ラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件 作:クロム・ウェルハーツ
FGO廃人だった元人間は歩きスマホでトラックにはねられた!
気がつくと、FGO廃人はFGO第七章に出てくるティアマト神の仔、ラフムになっていた! そう、ラフムは悠●碧の子ども。やべェ、めちゃんこ興奮する。
と、話は逸れてしまったけど、転生したら醜悪な怪物ラフムで、裏切り者として他のラフムに殺されたと思ったら、目の前にはFGOの主人公であるぐだ男とマシュマロサーヴァントのマシュ・キリエライトがいた。
サーヴァントとして召喚されたんだね、わかるとも!
以上が前回までのラフムに転生したと思ったら、いつの間にかカルデアのサーヴァントとして人理定礎を復元することになった件……いや、タイトル長すぎ。とまあ、そんな感じでお送りしたあらすじ。
一言で言えば、サーヴァント・ラフムに転生した。
ラフムはゆっくりと首を回す。
ほうほう。燃える街、それも、現代の建築様式だ。ガラスが沢山使われていたであろう高層ビルに、鉄骨が中から出ている鉄筋コンクリート。根元から折れている高層ビルが燃えている様子を見て、ラフムは理解した。ついでに言うと、ラフムに対してリアクションを起こさなかったぐだ男とマシュを見てラフムは理解した。
ここ、ファスト風土化した冬木じゃね? 特異点Fじゃね?
更に言うと、お腹が見えるエロ鎧を付けているマシュの様子からFGOの物語が始まって間もないことも予測される。マシュは霊基再臨をするごとに鎧がグレードアップしていって、露出が減る、減ってしまう。だが、概念礼装で脱いでくれるから大好き。けど、我が王はマシュと同じように霊基再臨をするごとに着込むくせに、概念礼装で脱いでくれない。カワイイ系統の概念礼装ばかりだ。やはり、王は人の心が分からない。
深い考えから浮上したラフムがぐるりと首を回して、ぐだ男とマシュを見つめると、後ろの方から『ヒッ!』という可愛らしい声が聞こえた。声を上げた人物をジッと見つめる。
「所長。このサーヴァント、所長の方を見つめていますよ」
ぐだ男が話しかけるのは、ぐだ男とマシュの後ろに回り込んでいた白髪の女性。聖晶石召喚をガンガン回せる高貴な家の子であるオルガ……オルゴンエネルギー所長だ。同時にラフムは先ほどの予想が当たっていたと確信した。オルガマリーは炎上汚染都市で別れた人物だし。
それにしても、壮絶な最期を遂げた所長に会えるとは思ってもみなかった。これは形見としてタイツを頂くしかない。
ラフムは一瞬で足を何度も動かして彼女の後ろに回り込む。
「1:@」
「え?」
はやく脱いでください。まずはタイツから焦らすように。
そういう意志を籠めて、オルガマリーに鋭く尖った爪を突き付ける。
「待ってくれ!」
ラフムを止める声が聞こえた。
「その人は仲間だ」
ぐだ男はじっとラフムを見つめてくる。
そうか、君も所長のタイツが欲しかったのか。そうと気づけば、ラフムは譲るしかない。だって、そうだろう? 未来ある若者にタイツを譲るのは世の習い。
ラフムが腕を下すと、ぐだ男はほっと息を吐いた。
「所長、大丈夫ですか?」
「な、なな……」
オルガマリーが狼狽するのも分かる。見知らぬ人間、もとい、見知らぬラフムから、いきなりタイツを要求されたら、そうなるだろう。
「しかし、なぜ、この方は所長に爪を突き付けたのでしょうか?」
「敵だと思ったんじゃないかな」
「つまり、マスターを守るため所長を排除しようとしたのだということでしょうか?」
「ああ。オレはそう思うよ」
なにやら、ラフムの行動は好意的に捉えられているみたいだ。しかし、困ったな。否定しようにも言葉を話すことができない。ラフムの口は人間とは違って縦についている。ついでに言えば、舌は人間と同じ方向、つまり、地面と水平についている。前世の感覚を覚えているラフムは、他のラフムと違って上手く動かせないのは困った所だ。
「シーキュー、シーキュー。もしもーし! よし、通信が戻ったぞ!」
と、突然、ぐだ男が手首に着けているウェアラブル端末から音がなった。同時に空中に展開される通信画面。セイバー・ウォーズの元ネタみたいだ。そこに映っていたのは、ラフムが心の底から会いたいと思っている人物、ロマニ・アーキマンだった。運営、実装はよ。貯金を溶かす覚悟はいいか? オレはできてる。
こっそりジョジョ立ちを決めていると、通信画面の先のロマニの口が動いた。
「ふたりともご苦労さま、空間固定に成功した。これで通信もできるようになったし、補給物資だって……」
「はあ!? なんで貴方が仕切っているのロマニ!? レフは? レフはどこ? レフを出しなさい!」
「うひゃあぁあ!?」
ずずいと進み出るオルガマリー。ラフムを見て、ぐだ男とマシュの後ろに隠れた人物と同一人物とは思えない。
「しょ、所長、生きていらしていたんですか!? あの爆発の中で!? しかも無傷!?どんだけ!?」
