ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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第五話 ロードファイト

 マイアラークを撃退した翌日、ルイズは同じ部屋で眠っていた寧夢に起こされた。

「・・・ん、何よ、まだ暗いじゃない?」

「もう5時よ、起きな間に合わんよ。」

半分眠っているルイズを連れて寧夢は洗面所に行くと、顔を洗わせようとする。

「・・・洗ってよ。」

「はぁ?何言うとるん?寝ボケとらんと、シャキッとしよ!」

ペチ、ペチと、頬を叩かれてルイズは、自分がハルケギニアでなく州にいるのを思い出した。

寧夢がどことなく魔法学院にいたある使用人と似ているせいで、彼女を侍女と勘違いしたのだ。

「あれ?ネム?」

「顔、洗うたら目も覚めるやろ、やること多いんやから、早うしてね?」

ルイズと寧夢は並んで顔を洗うと髪をとかして身だしなみを整え、寧夢はルイズを連れて詰所の外にある洗い場に出た。

そこにあったのは、中に網が入った大きな箱・・・廃材から作られた寧夢謹製の洗濯機である。

洗濯機どころか手洗い洗濯すらしたことがないルイズは寧夢に聞きながらこなしていく。

量は三人分と少ないため簡単に終わり、片付けると同時にルイズは疑問に思う。

ルイズ、寧夢、そして才人が寝起きするのに使っているのはミブロウ団の詰所なのだが、三人、ルイズが来る前は二人きりだったはずなのに広すぎるのである。

「ねえネム、この『詰所』って二人で住んでたの?サイトって『ミブロウ団』とかいう自警団の・・・局長って呼ばれてるけどそれって団長よね?まさか二人だけってことないでしょ?」

「・・・昔はもっとたくさんおったんよ。」

寧夢は自分が知っている限りのミブロウ団についての話をする。

 

 ミブロウ団はかつて、一隊十人で、先代局長直下の精鋭一番隊、古参の二番隊、若手の三番隊、見習い上がりの五番隊に、装備の整備や無線連絡、詰所の管理等をこなす詰所組を合わせて100人ほどが所属しており、才人は見習い上がりの五番隊の隊長であった。

彼らの主な仕事は民兵の訓練と、町や集落から離れた場所で襲撃しようとする危険生物や盗賊を狩ることである。

そんな彼らが一年ほど前、隊総出の任務で一番隊から五番隊まで全てが出ていき、壊滅したのだ。

生き残ったのは才人一人、その才人も要領を得ないことしか言わず、不信感を持った詰所組も離散し、本来隊士ではない幼なじみの寧夢が詰所の管理をするようになったのだ。

 

「・・・全滅って何があったの?」

「ウチは隊士やなかったけん、詳しい話はちょっと。ただ、この話、才人ん前じゃ禁句よ?才人、この件の犯人やないかってメチャクチャに疑われたけん。」

ルイズはその時の才人の気持ちに思いを馳せる。

仲間が全て目の前で殺されればショックで記憶も曖昧になっていたことだろう。

たしかに一人だけ生き残るというのは不審かもしれないが、奇跡だってあるだろうし、生き残ったからといって疑われてはたまったものではない。

「疑うワケじゃないから気を悪くしないで。サイトがさ、やろうと思ってできたことなの?その、ミブロウ団の人たち全滅させるとか?」

「ムリよ、だって一番隊とかなったら隊士一人が才人十人分くらいやったとよ?」

寧夢はそう言いながらルイズの採寸をしている。

寧夢とルイズは身長も体格もまったく違うため、いつまでも寧夢の服を着るわけにもいかないからと、寧夢がルイズの服を作ることにしたのだ。

「布はウチの工房に在庫あるけん、明日には洗い替え合わせて三着、下着も三組作っとくけんね。」

「ありがと、ネム。」

「さ、今日は才人が料理当番なんやけど、朝から串焼きとかやらんやろうね?」

「来る途中でそんなことあったわね。」

二人はメイド服に着替えると、才人が何を作っているかのぞくことにした。

 

