ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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第四話 三菊の町

 廃墟で一夜を明かした才人とルイズは町を目指してひび割れ草むすアスファルトの上を行く。

「ねえ、あとどれくらいでつくの?」

ルイズは朝から歩き続けて三時間ほどして才人にそう尋ねた。

彼女も体力に自信はあったが、所詮はハルケギニアのお坊ちゃん、お嬢ちゃんの中での話だ。

毎日がサバイバルな州の人間と比較する方がかわいそうだろう。

「もう見える頃だ・・・ッ!?」

才人は立ち止まり、ルイズの背をつかんでしゃがみこむ。

「な、ムグッ!?」

「静かに、硝煙の臭いがする。」

才人はそう言って荷物から双眼鏡を出し、小高い丘の上まで這っていく。

「硝煙の臭いって、何もしないけど?」

ルイズも後に続いて這っていくと、丘の向こうに町が見えた。

丘はすり鉢状のくぼ地になっており、川が流れ込んで大きな湖を作っている。

その中に浮かぶ小島のような水上都市があり、周囲は壁で囲われているのだが、その壁にマイアラークが群がっていたのだ。

「あれ、あの時のオバケ蟹!?」

驚くルイズの隣で才人はショットガンのスライドを引きながら笑みを浮かべる。

「帰って早々幸先がいいなぁ、今日はマイアラークパーティーだ!!」

走り出そうとした才人を、ルイズは彼の腕に抱きつくようにして止める。

「ちょっと、あの数よ!?考えなしに突っ込むなんて自殺行為よ!!」

才人は確かに笑っていた。

しかしその笑顔は怒りでひきつっていたのである。

マイアラークの武器は堅牢な甲羅もさることながら最も恐ろしいのは数の暴力だ。

いくら才人といえど、マイアラークの群れに、それも敵のホームグラウンドたる水辺で正面切って戦うのは無謀以外の何物でもない。

才人は深呼吸して気を落ち着ける。

「悪かった、少し頭に血が上ってた。」

「もう!」

頬を膨らませるルイズに、才人は水の缶を差し出す。

「一杯やろうぜ。そうすりゃオレも頭が冷えるからよ。」

ルイズはそれを受け取ると、以前才人がやったようにプルタブを使って缶を開け、才人が差し出した缶に自分の缶を軽く当てる。

グイッと二人で水を飲み干し、才人は荷物から鏡と小さな黒い箱を取り出して、まず鏡で光を反射して町の方に信号を送る。

『コチラ才人。今、帰ッタ。回線「ハ」ニ合セヨ』

光でそう合図した才人は黒い箱・・・通信機を『ハ』を意味する周波数に合わせる。

『才人!!今の今までどこをほっつき歩いとったと!?』

無線から女の叫び声が聞こえ、才人は無線機から耳を離してやり過ごしてから返答する。

「仕方ねぇだろ?アーソー台地越えてたんだからよ。」

『まぁええわ、西ゲートのマイアラークが手薄やけん、そっち回って!』

「りょーかい。」

才人は無線をつけたまま首から吊るし、荷物を下ろして銃といくつかの弾薬、そしてルイズが胸に抱けるくらいの大きさの袋を取ると、ルイズに着いてくるよう促し湖の岸まで降りる。

「どうするの?船なんて漕いでたら囲まれるわよ?」

「手漕ぎ船なんて使わねぇよ、ホラ。」

才人の指す先には、船の上がバイクになったようなものが岸に乗り上げられていた。

「バイク?」

「ああ、水上バイクだ。それとこれ、持ってろ。」

才人はルイズに先の袋を渡した。

袋は口を締めるヒモがそのまま肩ヒモになる、いわゆるナップサックで、中身はルイズの読めない文字が書かれた袋で小分けされている。

そしてその袋はルイズが思っていた以上に重かった。

「ク・・・持ってろって、何が入ってんのよ?」

「種だ。落としたりしてみろ、全裸、素潜りで取りに行かせるからな。」

「そんなぁ!?」

「ま、冗談だけど落とすなよ。そしてしっかりつかまってな。」

才人は水上バイクに乗るとナップサックを担いだルイズがその後ろに乗り、エンジンをかけ、マイアラークが群がる町へ突き進んでいく。

「どけえええぇぇぇ!!!」

才人は片手でショットガンを振り回し、進路を塞ぐマイアラークの足を撃つ。

マイアラークは甲羅こそ頑丈であるが、足などの末端部や甲羅の陰になる顔は比較的脆いため、狙いやすい足を撃って怯ませるか、狙えるなら頭を撃ってマイアラークの群を切り抜けているのだ。

