ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件 作:クロム・ウェルハーツ
マシュが宝具を使えるようになったよ、やったね!
本来ならお祝いするべきなんだろうけど、生憎、炎上しまくっている(比喩じゃない)冬木じゃケーキを売っている店なんてものはない。そんな冬木で出来るようなことと言えば、骨集めとダイエットのためのマラソンぐらいなもの。
つまり、冬木から一刻も早くカルデアに戻らないといけない。でも、その前に立ち塞がるのは、あのアーサー王。今でこそアーサー王と言えばセイバーが出てくるようになったけど、昔はアーサー王と言えば男が出てくるものだったのじゃ。え? 知ってる?
まあ、ともかく、冬木最大の脅威のアーサー王に立ち向かって勝って冬木の大聖杯を手に入れなくちゃいけない訳で……。
アーサー王に勝つためには体調をしっかり整えなくてはいけない。
そのための小休止をとる。マシュが用意した蜂蜜のたっぷり入ったお茶(意味深ではない)と所長のドライフルーツ(意味深ではない)を食べて準備は万全。
これは余談だけど、休憩途中で出会った黒っぽくて怪物っぽいのとは気が会いそうだったのに、所長の命令で撃破させられてしまった。ラフムは悲しい(ポロロン)
怪物っぽいのを撃破したラフムたちは洞窟の中を進む。変動座標点0号とカルデアでは定義されていた場所だ。洞窟の中を進んでいくと、とても開けた場所に出た。体育館ほどの広さだ。いや、本当に大きい。
そして、その中心には上へと魔力っぽいのが立ち上がっている大きな穴。ラフムは魔術師でも何でもないし、魔術の素養もなかったから魔力かどうかは分からない。けど、なんとなくヤバみを感じる。直感スキルとかないけど、ラフムの勘は型月限定でよく当たる。例えば、オルガマリーにビンビンに死亡フラグが立っていることを彼女のデータが出た直後に見抜いたりしたし。
と、隣にいる所長の喉がゴクリと鳴った音がラフムの耳に聞こえた。それにしても、耳は見当たらないのに、なぜ、聴覚があるのだろうか? 教えて、ティアマトママ!
ラフムがバブみを感じているのは置いといて、なぜ、所長が喉を鳴らしたのか。原因は目の前に見える大聖杯だ。
「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……」
呆然と呟く所長に答えるようにマスターのウェアラブル端末から音がした。Dr.ロマンだ。
「資料によると、制作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない
「悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ」
チャチャッチャ、チャッチャン!
セイバーが現れた!
RPGっぽく頭の中でBGMを鳴らす。
皆! サントラは予約したかい? ラフムは勿論した。けど、サントラが発売される前にトラックに轢かれた。歩きスマホはダメ、絶対!
そんな思考を全く表に出すことなく、ラフムは洞窟の広間の中、ちょっとした丘のようになっている場所に立つアーサー王(オルタちゃん)を見上げる。第三再臨後の姿ならば、下から覗けばドレス中まで見れたかもしれないというのに、今のオルタちゃんは第二再臨後の姿。やはり、王は人の心が分からない。
『セイバー。何も訊かずに鎧を脱げ』と宣いたい。
「なんて魔力放出。あれが、本当にあのアーサー王なのですか?」
「間違いない。何か変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサーだ。伝説とは性別が違うけど、何か事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子じゃないと王座にはつけないだろ? お家事情で男のフリをさせられてたんだよ、きっと。宮廷魔術師の悪知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんと趣味が悪い」
「え……?」
ラフムとキャスニキを前にして、マシュとロマンが話している。『マーリンはほんと趣味が悪い』……よく分かる。一体、マーリンにどれだけの諭吉が理想郷に永久に閉ざされたというのか。思い出したくもない。
ロマンの言葉に何度も頷きそうになった自分を止めて、オルタちゃんから目を離さないようにする。あわよくば、鎧の隙間からという感じの目線をやるが、流石はアーサー王。アヴァロンを持ってきてないのにも関わらず鉄壁だ。おい、誰だ? 絶壁って言ったのは。カリバーすっぞ。
隣でカチャリと軽く鎧が触れ合うような音がした。マシュだ。
ラフムの隣に並んだマシュも気を取り直したようにオルタちゃんを見つめる。
「あ、ホントです。女性なんですね、あの方。男性かと思いました」
『ええー? ほんとにござるかぁ?』とマシュに言おうとしたけど、生憎、ラフムの口からは人語は出てこない。ミニクーちゃんみたいに可愛くデザインして欲しかったなとティアマトを恨むけど、あとの祭り。
仕方ないから隣のクーちゃんが話すのを聞く。
「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃がバカみてぇに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」
「ロケットの擬人化のようなものですね。……理解しました。全力で応戦します」
「おう。奴を倒せば、この街の異変は消える。いいか、それはオレも奴も例外じゃない。その後はお前さんたちの仕事だ。何が起こるかわからんが、できる範囲でしっかりやんな」
と、こちらを見つめたまま動かなかったオルタちゃんの口が動いた。
「ほう……面白いサーヴァントがいるな」
「なぬ!? テメェ、喋れたのか!? 今までだんまり決め込んでやがったのか!?」
「ああ、何を語っても見られている。故に案山子に徹していた。だが……面白い。その宝具は面白い」
ゆっくりと、ラフムたちを威圧するようにオルタちゃんが剣を構えた。慌ててマシュが盾を構え直す。
「構えるがいい、名も知れぬ娘。まずはお前からだ。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう! そして、その後は……貴様だ、化物。」
