――――奉仕部は今日も駄弁る。
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「夕方にあいつらが来たのは、まぁなんとなく予想できてましたが、まさかあなたもとは、思いもしませんでした……」
「ああ、やはり、あの子らも来ていたのか。今日は誰も部室の鍵を取りに来なかったからな」
「そうなんすか……。ごほっ……」
「いや、すまないな。連絡はもらっているのだが、こうも顔を見ていないとやや心配でね。こうして、つい来てしまったよ」
「……彼女か、あんたは。いや、べつにいいすけど」
「ふむ。もう体調のほうはいいのかね」
「まぁ、よくはないですけど、昔から熱とかには強いほうなんで」
「……君な、病人というなら、それらしくしていたまえよ。ましてや、インフルエンザともなればなおさらだろう」
「や、でも先生いるし……」
「ふふっ。私のことは気にしてくれるな。今日は先生じゃなく、君の知人である一個人、ただの平塚静として会いに来たんだ」
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「さて、比企谷。聞けば、今夜は両親不在に妹も外泊というではないか」
「ええ、まぁ。それで、夜まで看病するっていう心配性をさっき、やっと帰らせたとこです」
「そういうわけで、今夜は不肖この私が、君の看病を務めよう。体よく、明日は土曜日。私も仕事はない」
「……はい?」
「うん、大船に乗ったつもりでいてくれ」
「…………はい?」
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「比企谷ー。なにかすることないのかー、比企谷ー」
「いや、まぁ、特には。ほとんどあいつらが片していってくれたんで……」
「つまらないぞー、比企谷ー」
「あんたホントなにしに来たんだ……」
「…………」
「…………」
「……チャイムが、鳴ったぞ」
「まぁ、そうですね……」
「……誰だろうな」
「……誰でしょうね」
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「あっれー、静ちゃんじゃん。どうしてここにいるの?」
「いや、それはこちらのセリフだぞ、陽乃」
「私? 私はフツーに雪乃ちゃんから比企谷君のこと聞いたから、からかいに、もとい看病しに来てあげたんだよ」
「……本音、隠す気ないだろ、陽乃」
「な、な、なんか増えてやがる……。ごほっ、ごほっ……」
「あ、比企谷君。ひゃっはろー」
「俺がなにしたってんだ……。恨むぜ、神様……」
「こんなに綺麗なお姉さん二人の、いったいいなにが不満なんだかねー」
「それは、まぁ、私と陽乃だからの一言で解決する疑問じゃないのか?」
「あはっ、それもそっか」
「わかってんなら、帰れよぉ……!」
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「げほっ、げほっ……。ずびーっ……」
「ほらほら、大声出すから。横になって、あったかくしようね」
「うぅ……」
「汗拭いて、冷えピタ貼って。ついでに熱も計っとこっか」
「……はい」
「……うん。八度五分。ダメだよ、静ちゃん。ちゃんと寝かせてなきゃ」
「あ、ああ。面目ない」
「行きしなにポカリとアイスも買ってきたから、欲しかったら言ってね」
「じゃ、じゃあ、ポカリ……」
「はいはーい。ポカリね。……はい、どうぞ。ゆっくり飲みなね」
「す、んません……。げほっ……」
「いいよ、いいよ。君、病人だし。私、お姉さんだし。ほら、じゃあ、目閉じて、もう寝ちゃおう。ね」
「は、い……」
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「しかし、驚いた。存外に献身的な看病をするのだな、陽乃」
「そりゃ、ねぇ。うん、病気のときくらいはね」
「そうか。私にはできないことだったから、少し感心したよ」
「まぁ、なにもできなくても、誰かがそばにいてくれるだけで気が楽になることもあるし」
「そう、か……」
「さて、お台所借りて、なんか作ろうよ。明日土曜だし。実はお酒持ってきてたんだー」
「ふむ。やれやれ……」
「えへへー」