「ピギイイイィィィ!!!」

「ヒッ!?『錬金』!!」

ルイズの真後ろに水の中を潜ってきたマイアラークが迫り、ルイズはとっさに『錬金』を唱えてマイアラークを吹き飛ばした。

「しっかしお前の『失敗』だっけか?スゲェ威力だな。」

「そうなの?このオバケ蟹、大したことないでしょ?」

「甲羅の上からとなりゃ話が別だ。お前はカンケーなしに殺っちまってるだろ?」

才人が足や狙えるときだけ頭を撃っているのに対し、ルイズの失敗魔法はマイアラークの甲羅ごと破壊している。

そもそも錬金の失敗魔法でなければひどい命中率なのだから狙撃する必要がないのは幸運だ。

「そう・・・あんまり失敗とか悲観しなくていいのね!じゃあ飛ばしていくわよ!!ファイア・ボール!ファイア・ボール!!ファイア・ボール!!!」

調子に乗ったルイズは失敗魔法を連発するが、ファイア・ボールの失敗魔法ではまさに『下手な鉄砲数撃てば当たる』状態で、三発に一発が至近弾、直撃はその三分の二である。

しかし威力だけはあり、至近弾でも十分行動不能にしている。

『なぁ、才人?後ろの子?なんかよぉわからんこと叫んどるん?』

無線から先の女の声が聞こえてくる間もルイズは魔法を切らさず、才人は爆音で無線の音が聞こえないため大声で答える。

「ああ!ちょっといろいろあって連れてきたんだよ!」

『色々はあとで聞くわ、開けるけん、突っ込んで!』

無線がそう言うと西ゲートが開き、才人がその中に滑り込むと同時にゲートが閉じはじめる。

「こいつのナップサックに種が入ってる、オレはすぐ出るから頼んでいいか?」

ゲートの中は船着き場になっており、槍のように長大な銃を持った民兵がルイズを桟橋に抱えあげると才人はすぐさま反転し、閉じる寸前のゲートから外に飛び出した。

ルイズを下ろして身軽になり、町の援護も受けられるとなれば才人にとってマイアラークの群は御馳走の集団に成り下がる。

「あ、待ちなさい!!行っちゃった・・・」

「嬢ちゃん、局長なら大丈夫だから心配しなさんな。とにかく種を姐さんに届けねえと。」

そう言って民兵はルイズからナップサックを受け取り、ルイズを連れて『姐さん』の元を目指す。

壁の上に登って指揮所を目指す民兵とルイズは走りながら話す。

「ハア、ハア・・・姐さんっていうの、さっきサイトと話してた人?」

「多分そうだが、何分その話を聞いてねえもんでね。」

ルイズはすでに息があがっており、とうとう走れなくなって座り込んだ。

「おい、何してる!?」

「ゲホッゲホッ!ご、ごめんなさい・・・先、行って・・・」

「いや、ここは危ねぇから、歩いてでも・・・うわ!?」

ルイズに手を貸そうとした民兵にマイアラークが飛びかかってきた。

「な!?どうして!?」

間一髪でルイズを突き飛ばし、自分もマイアラークの攻撃を避けた民兵が壁の外を見ると、数匹のマイアラークが折り重なり、軍隊アリのように階段を作っていたのだ。

「ゴホッ!れ、れ、錬金!!」

同じく外を見たルイズは咳き込みながらもマイアラークの階段を失敗魔法で吹き飛ばし、後続のマイアラークを上がってこれないようにする。

「でかした!あとはコイツだけ・・・」

民兵は銃の手前にあるハンドルを引き、マイアラークに向けて銃弾を放った。

彼が持っていたのは50口径ライフル、人に当たれば原型をとどめないほどの威力を誇る、いわゆる対物ライフルだ。

しかし民兵は焦って引鉄を引いたため、マイアラークの甲羅にかするような形で当ててしまい、マイアラークはほぼ無傷、むしろマイアラークは怒りに任せて民兵に襲いかかってきた。