「野菜スープにマイアラーク卵のオムレツ、温野菜サラダ・・・大丈夫そうやね。」

「昨日のマイアラーク、まだあったんだ。」

厨房をのぞいた二人がそう言うと、何者かが後ろから声をかける。

『ご主人さま、道を開けていただけるとありがたいんですけどぉ?』

「あら、早苗?ごめんねぇ、すぐどくけん。」

早苗と呼ばれた物は、ダークグレーに白い星型の染め抜きをした、鈍い光沢を放つ三本足のタコのような形をしたゴーレムであった。

大きな目のような物が三つあり、その一つがルイズをのぞきこむように伸ばされる。

『あなたがルイズさまですねぇ?わたくしぃ、この詰所でお世話になっております、早苗ともうしますぅ。』

ルイズは早苗と名乗った話すゴーレム・・・自我があるところからよくできたガーゴイルといった方が近いであろうそれの後ろに、紫色のピチピチタンクトップにブーメランパンツの、才人ほどではないが筋骨たくましい男が口紅をさして、いわゆる『オネェ言葉』で話している幻影を見て青ざめる。

ちなみにその幻影が、寧夢の遠縁の親戚そっくりであることなどルイズには知るよしもない。

なぜルイズがそんな連想をしたかというと、この早苗はかつての戦争で兵器として使われていた『Mr.ガッツィー』を寧夢が修理したのだが、修理不可、部品不足の部分を民生仕様の『Mr.ハンディー』の物で代用し、寧夢の趣味でAIを女性型の『Miss.ナニー』に交換している、言ってしまえば機械のニューハーフなのである。

「よ、よろしくね、早苗。」

引きつった笑顔で答えたルイズに、早苗は少し時間をおいて言い直す。

『‐音声システム変更、ラテン語‐

 ルイズさまはラテン語をお使いなのですね。あらためて、はじめまして。わたくしぃ、この詰所でお世話になっております、早苗ともうしますぅ。』

ルイズにはハルケギニア公用語で話されたようにしか聞こえないが、隣で聞いていた寧夢にはラテン語で聞こえている。

「そっか、ラテン語!たしかにあれはラテン語やったわ!」

「何よそれ?そもそもみんな、同じ言葉話してるじゃないの?」

二人がそんな話をしていると厨房から才人が早苗を呼ぶ。

「早苗、まだかぁ?」

『あ、ごめんなさ~い、才人さま、すぐに参りますぅ!』

早苗がそう言うと寧夢とルイズは道を開け、早苗を通したあと、

「続きは朝ごはんの時にしよ?」

「そうね、サイトも一緒にいた方がよさそうだしね。」

と、話して配膳を手伝い、朝食にすることとなった。

 

