ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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投稿、遅くなりましてすみませんでした!

ちょっと書いてて大丈夫かと思うシーンがありまして。

では、どうぞ。


第六話 1+0=?

「徐センセがおらんて、どちらに?」

 城郭街の市庁舎である熊本城天守で寧夢とルイズは市長からジョーイの不在を聞かされ、ルイズは『往診か何かで外出中』と考えたが、寧夢は市長に不在の理由を強く尋ねる。

そもそも、往診や用事で外出しているのならばこの市長は『どこどこに出ている』と、行き先を言うのだ。

そしてそのような言い方をするときは彼女の経験上、良くないことが起こっているのである。

「今、彼女は『緑の園』にいる。」

「緑の園?」

「ミギクに比べたら小まい集落よ。やけど今日は徐センセの往診当番週やないとですよね?」

寧夢はルイズが初めて聞く地名を簡単に説明して、あらためて市長に尋ねる。

「ミギクにはまだ話が行っていないが・・・先週のことだ、緑の園がスーパーミュータントの集団に襲われたのだ。」

ルイズは市長の言う『スーパーミュータント』というのが、話の流れから怪物の一種と考え、寧夢の顔が青くなっていることから危険な怪物だと理解する。

才人に比べれば寧夢の感覚はルイズに比較的近く、寧夢が危険と考えるならばルイズにとっても間違いなく危険なものなのだ。

「けんど、どうしてセンセが生きちゅうと?」

「偵察隊が確認したのだよ。軟禁されて何か薬物を作らされているのをな。」

「FEVっちゅうとこかね?センセやったらわざと失敗して時間稼ぐくらいはするやろうけど、もう限界かもしれん。わかった、やったら行ってくるわ!」

安請合いともとれる寧夢の言葉を聞き、ルイズは寧夢の服の袖をつかんで顔を近づかせる。

「(ちょっと!?そのすぱみゅ何とかって強いんでしょ!?サイト、呼んできた方が・・・)」

「(ダメよ、一刻を争うし、今の町は才人がおらんかったら危ないけん。聞いとくけど、人やなかったら撃てるんよね?)」

「(それは・・・大丈夫だと思うけど・・・)」

ルイズは自信無さそうに答える。

「そないな言い方しかでけんのやったらここで待っちょって、ウチ一人で行くけん。」

「え!?でも・・・」

「でもやない。そんなハンパな気持ちで来られてん足手まといや。」

寧夢はルイズを突き放すように言って市長室を後にした。

残されたのは市長とルイズ、そして早苗である。

『ルイズさま、早苗はご主人さまにルイズさまのご命令をうかがうよう、言いつけられました。』

早苗はルイズの回りをクルクルと飛び回りながらそう言った。

面倒事を避けるために、早苗はルイズにも日本語で話すよう言いつけられている。

「あぁ、ルイズくん?あまり気を落としてはいかんよ。マイスターはキミに危ない目にあってほしくなかったからきつく言ったのだろうしな。」

市長のフォローもルイズは半分聞いていない。

「市長さん・・・その、緑の園っていうところ、取り戻さないのですか?」

「当然、そのつもりさ。しかし、あの緑の悪食鬼共はすでに緑の園を要塞化しているからな、周到に準備して総攻撃をかけねばならない。しかしそうなると、徐先生の身に危険が及ぶ。攻め込むにしても先生の救助が先決だ。」

「じゃあ、どうしてネムを行かせたんですか!?彼女はこの街の衛兵とかじゃないんでしょ!?」

「わかっている。だが、私はできない人間にできもしないことを依頼するような真似はしない。」

市長の言葉は力があり、たじろぐルイズの視界が暗転する。

 

「このパターンは・・・」

『やっほー!』

真っ暗な空間でルイズの後ろから彼女とまったく同じ声が話しかけてくる。

「アンタってホント、人が忙しい時に限って出てくるわね、わざと?」

『あら?前も言ったと思うけど、アンタが話したがってるから出てきてあげてるんだけど?』

ルイズとしては正直なところ、このもう一人のルイズとはなるべく話をしたくない。

なぜなら、出てくるたび必ず痛いところを的確に突いてくるからだ。

「とにかくよ!ネムを止めなきゃいけないんだから、アンタなんか相手してるヒマないの!」

『ホントにそう思ってる?』

「当然じゃない!ネムは友達なんだから!」

『止めるってことはさ、ジョーイとかいう人を見殺しにするってことになるわよ?サイトとネムの話だとハルケギニアへ帰る手がかり持ってるかもしれないんでしょ?いいの?』

ルイズの思ったとおり、もう一人のルイズはジョーイのことを持ち出してきた。

「し、仕方ないじゃない!そうしないとネムが・・・」

『だからさ、何でネムにそこまでこだわるの?友達とか何とか言ってるけど、アンタさ、あの子をどのくらい知ってんの?』

「それは・・・」

ルイズは寧夢に関することを思い浮かべる。

名前、年下らしいこと、容姿、なぜかメイド服を着用していることなどが浮かぶ。

『そんなのほとんど見たらわかるんだから知ってることなんて名前くらいでしょ?名前知ってるくらいじゃ友達とは言えないわね~?』

友達、友情などという言葉ほど濫用されるものはない。

定義も曖昧で、『友達契約書』を作ってリスト化しているわけでもないため都合よく出したり引っ込めたりできる便利な言葉として使われることがままある。

自分に都合のよい味方や労働力が欲しいとき、適当な大義名分が欲しいとき、言葉または自分に酔いたいときなど、使途は多岐にわたる。

『ま、アンタ向こうでも友達なんて一人もいなかったし、仕方ないわね。』

「し、失礼ね!いるわよ!!友達くらい!!」

『え、誰々?あぁ、あの王女のこと?あのさぁ、アレがアンタに何してくれた?』

もう一人のルイズにそう言われるとルイズは王女との思い出を反芻する。

やたらとルイズの物を欲しがり、取り上げられてはすぐ飽きるということは数えきれない。

『他にもさぁ、どっかの皇子とパコパコパコパコヤるためにアンタをヌイグルミか人形がわりにベッドの中へ押し込んで行ったりしたわね。アレ、バレたら真っ先に怒られんのアンタよ?当人は怒りが峠を越えた頃に朝帰りっと。』

