ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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ホント長らく放置して申し訳ないです。
その上、一話にまとめようとしましたがまとめきれず三話に渡る始末で。
連続投稿になりますが、あらためてお願いします。


第九話 生物兵器

『間違いない、ルイズはん、自分はB-rim-Lなんや。』

寧夢の語った言葉がルイズの頭の中でグルグルと迷走する。

6000年前、ハルケギニアのメイジに魔法を授けた、神と同一視される偉人、最初のメイジ、王家の始祖にして、彼女から見ても先祖に当たる人物、始祖ブリミル。

「え?ブリミルって・・・わたしが始祖ブリミルってこと!?そんなわけないわよ!!」

「ブリミルやない、『B-rim-L』よ。」

寧夢は訂正するが、音で言えば一文字、それも母音しか違わない。

「『B-rim-L』って、たしか戦前の生物兵器よね?でも、あれってウワサでしょ?それも戦争の時に失われたって話じゃなかった?」

ジョーイが寧夢の言う『B-rim-L』についてそう尋ねる。

「ねえ、その『ぶりむる』って何なの?生物兵器って何?」

ルイズは『B-rim-L』というものに不吉な予感を感じたが、聞かなければハルケギニアに帰れないと思い、そう尋ねる。

「ルイズはん、落ち着いてな、一つずついこ?

 まず、生物兵器ってとこからね。デスクローは知っちゅうよね?」

デスクロー、ルイズが州に来て最初に見た怪物だ。

「ええ。アレがその『生物兵器』って?」

「見たんやったらわかるよね?一応言うとくけど、あんなん簡単に狩り殺すミブロウ団におった才人がおかしいんやけんね?デスクロー、昔の戦争ん時は歩兵一個中隊全滅させたり、戦車小隊潰したりしよったんやけん。」

ルイズの頭の中で、寧夢の言ったデスクローの強さが想像される。

ハルケギニアでもかつて使われていた戦車・・・タンクでなくチャリオットの方はいまいちピンと来ないが、歩兵一個中隊というと戦慄を覚える。

ハルケギニアにおける歩兵一個中隊は地球における一個中隊と違い、すし詰め状態の隊列を組むため構成する兵の数は最終戦争の頃の歩兵中隊に比べて二倍ないし三倍の300人ほどだ。

この中隊と戦うとなればメイジであってもトライアングル以上が必要となる。

そして忘れてはならないのが軍隊の規模、かつて州が属していた『太陽の国』の軍隊は全てが歩兵というわけではないが総勢20万、対してハルケギニアのトリステインにおいて、たとえばルイズの実家、ヴァリエール公爵領が常備している兵力は1000名になり、うち300となると約三分の一にあたるのだ。

余談だが、トリステイン王国の常備軍でも兵力は2000、諸侯に呼び掛けて限界まで軍をかき集めても兵力は1万ないし2万が関の山である。

そして城郭街に帰ってきた時にジョーイが話していたことから、あのデスクローを操る術があるのは明白だ。

最終戦争の前は、あの怪物を猟犬のように意のままに操っていたのである。

寧夢はルイズの顔色の変化から、デスクローがどれだけ恐ろしいか理解したことを察して続きを話す。

「他にも小太郎みたいなスーパーミュータント・・・こっちは偶然やったみたいやけどね、いろんな動物作り出して戦争しようとしちょったんよ、その一つが『B-rim-L』。

 まぁ、ウチが知る限りじゃ、B-rim-Lが実戦投入されたことはなかったみたいやけどね。」

ルイズは寧夢の話から生物兵器というのを、大きくはドラゴンやグリフォン、小さくは馬のような動物の品種改良に近いものと考える。

ただ、その品種改良の方向性がおかしいというだけで。

「何となくだけど、生物兵器ってのが戦争に使うための生き物っていうのはわかったわ。

 それでそのぶりむるってのは何なの?」

ルイズは核心を寧夢に尋ねる。

直感的に彼女はB-rim-Lが始祖ブリミルを指すか、または関係する言葉で、自分の魔法が何もかも爆発する原因であり、そして召喚魔法の失敗で州に来てしまった原因、すなわち帰還する方法に関わる重大なものだと感じていた。