「どういう意味ですかっ! いいからレフはどこ!? 医療セクションのトップがなぜその席にいるの!?」
「……なぜ、と言われるとボクも困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚してるし。でも他に人材がいないんですよ、オルガマリー。現在、生き残ったカルデアの正規スタッフはボクを入れて二十人に満たない」
オルガマリーの目が大きく見開かれる。
うん? なんでオルガマリーの後ろにいたラフムがオルガマリーの表情を分かるかって? 決まっているでしょ。横からそーっとオルガマリーの左側に腰を曲げた状態で身を乗り出しているからだ。
そんなラフムに気付くことなく、オルガマリーは通信先の人物と話を続ける。
「ボクが作戦指揮を任されているのは、ボクより上の階級の生存者がいないためです。レフ教授は管制室でレイシフトの指揮をとっていた。あの爆発の中心にいた以上、生存は絶望的だ」
「そんな―――レフ、が……?」
一瞬、呆けたオルガマリーだったが、悲しみを抑えて、疑問を口にする。
「いえ、それより待って、待ちなさい。生き残ったのが20人に満たない? じゃあマスター適性者は? コフィンはどうなったの!?」
「……47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助ける事ができても、全員は―――」
「ふざけないで、すぐに凍結保存に移行しなさい! 蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」
「ああ! そうか、コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!」
ドタバタとする通信先を見ながら、マシュが呟く。
「……驚きました。凍結保存を本人の許諾なく行う事は犯罪行為です。なのに即座に英断するとは。所長として責任を負う事より、人命を優先したのですね」
「バカ言わないで! 死んでさえいなければ後でいくらでも弁明できるからに決まってるでしょう!? だいたい47人分の命なんて、わたしに背負えるハズがないじゃない……! 死なないでよ、たのむから……! ……ああもう、こんな時レフがいてくれたら……!」
自分の腕で自分を抱き締めるオルガマリー。ラフムがこの逞しい4本の腕で抱き締めようと考えたけど、それじゃあ、話が進まなくなること請け合いなので、動かず黙って通信先の話を聞く。
「……報告は以上です。現在、カルデアはその機能の八割を失っています。残されたスタッフではできる事にかぎりがあります。なので、こちらの判断で人材はレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています。外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直し……というところですね」
「結構よ。わたしがそちらにいても同じ方針をとったでしょう。……はあ。ロマニ・アーキマン。納得はいかないけど、わたしが戻るまでカルデアを任せます。レイシフトの修理を最優先で行いなさい。わたしたちはこちらでこの街……特異点Fの調査を続けます」
「うぇ!? 所長、そんな爆心地みたいな現場、怖くないんですか!? チキンのクセに!?」
「……ほんっとう、一言多いわね貴方は」
ラフムに怯えて部下の後ろに隠れるほどのオルガマリーだ。この炎上都市で行動するということはどれだけの恐怖を彼女に与えるのだろうか。愉悦部員ならば、きっと片手にワインを用意するに違いない状況だ。
「今すぐ戻りたいのは山々だけど、レイシフトの修理が終わるまでは時間がかかるんでしょ? この街にいるのは低級な怪物だけだと分かったし、デミ・サーヴァント化したマシュがいれば安全よ。事故というトラブルはどうあれ、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。これより藤丸立香、マシュ・キリエライト両名を探索員として特異点Fの調査を開始します」
「LAHMU、f?」
「ひひゃあ!」
存在を無視されたので、オルガマリーの耳元で『ラフム、は?』と囁くと、とても可愛らしい声を上げてオルガマリーはぐだ男とマシュに抱き着いた。
「な、なな……」
「所長、こいつのことを忘れちゃダメですよ。オレとマシュと、それから、こいつで所長を守ります」
ぐだ男はそう言いながら、足がガクガクしているオルガマリーを支える。
「ちょっと待って! なんだい、そいつは? さっきから所長の横にチラチラ映っていたけど、変な形のオブジェじゃなかったのかい?」
「えっと、オレのサーヴァントらしいです」
「サーヴァント!? サーヴァントだって!? ……ホントだ。サーヴァント反応があった」
「……モニターを見ていなかったんですね、Dr.」
肩を落としたマシュだったが、すぐに真剣な顔になって通信画面の向こうにいるロマニに向かって話を始める。