もう一人のルイズは王女に似たヌイグルミの腰に、自分も相手の皇子に扮して自分の腰を打ち付ける仕草をしながらそう言って王女のヌイグルミを投げ捨てた。

『結局のトコアンタの片想いじゃないの?アレはアンタのことなんていいとこお人形さんくらいにしか思ってないわよ、きっと。』

ルイズはまたもや反論できない。

彼女に言われると、自分が目を背けていたことを直視せざるを得なくなるのだ。

『ま、今回はホントにアンタのために助言しに来たのよ。今さ、ネムがスパなんとかっていうバケモノのトコに乗り込んでるのよね?』

「・・・そうよ。で?」

『カンタンなことじゃな~い!ハナから、何もしなければいいのよ。ネムだって何の考えも無しに動いたりしないでしょ?なら、何もしなくてもジョーイとかいう人を連れ戻してきて、あとはハルケギニアに帰る手がかりもらってあわよくばそのままバイバ~イかもしれないじゃない!』

「・・・まあ、一理あるわね。」

否、一理どころか真理なのだ。

実際、ルイズが行ったところで何かが変わるでなし、待っていても寧夢が全て片付けることだろう。

『ま、とにかく他人の命より自分の命の方が大事なんだから、捨てに行っちゃダメよ。』

そう言ってもう一人のルイズが姿を消すと、いつもの暗やみから元の場所、市長室に戻されると、早苗のカメラがルイズを覗き込んでいた。

『ルイズさま、どうかなさったのですか?』

「サナエ?今、わたしどのくらいボーッとしてた?」

『わたくしのカメラに焦点が合うまでの時間でよろしいのでしたら、約0.47秒でしたけど?』

間違いなく一瞬であったことに安堵してルイズは市長に向き直る。

「市長さん、わたしもネムについていきます。」

「・・・私としては徐先生を連れ戻してくれる分にはありがたいが、何分私はキミのことを知らない。連れていくかはマイスターが決めることだ。」

市長は消極的にだがルイズを止める。

しかしそのような静止で考えを変えるルイズではない。

ルイズは市庁舎を飛び出し、寧夢が車を停めた街の入り口を目指す。

 

 先にロードファイターについたルイズだが、寧夢の姿はそこになく、無人のロードファイターがあるだけであった。

「あら?もしかしてネム、歩いて行ったのかしら?」

ルイズが早苗にそう尋ねると、早苗は足の部分を左右に半回転させて否定の意思を伝える。

『それはないかと思います~、歩いていたら日が変わってしまいますから~。』

早苗もルイズと並び、三つのカメラで車内を覗き込む。

そんな彼女たちの背後に忍び寄る影が一つ。

背中に大きな荷物を背負い、影がルイズ達に見えたり、窓に自分の姿が映ったりしないように

注意しながら足音を殺して近づくと大きく息を吸う。

「コラ!ドロボー!!」

ルイズは背後からそう叫ばれ、驚いて転げ回り、早苗もそれにならうかのように飛び退いた。

「ち、ちがいます!コレ、友達のではぐれちゃったから戻ったんですけどいなくて・・・」

「ププッ、なんしちゅうと、ルイズはん?」

『あら?ご主人さまじゃないですか~!』

「もう、ネムだったの!?おどかさないでよ!」

声の主は寧夢であった。

背中に背負った大荷物を降ろし、しりもちをついたルイズに手を貸して立たせる。

「市長はんトコで待っちょってって言うたんに、なしてこっちおると?」

「・・・たしかにさ、ネムに任せておけば全部うまくいくと思うわ。けど、わたしが納得できないの。危ないことを人任せにして、いいとこだけもらうなんてイヤなのよ!」

そう言ったルイズに寧夢は少し驚きながら先にした質問を投げかける。

「そやったらルイズはん、スーパーミュータントを撃ち殺せると?」

「・・・それはわからないわ。だってわたし、そのスーパーなんとかっていうのが何か知らないから。」

「そんならおってもおらんでん変わらんやんか。」

そう言われるとルイズは首を横に振る。

「サイトやネムからすればわたしなんてゼロに近いのかもしれない。でも、1+0だったとしても1より小さいなんてことはないわ!だから・・・」

ゼロというのはルイズにとって認めがたいものであった。

ハルケギニアで嘲られ、虚勢を張って否定し続けた『ゼロ』の蔑称。

しかし、ここ、州ではそれを認めなければいつ死んでもおかしくない。

『もう一人のルイズ』が言うとおり、彼女は無力だ。

しかしルイズはそれを踏まえた上で、少しでも寧夢の力になりたいと願ったのである。

そんなルイズに、寧夢は笑みを浮かべて答える。

「ホンマ、ヘンな娘やねえ。わかったわ、コーサン!ウチの負けや。」

そう言うと寧夢は担いできた荷物から二つの鞄をルイズに渡した。

どちらも蝶番で閉じられた樹脂製のハードケースで、それを開けるように促されたルイズが中身を見ると、そこにはそれぞれ分解された銃が入っていた。

「組むけん、ちっと見ちょって。」

寧夢は二挺の銃を易々と組み上げ、二種類の銃が出来上がる。

一つはルイズがマイアラーククイーンを撃った対物ライフルを小さくしたような銃で、もう一つは以前才人に渡され、今は盗賊の少年に貸している銃を一回り大きくしたようなものだ。