「B-rim-Lっちゅうのは、いわゆる超能力者を人の手で作ろうとした研究の、唯一の成功体のことや。」

寧夢はそう言って説明を始める。

 

 最終戦争前、州ではいわゆる『超能力』が研究されていた。

研究者に偶然、本物の超能力者が混ざっていたことから始まったのだろうというのが寧夢の推測だ。

その研究によって、手を触れずに物を動かしたり、人の考え、正確には微弱な電子信号を読み取ったり、逆に自分の脳内の電子信号を対象の脳内にコピーしたり、小さなワープゲートを開いたりといった超能力は、『RIM粒子』という反物質の素のような物を『ジーニア特異点』というところから引き出して行使しているということがわかった。

このRIM粒子を制御する方法を模索しているうちに、禁忌とされた技術、『クローニング』、『デザイナーベイビー』に手を出したのだ。

クローン技術を応用して超能力者がRIM粒子の制御に使っているとされる『RIM器官』を持ち、同時にそのRIM粒子を観測し制御の補助をする『ナノマシン型Pip-Boy生成器』を造血細胞に組み込んだデザイナーベイビーを作ることに成功したのだ。

そのデザイナーベイビーが『RIM器官B実験被検体L番』を意味する『B-rim-L』と名付けられたのだ。

 

「『はんぶっしつ』って何?」

「これは説明が難しいねんけど・・・そうや、さっき飲んだお茶、あのカップ一杯に反物質が入ってたとして、それが爆発したら・・・」

寧夢は説明の途中で計算を始め、義手でそのシミュレーション映像を映す。

城郭街で爆発したものとした映像には州の半分弱が更地になるとシミュレーションされていた。

それを見ながらルイズは体感でミギクの町、緑の園、アーソー台地の距離を考え、地図の縮尺が正確なものとしてトリステインに直す。

「こんな風になるよ。」

「これ、わたしのいた国だったら四分の一くらい消し飛ぶわよ・・・これ、昔の戦争で使われたの?」

「いんや、戦争で使われたのは核爆弾やけん、これよりはずっと弱いよ。

 そんかわり、放射能ギョーサンぶち撒けてくれたんやけどね。」

と、寧夢が言うのを聞いてルイズの頭の中で、

黒色火薬(火の秘薬)<核爆弾<反物質』

という不等式ができあがった。

「じゃあクローンとかデザイナーベイビーっていうのは?」

「そやねぇ・・・双子を機械で作るっち言うたらわかる?」

「双子を・・・機械で?」

ハルケギニアでもかつて、『ホムンクルス』と呼ばれる人造人間を作る魔法の研究がなされたことがあったが、倫理的問題で時の王達はどの国も研究を勅命で禁じ、研究そのものがなかったことにされたという経緯がある。

ルイズの長姉、エレオノールならばトリステイン王立アカデミーの主任研究員であるため、禁忌に触れる者が現れないようかつての研究を『調べるだけ』ならば可能だが、もし研究を再開などすれば変死体となってラグドリアン湖あたりに浮かべられることになる。

このような研究のことを一学生に過ぎないルイズが知る由もないが、もし知っていればこのホムンクルスに似たものと考えただろう。

「これでわからんとなると・・・ジョーイはん、パス!!」

寧夢は生物工学にはあまり通じていない、というより専門外なのだ。

そこで医者であるジョーイに話を振ったのである。

「え、私!?う~ん、ルイズちゃん、双子の中で、見間違えるくらいそっくりな子と、そうでもない子がいるのは知ってる?」

ジョーイにそう聞かれたルイズは、ある一件以来、やたら自分にくっついてくる青髪の女生徒と、ツェルプストーと仲の良い女生徒が双子で、二つの点を除けば見間違えるほどそっくりなのを連想する。

「そういえばジョゼットとシャル・・・知り合いにそっくりの双子がいるわ。」

「ルイズはん、それ向こうん友達?」

「違うわ、ただの腐れ縁よ。」

ルイズは照れたように頬を赤くし、顔を背けながらそう言う。

ちなみに二人の見分け方だが、シャルことシャルロットはメガネをかけていること、そしてジョゼットの方が胸が大きいことである。

ツェルプストー・プロデュースの体型が出る服を着ていれば一目瞭然で、ルイズはよく嫉妬し、最初ジョゼットにその服を着せた時はシャルロットもツェルプストーにチョークスリーパーをかけていた。

「とにかく、知り合いにいるならわかるわね?

