつらうつらと今にも寝そうになっている。
(……あれ? どうして僕、こんなことになっているんだっけ?)
どうしうことかわからない僕は少し離れると、お姉さんが目を開ける。
「……おはようございます、時雨君」
「おはようございます………って、待ってください。いくら膝枕したからって訴えたところで僕が勝つんですからね! 僕が「膝枕をしてほしい」って言ったわけじゃないんですから!」
「いくら何でもそんなことはしませんよ」
そう言ったお姉さんはいきなり頭を下げる。
「ごめんなさい、時雨君。まさかあそこまで女性に対して嫌悪感を持っているなんて思わなくて」
「……えっと」
「実は、男性は女性に触れるのが好きだって聞いたからあんなことをしたの。時雨君、熱を出すほど倒れたからあわてて介抱して、少しでも楽になってもらえるようにと思って………」
……実際気持ち良かったんだけどね。
「気にしないでください。それなら別にいいんです」
「そうですか? ありがとうございます」
何だろう。この心を洗われる感覚は………呑まれたら間違いなくダメな気がする。
「おまたせ。お昼ごはんができたわよ」
「配膳を手伝います、会長」
「大丈夫。あなたは時雨君の傍にいてあげなさいな」
「いえ、大丈夫なんでその人を見張っておいてください」
お姉さんが邪魔って言うことも否定はしないけど、正直生徒会長が信用できないっていうのが本音だ。
そして準備が終わり、僕たち4人はピクニックなどで使われる4人掛けのプラスチックのテーブルに着く。
「それで時雨君。来週の土曜日は何か予定はあるかしら?」
「大丈夫ですが、何か問題でもあるんですか?」
「そうね。昨日のことでまた話し合わないといけないからすぐにわかる予定としてはそこくらいしか2日間丸々開けることができないのよ」
「………何の話です?」
「時雨君の帰省の話」
僕は思わず食べる手を止めた。
「えっと、僕って帰省できるんですか?」
「ただし、私が随伴することになるけどね。大丈夫。これでも国家代表だから実力は折り紙付きよ」
「へー」
国家代表ねぇ。
目の前の女性みたく、何を考えているかわからない人を国の代表にするなんて物好きも…………え? 国家代表?
「………さっき、暗部組織のボスだって言ってましたよね?」
「……お嬢様?」
「だ、だって正体を明かさないと時雨君は信じてくれないだろうし。お願い時雨君、このことは内緒で―――」
「別にそれはいいんですけど、国家代表がIS学園に在籍することって珍しくないですか?」
ISに関しては何も知らないけど、国家代表というものはどういう存在かぐらいは僕にでもわかる。少なくとも、一学生として在籍するケースは極めて稀だろうってことぐらいは。
「………あー、実はそのことなんだけど……ちょっと大人の事情で話せなくて……」
「…そうですか」
気になったけど、たぶん機密事項とかそういうものなんだろう。そう思った僕はそれ以上聞くのは止めた。
そして日にちは戻り、ようやく土曜日の講義が終わったので、僕は鞄を持って帰る。
「なぁ智久、少し話が―――」
「僕はないのでそれじゃあね」
そう断ってさっさと出て行く。後ろが何か騒がしいけど、僕の興味はそこには無いのでごった返している廊下を通らずに窓から出て近道をする。
何度も注意されているけど、止める気は全くない。だって時間の無駄だから。
寮の部屋に戻ってきた僕はすぐに私服に着替えるとドアがノックされた……布仏さんの場合は鍵を開けるので同居人ではない証拠である。
そうなればと思って無視を決め込み、上下を私服に着替えて着替えや財布などの貴重品を持って外に出ると私服姿の更識先輩がいた。
「………」
「どうしたの、時雨君。お姉さんに見惚れちゃった?」
「そうですね。護衛という割にはかなりおしゃれをしていたので驚きました」
「へ………?」
あれ? 反応が薄い?
一見すれば一般的な青いジーンズにピンク色のシャツ。そしてその上に白いカーディガンを着ている先輩は意外にも合っていたので素直な感想を述べると、意外なそうな顔をする。
「どうしました?」
「ううん。ちょっと予想外なことを言われて驚いただけ」
「そうですか」
でも敢えて言うなら、護衛としてその格好はどうなんだろうか?
そう思っていると表情を読んだのか、先輩は説明してくれる。
「大丈夫よ。この服1つ1つが特注でね、防弾チョッキなどに使われている特殊な繊維が仕込んであるから有事の差異でも動けるわ」
「……ああ、武器は胸に隠しているんですね」
「漫画の読み過ぎよ。流石にそんなことはしないわ」
まぁ、その話は置いといてだ。
鍵をかけてIS学園島と繋がっているモノレールの駅に向かっている時にふと思った。どうしてISがあるのに護衛が必要なんだろう?
「ところで時雨君は人を殺したことがあるかしら?」
「ありませんよ。これでもまっとうな人生を過ごしていますから」
「ISを使ってISを使わない人を制圧するのはかなり難しいの。相手がすぐに降参してくれたらいいんだけど、場合によっては抵抗されるの。そうなったら止む無く攻撃するしかない。でもISで攻撃したら人なんて呆気なく死んでしまう。だから私みたいに武術を使える人間が護衛に就く必要があるのよ」
確かに僕はISを動かせる以外はアルバイトをしていただけのただの孤児だ。剣道とか柔道は体育の時間に少ししただけで、本格的にしたわけではない。まぁ、先輩は強いし問題はない。女尊男卑だから女に守ってもらうなんてって思考は必要ないと思っている。同じく「男が女に暴力を振るうのはサイテー」と思考は廃ってもおかしくはないのに未だに残っているのは何でだろう……っていうか、
「さりげなく僕の思考を読まないでくださいよ」
「てへっ」
「…………」
ゴミを見るような目で見ると、微妙な雰囲気に変化した。