ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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やっと街に戻って来ましたルイズ達。
早く才人と合流させたいけどなぁ・・・


第八話 B-rim-L

 城郭街に戻ったルイズ達は、バット隊によって熱烈な歓迎を受けることとなった。

バット隊ご自慢の鉄棒を抜く者、ピストルを抜く者、ショットガン、ライフルを構える者、固定銃座につく者等々。

「ちょっと、何よこの扱いは!?」

「ルイズはん、おさえておさえて。そりゃスーパーミュータント連れ帰ったらこうなるんも当たり前や。」

『そうですよぉ、早苗もお話をうかがったときは何事かと思ったんですから~』

ルイズ達がそんな話をしている中、ジョーイは一人、バット隊の前に出る。

「いいかしら?この子は私の研究資料。FEV、そして変異した生物についての重要なサンプルですから私が責任持って管理します。」

「徐先生?ご自分のおっしゃっていることがわかりますか?あなたは人喰いのバケモノを飼うと言っているんですよ?」

「あら?私の記憶に間違いなかったら、デスクローを飼ってた人がいたかと思いますが?」

「いや、あのデスクローは家畜化されていたわけで・・・」

ジョーイはバット隊でこの場にいる最高位の者を言いくるめていく。

「もう、あなたじゃ話にならないわ、市長呼んで!」

言を左右にし始めた隊長にジョーイがそう一喝すると、隊長は無線機で市庁舎に連絡を取る。

「市長はただいま外出しておりまして、事の次第を報告しましたら、担当の者を来させるとのことです。」

隊長がそう言ったため、しばらくは銃を向けられたまま待つことになる。

「みんな、ごめんな、おらのせいで・・・」

「コタローは悪くないわよ。それよりジョーイさん、コタローのことだけど・・・」

「方便よ、方便。真正面から『この子は人を食べません、人間と同じです』なんて言って信じるわけないでしょ?」

紆余曲折あったもののルイズは自分の意志で小太郎を信じたのに対し、最後まで疑ってかかっていた寧夢はばつが悪く、目をそらす。

「ま、まぁ、信じられへんのがフツーやけん、しゃあないわな。」

「ネムってば、自分が最後まで疑ってたからって・・・」

「言わんといてな!あ、それより来たよ、アレは、ああ生物・機械課の課長やな。」

「せいぶつ、きかい課?」

「早い話、猟犬飼うたり、早苗みたいな手伝いロボットを使う許可出すとこや。

 猟犬かて人噛むかんしれんし、ロボットも暴走するかんしれん。そん時に誰んかわかるようにするんが主だった仕事やね。」

寧夢の説明を聞いたルイズは肩を落とす。

城郭街はあくまで小太郎をジョーイの『ペットか実験動物』扱いするつもりなのだから。

「徐先生、たしかにかつて、デスクローを飼っていた住民がいました、ですがあの時はアニマルフレンドを使用し、ベータ波発生装置を併用しておりました。スーパーミュータントとなりますとウェイストランドウィスパラーが必要になりますが、先生はお持ちで?」

「当然。そうじゃないとここまで連れて帰って来ることはできないでしょう?」

ジョーイがそう答えると、課長は先ほどまで応対していた隊長を呼び寄せ、ジョーイが腕に巻いている『小さな懐中時計をつけたブレスレット』と武骨な手甲を近づけ、手甲を見た隊長と共に首を縦に振る。

「失礼、確認いたしました。必要書類をご自宅にお届けしますので、後日、記入並びに提出をお願いします。」

課長がそう言うとバット隊は武器を収めてルイズ達に道を開ける。

「ねえ、ウェイストランドウィスパラーとか、アニマルフレンドって何?」

駐車場にロードファイターを停め、皆が降りると、ルイズは寧夢にそう尋ねる。

「そやねぇ、ルイズはんとこで言う『コントラクト・サーバント』みたいなモンよ。そこらの動物とかを手なずけるね。で、スーパーミュータントやと『ウェイストランドウィスパラー』になるわ。まぁ、あんま使うこともないけん、持っちゅう人でウチが知っとるんはジョーイはんくらいやわ。」