 そんなそっくりになるのは、元々一人で生まれるはずだった赤ちゃんが、お母さんのお腹の中で二人に分かれちゃったからなの。

 それを人の手で産み出す・・・そぉねえ、ルイズちゃん、もしもよ?

 大きなコップの中で、自分そっくりな赤ちゃんを、何日かで自分と同い年まで育てて、コップの中から出てくるとしたらどう思う?

 それも、全部自分が理想的に成長したそっくりさんが出てきたら?」

そう言われたルイズはまず、クッションとしてシャルロットとジョゼットの関係を思い浮かべる。

 

 二人は仲が良いのは確かだが、ケンカもよくする。

快活なシャルロットと気弱なジョゼットが衝突するというのは、ルイズには驚きと同時にそれだけ互いが心を許している証に映っている。

ケンカになるのは、当然だが二人がどちらも完璧でないからだ。

仮にシャルロットが完全無欠の姉で、ジョゼットがどうしようもない、言い方が悪いがいわゆる『出来損ない』だったとすればケンカにもならないだろう。

それを自分に置き換える。

顔は自分で、身長と頭脳は長姉エレオノール、体型と性格は次姉カトレア、魔法は母カリン級の妹が目の前に現れると考え、それもそんなもう一人の自分がゴーレムかガーゴイルのように作られるということに、ルイズは鳥肌が立つ。

「何て言うか・・・ものすごく気持ち悪いわ。」

彼女にとっては想像した『完全無欠なもう一人の自分』が、自分が苦しい時に現れる『性格が悪いもう一人の自分』よりも気持ち悪い。

「そうでしょ?そういうことを昔の人も考えたんでしょうね。それでクローニングもデザイナーベイビーも禁忌になっちゃったのよ。

 で、あのB-rim-Lっての、戦争の時に核攻撃に巻き込まれたんでしょ?」

ジョーイが寧夢にそう尋ねると、寧夢は首を横に振った。

「ところがどっこい、そうやなかった。

 まあ、こっからは推測に過ぎんのやけどね。」

 

 寧夢の考えによるとB-rim-Lは核戦争の時に、とっさにワープゲートを開いたのではないかということだ。

本来ならば手を通すのがやっとのワープゲートが、近くで爆発する核爆弾の影響で力場が狂い、人が通れるほど大きな物になってそれを通りぬけた結果、ルイズのいたハルケギニアについたのではといったものだ。

ブリミルとB-rim-L、ハルケギニアとジーニア(ギニア)特異点といった、明らかに違う言語の中で酷似した言葉があること、そして何よりルイズの中にあるナノマシン型Pip-BoyにB-rim-Lの能力そのものと見て間違いない『魔法』さらに誰も閲覧できなかったB- rim-L絡みのホロテープを閲覧できたことと、ルイズとB-rim-Lを関連づける要素が多すぎるのである。

 

「ちょっといい?いい加減教えてほしいんだけど、ルイズちゃんってホントに何者なの?ハルケギニアとか、『B-rim-L』そのものみたいに言ってるけど?それにさっきのシミュレーションの時の話からしてルイズちゃんがいたトコって州の倍はあるわよ!?」

ジョーイが寧夢、そしてルイズに尋ねる。

するとルイズは寧夢に目配せして話して良いか問うと、寧夢は首を横に振り、自分が説明すると手振りで伝える。

「ルイズはんね、ジーニア特異点の向こう側から来たんよ、そこが『ハルケギニア』。んで、どうも『B-rim-L』の子孫で、あっち側じゃ反物質技術を『魔法』っち言いよんみたいなんよ。」