「組み方は今度教えちゃんけん、どういう銃かだけ覚えちょって。まず、こっちがスナイパーライフル。撃ち方は昨日の対物ライフルと同じやけど、アレに比べて軽いし反動も弱いけん、ルイズはんでも簡単に使えると思うわ。けど、アレみたいな威力は無いけんね。」

寧夢はまず、対物ライフルを小さくしたような銃をルイズに渡してそう説明した。

ルイズが渡された銃をしげしげと眺めてうなずくと、寧夢はもう一つの銃の説明に入る。

「そしてこっちはオートピストル。ピストルをフルオート射撃できるようにしたヤツや。火力は弱いけど近くで撃ち合いになったらコッチがええよ。」

そう言われてルイズはスナイパーライフルを背中に担いでオートピストルを持つ。

以前持った拳銃より少し重いが、片手でも充分取り回せる重さである。

「これ、わたしに?」

「そうよ。いざっちゅうときにあの爆発させるのだけじゃ不便やろ?まぁ、ついてくるんやったら用意しちょって正解やったわ。」

「あれ?でもネムのは?」

「ああ、それは大丈夫。ウチはコレあるし・・・」

寧夢は義手を見せてグー、パーと動かし、少し恥じらいながら続ける。

「それ、ウチが撃ってん当たらんけん、それはあげるわ。」

実は寧夢、射撃が苦手なのである。

彼女が使える銃器は普通のピストルと義手に仕込んだ射程3メートルほどの単発レーザー銃くらいのもので、フルオート銃は50発マガジンを空にしても1発当たるかどうか、狙撃など夢のまた夢だ。

二挺の銃はルイズのために用意したのだ。

「そんな、悪いわ!」

「遠慮せんでええわ、だって・・・」

寧夢は続きをルイズに耳打ちする。

「市長はんにツケといたから。」

それを聞いたルイズは、寧夢の大荷物をあらためて見る。

端々からよくわからないガラクタがのぞくそれに、ルイズは苦笑いする。

「もしかしてそれも?」

「しゃあないわよ、だって市長はんがジョーイはんを助けてくれ言うんやから、必要なものは・・・ねぇ?」

いたずらっぽく笑う寧夢に、ルイズは

-あ、絶対関係ないものも混ぜてるわね-

と、直感した。

『ご主人さま~、ルイズさま~!とにかく、積み込みますよ~!』

早苗は寧夢が運んできたガラクタをロードファイターに押し込み、自らもガラクタの隣に降りる。

それを見て寧夢はルイズに、生身の右腕を差し出す。

「じゃあ、お願いするわ、バディ!」

少し曲げた右腕の、手は強く握られている。

「バディ?」

「相棒っちゅうこと!」

そう言われたルイズは笑顔で寧夢の真似をして寧夢の腕に自分の腕を絡ませた。

 

 すぐに車を出した二人と一体はまっすぐ緑の園をめざし、さしたトラブルもなく目的地に到着すると、寧夢はガラクタから何かを作り始めた。

「早苗、銅線と基盤!」

『ハイ、ご主人さま!』

寧夢はいくつもそれを組み上げては部品にばらしを繰返し、すでに六個分の部品が積まれている。

その間、ルイズは緑の園をスナイパーライフルで見張っている。

ルイズは最初、『緑の園』と聞いて緑地公園のようなものを思い浮かべていたが、実際の緑の園は大きな壁に囲まれた砦のような場所であった。

壁の上からは曲がりくねった鉄棒のようなものでできたオブジェが見えるその場所にどうして『緑の園』などという名前がついたかルイズにはわからなかった。

「ルイズはん、終わったよ。見張り、ご苦労様。」

寧夢にそう言われてルイズはスナイパーライフルのスコープから目を離す。

「ねえネム、あの緑の園っていうの、どうしてそう呼ばれてるのかしら?見た感じ、そうは見えないんだけど?」

「そうやねぇ・・・早苗、お願い。」

『は~い、ただいま!』

寧夢が促すと早苗はカメラから立体映像を投影し、緑の園のかつての写真を出した。

ルイズは最初、突然現れた『光でできた模型』に驚くが、同時に『そういうものなのだ』と考え、自分なりにどういったものか整理する。

その結果彼女はそれを、学院の秘宝『遠見の鏡』のように遠くの映像を映すものに、過去の記録を映せるようにしたものと考えることにした。

『あそこはかつて、そういう名前の遊園地だったのです。』

「遊園地?」

ルイズの考える遊園地のイメージは、我々で言えば保養地とアスレチック公園を足して2で割ったくらいのものである。

そんな遊園地と緑の園は大きくかけ離れていた。

『ゴールデ(ザザザ)クは家族で(ザザザザ)ついグ(ザザザザザ)ランドへ(ザザザ)』

早苗がかつての緑の園についての資料を映すが、データが劣化しているようで断片的にしか映らない。

しかしありし日の緑の園の映像はやはりルイズにとって驚くに足るものであった。

今となっては崩れ残るだけの、二本の鉄棒でできたオブジェの上を滑るように走る乗り物、ロマリアの大聖堂より高いであろう丸形の展望台、たくさんの怪物を閉じ込めた屋敷、人も住めぬ極寒の地を再現したという建物に寧夢のロードファイターを小さくして屋根を取り外したような乗り物を操る子供などが映されている。