「しまった、うわぁ!?」

「ピギイイイィィィ!!!」

民兵は銃を盾にしてマイアラークの爪を防ぐが、マイアラークを人間の力で止め続けるのは不可能だ。

「クソ、嬢ちゃん、その種を持ってこの先にいる姐さんのトコへ行ってくれ!」

「ゴホゴホ・・・無理よ、見捨てていくなんて・・・」

「このままじゃ嬢ちゃんまで・・・グ!!」

マイアラークの爪が民兵の肩に刺さり、ルイズはとっさに杖をマイアラークに向け、錬金の失敗魔法を使おうとして思い止まる。

「(ダメ!この人を巻き込む!!)」

ルイズは先ほど自分の失敗魔法に自信を持ったが今、弱点を知った。

威力が強すぎるのだ。

「この・・・離れな・・・さいよ!!!」

ルイズは近くに転がっていた木の棒切れでマイアラークをガンガンと叩くが、ルイズの力ではマイアラークに傷ひとつつけることもできない。

「もう・・・いい、十分だ・・・」

「諦めちゃ、ダメ!!」

「そこのピンク!!」

むなしく棒切れで、マイアラークの回りを回りながら叩くルイズの背後から彼女に呼びかける声が響いた。

退()きいいいぃぃぃ!!!」

ルイズがとっさに横へ跳ぶと、マイアラークにトゲ棍棒がめり込み、壁の外へ吹き飛ばした。

トゲ棍棒でマイアラークを殴り飛ばしたのは黒いワンピースに白いエプロンの、いわゆるメイド服を着た少女であった。

棍棒を持つ左腕と足元にヒビを入れている右足は無骨な義肢、へたりこむルイズを見下ろす目は鋭いが顔のつくりはどこか柔らかい、そばかすがチャーミングな黒いショートボブの彼女は静かにルイズへ尋ねる。

「キャンユースピークジャパニーズ?」

「え?なに、なに?あなた、何て?」

「なんよ、言葉、わかるやん!」

メイド服の少女はあきれたようにため息をついてルイズに右手を差し出す。

「ここで話しとるヒマはないけん、そっちの銃持ってついてきてくれんと?」

ルイズは少女の手を取り立ち上がると、言われたとおり民兵が持っていた銃を取り、少女は民兵に肩を貸して立たせた。

 