「そんなムチャな話・・・」

「せやけど、説明はつくやろ?ジョーイはんも見た、あの『爆発』。」

ジョーイはそう言われると反論できない。

少なくとも先ほど緑の園でルイズが門を爆破したのは、トリックではどうにもならないことはジョーイにもわかっている。

「百歩譲ってそうだとして、ルイズちゃんがこっちに来たのはどうして?」

「どうも事故やったみたい。

 『サモン・サーヴァント』・・・聞いた感じやとワープゲート開いて動物を捕まえて、それをアニマルフレンド使うて手懐けるっちゅうのをやらなあかんかったみたいなんやけど、ルイズはん、間違うてワープゲートに落ちてもうたみたいなんや。

 B-rim-Lが地球からジーニア特異点の向こう、ハルケギニアに逃げた時みたいにね。

 まぁ、ワープゲートがどうして、少なくとも人が通れるくらいのんを作れるんかはわからんけど。」

寧夢がそう言った時、ルイズはあることに気付いた。

「で、でも、始祖ブリミルって6000年も前の人よ?こっちの戦争って終わってから200年くらいしか経ってないんでしょ?時間が合わないわ!」

「それやけどねぇ、正直、証明のしようはないんやけど・・・いわゆる特異点っちゅうのは何もかもが『ゼロ』になる点なんや。

 点と点の長さも、場所の広さや物の大きさも、時間もね。」

寧夢が語る『時間をゼロにする』という言葉がルイズの頭に引っかかる。

「時間をゼロって?」

「通った先は過去も未来もなくなる、言い方変えたらタイムトラベル・・・いや、到着先の時間が指定でけんのやからタイムスリップしてまうんやな。」

ルイズは寧夢の言葉を自分でわかるように咀嚼する。

彼女が考えたのは空を飛ぶ船が、完全に制御を失って漂流しているというものであった。

どこに落ちるか、いつまで飛び続けるのかもわからない漂流を続け、いざ地上に不時着したら6000年前だった、はたまた州に着いていたといったものだ。

その漂流する船が、ルイズの魔法に直せば失敗したサモン・サーヴァント、彼女がB-RIM-Lと同じものだとして、その理屈に従えばハルケギニアに帰る簡単な手段は再びサモン・サーヴァントを唱えることだ。

だがルイズも、寧夢がすぐにその話をしない理由、『そのような簡単な話ではない』ことに察しがついてしまった。

「サモン・サーヴァントがその『わぁぷげぇと』を開いたとして、ハルケギニアに繋がっても向こう側はわたしのいた時代かどうかはわからない・・・6000年前に繋がるかもしれないし、200年前に繋がっちゃうかもってこと?」

「逆に一万年後とかに行ってまうかもしれんっちゅうのもね。」

寧夢はルイズの考えに補足して答える。

ルイズにしてみれば、『貴女は神に等しい存在だ』と持ち上げられた後に、『実はその神様、自分達が作ったガーゴイルでキミはその子孫だよ』と落とされ、さらに『帰れないことはないけど、帰ったとしてそこが元いた場所とは限らないよ』と打ちのめされたようなものだ。

もしかすると帰らない方がマシかもしれないとさえ考えてしまう。

「なあ、ルイズねぇ?」

さっきから話を聞くだけとなっていた小太郎が声をかけると、

「何よ?」

と、ルイズは八つ当り気味に返事をする。

「よくわかんなかったけど、ルイズねぇ、ガリバーみたいだなって。」

「がりばー?」

「大昔の小説の主人公やね。漂流して小人の国に行ったり、巨人の国に行ったりして、みんな良くしてくれるんやけど結局は故郷にムリしてでも帰っていくっちゅう話や。」

「それが何なのよ?」

ルイズの八つ当りはまだ続いているが、寧夢は首を横に振って優しく答える。

「ルイズはんさ、『こっちにおった方がマシかしれん』とか考えよったやろ?」

寧夢に図星を突かれ、狼狽するルイズに寧夢は話を続ける。

「ガリバーはええ思いしても帰りたがったんや、ルイズはんかて帰りたいのは当たり前やろ?