オルタちゃんと目があった。ライオンを思わせるような目だ。隣のクー・フーリンがランサーなら、『この人でなし』と言われようが彼を餌として彼女の前に投げ込むことをラフムは辞さない。それほどに怖い。
「化物。貴様は……貴様だけは生きては返さん」
「ラフムが何をしたって言うんだ!」
「ソレは廃さなくてはならないものだ」
「え?」
「カルデアのマスターよ。貴様の隣のソレは人類と共にはあってはならないものだ。いや、この世にあってはならないものだ」
「でも……ラフムはいい奴だ! こんな見た目だけど、オレたちを守ってくれた。今もこうやって──」
「それが何の保証になる? 断言しよう。ソレはピクト人と同様に排除しなければならない……“敵”だ」
マスターは唇を噛み締める。反論の材料を探しているのだろう。
出会って数時間しか経っていないラフムに対して凄い信頼を覚えているマスターに首を横に振って見せる。信頼していた弟子にアゾられる
まあ、ラフムがマスターに向けた首振りの意味は『人を簡単に信用したら痛い目を見るよ』という親心のようなものだ。
「ラフム……そうだよな」
「^?」
「セイバー、オレはラフムを信じる! ラフムは『自分は人類の敵じゃない』って首を振ってくれた。お前の言うことは間違っている!」
「マスターの言う通りです。見た目で判断するような方にはラフムさんのことは何一つ分かりません!」
「……まあ、なんだ。一応、オレは坊主のサーヴァントとしてやってるから、坊主の方針には従う」
皆……ラフム、嬉しい( *´艸`)
あと、
「所長! 所長も言ってやってください!」
「へ? え? 私?」
「はい! 所長です!」
マスターとマシュの言葉で退けなくなったのだろう。心底、嫌そうな顔をしながら、所長も言葉を口にした。
「えっと……その……えーっと……そう! 人理を守る意志がサーヴァントにないと召喚されないからコイツは大丈夫! ……だと思う」
全く信用されていない。ラフムは悲しい(ポロロン)
「話は平行線を辿る、か。なら、問答は終わりだ」
剣を腰に構え直したオルタちゃんの体から黒い魔力が放出された。
オルタちゃんの魔力が気が高まるぅ……溢れるぅ……。
カリバーだね、わかるとも!
「来ます……マスター!」
「ああ、一緒に戦おう!」
「はい! マシュ・キリエライト、出撃します!」
マシュが一歩前に出て盾を構える。それとオルタちゃんが剣を振るのは同時だった。
「エクスカリバー・モルガァアアアン!」
「マシュ! 宝具を!」
「了解しました! 宝具展開します!」
マシュの前に巨大な魔法陣が描かれる。
「あぁああああ!」
洞窟の中にマシュの声が響く。いやはや、こうやって聞くと女の子の悲鳴っていいものだね。青髭の旦那や龍ちゃんの気持ちが分からないでもない。漫画版にはトラウマを植え付けられたけど。あれはR18Gじゃない?
「耐えた……か」
少しブルーになっていると、極光が止まった。マシュが耐え切ったようだ。
マシュの頭を撫でてあげるべきか、それとも、オルタちゃんへの攻撃を優先させるべきか悩んでいると後ろから指示が聞こえた。マスターだ。
「ラフム! ケタケタ笑い!」
「:q:q:q!」
「キャスター! 宝具使用!」
「応ッ!
「くっ……」
セイバーが纏う魔力が消え、それを狙ったようにキャスニキの
「ラフム!
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
という感じでラフムはオルタちゃんへと爪を振り下ろす。
「キャスター!
キャスニキが魔力の弾を打ち出す。
「マシュ!
「了解しました、マイマスター」
『これで倒れて!』という掛け声と共にマシュが盾でオルタちゃんへとタックルする。
マシュの攻撃で地面に転がされたオルタちゃんだったが、何ともないように立ち上がる。けど、その体は黄金色の粒子へと変わっていっていた。なんて我慢強い方だ。
「フ……知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気でいたが、己が執着に
「あ? どういう意味だそりゃあ。テメェ、何を知っていやがる!」
「いずれ貴方も知る、アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー。聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」
そう言い残してオルタちゃんの体は光の粒子となって消えた。
「オイ待て、それはどういう……おぉお!?」
そして、それはキャスターも同じ。
「やべえ、ここで強制帰還かよ!?」
彼の体も金色に光り消えていく。
「チッ、納得いかねえがしょうがねえ! 坊主、あとは任せたぜ! 次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ!」
いい笑顔を最後に浮かべてキャスターも消えた。
「セイバー、キャスター、共に消滅を確認しました。……わたしたちの勝利、なのでしょうか?」
「ああ、よくやってくれたマシュ、藤丸くん! 所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長は?」
後ろでブツブツ呟いていた所長にマスターが声を掛ける。
「所長?」
「え? そ、そうね。よくやったわ、藤丸、マシュ。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。まず、あの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因は、どう見てもアレのようだし」
「はい、至急回収……な!?」
水晶体を回収しようと足を踏み出したマシュだったが、突然、足を止めて上を見上げる。それは、オルタちゃんが始めに立っていた場所と同じ場所。
「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適正者。まったく見込みのない子どもだからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」
緑色の服に身を包み、柔和な微笑みを浮かべた男がそこに立っていた。