寧夢の説明に付け足すようにジョーイは、

「ほら、私ね、人以外にも動物とかも診る時あるから、いざ手術って時に言うこと聞いてもらえるように使うのよ。」

と話す。

「え?じゃあジョーイさんってメイジ?」

そう言ったルイズに、ジョーイ、そして難しい話についていけなかった小太郎が頭上に疑問符を浮かべる。

「ま、その話は誰かに聞かれるんもよぉないけん、ジョーイはん家に行ってからにしよな?」

寧夢がこの場での話を中断させ、一同はジョーイ宅に歩を進める。

 

 ジョーイの家は戦前から建っている建物を改修した、診療所と住居を兼ねた三階建ての角塔のような建物であった。

一階は診療所、二階は手術室と入院病棟、三階が居住スペースである。

「案外小さいのね。」

ハルケギニアで医者となるとまずメイジで、貴族である彼らはその中でもトップクラスの豪邸に住んでいるため、それに比べれば質素なジョーイ宅を見たルイズが率直な感想を述べると寧夢は驚く。

「何言うとるんよ、街の入口あたりにあった共同住宅覚えとる?あの中、四畳半で四軒も住んどるんよ。」

街の入口あたりにあった共同住宅というのをルイズは思い出す。

敷地面積はジョーイ宅の半分以下、横長の平家建てで、ルイズは牛舎か何かと思っていたものだ。

なお、ルイズは中を見ていないため知らないが、中は大きな部屋をカーテンで仕切っているだけで、水回りは共用という粗末さなのだ。

戦前でいえばいわゆる『四畳半部屋』いや、それよりはるか昔の『長屋』より壁がカーテンである分なおひどい。

「あんなのに人間が住めるの?」

「寝て起きるだけやけんね、まあ。それに比べたらジョーイはん家は豪邸よ、豪邸。」

なお、城郭街における住居は4ランクに分けられており、それが実質的な身分差にもなっている。

一番低いものが寧夢の話していた共同住宅で、街の居住権を認められたばかりの者はまず、この共同住宅の使用権を与えられ、俗に『三等市民』と呼ばれる。

二番目が更地とテントを支給され、そこに自分で建てるというものだ。

居住権を得てしばらくするといくらかの『資産』を持つ者も出るため、防犯の意味合いもあってこちらに移る者が多く、この者達は『二等市民』と呼ばれる。

上から二番目が戦前の建物を改修したものの使用権か、街が特別に作った建物が与えられるというもので、これはジョーイや寧夢のような何らかの技術を持つ者に多く、『一等市民』と呼ばれている。

そして最高位が公舎で、これに住む者は最高位『公民』と呼ばれている。

バット隊や公職に就く者の住居で、個室が与えられ、最低限の食事であれば無償提供される。

広さは末端職員でも1DK、最上級となれば4LDK。

このくらいになってやっと、最終戦争よりはるか昔、まだ豊かだったころの一般家庭ほどの住居になる。

もっとも、その頃は不味くとも最低限の食事の支給などなかったことを考えれば、少しだけ良い生活をしているかもしれないが。

 

 一週間ぶりに帰宅したジョーイは、一階で二足歩行のロボットに挨拶される。

『オかえリナサイマセ、せんせい。』

「ただいま、メイメイ。この一週間、お客さんは?」

『根津さまガイツモノオくすりヲオもとメデシタノデ、ぷろぐらむどおリニいたシマシタ。

 三城さまガきんきゅうはんそうサレテこラレマシタガ、メイメイのしすてむデハたいしょふかのうデシタノデ、児玉せんせいニれんらく、3かまえ、ぶじたいいんナサッタト、児玉せんせいヨリゴほうこくヲいただキマシタ。』