 小太郎はそう言いたかったんやろうね?」

寧夢の言ったことに小太郎は首肯する。

「でも、帰れないじゃない!」

「それは今のままやとっちゅう話、もしよ、B-rim-Lに関する資料がたくさんあったら、ルイズはんがこっち来た時か、その近くを指定してワープゲートを開けるかんしれんてこと。」

寧夢が話したことに、ルイズはやっと冷静さを取り戻した。

「どういうこと?」

「ウチが知る限りやけど、B-rim-Lの実験ではワープゲートを開いたことまでは証明しとるんや。

 それは、向こう側をある程度指定しとるっちゅうこと、そうやないと開いとるかわからんけんね。

 その指定の仕方がわかれば帰れるし、何やったら行き来もできるっちゅうわけよ。

 こっちには来れたんやし、理屈の上じゃあ戻れるはずなんやから。」

寧夢がそう言うとルイズは思案する。

「でも、わたし、寧夢みたいなことできないし・・・」

「研究くらい手ぇ貸すし、仮にウチがお手上げでもわかるヤツくらい探しちゃるよ。」

「どうしてそこまで・・・」

驚きながら尋ねたルイズに、寧夢はイタズラっぽく、そして少しはにかみながら答える。

「友達やから!・・・って言えたらカッコえぇんやけどね、州の未来のためや。」

「州の未来?」

「そ。州は狭いけん、物資もいつかは底をついて立ち枯れするみたいに死んでまう。

 そうなる前に州の外に出られるようにならなあかんのよ。

 それがルイズはんのおったハルケギニアでも、とにかく交流できるようになるんやったら、いくらでも協力するっちゅうわけよ。」

「ネム・・・」

ルイズは寧夢の語る志に胸を打たれたが、ジョーイが話の腰を折る。

「で、本音は?」

「ゴメン、九分九厘好奇心。」

「ちょっと!今、グッと来てたのよ!?この気持ち、どこに持っていけばいいのよ!?」

「そんなん言われても知らん!」

 

 ルイズ達はその後、しばらくジョーイの資料室でB-rim-Lに関係しそうなホロテープを探したが、結局ルイズでなければ開けなかったもの一つだけしか見つからず、それをもらってジョーイ宅を後にした。

「結局ムダ骨やったねぇ・・・」

「そうでもないでしょ?これ一つあるのと無いのとじゃ大違いじゃない?」

「そうやね、まぁ、まずはこれ分析して、どげんこと書いちゅうのか調べるとこから始めなね。

 今日はこっち泊まるかねぇ?」

寧夢がそう言うと、ルイズはミギクの町にいる才人に連絡しなければと考える。

「伝書フクロウ貸してくれるところ、あるの?」

「伝書フクロウ?普通ハトやないん?って、ちゃう、ウチの別邸があるんよ、こん街に。電話もあるけん、それ使うんよ。」

「別邸って、ネムもここに住んでたの?」

「いんや、市長らから誘われたんやけど、断ってね。

 でも、こっち泊まらなあかん時とか、こっちやないとでけんことする時便利やけん、建てたんよ。」

ルイズはあらためて寧夢が自分よりしっかりしていると驚くが、同時に周囲の建物、いわゆるバラック、掘っ建て小屋を見て肩を落とす。

寧夢の『別邸』にある程度の当たりがついたからだ。

それらは木片、木板や波打った金属板、布などを適当に張り合わせて作ったような建物で、近くであれば中が見えるものや中の音が聞こえるなど当たり前といったものばかりなのだ。

それらがいわゆる『二等市民』の一般的な住居である。

いくら資産があると言っても素人建築しかできないのでは致し方ないのだ。

 

 そういった建物の中で寧夢の別邸はルイズの予想に比べればまだマシであったが、それでもルイズはかつての彼女ならば『こんなあばら屋で寝起きなんてできないわ!』と言ってしまいそうな建物であった。