「昔はこんな風に遊んでいられたんよね。今じゃ考えられんわぁ。」

寧夢はそれらを見ながら感傷にひたる。

彼女はこれら戦前に関する資料をいくつも見たことがあるのだが、何度見ても感慨深くなるのだ。

「考えられないって、ネムが小さい頃はどうだったの?」

「ウチ?物心ついたころには手ぇも足も悪ぅてね、そんでも父ちゃんも母ちゃんも、『自分らの子どもや』ってこの手ぇと足、作ってくれたんや。コレで母ちゃんと色んな物作るのが楽しみやったわ。」

義手をいとおしそうに撫でる寧夢の話を聞いてルイズは『しまった』とばかりに口を押さえた。

寧夢の口ぶりから間違いなく、彼女の両親は他界している。

体のことにしても触れられて愉快な話ではないだろう。

「その、ゴメンね、無神経なこと聞いて。」

ルイズに代わって緑の園を望遠鏡で見る寧夢にルイズがそう言うと、寧夢は微笑んで答える。

「あ、勘違いせんといて、えぇ思い出の話なんやから。二人とも、州に還っていったけど、ウチに色んなモン残していってくれたけん。」

「州に・・・還る?」

「ウチらは人が死ぬんを『還る』っち言うんよ。州の土に還ってウチら生きとる人に宿ってまた生まれるってね。」

「(あ、土葬のことを言ってるのね。)」

ルイズがそう納得すると、寧夢は目当てのものを確認して望遠鏡から目を離す。

「よし、ヤツら、メシ時になったみたいや。見張りが出てきたわ。」

「見張り?」

「スーパーミュータントは根っからの戦闘狂やけん、メシ時以外は全員武器持っちょって臨戦態勢なんや。やけどメシ時やったら監視何匹かだけ残して引っ込んでまう。その監視も、見やすい場所におるけんえぇ的や。」

ルイズは寧夢の話を聞いて壁や門の上の、特に高い場所を注視する。

「・・・緑色のオーク鬼?」

ルイズはスーパーミュータントとおぼしき緑色の巨漢を見てそうつぶやいた。

オーク鬼とはハルケギニアに生息する猛獣で、直立歩行し、こん棒などを武器とするイノシシのような生物だ。

彼らがもっとも美味とする餌は『人間』で、群れをなして集落を襲うことが多々ある。

そんなオーク鬼に対して武装した平民の戦士が正面から戦おうと思えば一匹に対して五人で刺し違えられれば健闘した方という怪物である。

それが見える限りでも五匹、これらは見張りらしいから実数はもっと多いのは間違いない。

メイジであってもオーク鬼の群れとなれば最低でもトライアングルメイジが複数人必要になる。

「緑の見えたん?それがスーパーミュータント。昔の戦争は知っとるんよね?そん頃に作られたクスリ、『FEV』でバケモノになった人間がヤツらや。」

「・・・それって元は人間なんでしょ?なら、人間じゃないの?」

ルイズは、出発前に寧夢が言った『人間じゃないなら撃てるか』という問いを思い出して尋ねた。

どうもスーパーミュータントはオーク鬼とは似て非なる生物のようなのである。

「そやねぇ・・・ま、大丈夫やろ。ついてきて。」

寧夢はルイズを近くの建物に導き、三階建ての四角い塔の屋上から『緑の園』の壁の中を望遠鏡で覗き見て、広場にジョーイがいないことを確認するとスーパーミュータント達が食事をしている場面を見せる。

見張りに発見される危険もあるが、それよりも寧夢はルイズに『スーパーミュータントは明確な人類種の敵』であることを教える方が重要と考えたのだ。

「あれ、煙が上がっちゅう広場、見てん。」

ルイズは寧夢が示す煙をスナイパーライフルのスコープで覗き見て、ガクガクと震えたかと思うとその場で嘔吐した。

「州にもいろんな人間おるけど、少なくとも『人間を好き好んで食べる人間』はおらんわ。おったとしたらそいつはもう、人間やめた異常者(バケモノ)やろうね。」

人は人を食べたりしない。

極限状態ならばその限りでないかもしれないが人間に限らず生物というのは本能的にいわゆる『共食い』を嫌悪する。

ルイズが見たのは、笑いながら人間の服を剥ぎ、食料が入っているかもしれないバッグ等を遠くに投げ捨て、苦しみあえぐ人間を生きたまま解体し、串焼き、スープその他にして食べる緑色の『オーク鬼』であったのだ。

ハルケギニアのオーク鬼にはそのような『料理をする』習性は無い、あったとしてもルイズのような一般的なハルケギニア人は知らない。

ある程度、正確には人間並みの知性を持つからこそ調理をする。

スーパーミュータントにはそれだけの知性があり、知性を持った上で人間を好き好んで食べているならばもはや人間ではないと、ルイズは結論付けた。

「ありがと、ネム。よくわかったわ、スパミュ何とかっての、人間じゃない、オーク鬼の類いよ!」

「わかったわ、じゃあ、頼むよ。」

寧夢はルイズにこれから行う作戦を説明する。

まずは寧夢が先ほど組み立てては部品にばらしていた『たれっと』を攻撃が届く限界の位置に仕掛け、時限式で起動するようにしたあと、起動する瞬間にルイズが見張りを全て狙撃、『たれっと』の攻撃を大規模な襲撃に見せかけて、混乱している間にジョーイが囚われている独房に近い北ゲートから潜入する算段なのだ。