ルイズには早苗よりもハルケギニアのガーゴイルに近く感じられるこのロボット、メイメイはジョーイに留守中の報告をする。

メイメイは早苗に比べて人間に近い形で、白を基調とした体に、腹に赤い十字が書かれ、顔に当たる部分は透明な板の奥に、眼鏡をかけ、赤、緑、黄色、青の髪とも髭とも見えるものがたくさんからまった頭がある。

『お久しぶりです~、メイメイ!』

『早苗ねえさま、オひさシブリデス。』

早苗とメイメイの話す様子を見て、ルイズは寧夢に尋ねる。

「このメイメイって子もネムが作ったの?」

「そうよ、救急プロテクトロンのメイメイ。名前はジョーイはんがつけたんやけどね。」

「サナエとずいぶん違うように見えるけど?」

「早苗はMr.ガッツィーやけど、メイメイはプロテクトロンっていう、作りの簡単な子なんよ。素人でも整備できるくらいね。そんかわり、情緒とかはメカっぽいのが難やけど、これもまたカワエエんよなぁ!」

そう言ってメイメイに抱きつく寧夢を見ながらルイズはクスクスと笑う。

ルイズにはこのようにロボットを愛でる寧夢が可愛らしいのである。

『オかあさま、オしごとニさシつかエマスノデ、コノクライニ。』

『ご主人さま、早苗の方がかわいいでしょう!?』

「う~ん、7:3でメイメイ!」

『ガ~ン!!ルイズさま~、棄てられちゃったので早苗のご主人さまになっていただけませんか~?』

「あ~、よしよし、棄てられてないから、大丈夫だからね?」

すり寄ってくる早苗の頭を撫でるルイズと、義手で軽く叩く寧夢。

その一方、ジョーイは小太郎と共に、メイメイが留守番していた一週間の収支をまとめていた。

「―――が残り少ないわ、材料は・・・」

「わかった、それとこれ―――」

小太郎はジョーイの傍らでメモを取り、作る薬品の材料、薬代として受け取った物の個数に過不足がないことを記録し、さらにジョーイが見落としていた事をメモから見つけて伝える、経理事務のようなことをしている。

早苗を撫でながら遠巻きにそれを見たルイズは、二人を母子のように感じ、さらにじゃれ合っているように見える早苗とメイメイ、そして寧夢を姉妹のように見て、ハルケギニアの自分の家族に想いを馳せて郷愁の念を強くするのであった。

 

 ジョーイが事務処理を終えると、彼女は診療所の応対をメイメイ、そして妹分の手伝いを買って出た早苗に任せ、ルイズ、寧夢、小太郎を三階の住家に招く。

「少し待っててくれるかしら?旦那に挨拶してくるから。」

ジョーイは居間に三人を待たせて奥の、寝室とおぼしき部屋に入る。

居間はコーヒーテーブルのような低いテーブルに、ルイズが寝転がると少し大きいくらいの広さがある干し草の床が八枚敷かれており、寧夢が座るのに使っているクッションが人数分置かれている。