 指揮所に駆け込み民兵を衛生兵に引き渡すと少女は無線機を取り、才人と話す。

「こちら指揮所、才人、今どうしちゅうと!?」

寧夢(ねむ)か?オレなら外で遊撃してるけどよ、ルイズはどうした?』

「まっピンクの髪の子よね?ここにおるけん心配せんでええよ。それより、大丈夫なん?」

『ちょっとマズいな、予想より多い。クイーンがいるかもしれねぇ。』

無線機で才人と少女・・・寧夢が話すのを聞いていたルイズは、『クイーン』という言葉に不吉なものを感じて寧夢の無線機に横から叫ぶ。

「サイト、何かあるなら逃げて!」

『オ、オイ、誰だ今の!?ってか、何て言ったんだ!?』

「才人こそ何言うとると!?ルイズやん!!危ないと思ったんなら帰って来てって。」

『ッ!!やっぱりいた!!マイアラーク・クイーンだ!!』

才人の叫び声を聞いた寧夢は指揮所の天井に登りルイズもそれに続いて、寧夢は双眼鏡で、ルイズは肉眼で町の周囲を見渡す。

するとちょうど、くぼ地に流れ込む川が作った切り通しを突き崩して巨大なマイアラークが現れたのであった。

「な、な、なによ!あのふざけた大きさのオバケ蟹!!」

「あれがクイーンや!クイーン言うだけあって、純粋な生物兵器のデスクローと互角以上言われとる!!」

マイアラーク・クイーンの背丈はデスクローより大きく、本当に互角なのかと思わせるほど遠目でも恐ろしい。

その近くでアリのような影が走り回っている。

「あ、あそこにいるのサイトじゃない!?何してんのよ!?」

「・・・一人で戦う気や。」

寧夢がそう呟くとルイズは杖を抜いて力一杯声を張り上げて呪文を唱える。

「ファイア・ボール!!!」

しかし、何度唱えてもせいぜい五分の一くらいの距離までしか届かない。

「ファイア・ボール・・・ハアッハアッ・・・」

とうとう爆発も起こらないようになってしまい、ルイズが膝をつくと、となりに寧夢が座り込む。

「さっきから起こっとった爆発、アンタのやったん?」

「・・・ええ、でも・・・何よ!この役立たず!!」

ルイズはかんしゃくを起こし、杖を投げ捨ててしまった。

寧夢はルイズの投げた杖を拾って、

「そんなこと言うたらいけん、自分のお陰でウチらは助かったんやから。ただ、今に合うてない言うだけの話なんや。やけんね、今できること、さがそ?」

と、元気付ける。

「・・・そうよね。そうだ!」

ルイズは何かを思い出したように指揮所に飛び降り、あるものを引きずって屋根に戻ってきた。

 

 話を少し戻し、マイアラーク・クイーンが出たとき、才人はすでに兵隊のマイアラークを全て片付けてしまっていた。

クイーンはその仇を取ろうとしているかのように丘の一部を突き崩しながら現れ、才人に向けて酸を吐いてくると、才人はそれを水上バイクでジグザグに滑りながら避けていたがとうとう、水上バイクに酸が当たってしまい、腐食する水上バイクから飛び降りて地上戦に移った。

「(荷物、置いてきたのがこんなとこで仇になるたぁツイてねぇ・・・)」

才人はマイアラーク・クイーンまで相手にするのは想定していなかったため弾薬をあまりたくさん持ってきていない。

そして兵隊のマイアラークもやけに数が多かったせいで、ショットガンの弾丸はあとわずかしかない。

その少ない弾丸をクイーンはすり減らせるような武器を大量に有しているのだ。

「ゴバァッ!!」

「こんな時にガキ吐きやがって!!」

クイーンは兵隊に卵を遠くへ運んでもらうのとは別に、懐に幼生を住まわせて獲物にけしかけ、肉の味を覚えさせる。

その幼生を才人にけしかけてきたのだ。

一匹一匹は甲羅もない、大きなナメクジのような幼生マイアラークはショットガンの散弾一粒でも受ければ死ぬほど脆弱だが、これも数に任せて襲いかかってくるため、ものすごい勢いで弾丸を消耗してしまうのだ。

「クソッ!弾丸切れ!!」

才人はショットガンを捨ててマグナムを取り出し、丘の上を目指して走る。

こうなってしまっては一つしか方法がない、マグナムの弾丸が無くなるまで顔に連射し続けてクイーンが死ぬのに賭けるしかない。

「雑炊の具にしてやるから大人しくクタバレ!!!」

才人の放った六発の44マグナム弾がマイアラークの顔面に吸い込まれていく。

 