「待って、『たれっと』を仕掛けるのに近づかないといけないんでしょ?見つかっちゃうわ!」

「それは大丈夫、コレ使うから。」

寧夢はそう言って小さな箱に赤と青のランプ、ギザギザの黒いネジ、そして肩にかけるためのヒモがついたものを取り出した。

「ステルスボーイ、少しの間自分の姿を消す道具や。それじゃタイミングやけど、コレが鳴ったらお願いね。」

寧夢はルイズに、ルイズが見たことの無い数字が書かれた板を渡す。

『20:00』と書かれた板は『19:59、19:58、19:57』と、勝手に字が書き変わっていく。

ルイズがそれを受け取ると寧夢はステルスボーイを操作し、一瞬光ったかと思うとこつぜんとその場から消滅した。

早苗は寧夢の作戦において車の運転を任されており、塔を出たためルイズは一人、塔に残る。

今いる塔からならば全てのスーパーミュータントを狙撃できると見たため、動かなかったのだ。

ルイズは渡された板の数字を、寧夢の口ぶりから『減っているもの』とあたりをつけて、その変化から州の数字の規則性を覚えていく。

「(数字の種類は十個、『9』から一つ増えると左側に一つ加える。『60』で真ん中の『:』の左側が一つ増える。)」

ハルケギニアとは数字こそ違うが10進法であることは同じと理解するが、『:』を挟む『60進法』はハルケギニアと時間の数え方が違うため理解できなかった。

「(これは終わってから聞くことにして、あと『767』ね。)」

『12分47秒』をルイズは便宜的にそう考え、スナイパーライフルで緑の園をうかがう。

 

 その頃寧夢は、緑の園の正門の前を、ステルスボーイを使って走り回っていた。

タレット、すなわち自動砲台は全部で12個、ヘビーレーザー、ヘビーマシンガン、ミサイルが四個ずつで、それらを素早く組み立てては見えにくいように隠し、影でステルスボーイをつけ直して次のタレットを組み立てる。

「(っしゃ!コレでラスト!!あと二分、急がな!!)」

寧夢は最後のタレットを組み終えると全力で早苗の待つロードファイター目指して走る。

早苗と合流してルイズを拾い、すぐに北ゲートへ向かうのだから時間としてはカツカツである。

 

「(あと10!ネム、大丈夫かしら・・・信じるしかないわ!)」

寧夢が全力疾走しているころ、ルイズは狙撃の準備にかかる。

頭の中で秒読みしながらスナイパーライフルを握り、五匹のスーパーミュータントをスコープ越しににらむ。

「(・・・あと3・・・来たわ!)」

ルイズの視界に、マイアラーク・クイーンを狙撃した時のような表示がなされる。

「(手前から頭に『99%』『99%』『95%』『91%』『83%』やっぱり時間と進法が違う。多分、数字の大きい方が当たりやすいんでしょうね。とにかく全部・・・え!?)」