なお、そのクッションは小太郎には小さすぎるため彼だけ四枚並べて座っている。

「ねえ、そういえばジョーイさんの旦那さんってどんな人なの?お医者さんってことしか知らないんだけど。」

ルイズの質問に、寧夢は表情を暗くし、小太郎も目をそらす。

その空気と、寧夢がルイズをこの街に連れてきた時に話していた、『街一番の名医、徐 一命』という言葉とジョーイの言う『自分は州二番目』という言葉が繋がった。

ジョーイは街一番で、州では二番目・・・そして旦那に挨拶するという話から別れたというわけではない。

「もしかしてジョーイさんの旦那さんって・・・亡くなってるの?」

「そぉなんよ・・・小太郎は知っちゅうみたいやったけど?」

「おら、あのまちでジョイねえちゃんにきいた。」

小太郎の言う『町』とは当然、緑の園のことである。

「悪いこと聞いたわね、あっちで。」

「知らんかったんやけんしゃあないわ。」

緑の園でジョーイに旦那のことを尋ねたのを悔やむルイズに、気に病まないよう寧夢が励ましていると、ジョーイが戻ってきた。

「お待たせ、すぐお茶出すから待っててね。」

「ウチも手伝うわ。」

「寧夢ちゃんもお客さんでしょ。」

寧夢が手伝いを申し出るがジョーイは断り、しばらくして四人分の茶を淹れて彼女は戻って来た。

遠目でも一人分だけ異常なものが小太郎に出される。

小太郎のだけはエールという酒用のジョッキに淹れられた茶褐色のもの、水滴がついて、氷が浮いていることから冷たいのだろうことがわかる。

そしてルイズに出されたのはまさにルイズの考える『茶』、紅茶である。

カップこそ粗末なものだが、香りはルイズもよく知るものとそっくりで、横にはハチミツとミルクが並べられている。

最後に、ジョーイと寧夢の分は緑色で黒褐色の粉が浮いている。

「それ、お茶?」

「全部そうよ、もしかして緑茶か烏龍茶の方がよかったかしら?」

ルイズの質問にジョーイが答える。

ハルケギニアではお茶というと、エルフの棲む砂漠よりはるか東方、ロバ・アル・カリイエからの輸入品で、輸送している間に発酵してしまうため紅茶しかないのだ。

「その、もしかしてわたしだけ、特別にいいの、出されてるのかなって・・・」

「気にしなくていいわよ、お茶の木を屋上で育ててるから。寧夢ちゃんからもらった発酵機があれば手間もあんまり変わらないしね。」

当然だがルイズは茶の木そのものを見たことがないし、普段飲む茶がどのようにしてできるかなど普通、気にかけたりはしない。

「そうね、いっそ見てみる?屋上菜園。」

「え?いいんですか?」

「減るものじゃないしね、それにそろそろ、寧夢ちゃんに定期検査してもらいたかったし。」

「あ、もうそんな時期なん?じゃあついでやけんちょっち見るわね。」

「さいえん・・・はたけ!?おらもみせて!」

と、ジョーイが屋上菜園の話をすると、満場一致で見に行くことになった。

しかし、立ち上がるときになってルイズが待ったをかける。

「ちょ、ちょっと待って・・・足、立てない・・・」

ルイズは正座する寧夢を見て、同じようにしていたのだが、足がしびれて立てなくなっていたのであった。

「ルイズはん、無理せんで崩しとってもよかったんよ?」

「だってぇ・・・」

 

 屋上には三種類の作物が植えられていた。

一つは白い花をつけた木、一つは青紫色の果物をつけた木、そして赤いベリーのような実をつけた木だ。

屋上の昇り口近くにはタンクのついた機械があり、そこから金属の管が木の上に延びている。

「じゃ、すぐチェックするけん、いっぺん通水して。」

「わかったわ。」

寧夢は木の根本にある管の一つにコップを出し、ジョーイが機械を操作すると管から水が出てくる。

「どうなってるの、これ?」

ルイズは寧夢の横に並んで腰を降ろして尋ねる。

「スプリンクラーよ。ジョーイはんが今、動かしたポンプから肥料の混ざった水がこっちに送られてくるんや。あ~、こらタンクが汚れとるみたいやな、ジョーイはん、すぐやってまうわ。」