「・・・で、ルイズが話してるのがラテン語だとして、何でオレ達に通じるんだ?」

「才人、ルイズはんが話すトコ、よぉ見て。」

朝食を食べながら寧夢は才人、そしてルイズに、機械を通したルイズの声について話した。

彼女の声はマイアラーク襲撃の時、無線を通した場合だけまったく違う言葉に変わっていた。

その言葉が、早苗の言語機能によるとラテン語であり、寧夢もそうとわかった上で聞けばラテン語であった。

しかし、直にルイズの声を聞くと州の言葉、州がかつて九州と呼ばれていたころ属していた国、日本の言葉になるのである。

「え?何でもいいの?え~と、ごきげんよう、今日も良い天気ですね。」

「!?声と口が一致してない!?」

才人も、寧夢が気付いたルイズの声と口の動きの不一致に気付いた。

「え!?どういうこと!?」

「ルイズ、い、い、か?お、ま、え、も、よ、く、み、て、み、ろ。」

ルイズも才人の口の動きと、繋げると『いいか?オマエもよく見てみろ。』と言っているのを聞いて、才人と寧夢が言っている意味がわかった。

「ホントね・・・でも、どうしてこんなことが?」

「・・・なぁ、ルイズはん、いい加減、腹割って話さへん?才人はどうも強う聞ききらんみたいやけんさ。」

ルイズは、そう言った寧夢の雰囲気が変わったのに悪寒を感じる。

「まずさ、ルイズはん、ホンマはどっから来たん?」

「だから、州の外から・・・」

「何でそないバレバレなウソつくん?」

ルイズはウソを言ってはいないが、核心に当たる部分を隠している。

ルイズが才人に助けを求めるように視線を送ると、才人も出会った時から疑問に思っていることを口にする。

「あのな、この州ってのは出入りできねぇんだよ。」

「出入りできない?どういうことよ?」

才人に代わって寧夢が、今まで州から出ようとした無謀な冒険者達の末路を語った。

 

 州の周りは放射能を含む霧が立ち込め、機械を狂わせる電磁波嵐が吹き荒れており、かつて大量の放射能除去剤を持って船でその霧を越えようとしたものが除去剤を一つ使っただけの状態で死体となって打ち上げられていた。

飛行機で飛び越えようとした者が、霧に近づいて計器が異常を起こし、命からがら逃げ帰ってきた。

その後も幾人もの冒険者達が、あるものは防護服を着て、またある者はかつての戦争で使われていた放射能すら防ぐ鎧を着て、ある者は計器を全て取り外し、昔ながらのガソリンエンジンをつけたグライダーで霧を越えようと挑戦したが、よくて逃げ帰る、悪ければ死体となって州に流れ着いた。

そんな中で、生還できた者が少しだけ見えた霧の向こうについて語った言葉が、無謀な挑戦者達を思い止まらせたのだ。

『200年前の海図通りならば他の島があるはずの場所に無い。』

これが広まると命を州の外に投げ捨てようとする者はいなくなり、州では『州の外に行くことはできないし、もし外に人が住んでいたとしてもこちらに来ることもできない』というのが常識になったのだ。

 

「・・・と、いうわけなんよ。自分、ホンマはどっから来たと?」

「・・・言っても信じないわ。」

「聞かなわからん。」

寧夢の気迫に負けたルイズは、信じてもらえないとは思いながらも自分が違う世界から来たことを話し始めた。

「それなら話すけど・・・わたし、州どころかこの世界の人間じゃないの。」

そう言ったルイズに、寧夢は怪訝な顔をしながらも、

「続けて。」

と、短く答える。

「わたしがいたのは『ハルケギニア』っていう世界なんだけど、何て言ったらいいかな・・・魔法って州には無いのよね?」

ルイズがそう言うと、才人は呆れはてる。

「あのな、外から来ただけならまだしも、んな与太話・・・」

「才人、ちっと黙っちょって!」

寧夢の気迫に才人どころかルイズまでたじろぎながら続きを話す。

「その・・・ね、サモン・サーヴァントっていう、使い魔を召喚する魔法を使おうとして・・・ホントは呼ぶはずだったのに、わたしがこっちに飛ばされちゃったのよ。」

肩を落とすルイズを見ながら寧夢はボソボソと呟くようにして、記憶を手繰り寄せる。

「召喚・・・ワープゲートとかやないかな?仮に呼び出したんがデスクローとかやとして、手なずけるんはアニマルフレンド、ウェイストランドウィスパラーとすれば筋は通る。ハルケギニア・・・ハック・ジーニア?ねえルイズはん、そっちの魔法っての、作った人の名前とか知らん?」

急に話を振られたルイズは驚きながらも答えた。

「伝説・・・というか、おとぎ話みたいなのだけど、『始祖ブリミル』よ。」

「B-rim-L・・・なるほど・・・ねぇ才人、ルイズはん、借りてええね?」

「借りるって、どうすんだよ?」

「ちっとジョーイはんトコ、行ってくるわ。」

ジョーイという、ルイズの知らない人物の名前が出て、ルイズはその人物のことを二人に尋ねる。

「ジョーイって誰?」

「西の方にある城郭街ってトコに住んでる医者だよ。戦前の資料やらため込んでて、寧夢みてぇな技術屋には宝の山らしいぜ。オレは読めねぇからゴミ屋敷にしか見えねぇけど。」