ルイズは全てに狙いをつけようとしたが、三匹までしか狙えないことに気づく。

「(もしかしてコレ、三発までしか使えないの!?)」

ルイズは今、初めて『V.A.T.S.』が三発までしか使えないことに気づく。

使用者によっては多くもなるのだが、今のルイズでは三発が限界なのだ。

驚いてタイマーを見ると、ルイズの体感ではすでに時間になっているはずであったが、タイマーは『2』を指している。

「(こうなったら残りはコレに頼らないで当てるしかないわ!!)」

タイマーが残り1秒を示し、ルイズは大きく息を吸って止める。

「すうううぅぅぅっ、ん!!」

『ピピピピッ!ピピピピッ!ピピピピッ!』

息を止めた瞬間、タイマーが鳴り、ルイズはまずV.A.T.Sの三斉射を放ち、続いて素早く残りの二匹を狙撃した。

三斉射はスーパーミュータントの頭に吸い込まれるように命中し、遅れて残る二発が遠くにいたスーパーミュータントに命中する。

自力で撃った弾丸の一発はスーパーミュータントの頭蓋骨を砕くが、残る一発は直撃とはいかなかった。

「しまった!!」

残る一匹の両目を切り裂くように当たり、スーパーミュータントは目を押さえながら緑の園の中に落ちていった。

ルイズはそれを伝えるため塔からかけ降りると、ちょうど早苗が運転するロードファイターが寧夢を乗せてルイズを迎えに来た。

「ごめんなさい、一発外した!」

「え!?ウチには当たったように見えたけど!?」

「一匹だけ、両目をこう、こするみたいに当たって・・・」

ルイズは自分の目の前で指を動かして当たり方を伝える。

「上々よ!はよ乗って!それと早苗、ウチが運転するわ!!」

寧夢が指示を飛ばし、ルイズはロードファイターに転がり込み、早苗も助手席に移ると、寧夢はロードファイターのハンドルを握り、急発進させた。

すると爆弾が雨のようにルイズがいた塔の周囲に降り注ぐ。

生き残ったスーパーミュータントの言葉を頼りに大体の狙撃ポイントめがけて大砲を撃ってきているのだ。

同時に緑の園から飛び出してきたスーパーミュータントはタレットと交戦を始める。

「ひきょうものドモメ、やつらハすてるすぼーいヲつかッテヤガルゾ!」

「ばけつガイタラモギトッテヤル!!」

片言のような話し方で飛び出してきたスーパーミュータントは、仲間が蜂の巣にされても構わずタレットの方へ向かっていく。

それを大きく迂回して進むロードファイターの中でルイズは寧夢に一発外したことを謝罪する。

「ごめんなさい・・・外して・・・」

「ええんよ、そもそも全部当てろなんてのが土台ムリな話なんやから。」

「けど、オバケ蟹の時の、三発しか使えなくて・・・」

謝罪を続けるルイズに、寧夢は呆れながら答える。

「あんねぇ、ちょっとくらいやったらウチがフォローできるけんええって言いよんのよ?それともなに?ウチがルイズはんにゼッタイでけんことをやらせたっち言いよんの?」

ブンブンと首を横に振るルイズに、寧夢は続ける。

「バディやったらね、相手をフォローするんは当たり前なんや。そもそも、ウチ一人やったら狙撃もでけんのやから、ルイズはんは十分、やってくれたんよ。

 それにルイズはんやろ?『1+0かて1より細ぁない』っち言うたの。はっきり言うわ、ルイズはんは0なんかやなかった。」

寧夢はそう言ってルイズに感謝を伝え、ルイズは爆発で揺れる車内で寧夢の方へ身を乗り出す。

「ホント!?」

「ま、言うても0.1くらいやけど。」

ゴツンと、シートに鼻からぶつかるルイズ。

「もう、イジワル!!」

「ふふっ、冗談よ、それとウチこそゴメンね、市長はんトコでキツイこと言うて。」

「それはもういいわよ、気にしてないから。」

そうやって話している二人に、早苗が割って入る。

『よかったですねぇ、ご主人さま。初めて『ご友人』にカテゴライズされる方ができて。』

ピシッと、空気が凍るような雰囲気がして、寧夢は前を見たまま静かに告げる。

「さ・な・え~?一言多いんよ、自分は!!」

寧夢の義手の指一本一本が+ドライバー、-ドライバー、ペンチ、スパナ、レーザーカッターになる。

「あんまいらんこと言うと解体するよ!?」

『ひいっ!?それだけはご勘弁を~!!』

「クスッ・・・ネム、やめてあげて、わたしも似たようなものだから。」

ルイズがそう言って仲裁すると、寧夢は手を元に戻し、早苗は口があれば安堵の息をつくような声を出した。

 

 寧夢はロードファイターを北ゲート付近の陰に止めて、早苗を残して降りる。

「それで、どうするの?いくら正門側?に集まってるっていっても、いくらなんでも空っぽじゃないでしょ?」

「大丈夫よ、ウチの手ぇ握って。」

「え?ええ。」

ルイズが寧夢と手を繋ぐと、寧夢はステルスボーイを起動した。

すると先のよう二人の身体が光り、透明になる。

ルイズは驚いて自分の身体を空いている手でペタペタとさわる。

「ピストル持って。すぐ撃てるようにしちょき。」

左手でつかんでいることと、音からして義手を武器に変えたらしいことしかわからない寧夢からそう言われ、ルイズもオートピストルを取って、片手でスライドを引いて安全装置を外す。

二人は互いに利き手、あるいは武器である義手を自由になるように手を繋いでいる。

「コレ、どうなってるの?」

「今、忙しいけん簡単に言うけど、蜃気楼みたいなんを体の回りに作っちょんのよ。」

ルイズは蜃気楼と言われて風の魔法に似たようなものがあるのを思い出す。

ステルスボーイとはかつての戦争で『中原の国』と呼ばれた国が使っていたとされるもので、使用すると接触しているものの表面に光を曲げる層を作り出し、使用者の背後にある景色を見せる、言ってしまえば使用者を透明人間にしてしまうのだ。

そしてこのステルスボーイは寧夢の改造によって、手をつなぐなどして接触していれば二人まで、一切の装備を持たず、極端な話全裸ならば三人まで効果範囲を広げることができる。

全裸で三人同時使用というのがどんな状況なのかは考えてはいけない。

 