寧夢は水を見ながらそう言うと、ジョーイの動かした機械を止め、水が入ったタンクを外して中を洗浄する。

ルイズは寧夢の置いていったコップを見るが、汚れているようには見えない。

しかし水には小さな水垢が浮いており、それを見て水タンクが汚れていると考えたのだ。

彼女はタンクを洗浄し、念のためポンプ本体も点検するが、本体には異常はないためすぐに組み直す。

その間に、小太郎はルイズと並んで植えられている木を見て回る。

「コタロー、お茶の木ってどれかしら?」

「このしろいはながさいてるやつ。」

「このベリーの木は?」

「コーヒーのき。このベリーみたいなのをこなにして、おゆでおちゃみたいにだしてのむんだ。」

ルイズは小太郎が、存外博識なのに驚く。

ジョーイの話だと小太郎は10歳の子供と同じくらいとの話だったが、そのくらいの子供が木の種類を知っているとは普通、考えられない。

「コタローって物知りね?」

「まえ、すんでたところにいっぱいあったほんでべんきょうしてたから。」

小太郎は少し照れたようにして答えた。

「ルイズちゃん、この子が10歳くらいっていうの、話したでしょ?その頃って一番、頭が柔らかいからこの子、見た物、読んだ物をほとんど全部覚えられるみたいなのよ。さっきも薬のリストと帳簿、全部覚えたし。」

「え?ウソ!?あんなのムリでしょ!?」

ルイズも遠目にジョーイと小太郎が整理していた棚を見たが、あまりにも薬瓶の数が多すぎて、一週間あってもルイズには覚えきる自信がないし、その材料、対価等もセットとなればメモを見ながらでなければ不可能だ。

スーパーミュータントといえど、侮れない。

「あ、そういえばこれは?」

ルイズは最後に青紫色の果物をつけた木を指し、ジョーイと小太郎は首をかしげる。

「何言ってるの?それマットフルーツよ?知らないわけないでしょ?」

「ルイズねえ、さすがにそれは・・・」

ルイズは二人の口ぶりからその果物がハルケギニアの桃りんごくらいありふれたもので、知らないというのがおかしいと悟る。

「え、その・・・」

「みんな、終わったけんさぁ、そのあたりん話もしようと思うけんね、ジョーイはんの資料室に行こ?」

寧夢がルイズに助け船を出し、ホッと一息ついたルイズと、それまで持っていたルイズに対する『当たり』が外れている気配を感じ始めたジョーイ、ややこしい話になるとやはり理解が追いつかない小太郎は寧夢の言うとおりに、ジョーイの資料室へ向かう。

 

 地下にあるジョーイの資料室には三階の住家部分から直通のエレベーターがつながっており、四人だと定員オーバーになるため、まずジョーイが寧夢、ルイズを先に降ろし、戻って小太郎を降ろす。

資料室は地下に作られた書庫で、ルイズは降りてすぐにエレベーターの回りを見る。

「どったん?」

「引き上げてる子がいるんじゃないかなって・・・」

「クスッ、おるわけないやん!」

エレベーターに似たものはハルケギニアにもある。

それは箱が巻上げ機で上下するものではなく、板が水系統のマジックアイテムで上下する仕組みになっているか、そうでなければ奴隷が上げ下げしているかなのだ。

州ならばロボットがやっているかもと思ったルイズであったが、それらしい者はいない。

「こんな簡単な仕事、ロボットにさせることないわ。ほら、朝の洗濯機みたいなもんよ。」

「ああ、あれもそうだったわね。」

そう言われてルイズが納得すると、ジョーイが小太郎を連れて降りてくる。

「さ、ついたわ。」

「おぉ、まえいたとこくらいたくさんほんがある!」

小太郎はエレベーターから降りるやいなや、さっそく資料をあさり始める。

「本?これが?」

ルイズは小太郎が本と呼んでいる小さな四角い箱を取る。

彼女が知る本は羊皮紙に文字や絵が書かれているが、四角い箱はそもそも開くことそのものが、少なくとも手ではできそうにない。

「ホロテープっち言うて、再生できる機械に入れると中の物を見れるんよ、ちっと見ちょって。」

寧夢はルイズの持つ、『マスク・ド・メイドマン』と書かれたホロテープを義手のPip-Boyに入れて再生する。

すると、寧夢の義手から立体映像が映し出され、筋骨隆々とした大男がメイド服を着て、マスケット銃を10本ほど束ねたような大砲を振り回して暴れまわったかと思えば大ポカをやらかすコメディの、声付きで動く絵本が再生された。