 一方、才人のショットガンの弾丸が尽きた頃、ルイズが指揮所の屋根に先の民兵が持っていた銃を転がした。

「これなら届くかしら!?」

「たしかに届くわぁ、けどね、こんなの当たらんよ!」

50口径ライフルは対人なら2㎞先でも殺傷力を保持していると言われている。

これがマイアラーク・クイーン相手ならば1㎞くらい、甲羅を避ければ頭部を撃ち抜くことも可能だ。

しかし、そんな距離で当てられるスナイパーなどそういるものではない。

「やってみないとわかんないわよ!!」

ルイズは手足をプルプルと震わせながら銃を持ち上げ、先の民兵の見よう見まねで弾丸を装填し、引鉄を引いた。

「うにゃあ!?」

『ズドオオオォォォン!!!』と、大砲のような銃声と共に弾丸が発射されるとルイズは反動で後ろにすっ転び、弾丸はマイアラーク・クイーンの頭の甲羅を掠める。

「イタタ・・・エアハンマーみたい・・・」

ルイズが50口径ライフルの感想を呟くと、弾道を双眼鏡で見ていた寧夢が興奮ぎみに詰め寄る。

「ねぇ、ウチが押さえとくけん、もっかい撃って!」

「え!?でも・・・」

「説明しとるヒマ無い!!はよせんと才人、喰われてまう!!」

と、ルイズを急かせ、ルイズが伏せて銃を構えた上に寧夢がまたがり、銃とルイズの体が跳ね上がらないように押さえるという体勢にした。

「反動はウチが押さえ込むけん、アンタは狙うのに集中し!!」

ルイズは寧夢の言うとおり、遠くに見えるマイアラーク・クイーンの頭を狙って集中する。

すると全てがスローモーションになり、マイアラーク・クイーンの頭部が拡大され、その横に87%と書かれているのが見える。

「(何かしら、これ?)」

迷うヒマはなかった。

視界の端で、才人がマグナムで必死の抵抗を続けているのも見えるからだ。

「(当たって!!!)」

ルイズは無心で引鉄を引き、素早く装填して撃ち、さらに装填して撃つ。

この三連射は上で銃とルイズを押さえる寧夢には目にも止まらぬ早さで、放たれた銃弾はマイアラーク・クイーンの頭部、それも寸分たがわぬ場所に当たり、貫通した。

そして才人のマグナム早撃ちもルイズの狙撃と同時にクイーンの頭部にヒットし、巨体がズシンッ!と大きな音を立てて地に伏す。

「今の、V.A.T.S!?そんなはず・・・」

寧夢が驚きながら立ち上がり、ルイズはその下で伸びている。

クイーンが倒れたことで緊張の糸が切れたのだ。

『こちら才人、クイーン沈黙!被害報告!!』

無線機から才人が問いかける声が聞こえると、寧夢が町全体から被害報告を聞き取り、才人に伝える。

「こちら指揮所、負傷者多数なれど死者は無し。」

『わかった、それとクイーン撃ったの誰だ?』

「才人の連れてきたチビちゃんよ。どしたん、この子?すご腕のスナイパーやんか!!」

ルイズの放った弾丸は全て正確にマイアラーク・クイーンの頭部を捉えていた。

反動の問題さえなければ、最初の一発も当たっていたことであろう。

『マジかよ!?とにかく戻る・・・って、水上バイクやられてたな。迎えをよこしてくれ。荷物もあるからよ。それとちょっといいか?』

才人が寧夢に頼み事をして無線を切ると、寧夢は才人の迎えを手配してルイズを起こす。

「平気?立てると?」

「ええ・・・それと、才人もそうだったけど、わたし、チビちゃんとか言われる歳じゃないわよ?」

「え?10歳くらいと違うん?」

「これでも今年で17よ!」

「ウソ!?やったら歳上やんか!」

そう言われたルイズはあらためて寧夢をまじまじと見る。

先ほどは鋭かった目線も戦いが終わって本来の柔和なものに戻り、チャーミングなそばかすと幼顔はたしかに年下と言われても頷けるものがある。

しかしルイズは二つの部分で彼女を年下とは思えなかった。

まず一つはツェルプストーとそう変わらないであろう身長、そしてもう一つは同じくさほどの差が無いと見える胸の膨らみである。

「じゃったらウチから自己紹介するのが礼っちゅうもんやね。ウチは寧夢(ねむ)。佐々木寧夢よ。このミギクの町で技師長をやっとる。」

技師長というのをルイズは職人ギルドの長といったものにあたると考える。

かつてのルイズであれば、

『所詮平民なんだから大したことないわ!』

と、考えたことであろうが、州の技術の片鱗・・・ハルケギニアの冶金術、錬金の魔法では到底再現できそうにない銃器、地上をドラゴンに並びそうなほどのスピードで走る鉄の馬『バイク』に、ハルケギニアではとても再現できない水上都市と、州は魔法がない代わりに平民の技術が桁違いなのである。

そしてルイズも意図的に身の上を隠して自己紹介する。

「わたしはルイズ。デスクローに追い回されてたところをサイトに助けてもらってね。行き場もないわたしをここまで連れてきてくれたのよ。」

「そうなん?やったら姉さん、しばらくここにおったらええわ。この町のモットーは『働く者は大歓迎、盗賊は永久出禁』やからね。」

「・・・そうね、しばらく世話になるわ。」

ルイズがそう答えると、寧夢はルイズを自分の部屋に連れていき、体を湯で拭いてやって自分の私服を貸した。

水色に花柄のワンピースで、ルイズには少し大きい。

「さっぱりしたわ、ありがとう。でも、どうしてここまでしてくれるの?」

「今日の主賓があんなボロじゃカッコがつかんとね。」

「主賓?そういえば最後にサイトと何か話してたわね?」

「まだ内緒ね!」

ワンピースを着たルイズは寧夢に連れられて町に出る。

 