 寧夢はルイズの手を引いて、足音をたてないように北ゲートへ近付く。

北ゲートはただ閉じられているだけで見張りがいるような様子もない。

「(妙やな・・・ここ、アスファルト剥がしとるな。それに最近耕したみたいな?)」

「そ、そ、そ、そこ、だかいるのか!?」

「!?」

寧夢とルイズが周囲を見回すと北ゲートの陰から少し小柄なスーパーミュータントが二人のいる場所をにらんでいた。

小柄とは言っても才人よりは大きく、あくまでスーパーミュータントとしてである。

「ふ、ふ、ふ、ふむな!!そこは・・・」

「チイッ!!ルイズはん、こっち!!」

寧夢はルイズを岩陰に引っ張りこんでステルスボーイを停止させた。

「ど、どうして!?」

「ウチにもわからん。ステルスボーイは間違いのう動いちょった。」

二人は小声でそう話し、ルイズは自分たちがいた場所を見て得心する。

「あそこ、舗装が剥がされてるわ。もしかして足跡が見えたんじゃないかしら?」

「ウソやろ!?いくらなんでも・・・」

寧夢は自分のミスに頭を抱える。

スーパーミュータントでそこまでの洞察力を持つ者は珍しいため、気が回っていなかったのだ。

「もしかしてジョイねえちゃんのなかまか?」

スーパーミュータントはそう言いながら北ゲートを開けて出てくる。

「ルイズはん、チャンスや、大マヌケに出てきたわ。仕留めたって!」

寧夢が小声でそう言うとルイズはスナイパーライフルを持つ。

スナイパーライフルのV.A.T.S.ならば間違いなく一撃で仕留めることができる。

しかし同時に違和感をおぼえた。

「ねぇ、何でアイツ、ジョーイさんの名前を知ってるのかしら?」

「んなのウチらみたいに助けに来たのをハメるためやろ!?」

「!?やっぱりおかしいわ!あいつらは根っからの戦闘狂って言ってたわよね?」

「それが?」

「それなら騙すとか、そんな回りくどいことしないでしょ?それにアイツを見て。」

寧夢はルイズにそう言われ、義手を鏡にしてスーパーミュータントを見た。

ルイズも確認のためにその鏡を見て確信する。

「武器を持っていない?」

「でしょ?」

そう、スーパーミュータントは手ぶらだったのだ。

当然、スーパーミュータントの怪力ならばルイズ程度であれば素手で引きちぎることもできるだろうが、武器を持たない理由にはならない。

「や、わからんわ!隠し持っちょんのかもしれん!」

「それこそやらなそうなことでしょ?いいから、わたしに任せて。」

そう言ってルイズはスナイパーライフルをおろし、オートピストルも置いて、両手をスーパーミュータントから見えるように挙げて岩陰から出た。

念のために杖だけはスカートにはさんでいるが、スーパーミュータントから見れば丸腰にしか見えない。

「あんた、ジョーイさんのことをどうして知ってるの?」

ルイズはゆっくりスーパーミュータントに歩み寄っている。

「ま、まて、それいじょうこっちにくるな!」

「!?どうして?」

驚きながらもルイズは怯んだ様子を見せない。

かつて、男装の騎士をしていた母から、ドラゴンやグリフォン、マンティコアに乗る時、向こうを恐れた様子を見せてはいけないと聞いたことがあるのだ。

ハルケギニア、トリステインの近衛隊で使われる幻獣は例に漏れず猛獣で、それらは自分を恐れる人間を軽く見る。

軽く見られている間はどうやっても乗ることはできないと教わった。

それをスーパーミュータント相手にも使っているのだ。

「そこ、オラのはたけ。まだなにもうえてないけど、ふまれたくない。」

「あら、それは謝るわ、ごめんなさい。ところで、何を植えるつもりだったの?」

ルイズはスーパーミュータントから目を離さずに謝罪し、さらに重要ではない話をして親近感を与える。

もっとも、彼女はそのような計算はしておらず、思いつくままに説き伏せようとしたら偶然そうなっているのだ。

「わからない、なんのたねかわからないから。」

ルイズは畑という話を信じていない。

そもそも北ゲート付近はどこも日当たりが悪く、作物などろくに育たないであろう。

しかし『畑じゃなければ何か』というのまでは思い付かない。

「どうしてこんな暗いところに畑を作ったの?ここじゃ育たないでしょ?」

「なかは『くまぞう』がつくらせてくれない。はなばっかりそだてて、にんげんをたベないよわむしにはつかわせないって。」

「人間を食べない?ホントに?」

ルイズはそう聞きながら畑を迂回してスーパーミュータントに近づこうとして、頭の中に『ピッピッピッピッ』と、妙な音がして驚いて立ち止まると、スーパーミュータントが急にルイズを抱き上げた。

途端にスーパーミュータントの足元が爆発し、ルイズを抱えたままスーパーミュータントは転倒する。

これにすかさず寧夢は岩陰から飛び出した。

「とうとう本性出したなぁ、アンタ!!」

遠目で見ていた寧夢には、スーパーミュータントがルイズを地雷の方に誘導しようとして、感付かれたから引き込もうとして結果自爆したように見えたのだ。

寧夢は自分の腕では当たらないのはわかった上で、ルイズの置いていったスナイパーライフルを向けてスーパーミュータントを牽制する。

「ルイズはん、そいつから離れて!」

「やめて、ネム!この子、今、わたしを庇ったのよ!!」

「くるな!ま、まだあるかもしれない!!」

足を押さえながらスーパーミュータントがそう言ったのを聞き、寧夢も自分がこのスーパーミュータントを誤解しているのではと思い、踏みとどまる。

「・・・V.A.T.S.起動。」

寧夢はそう呟いて集中する。

彼女の義手には戦闘、作業を補助する機能『V.A.T.S.』をはじめとする諸機能を備えた携帯用端末『Pip-Boy』が組み込まれている。

義手に組み込むために荷物のリスト化、モバイルライト機能といった一部の機能を省略し、さらにV.A.T.S.も作業用であるためスローモーション機能や命中率補正機能などがない戦闘面に関してはただの索敵用になっているが、地雷探しならば十分だ。