「メイドに関する戦前の資料やね。」

そう言った寧夢に、ルイズは笑いをこらえながら反論する。

「ちがう・・・ププッ、これ、メイドじゃない・・・」

「いや、他にもあるんよ?こっちとか。」

寧夢は別のホロテープに差し替える。

そちらには『レッドアイズ・サムライガール・シャナ』と書かれており、そちらには包帯のような布をヘビやムチのように操り、主である赤毛で刀を持った、どことなく声がルイズに似ている水平服の少女の手助けをしているメイドが描かれている。

「他にはね、あまりの早さに周りからは時間を止めてるって思われるくらいのスピードでナイフ投げるメイドさんとか・・・」

「いえ、いいわよ、全部違うから、ホントに。」

笑いをこらえながらルイズが寧夢の話をさえぎり、寧夢は少し不満そうにする中、ジョーイが本題に入るよううながす。

「とにかく、ルイズちゃんって私は古代人だと思ってたけど、違うみたいね。」

「古代人?」

ルイズの知らない言葉を、いつものように寧夢が説明する。

「昔の戦争の時に、シェルター・・・そやね、ずっと深い穴の中にものすごく頑丈なお城を作って生き延びた人達がおったんや。その人達の子孫を『古代人』っち言うんよ。中には州の外から来たらしい人もおってね、ジョーイはんなんかがそうや。」

かつて、Vault‐tec社という会社が州の外、『米の国』でたくさんの『穴の中の城』こと、核シェルターを作っていたが、その中で純粋に核戦争から生き延びるために作られたものは両手で数えられるほどしかなく、それ以外は全て人体実験施設だったのだ。

州が属していた『太陽の国』をはじめとした米の国と緊密な関係にあった国にも作られていたが、それらは全て実験用のものばかりであった。

だが、実験そのものが頓挫したり、その実験を担当していた者が良心の呵責に(さいな)まれて実験を中断したり、はたまた偶然にも無害な実験になったため、表向きの用途であった核シェルターとして使用され続けて現在に至った物もあり、そこに住む人達は州では『古代人』と呼ばれ、城郭街も物資や人材のやり取りをしている。

