どうやら異世界という場所に来ることが出来たらしい。私は見知らぬ湿地帯にいた。眼下には人の形をした豚のような生物たちが十数万ほどはいるだろう。それらはどこかに向けて移動をしている。その方向は…私の背後の方。私の横を通り過ぎるとき、その巨体が私の体を弾き飛ばす。
《ユニークスキル『
頭の中に選択肢が出現する。私の心の中に集まっている彼女たちの想いがあふれ出しそうになる。頭の中でYESを選択すると、体の中から何かがあふれ出すような感覚に襲われた。実際のところ、私の中に集まっていた彼女たちが霊体という形で姿を現していた。彼らの手には包丁やら巨大な鋏やらを持ちながらも私の合図を待つ。うずうずしている様子を見れば、今すぐにでも殺したいと思っていることがわかる。
右手を上げると
「みんな、楽しくハッピーに殺戮の時間を始めよう」
――――――(ノ・ω・)ノオオオォォォ
振り下ろした。私の合図とともに一斉に豚たちに襲い掛かる。私も私でユニークスキル?という物の内容を確認しながら、豚たちを殺し始める。
《『
呪殺:一度でも攻撃を受けた相手を永続的に呪い、殺します。呪いの強さを自由に変え ることが出来、一生苦しみ続けるだけの物や瞬間的に殺すことが出来るモノまで 様々である。
譲渡:『混合者』に呪殺のスキルを持たせることが出来る。
他にも能力がありますが、現在は上の二つのみが解放されています。残りの能力の解放条件を検索……失敗しました》
『呪殺者』の能力の一つである呪殺を使い、視界に存在する豚たちを呪い殺す。豚を処理する私たちを上空から、影の中から監視する者たちがいた。敵意を見せないモノ、私を殺そうとしないモノには私の
気が付けば、数万匹の豚を呪い殺していた。私はもう疲れたため、もういいかなと思っていたのだが、彼らはまだケタケタケタと笑みを浮かべながら物理的に殺していた。
――――――ケタケタケタケタケタケタ。あー、タノシカッタヨ。でも、チョット物足りないかもネエ。
――――――私の恨みは晴れない。私を殺したあいつと、アリスに危害を加えるやつらをみんなコロス。
――――――……コロス。私を、私達に危害を加えるやつは皆殺しだハハハハハハ。
やっぱり、みんなは優しいな。自分のことを優先させる時もあるけど、私にも気を使ってくれる。あぁ、私の心の中に入ってきたあの時から、私の心は彼女たちがいなくてはダメになってしまっている。依存…そう、依存してしまっているのだろう。
きっと、彼女たちが私の中から消えてしまったら……。
「……奪いつくせ、
《かしこまりました、我が主様》
私の中から彼女たちが消えてしまう。そんな最悪の事態を想像しただけで、私は能力を全て強欲之王に権限を与える。私の体を彼女たちとアモンが使い始める。
《我が主様を脅かす者どもに『
その言葉を無視し、豚たちは一歩私に近づく。…その瞬間、豚の体は何かに食われたかのように足の一部を残し消失していた。それと同時に、また声が聞こえてくる。
《確認しました。ユニークスキル『
今近づいた豚のスキルを得ることが出来たようだった。そのスキルは獲得できると同時に『強欲之王』に投合されたようだった。また彼が強くなってくれたのは喜ばしいね。
今の出来事により私に近づこうとするものはいなくなっていた。誰しもが私から離れていく中、八匹?人?の何かが私に近づいてきた。敵意はわずかにみられるが、気にする必要はないと『
「なんでこんなことをしたのかな?」
「私にぶつかったから。私はスキルを使った。みんなが殺したそうだったから。…貴方は私を殺そうとするの?なら、私、殺すよ、あなたのこと」
「リムル様になんて口の利き方を‼」
「シオン、落ち着け」
「すみません、リムル様」
銀髪の人型をした何かは私になぜこんなことをしたのかを問う。その問の答え方が気にくわなかったのか紫黒色の髪をした鬼?は胸倉を掴みかかろうとするが、銀髪の人型に宥められる。
「うん、じゃ」
「オイオイオイ、一体何処に行くつもりなんだよ」
「え?私を傷つけようとしない人がいる場所かな。私達は人に対する恨みは強い。人と一緒に居たら、みんな…呪い殺しちゃいそうなくらい」
殺意はなく、ただただ事実を述べる。人形だった私は人間に憎悪を見せる。彼らの憎悪は私に影響を与える。いい意味でも悪い意味でも。だが、彼らがいないと私の自我が崩壊する。彼らがいない私など、それこそ人形になり下がる。
「さすがにキミを野放しにすることはできないよ。折角だし、俺のところに来ないか?」
リムル様と呼ばれていた人型は私に言う。
「人はいない?」
「俺たちの町には魔物しかいないよ。とは言っても冒険者が来たりするときはあるけどさ」
「私に敵意を向けない?」
「多分大丈夫なんじゃないかな」
「貴方、名前は?」
「俺はリムル・テンペストだ。キミは?」
「…あ、名前がなくなってる。だから、名無し?」
あの世界の名前は、この世界では名乗れない。なぜならば、あの世界とこの世界は別の世界だから。姿も形も違う。そういえば、私って何者なんだろう?
《『
名前:-
種族:
加護:-
称号:-
魔法:-
技能:
ユニークスキル『呪殺者』
ユニークスキル『混合者』
ユニークスキル『被害者』
ユニークスキル『飢餓者』
ユニークスキル『適合者』
ユニークスキル『先導者』
私のステータスのようなものが頭の中に見える。私はあの時から何も変わっていなかったらしい。ただ大きくなり、動けるようになっただけだったとは。悲しいこと尽くしだ。
「私は名前がなかった」
「そうか、なら俺がつけるよ。そうだな…フェイトっていうのはどうだ?」
「フェイト…運命。あぁ、私は呪い続ける運命にあるのかもしれない」
名前を付けられると体を光が包み込む。数秒もする頃には光が晴れる。すると、またもや声が聞こえてくる。
《名づけにより種族:
私は人形ではなくなったらしい。しかし、その程度のことで私の中にいる彼らは消えることはない。むしろ、彼らだけではなく、この世界に漂う憎悪を持った者たちの心が入り混んで来るようだった。
「名前、ありがとう。私、強くなったみたい。種族が根本的に変わったし、強くなったよ…あれ?」
感謝の気持ちを伝えるために、私に名前を付けてくれた人の方向を向く。しかし、その場所にはスライムしかおらず、それを囲むかのように鬼たちがいた。うん、なるほど。彼がリムル様なんだろう。
「リムル様!どうするんですか、今から
「あー、すまないな」
「どれくらいあれば動ける?」
「それなりにあればいけるぞ」
「分かった。『
《かしこまりました》
空気中に存在する魔素がリムル様?に集まっていく。たくさんの魔素が漂っているだろうしと思ってやってみたが、成功したようだった。ぐたっとスライムの形に戻っていたのが嘘のように戻り、人型に戻る。
「あとは俺達に任せておけ。行くよ」
「はい‼」
ほかの鬼を連れて
「うん、あー、疲れた。ちょっと眠ろうかな」
あの人たちを見届けると、近くにあった木に寄りかかり、眠り始めた。