寧夢の別邸は『木と紙で作ったような建物』で、一部は申し訳程度に干しレンガのような壁が使われている。

バラックに比べればすきま風の心配は少なそうであるが、焼きレンガ造り石造りが普通であるハルケギニア出身のルイズにしてみれば粗末に見えるのだ。

「寧夢やで、開けてな。」

寧夢が別邸の扉横についている、城郭街入口で見たような呼び鈴に似た機械に声をかけると、ガチャッと解錠音がして扉が開く。

と、同時にこちらで一泊することに決めてから別れた早苗がロードファイターを運転してきた。

街の中であるため本来の性能など一切感じさせないレベルの安全運転である。

『ご主人さま~、車庫を開けてくださ~い!』

「はいはい、車庫のシャッターも上げたって。」

再び呼び鈴にそう声をかけると、今度はハルケギニアであれば城壁の門扉のような鎧戸がタペストリーのように巻き上げられ、車二台分ほどのスペースに早苗はロードファイターを入庫させる。

「(あれ、厩舎なの?小さいけどむしろ家より豪華じゃない?)」

ルイズは率直な感想を抱く。

この『厩舎』は頑丈そうな鎧戸に土を固めて錬金の魔法で石にしたような作りである。

ルイズはその『石』を『コンクリート』、舗装に使われているものは『アスファルト』と寧夢に教わった。

ハルケギニアであれば魔法まで使われた建物と木と紙の建物、どちらが豪華かなど明白だ。

その割に、声に反応するマジックアイテムのような鍵と、ルイズには寧夢の別邸からちぐはぐなイメージを受ける。

そして寧夢に招かれてルイズが家の中に入ると、寧夢は玄関で靴を脱いでサンダルのような上履きに履き替えた。

ジョーイ宅でも靴を脱いでいたためルイズも靴を脱ぎ、寧夢からそのサンダルを一つ借りる。

寧夢の家は敷地面積で見ればジョーイ宅より人家部分だけなら半分より少し広いくらい、厩舎を足して一回り狭いくらいの平家建、ジョーイ宅は地上三階地下一階建だったのと比べるとかなり小さい。

もともと寧夢は客を招くことは考えていないのだろう、リビング兼用のダイニングキッチンに、ジョーイ宅で通されたような草の床を張った部屋と板張りの部屋が一つずつと、最低限としか思えない間取りである。

「さて、電話電話っと!」

寧夢は壁にかけられた、ミギクの町でマイアラークと戦っていた時に才人が持っていた無線機に似た機械を手に持ってしばらく待つ。

『はい、こちら城郭街電話交換所です。』

「あ、すんませんけど、ミギクの町にお願いします。」

『ミギクの町ですね、しばらくお待ちください。』

そのやり取りを見ていたルイズは、寧夢にその機械のことを尋ねる。

「似たようなのサイトも使ってたけど、どうなってるの?」

「あ~、ルイズはん、才人が使っちょったんは無線機、早い話が『見えるけんど声が届かん』くらいの相手と話せるんやけど、この『電話』やったら、交換所を通して極端な話、台地の向こうの湯の国とも話ができるんや。

 まあ、あっちとは繋がっとらんけん、火の国内のそこそこ大きい居留地と、北にある鉱山街『泊の国』の境くらいまでや。」

そんな話をしながら寧夢はミギクの町の交換所と話してミブロウ団詰所に繋いでもらう。

『はい、こちらミブロウ団です。』

「才人、ウチよ!」

『オウ、寧夢か?えらく遅かったな。』

ルイズは寧夢の隣で電話の声を聞きながら、間違いなく才人が応答していることに驚く。

「ちっと市長はんに厄介事頼まれてね。」

『そういやさっきラジオでやってたけどよ、緑の園奪還が噛んでんのか?』

「うわ、あのタヌキ手ぇが早いわぁ、どげな内容やったと?」

『ざっくり言えば、市長が陣頭指揮執って緑の園のスーパーミュータント殲滅して、生存者を助け出したんだとさ。どうせ市長は置物だったんだろ?』

「置物やったかはわからんけど、生存者、まぁジョーイはんやったんやけど、助けたんはルイズはんとウチ、それと小太郎っちゅうジョーイはんに懐いたスーパーミュータントよ。」

