二度目の転生は転スラの世界だった件   作:ねふてぃー

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プロローグ

 世界はいつも非情で、優しくない。世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ。こんなセリフが頭の中をよぎる。直視したくない現実から目を背けたところで、目の前に広がる現実が変わるわけではない。変わってくれるというのであれば、いくらでも現実逃避をしよう。

 しかし、変わらないというのであれば、向き合おう。それがどんなに…非現実的なことであっても…。

 

 どうやら私は転生という物をしてしまったらしい。らしいというのも、転生した時の記憶が曖昧だからだった。この場所に来る前に誰かと会って話していたような気がするけど、詳しい内容は覚えていない。ただ一つ朧げに覚えていることがあった。「もう一度死んだとき、異世界へと飛ばされる」そんなことを言われた気がした。

 転生してできた新たな私の体、それは人の姿をしていなかった。それだけではなく、話すことも動くことも、表情を変えることすらもできない…。私に用意された新たな体、それは人形だった。

 

(私はなぜこんな姿になってしまっているのだろうか)

 

 私の持ち主だろう女の子に遊ばれながら、私は考える。私で楽しそうに遊んでくれるその女の子の笑顔はとてもまぶしく、表情を変えることが出来ない私も心の中では笑みを浮かべていた。人として生まれ変わることが出来なかった私でも、嬉しいと思えることが出来てとても楽しかった。少なくとも今は…ね。

 

 

 私で遊んでくれた女の子は大人へと変わり、男性と結婚し、子供を産んだ。その子供はまた私で遊んでくれていた。私以外の人形を買ったりして増えていく中、一つの人形の心が私の中に入り込んできた。その人形は私とは違い、持ち主の人から様々なひどいことを受けてきた。人形の心が…私の心を……支配して…。私の意識は闇の底へと飲み込まれていった。

 

 目を開けると、私は空中に浮いているようだった。眼下には私の心の中に入ってきた人形と、その人形で遊ぶッ少年の姿があった。少年の手にはライターやカッターナイフと言った人形に向ける物ではないモノを向けている。私の心の中に入ってくてきた人形の声が頭の中にガンガン響く。

 

―――――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‼こんな痛い目にもう遭いたくない‼助けて、誰か助けて‼

 

 彼女の悲鳴は私以外には届くことはない。彼女の少年に向ける憎悪が心を埋め尽くしていく。彼女の悲鳴と共に、彼女に与えられる苦痛が私にも与えられる。

 

―――――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 

 体を燃やされる痛み、手足をちぎられ腹を抉られる痛み、子供にちぎられ遊ばれる痛み、手足を縛られ水に入れられ、目玉を抉られ耳を切り落とされる。様々な苦痛と共に私の心と彼女の心が混ざり合う。持ち主から受けた暴力を糧に、持ち主や周囲の人にまで呪いをかける呪いの人形へと私は姿を変える。

 

 私と彼女が完全に混ざり合い、私で遊んでくれていた女の子が拾ってきた呪いの人形たちの心が私と混ざり合い、さらに強力な呪いの人形へと変わっていく。気が付けば私の周りでは怪奇現象が起こるようになっていた。丑三つ時と呼ばれる時間帯になると、私の周りには様々な呪いの人形が集まる。私の下に集まるたびに、彼らの心が私の中に入り込んでくる。そのたびに頭の中に声が聞こえてくる。

 

《確認しました。ユニークスキル『呪殺者(ノロイシモノ)』を獲得……成功しました》

《確認しました。ユニークスキル『混合者(アツマリシモノ)』を獲得……成功しました》

《確認しました。エクストラスキル『痛覚無効』を獲得……成功しました。続けて、エクストラスキル『熱耐性』を獲得……成功しました》

《確認しました。ユニークスキル『被害者(カヨワキモノ)』を獲得……成功しました》

 

 誰のかも分からない声を聴きながら、私達はもともといた場所へと戻る。私達が完全に元の場所へと戻った時、私の持ち主である女の子がカッターナイフや米、コップ一杯の塩水と縫い針と赤い糸をもっていた。なんでそんなものを持っているのわけがわからない状態でいると、女の子は突然私の腹をカッターナイフで切り裂き、中にはいいていた綿を取り除く。今まで私を大事に扱っていてくれたにも関わらず、いきなりこんなことをするなんて…。やっぱり人間は信用できない…。聞こえてきた声の中に痛覚無効を獲得したという声が聞こえていた。それのおかげが、痛みは一切ない。

 が、今までが幸せだった分、私が彼女に恨みを持ってしまったのだった。きっと、それが合図だったのだろう。私に近づこうともしなかった人形たちの憎しみや恨みの感情が私の中に入り込んでくる。混ざり合い、憎しみは殺意へと変わる。私という魂の籠った人形は殺意を糧に動き始める。

 

 彼女が何をやろうとしているのかは知っている。彼女は私の知っている手順のとおり、私に名前を付ける。『アリス』と、私に名前を付けた。私を冷たい水の張った桶の中に入れる。最初の鬼は彼女らしい。家じゅうの電気を消し、テレビをつける。10秒経った後、にカッターナイフを持った彼女が私を見つけて腹を刺す。

 次は私が鬼らしい。彼女はどこかへと隠れてしまった。

 

――――――それじゃあ、みんな。今からあの子に復讐する時間が始まるよ。

 

 私の声と共に定位置に戻っていた人形たちがむくりと立ち上がる。彼らは私の心に入り込んできた呪いの人形たち。様々な恨みを持った彼らは包丁やらサバイバルナイフやらをもって私の後に続く。私の体の中に彼女の爪が入っているため、ある意味私と彼女はつながっているということになる。

 

《確認しました。ユニークスキル『結合者(ツナガリシモノ)』を獲得……成功しました》

 

 彼女の部屋へと一歩ずつ近づいていく。当然、彼女の下へと行くのは私だけではないので、彼女には複数の足音が近づいてきている音が聞こえることだろう。そして、彼女が隠れているクローゼットの扉を私は一度、叩き水の入った桶へと戻る。私はこのゲームが終わり次第燃えていなくなるだろう。しかし、私の心の中に残った憎悪と殺意はいつまでたっても消えることがないだろう。

 

「私の勝ち、私の勝ち、私の勝ち」

 

 彼女はどうにかこうにかしてクローゼットの中から出ることが出来たようだった。コップの残った塩水と口に含んだ塩水をかけ、私に対して勝利宣言を行った。一人かくれんぼが終わった後、私達は外へと放り出されると、ガソリンをぶちまけられる。いつも間にか持っていたライターに火をつけると、私達の下へと落とした。

 先ほど手に入れることが出来た熱耐性も関係がないかのように、全身を焦がす。

 

《確認しました。エクストラスキル『熱耐性』をユニークスキル『適合者』に進化させます……成功しました》

 

 あぁ、あの人が言っていたことはこういうことだったんだ。二度目の死を感じて初めて知ることが出来た。体が消失していくような感覚と、手の届かない場所にある微かな光。私はきっとその場所を目指していくのだろう。私の心の中にある彼らの想いを胸に、私はこの世界から消失した。

 

《確認しました。ユニークスキル『先導者(ミチビクモノ)』を獲得……成功しました。続けてユニークスキル『結合者』を究極能力(アルティメットスキル)強欲之王(アモン)』に進化させます……成功しました》

 

 あぁ、よくわからない声が頭の中に響く。…でも、これできっと私を虐めるやつらを殺すことが出来るんだろう。私はもう…傷付きたくないだけなのだから。

 か弱き私を殺そうとするのであれば、私はそれらを呪います。

 


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