「んなこと言うのが多いけん、ジョーイはんも見せたがらんのやんか!とにかくよ、ルイズはんと一緒に城郭街まで行ってくるけんさ、こっちは頼むよ?タレットとかの修理は弟子らに任せとるけん、護衛、お願いね。」

「あぁ、構わねぇよ。どうも城郭街は苦手なんだよ。」

才人はそう言って、行ってこいとばかりに手を振る。

『あのぉ、わたくしはぁ、どちらにお供すればよろしいでしょうかぁ?』

三人の会話を聞いていた早苗が、話がまとまったのを見てそう尋ねる。

「そやねぇ、早苗はウチらと来てくれる?何かあったとき、ルイズはんについててもらいたいけん。」

『かっしこまりましたぁ!早苗、喜んでお供させていただきますぅ!』

「て、危な!?サナエ、手のハサミみたいなの、振り回さないでよ!」

『あ、ごめんなさい、ルイズさまぁ・・・』

こうして今日の予定がまとまると、三人は朝食を食べ終え、それぞれ詰所を出た。

 

 ルイズと寧夢、そして早苗はミギクの町から四人ないし五人乗りの『馬のない馬車』を乗せた、『黒いゴムの筒で鉄板を囲んだようなイカダ』の渡し船に乗り込む。

ルイズは最初、水上バイクが渡し船だと思っていたが、どうやって作られているかわからなかったとはいえ、実際に動いているのを見た水上バイクはともかく、この渡し船は沈むのではないかと不安になる。

「これ、浮くの?」

「ん?まぁホバークラフトとか州でも珍しいけど、大丈夫よ。何たってウチが手塩にかけて作った子やけん。な?」

寧夢はそう言って愛しそうにホバークラフトを撫でるが、ルイズの不安は拭えない。

ホバークラフトには寧夢の馬なし馬車と共に、先日の盗賊が使っていたような馬なしの大きな荷馬車と、建材、作業員がギリギリまで詰め込まれている。

ハルケギニアの木造船や空を飛ぶ船では間違いなく船底が抜ける、それにゴムはまだしも鉄板は水に浮かないというのがルイズ、ひいてはハルケギニアの常識である。

『船出すぞぉ!』

操舵室らしき場所から大きな声がすると、ホバークラフトは『ブオオオオ!』と猛獣の雄叫びのような音を出し、ゴムの筒が風を受けた帆のように膨らむと少しだけ地面から浮いた。

「これ、もしかして飛ぶの!?」

ルイズの頭の中でハルケギニアの空を飛ぶ船が連想される。

もっとも、これだけのものを乗せた船が飛ぶ、いや、今のように浮くだけでも、ハルケギニアのエネルギー源の一つ『風石』を湯水のように消費するのはルイズにもわかる。

我々のイメージで言えば、『ハイオクガソリンを撒き散らしているに等しい』状態なのだ。

「飛びはせんよ、このまま水面を滑っていくんよ。」

これにまたルイズは驚く。

低空飛行すれば当然、風石の消費は大きくなり、そのようなことをハルケギニアでするのは我々のイメージにすれば『ハイオクガソリンの入ったドラム缶を投げ捨てている』状態である。

水面を滑るように走るホバークラフトは、ハルケギニアのどのような船よりも早く、瞬きする間に町を囲むすり鉢状の丘側の岸にたどり着いた。

到着するとゴムの筒はしぼんでいき、まずは作業員が建材を下ろし、次に『馬なしの荷馬車』、最後にルイズ達が乗る『馬なし馬車』が降りる。

才人は他の作業員や護衛の民兵と共に『荷馬車』の方に乗っており、荷台からルイズ達に手を振っている。

昨日のマイアラークの襲撃で崩された土手、防衛設備の修理、そして拡充作業をするのだが、その最中の護衛を才人と民兵達が務めるのだ。

本来必要な作業員の半分ほどしかいないが、昨日の大宴会でダウンしている者が多いため仕方ない。

作業に向かう者達と別れて走るのは寧夢の運転する『馬なし馬車』ことSUVロードファイター。

装甲化されたボディは大砲でもなければ貫通することはできず、オフロードタイヤに窓ガラスも当然防弾仕様、屋根には助手席から遠隔操作できる重機関銃が設置され、核動力リアクター装備で最高速度はこれだけの重装備にも関わらず時速200㎞、エネルギー源はフュージョン・コア一つで半年もの間交換無しで走り続けることができるモンスターマシンだ。