「この方はマスターが召喚したサーヴァントです」
「いやいやいや、そんなバケモノが……いや、待てよ。もしかしたら、スキル“無辜の怪物”で姿を──」
「召喚した時に一緒に端末に登録されたマテリアルには、そんなスキルは書いてないですね」
「じゃあ、何なんだ! バケモノだとでもいうのかい!? というか真名は?」
「あー。そう言えば、聞いてなかった。えっと、ごめんね」
ラフムは気にするなというように肩を竦める。
『マテリアルを読み上げれば早いんじゃないかな?』とか言っている礼儀知らずのロマニは後で覚えていやがれ。貴様が隠しているお菓子を勝手に食ってやるからな。
「オレの名前は藤丸立香。君の名前を教えてくれ」
「ラァ……」
「ラァ?」
「フゥ……」
「フゥ?」
「ムゥウウウウ!」
「ラフム! あなた、ラフムっていうのね!」
「g@fffff!」
ぐだ男と手を取り合って回ってみる。こやつ、思ったよりもノリがいい……いや、思った通りか。『ネロ、いいよね』って叔父上に言えるほどだもんな。
「ラフムというそうです!」
「凄いな、君は!」
と、ロマニの言葉を遮り、オルガマリーが疑問を口にする。
「待ちなさい。こいつ、危険じゃないの?」
「あー、多分、大丈夫です」
「でも、わたしに爪を向けたのよ!」
「マスターである藤丸くんのことを認識して、その繋がりから同じマスターを持っているマシュも仲間だとラフムは判断したのでしょう。ですが、所長には藤丸くんとの直接的な繋がりがなかった。だから、敵だと判断したんでしょうね」
「それなら、わたしに攻撃してくるかもしれないってこと?」
「マスターの指示には従ってくれると思います。なにせ、カルデアの召喚システムは人理を救うことに賛同している英霊でないと呼べないようになっていますから。ですので、サーヴァントの責任者であるマスター、つまり、藤丸くんが所長に攻撃しないように言えば、聞いてくれるんじゃないかと」
「わかりました。ラフム、この人は味方だから攻撃しないように」
「qez……」
「分かってくれたみたいです」
「ちょっと待ちなさい! そいつ、今、『分かった』という意味の言葉を発していないに違いありません! そうでしょ、マシュ!」
「ラフムさんの言葉は分かりません」
「そうですけど! でも、女性なら分かるでしょう! こいつ、絶対に『タイツ……』って言っていたに違いありません、間違いなく!」
「そんなバカな……英霊が所長のタイツを狙ったっていうんですか?」
「だって……だって! そんな感じがしました!」
どうやら、オルガマリーは混乱の極みにいるらしい。この世界が存亡の危機にあるのに、そんな欲望を前面に押し出した言葉を発するような人間がいる訳ないでしょう。まあ、ラフムは人間じゃないんですけどねwww
それにしても、ラフムの言葉を理解できていないのに、気が付くとは流石はカルデアの所長。肩書は伊達じゃない。
「そんなことよりも、これからの方針について話しましょう」
「そんなことッ!?」
ロマニの言葉に『やっぱり、わたしの味方はレフだけ……』と呟くオルガマリーだったが、気を取り直してロマニに指示を下す。
「現場のスタッフが未熟なのでミッションは、この異常事態の原因、その発見にとどめます。解析・排除はカルデア復興後、第二陣を送りこんでからの話になります。キミもそれでいいわね?」
「発見だけでいいんですか?」
「ええ。それ以上はあまりにも危険です」
チラとオルガマリーはロマニへと目を向ける。オルガマリーを見つめたロマニは一つ頷いた。
「了解です。健闘を祈ります、所長。これからは短時間ですが通信も可能ですよ。緊急事態になったら遠慮なく連絡を」
「……ふん。SOSを送ったところで、誰も助けてくれないクセ……顔を近づけるのは止めなさい! あなたが守ってくれるの? そう、なら、まずは、わたしから離れなさい!」
拒絶は寂しい。寂しいとラフム死んじゃうの(´・ω・`)
「所長?」
「なんでもありません通信を切ります。そちらはそちらの仕事をこなしなさい」
「……所長、よろしいのですか? ここで救助を待つ、という案もありますが」
「そういう訳にはいかないのよ。……カルデアに戻った後、次のチーム選抜にどれほどの時間がかかるか。人材集めも資金繰りも一ヶ月じゃきかないわ。その間、協会からどれほど抗議があると思っているの?」
オルガマリーは億劫そうに長い髪をかき上げる。
「最悪、今回の不始末の責任としてカルデアは連中に取り上げられるでしょう。そんな事になったら破滅よ。手ぶらでは帰れない。わたしには連中を黙らせる成果がどうしても必要なの」
オルガマリーはラフムたち三人を見つめる。
「……悪いけど付き合ってもらうわよ、マシュ、藤丸。そうね、あなたにも働いてもらいます、ラフム。とにかくこの街を探索しましょう。この狂った歴史の原因がどこかにあるはずなんだから」
『さっさと貯金全部パーッと使い切った方がいいですよ。このステージが終わる前に』と言いたいラフムだったが、残念ながら言葉は話せなかった。