 湖上の町ミギクは湖に人工島を作り、埋め立てて大きくしたその上に町を作っており、ルイズはその島の技術にあらためて驚いた。

ハルケギニアで同じことをしようと思えば、人工島を作るところでつまずく。

仮にミギクと同じ土台を作ってもその上に町を作れば地面がその重さで沈み、数年の内に町は水びたしになり、最後には湖に沈んでしまう。

そんなミギクの町の広場で才人は町の住人を集めてマイアラークパーティーを開いていた。

マイアラークケーキにマイアラークステーキ、マイアラークの卵のオムレツ、ボイルドマイアラーク、マイアラーク雑炊等々、数えているときりがない。

「遅かったじゃねぇか!主賓がいねぇと始められねぇだろ!?」

「主賓って何よ?」

「とにかく来い。」

才人は荒っぽいエスコートでルイズを広場の中央にある檀へ連れていき、檀上ですでにジェットでラリッて髪を振り乱して叫ぶように歌っていたジャンキーを蹴り落とし、マグナムを上空に向けて撃った。

「オイ、ヤロウ共!今日のMVP、エリートスナイパーのルーキー、ルイズだ!ルイズ!!ヤロウ共に一発、ぶちこんでやれ!」

「え?ぶちこ?え?え?」

「(なんでもいいから、あいさつしてやれってこったよ。)」

才人が小声でルイズに何をするかを伝えると、ルイズは寧夢に借りたワンピースのすそをチョコンとつまんでお辞儀をする。

「お初にお目にかかります、ご紹介にあずかりました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。以後、お見知りおきを。今日はこのように町をあげて歓迎いただき、感悦至極の限りです。明日からは町のため、微力を尽くして参りたい所存にございますわ。」

ルイズの格式張った挨拶に参加者は、そもそも聞いていないジャンキーを除いて呆気に取られるが、すぐに大声で返事を返す。

「ヒャッハアアアァァァ!!!」

ルイズはこれに、何か粗相をしたかと戸惑い才人を見ると、彼はクスクスと笑っている。

「安心しな、みんな何でもいいから理由つけて騒ぎてぇだけなんだよ。オラァ!ヤロウ共!!サイコーにクールなロケンロールでニューガールをヒィヒィイわせてやんな!!」

才人が叫ぶと寧夢が町の壁に仕込んでいた花火を上げ、それに続くように広場の内外を問わず、至るところから銃声が鳴り響く。

ルイズが驚いて才人に抱きつくと、才人は種明かしする。

「安心しな、空砲だから音だけだ。さぁ、行こうぜ!!」

空砲と共に町を満たす爆音のような音楽が一際大きくなり、才人はルイズを抱えて躍り狂う集団の中に飛び込んだ。

「ねぇ、こういうダンス、したことないんだけどどうしたらいいの?」

「あ?やり方なんざねぇよ、好きに騒げばそれでいいさ。」

これを聞き、回りを見ると、このパーティーに参加している者には今日の負傷者とおぼしき者たちもまざっている。

いつ死ぬかわからぬ彼らはその日その日を最大限に楽しんで生きているのである。

そんな彼らを見ているとルイズは難しいことを考えるのが馬鹿らしくなった。

「ヒャッハアアアァァァ!!!」

「ひ、ひゃっはー!」

この時のルイズは翌日、町がゲロと二日酔いの亡者で阿鼻叫喚の地獄絵図と化すことなど知るよしもなかったのであった。




ルイズにまさかの狙撃の才・・・これで失敗魔法だけに頼ることもなくなります。

佐々木 寧夢(16)
ミギクの町を興した一族の末裔で、町は彼女とその弟子達によって管理保全されています。
メイドを誤解しており、メイド服を戦闘服兼作業服と勘違いしているため普段からメイド服を着用している彼女ですが、技師としての腕前は確かです。
左腕と右足は義肢で、腕はハンマー、ハサミ、レンチその他何にでもなるマルチツールとなっております。
身長170㎝、体重60㎏、
バスト88㎝、ウエスト60㎝、ヒップ90㎝と、世紀末ではやや小柄。

マイアラーク
クイーンを頂点とする、アリやハチのような社会構造を持つヤドカリとカニを足したような生物。
堅牢な甲羅はまず破壊不能で、群で襲いかかってくるのに苦しめられた将軍も多いことでしょう。
ただ、ゲームでは軍隊アリのように階段を作ることはないので、高所から攻撃するのが有効です。

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