二人と一体を乗せたロードファイターはひび割れたアスファルトの道路を走っていく。

「ねえ、この馬車?どうやって走ってるの?」

「馬車ってルイズはん、これが馬車に見えるん?ウチの作ったロードファイターや。核リアクター積んだ、よぉできた子やで、なぁ?」

寧夢がそう言いながら手綱にあたるであろう輪を撫でると、早苗が後ろから割って入る。

『ルイズさま、ご主人さまにとって、手がけたマシンは全てご自分のお子さまのようなものなのですよ。』

「コラ、早苗!」

二人のやり取りを聞いていたルイズはクスクスと笑っている。

「ネムってばけっこう可愛いトコあるのね?」

「うっさい!もう、はよ行くよ!」

と、寧夢が照れ隠しでアクセルを踏み込もうとしたとき、爆音をあげる鉄の馬、バイクに乗った男達がロードファイターを取り囲んだ。

バイクは全て、刺々しい装飾に無骨な大砲のようなものや楕円形のノコギリ等を装備している。

「なぁなぁ、姉ちゃん達よぉ、オレ達とドライブしねぇ?」

「ヒャッハアアァァ!!」

ルイズはこれを見ておどおどしながら寧夢に尋ねる。

「ね、ねえ、何なの、この人達?」

「チッ・・・バイカーや。面倒な奴らやね。」

舌打ちしてそう言った寧夢は、一番近くにいるバイカーをにらんだ。

『ルイズさま、舌を噛まないように気を付けてくださいね?』

早苗がそう言うと、寧夢は小さく窓を開けてバイカーに吐き捨てるように挑発の言葉を投げかける。

「かまへんよ、ウチに追いつけたらね!!」

言い終わるが早いか、寧夢は窓を閉めてアクセルをベタ踏みした。

しかしバイカー達も負けていない、アクセルを吹かして追いかけてくる。

単純な速度ならば装甲が無い分、バイカー達の方が早い。

彼らはその機動力をもって狼のような狩りを得意とする。

対する寧夢のロードファイターは例えるならクマやトラ、力でねじ伏せるのを得意としている。

「回り込め、横と後ろから仕掛けるぞ!!」

「いいケツしてんな、姉ちゃんよぉ!!」

バイカーは全部で五人、右に二人、後ろに二人、左に一人で、まずは右のうち一人が手に横並びの銃身が二つになった短銃身ショットガンを持って寄せて来て、ロードファイターの右前輪に狙いを定めながら、もう一人、そして他の者達も大砲をロードファイターに向けている。

「射ぇ!!」

「甘いんや!!」

大砲からは一斉に鎖のついた銛が放たれ、ショットガンが轟音を上げた瞬間、寧夢はロードファイターの車輪をわざと空転させてショットガンの散弾をかわしながら車体をスピンさせてショットガンのバイカーを車体後部ではね飛ばし、全ての銛を車体の表面で受け流してUターン、というよりはIターンして後ろにいた二人にまっすぐ向かっていく。