寧夢は緑の園での顛末をかいつまんで才人に話す。

才人は小太郎に多少の疑いを持ったが緑の園におけるスーパーミュータント達からの離反行為から問題無さそうだと納得する。

「ねえ、ネム?わたしも話していいかしら?」

「ん?ええけど・・・あ!?」

何かを言いかけた寧夢からルイズは電話を引ったくるようにして取り、電話の向こうの才人に話しかける。

「ねえ、サイト!聞こえる!?」

『ん?ん!?ルイズだよな?ワリィけど、何言ってんのかわかんねぇ。』

「ルイズはん、忘れちょるみたいやけど、自分の声、機械通したら別の言葉になってまうんよ?そやねぇ・・・あ、そうよ!早苗~!!」

寧夢は家の掃除をしていた早苗を呼びつけると、同時通訳を命じた。

「サイト、これならどう?」

と、ルイズの声を早苗は翻訳して電話に話す。

【才人さん、私の言葉、わかりますか?】

『あ、早苗通したワケか!これならいけるな!』

【早苗の通訳ですね!これなら話せます!】

早苗は才人の言葉もハルケギニア公用語、正確にはラテン語に通訳してルイズに話す。

ルイズは聞く分には問題ないため、早苗の翻訳ではニュアンスが変わってしまうことに気付く。

「機械翻訳やけん、ちっとの差は目ぇつむったってな?」

寧夢はルイズが感じたであろうことを察してそう言うと、ルイズは手で(マル)を作り理解したことを示し、才人と早苗を通した会話を続ける。

その間、寧夢は今まで感じていた違和感が一つ、形になった。

 

 電話で才人に城郭街で一泊する旨を伝え、寧夢はあらためてミギクの町の技師に連絡を取り、事務連絡を済ませると、彼女はルイズに一つの疑問をぶつけた。

「ルイズはん、つかぬこと聞くけど、コレ、どういう意味かな?」

寧夢は手の平を上に向け、親指と人差し指で○を作る。

「何ってお金でしょ?」

「じゃ、これは?」

今度は手を握り込み、小指だけを立てる。

「約束、恋人、奥さん?」

「そんじゃこれは?」

次は握った手から親指を立てる。

「誉める、賛同、ご主人?って、さっきから何なの?」

「いやね、ルイズはんトコと州って、こういうサインが似通っちゅうなってね。」

「え?それがどうって・・・あ!」

ルイズは、エルフ達の聖地よりはるか彼方東方のロバ・アル・カリイエでは、今の手のサインが違う意味を持つとジョゼットから聞いたことがあったのだ。

たとえば『親指を立てる』が『性交渉の誘い』だったり、『小指を立てる』が『決闘の申込み』だったり、『お金』を意味する形が『借金の督促』とこれは似ているが、サインの意味が違うのだ。

同時にそれは州のある地球側でも同じである。

戦前の地球はハルケギニアより交通の利便性が圧倒的に良かったため、サインの差は少なかったがそれでも多かれ少なかれは存在した。

にもかかわらず、州とハルケギニアのトリステイン等主要国でサインが同じなどあり得ないのだ。

寧夢はこれまで何の気なしにそれらサインを使ってルイズと意志疎通をしていたが、ルイズの出自からするとおかしいことに気付いたのである。

「これは案外、B-rim-Lだけの繋がりやないかもしれんよ?」

「こっちと向こうは往来があったかもってこと?」

「そうよ、もしかするとハルケギニアはウチが思うとるよりずっと近いんかもしれん。」

寧夢はそう言うと件のホロテープを取る。

「まずはこれからやね!」

ルイズは無邪気にそう言った寧夢に少しの不安と、それ以上の希望を胸にするのであった。

 




ここでいったん切ります。
途中、タバサがシャルロットと名乗っていること、そしてトリステイン魔法学院にジョゼットがいることについてですが、ガリア、タバサパパが王様になってます。
ジョゼフがどうなったのかはまだ秘密です。
では、次話へ。

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