その古代人には、ジョーイのように『中原の国』の血が濃い者や、『米の国』に住んでいたといわれる『白い人』の血が濃い者もいる。

ルイズは肌の色や、州の人間にはありえない髪色で、ジョーイ、そして小太郎は古代人の『白い人』と考えていたのだ。

「そんでさ、前、どうやってん読まれんかったホロテープ、あったやろ?それを借りたいんよ。」

「ああ、あれね。あの後、街一番のハッカーに頼んだけどダメだったわよ?そういえばどこやったかしらね?」

ジョーイは寧夢と一緒に問題のホロテープを探し始めるがルイズはそれを見ていることしかできない。

なぜなら彼女には先ほど再生したホロテープの横に書かれたラベル、いや先の二本に限らず全てのラベルが読めないのだ。

「ジョイねえちゃん、これ、へんだ、こわれてるみたいでつかない。」

先ほどから戦前の動植物に関する資料を見ていた小太郎が一本のホロテープをジョーイに差し出した。

「あ、コレよコレ!混ざってたのね、小太郎、ありがと。」

「よかった、さがしてたの、みつかって。」

小太郎は何なのかわからずジョーイにホロテープを渡した。

「で、これがどうしたの?」

ジョーイが寧夢にホロテープを渡すと、寧夢はルイズにそれを渡す。

「ルイズはん、これの中身を見ようって強く考えて。」

「え?え?」

ルイズはわけのわからないまま、ホロテープを見つめる。

すると彼女の前にたくさんの文字の羅列が現れたのだ。

「キャ!?何、何!?」

「わ、わ!!ルイズはん、投げたらあかん!!壊れるけん!!」

ルイズは驚いてホロテープを放り投げ、寧夢がおっかなびっくりキャッチする。

「だって、目の前にヘンな字がいっぱい出てきて・・・」

それを聞いてジョーイは驚き目を見開いた。

「それ、網膜投影よ!でも、どうして!?ホロテープにそんな機能なんか無いわよ!?」

「ウチの考えた仮説、また証拠が揃ってもうたわ。あのね、ルイズはんの体の中に、ナノマシン型かチップ型のPip-Boyが組み込まれとる。」

これに今度はルイズが驚く。

「え!?な、何よそれ!?」

「まあ、早い話ウチの義手についとるOS・・・ウチの思うたとおりに義手を動かすのと同じのがあるっちゅうこと。ルイズはんさ、銃撃つときに時間が遅なったりしたとか覚えない?」

寧夢の質問にルイズは狙撃の時のことを話した。

「遅くなるどころかほとんど止まるわよ?」

「ビンゴ、それV.A.T.Sっちゅうんやけど、そんなのできるとしたら、Pip-Boy以外にありえへん。確証欲しいな・・・早苗、悪いけど資料室まで来てくれへん?」

『は~い!すぐに参りま~す!!』

寧夢が義手で早苗を呼び出すと、早苗はエレベーターを器用に使って資料室まで降りてきた。

「早苗、ルイズはんをよぉ見ちょって。そんでルイズはん、当たってもうたらごめん!!」

寧夢は早苗にルイズの観測を命じると、生身の右手でルイズに殴りかかった。

驚いたルイズはとっさに身を守ろうとしてV.A.T.Sが発動し、寧夢の胸元に『100%』と表示されているのを見て、寧夢を両手で突き飛ばした。

寧夢はジョーイにぶつかり、抱き止められるとジョーイのゲンコツをもらう。

「無茶なことしないの!!ルイズちゃん、大丈夫?」

「え、ええ・・・」

「ジョーイはん、ウチの心配!コブできたやんか!」

「自業自得よ、ツバでもつけてなさい!」

『あの~、ルイズさまの観測結果なのですが・・・』

早苗が、ルイズが寧夢を突き飛ばす直前のコマ撮り撮影を並べて立体映像にする。

すると、V.A.T.Sを発動した瞬間の映像に、ルイズの血管を投影して白い光で塗ったようなものが映り込んでいるものがあった。

「このしろいの、なに?」

小太郎の質問に寧夢が答えながら早苗に問いかける。

「これ、短波通信やね。早苗、何かしら読み取れんかった?」

『それが、盗聴できるほどの出力がありませんでした。』

この早苗の答えと写真で寧夢は確信した。

「生体型ナノマシンのPip-Boy・・・間違いない、ルイズはん、自分はB-rim-L(ブリムル)や。」

 




城郭街の生活についてサラッと書いたのが今回ですね。
人が定住すれば格差はできて、実質の身分になるのは作者としては仕方ないかと。
現代人ならば鼻白むことですが、ルイズは身分社会にいましたから、そこまで気にはしないと思います。
さすがに最下層が牛舎みたいなところに住んでるのには引いてましたが。

解説
ジョーイの『小さな懐中時計のついたブレスレット』
はい、来ました寧夢謹製の魔改造Pip-Boy、女物腕時計型!
ライト、時計、SPECIAL・Perk管理機能しかない代わりに女物の腕時計くらいの大きさまで小型化に成功!
寧夢の魔改造って逆方向ですが鉛筆とくず鉄から小屋作る錬金術師な111パパといい勝負しそうです。

茶の木、コーヒーの木、マットフルーツの木
火の国の農業は樹木性作物がメインです。
木ならば一度収穫できるようになると枯れない限り収穫できるので。
ちなみにジョーイが茶やコーヒーを育てているのは薬の材料としての側面もあります。

ハチミツ
火の国では一年草による農業は非効率なため砂糖が貴重で、甘味料はハチミツです。
当然、蜂はRadビー(アボミネーション)。
食性は虫肉食、スズメバチとミツバチを足して2で割って巨大化させたようなお化けハチ。
女王蜂さえ従わせておけば残りの蜂は言うことを聞きます。

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