二人は突然のことに目を見開き、ロードファイターを避けながら転倒した。

「ルイズはん、撃って!!」

「え、ええ!?」

『ルイズさま、撃ち方は・・・』

早苗に教わりながらルイズは、機関銃で転倒した二人が乗っていたバイクを破壊する。

「・・・ホントやったんね、人はゼッタイ撃たんっちゅうの。」

「ゴメン、これだけは許して。」

「ま、ええわ、どうにでもできるけん!」

寧夢は再び反転させたロードファイターで倒れたバイカーの間を抜けて残る二人に向かっていき、バイカーは二台のバイクの間に鎖を渡し、その間に爆弾をつけている。

ロードファイターが爆弾をまたいだ瞬間に爆発させるつもりなのだ。

「ルイズはん、鎖のまん中、爆弾を撃って!!」

「ええ!そういうことなら!!」

ルイズは機関銃でロードファイターの近くから鎖に近づけていくようにして撃ち、鎖を銃弾の『線』で切断するように撃ち、見事爆弾を誘爆させることに成功してバイカーが一人転倒した。

「ヤロウ!!」

最後の一人が銛をロードファイター向けて放ち、それが偶然にも装甲の隙間に潜り込んで刺さってしまう。

「チイッ!ドア剥がれたら面倒やな!!」

寧夢はとっさにバイカーを追うようにロードファイターを向け、ルイズにタイミングを伝える。

「ルイズはん、ええか?ウチがハンドル切るのにあわせて鎖を撃って!」

「ハンドル切るって?」

「もう、じゃあ口で言うけん!3、2、1、今!!!」

寧夢がハンドルを一気に回すと、ロードファイターは急反転し、鎖が一瞬だけピンと張り、それをルイズは機関銃で撃ち抜いた。

バイカーは急に引っ張られたかと思うと即座に鎖を切られた反動でバイクが宙を舞い、地面に打ち付けられて転がっていく。

「うわぁ・・・みんなひどい転び方してたけど、大丈夫かしら?」

「ヘーキよ、こんくらいでくたばるヤツはそもそもバイカーなんかやっちょられんて。」

寧夢はロードファイターを止めて、その間にルイズは機関銃のモニターでバイカー達を見ると、皆、ヨロヨロとだが立ちあがり、まだ戦うつもりなのか武器を取り出している。

「さ、トドメに轢いていくんやけど・・・」

「できればやめてあげて?」

「言うと思ったわ。ま、血ぃ洗い流すんも手間やし、今回は見逃しちゃろっかね。」

寧夢はルイズにそう答えると、見えも聞こえもしないだろうがバイカー達に中指を突き立てて、

「アンタら、こん子に感謝しぃ!命だけは助けちゃるけんなぁ!!」

と、捨て台詞を残してロードファイターを城郭街に向けて走らせた。

 

 その後は盗賊の襲撃もなく、城郭街にたどり着く。

城郭街と呼ばれる街は、かつての建造物らしい塔のような建物の間に壁を作って城塞都市のようにしており、塔自体もハルケギニアのものより高いものばかりである。

寧夢は門の隣にある塔・・・ビルの前にロードファイターを止めると、降りて四角い小さな機械に話しかけた。

「ミギクの技士、佐々木 寧夢や。この街一の名医、徐 一命に会いに来た。」

『マイスター・佐々木ですか?市長がお会いしたいとのことです、すぐに開けさせます。』

後ろで見ていたルイズは、呼鈴だと思っていたが機械から声が返ってくるのを見て、無線機のようなものだと理解する。

廃材で作ったであろう門が、ギギギッと軋むような音を出しながら開くと、寧夢はロードファイターを白色の線が一台分ずつ地面に書かれた広場に止める。

「市長さんから呼ばれちゅうけど、ルイズはんも来る?」

「そうね・・・一緒にいて大丈夫なら行くわ。」

「わかった、早苗も来る?」

『お供しますぅ!』

寧夢はルイズと早苗がロードファイターから降りると、ロードファイターに鍵をかけて離れた。

このようなことを城郭街やミギクの町のようなキチンとした場所以外でやった日には、

『部品全て100%off、ご自由にお取りください』

と書いているに等しいが、城郭街は警察機構にあたる『バット隊』によって警備されており、窃盗などしようものならば殴り殺されるか切り殺されるか撃ち殺されるかのどれかである。