「(畑?の中に二つ。うわ、危なかった、すぐ前にも一個あるやん!)」

寧夢は爆破解体しようとしてスナイパーライフルを使おうとする。

『4%』『7%』『29%』

と、地雷に表示され寧夢は自嘲気味に笑いながらスナイパーライフルを担いで義手を構えた。

「(イヤんなるわぁ、ウチのクソエイム・・・)」

至近距離にスナイパーライフルですら三割に満たないのが彼女の射撃の腕前である。

なお、才人であればこれらは全て、『ルーキーですらピストルで百発百中、できないなら銃がおかしい。』というのは間違いない。

銃がおかしいというのはあり得ないのだから、寧夢の射撃の腕が酷すぎるだけなのだ。

「セイ、セイ、セイ!!」

寧夢は三つの地雷全てを掘り起こし、遠くへ投げた。

地雷ははるか彼方で爆発し、寧夢は念のため周囲の地雷を探索するが、今の三つで最後であった。

「・・・もう大丈夫や。自分、名前は?」

寧夢はしゃがんでスーパーミュータントに名前を尋ねる。

「オラ、『こたろう』。」

「小太郎ね?ウチは寧夢、そっちの子はルイズ。ごめんね、小太郎。疑って。」

寧夢はそう言ってスカートの中から注射器を取り出した。

スティムパックといい、鎮痛、止血のための薬品だ。

その効果を見たルイズは、スティムパックが水の秘薬を使っての治癒の魔法以上であることに驚きを隠せなかった。

「いい、しかたなかった。それより、ジョイねえちゃん、たすけにきたんなら、オラ、しってる。」

小太郎は寧夢に副木をしてもらうと、立ち上がって足を引きずりながら二人を導く。

その方角は寧夢が聞いた、ジョーイが囚われている、『怪物を閉じ込めた屋敷』であった。

「ジョイねえちゃん、ねえちゃんをむかえにきたってひとたち、つれてきた。」

「小太郎?ちょっと待って・・・いいわよ。」

若い女の声がそう返答すると、小太郎は閂を外して中に入り、それに続いて寧夢とルイズも中に入る。

「あ?案外元気そうやん、ジョーイはん。」

「あら、寧夢ちゃんだったの?やってくれたわね、あのタヌキ。」

寧夢がジョーイと呼んだ女は、寧夢より少し背が高く、ウェーブがかった栗色の髪をポニーテールのようにして、ルイズの長姉や母を思い起こさせる切れ長の目に長いまつ毛、左目の下には泣きボクロがある美女であった。

長く着のみ着のままだったであろう赤いシャツと白衣は汚れが目立ち、タイトスカートから覗くガーターとソックスは少し破れている。

「あら?そっちの子は?見ない顔だけど。」

「こん子?ルイズっちいうて・・・詳しくは帰ってから話すけど、こん子のことで調べたいことがあったんよ。」

「そう・・・なるほどね、よろしく、ルイズちゃん。私は(ジョ) 一命(イーミン)。みんなはジョーイって呼ぶわ。」

ジョーイはそう言ってルイズに右手を差し出した。

目の前に立つジョーイは視線をルイズに合わせるために少ししゃがんでおり、ルイズは握手を返しながらジョーイの顔と、そしてその下で視線を往復させる。

「(よく見たら顔、傷跡があるわね・・・そんなことより、ネムよりおっきい!ちい姉さまくらいあるわよこの人!!ホント、何食べたらこんなになるのよ、こっちの女の人って!!)」

引きつった笑顔を浮かべるルイズであった。




ルイズがゲロイン化していく・・・
いや、ゲロインはギャグで吐く場合だから違うのかな?

大丈夫かと思ったのがゲロイン化と、『人は人を食べたりしない』のくだりでした。
前、どこかで『あの手の話』は創作では気をつけた方がいいと聞いたことがありまして。

さて、人物&用語紹介を。

徐 一命(公称27歳)
城郭街で医院を営む女医。
戦前の資料を多数所持しており、仮に書籍化すれば図書館が二つか三つ必要なほどです。
年齢は彼女自身詳しく知らず、夫と同い年、結婚した日を誕生日としています(法的なものはないので本人達の意志次第)。
身長178㎝、体重75㎏、バスト95㎝、ウェスト63㎝、ヒップ92㎝と、軽々キュルケ越えのスタイルです。
ルイズよ、食べものはゲテモノばかりに決まってるぞ。

小太郎(??)
自称人間を食べないスーパーミュータントです。
スーパーミュータントに年齢はあってないのでしょうけど、どこか幼さを感じさせるところがあります。
彼は敵か、味方か!?(要らん煽り)
身長202㎝、体重147㎏、バスト178㎝、ウェスト106㎝、ヒップ111㎝と、『スーパーミュータントにしては』小柄です。
拳○様とあんまりかわらんとか言わないように。

Pip-Boy
フォールアウトシリーズのVault-tech社製携帯端末で、装着者の装備、健康状態、S.P.E.C.I.A.L.(能力値)やPerk(スキル)の状況、所持品リスト、ラジオ受信、モバイルライト、テープ再生、V.A.T.S.等様々な機能が備わっています。

V.A.T.S.
以前からルイズが無意識に使っているものですが、本来は『Pip-Boy』がなければ使えません。
使用すると時間の流れが遅くなり、いわゆる『脅威対象』を探索し、攻撃命中率を補正し、さらにどれくらいの確率で攻撃が命中するかを教えてくれます。
なお、寧夢のものは作業用なのでスローモーション機能や命中率補正機能がありません。

FEV
200年前の戦争で、アメリカが抗ウィルス剤として作りましたが、投与すると怪物化するという副作用が発覚し、その副作用を狙った軍事目的の研究にシフトしました。
それにしても、どれだけこのFEV、地球上に広がってるのやら・・・

スーパーミュータント
かつての戦争の際、FEVによって怪物化した元人間。
力任せの戦い方が大好きな戦闘狂で、作者はスーサイダーがトラウマです。
コイツらにはある程度強力な武器が無いと厳しいものがあります。

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