当然、その三つの中ですら選択する権利は存在しない。

何度かすれ違う、黒い制服を着て、腰に剣のようなものを帯びた『バット隊』の隊員がルイズをやたらとにらみつけ、その度ルイズは寧夢の後ろに隠れてしまう。

「堂々としちょき、よけいヘンに思われるけん。」

「でも、あの人達、みんなにらんできてて・・・」

『ルイズさま、大丈夫ですよ、あの人達は『バット隊』っていって、早い話がおまわりさんですよ。』

「おまわりさん?衛兵ってこと?」

『ええ、名前の由来は400年ほど前、州が所属していた国の内戦で活躍した警察の『抜刀隊』なのです。』

早苗がそう言うと、ルイズはトリスタニアの衛兵隊のことを考える。

ハルケギニアでも、トリスタニアのような街には衛兵が巡回しており、彼らもいわゆるよそ者には強い警戒心をあらわにする。

自分が初めてこの街に来る以上、当たり前だと考えたルイズは、寧夢の後ろに隠れるのをやめる。

もっとも、にらまれる度にビクッと震えるのはやめられなかったが。

 

 城郭街の庁舎は中央に位置する城が使われている。

この城はかつて『熊本城』と呼ばれており、800年もの長き間、幾多の戦乱、天災を乗り越え、人々の手で補修が繰り返され、とうとう最終戦争ですら耐え抜いたことから、『折れぬ心』の象徴として人々が集まり、州一番の大都市、城郭街を形成するに至ったのだ。

そのような歴史ある建物の最上部に位置する市長室で、寧夢とルイズ、そして早苗は市長と面会していた。

「久しぶりだね、マイスター佐々木。おや?そちらのお嬢さんは見ない顔だが?」

「島原市長、こちらは先日、ミギクの町に加わりましたルイズと申します。ルイズはん、挨拶。」

島原市長は赤ら顔の、ルイズの父母より10歳ほど年下と思われる、気の良さそうな中年の男であった。

そんな彼にルイズは、いつものように、ただし騒ぎになるのを嫌って名前だけで挨拶することにした。

メイド服のスカートのすそをチョコンとつまみ上げ、頭を下げる。

「お初にお目にかかります、先日よりミギクの町でお世話になっております、ルイズと申します。以後、お見知りおきを。」

これに市長は笑顔で、

「これはまたよくできたお嬢さんだね、ウチの愚息の嫁に欲しいほどだな。」

と、冗談めかして言うと、ルイズは口許を隠しながら上品に笑って答える。

「あら、市長さまもご冗談がお上手なことで。」

寧夢はルイズと市長がそんな話をしているのに割り込むように本題を切り出す。

「市長、こちらへお呼び立てなさったんは、世間話のためではなかとですよね?」

「・・・ああ、そうだったね。元はキミが徐先生に会いたがってるというのを聞いたからなんだが・・・実は今、徐先生はこの街にいないのだよ。」

 




 キリがいいので今回はここまでです。
カーファイト、難しかったですが、いつも銃撃戦ばかりというのも作者が飽きますので(コラ)、変わり種と思って生暖かい目で見守ってください。
なお、フォールアウトシリーズでは今のところカーファイトみたいなのは出てきていませんのであしからず。

バイカー(オリジナル)
名前通り、バイクに乗ったレイダーです。
戦い方は北斗の拳のモヒカンと、Mad Maxの暴走族を意識してます。

早苗(Mr.ガッツィー)
かつての戦争で兵器として戦い、破壊されて打ち捨てられていたのを寧夢が修理しました。
ですが部品が無かったり寧夢が修理できなかった部品を民生品のMr.ハンディーから流用し、AIをMissナニーの物にかえたため、魔改造状態になっています。

バット隊
城郭街の安全を守る警察兼軍隊です。
黒い警察の制服を着て、腰に差しているのは、一般隊員は刀型の鉄棒、分隊長以上は日本刀が支給されています。

SUVロードファイター
寧夢謹製のスーパーヴィークル。
部品を交換すれば装甲車以外にもスポーツカー、作業車輌にもなります。
これまたゲーム版マッドマックスがイメージ元です。

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