ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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本作における人造人間はインスティチュートとは無関係で、作っている間に似たものができたという体でお願いします。
そしてStrengthですが原作と少し計算方式を変えてください。
S.1=自分の体重と同じ重さのものを持ち上げられる。以降、S.1ごとに10ポンドずつ重量加算です。そうしないと1の時点で女の子の力じゃないので。
原作においてS.1で80㎏強を持ち運べるVaultパパは元軍人ですからいいですが、ルイズがそんなの持てたら怪力ゴリラ女ですし。


第十六話 人造人間

 時と場所を移し、州はミギクの町近くの廃墟、ルイズは近くに落ちていたゴザをかぶって寧夢からもらったスナイパーライフルの銃口だけを出し、息を殺して潜んでいる。狙うは300m先の民兵、彼は銃撃している相手しか見えておらず、まさか別方向から必中の射程に入れられているなど夢にも思っていない。

「すうううぅぅぅ、ンッ!」

大きく息を吸って止め、ルイズは引鉄を引いた。パシュンッと小さな音を立て民兵に飛来する銃弾は彼の身体に当たり、桃色の飛沫をあげる。もし実弾であれば心臓を撃ち抜かれていたことだろう。

『源一、ダウン!』

ルイズは続けざまに今撃った者と撃ち合っていたもう一人の頭を撃つ。銃弾は吸い込まれるようにもう一人の頭に当たり、桃色の飛沫をあげた。

『宇太郎、ダウン!』

先ほどから廃墟に流れているのは早苗のアナウンス。これを聞いてルイズはゴザを捨てて移動を開始する。使っているのがペイント弾であることからわかると思うがこれは模擬戦なのだ。模擬戦とはいえルイズは必死だ。この結果如何で一枠しかない台地への調査隊参加が決まるのだから。

 ルイズがミギクの町で生活するようになって2週間、ハルケギニアから州へ来た原因の調査は寧夢のロボットによってアーソー台地を中心に行われている。これにはルイズだけでなく、ミギクの町や城郭街にも必要なことであった。まず、ルイズがミギクの町に来た当日に町を襲っていたマイアラークの群れ、彼らは台地から降りてきたのだ。ルイズが才人と会った日に見たマイアラークはその時の大移動からはぐれたものであった。そして今は城郭街のジョーイ宅に居候しているスーパーミュータントの小太郎、彼も元は台地で生活していたところ、マイアラークの群れに棲地を襲撃され、熊蔵以前のリーダーであった穏健派スーパーミュータント達が死に、あのように暴れるようになったとのことであった。一見バラバラの事象に見えるが、スーパーミュータントの大移動、その原因になったマイアラークの大移動、ルイズの証言からルイズが州に来た日がほぼ一致し、これらが一連の事象となったのである。このまま何もしなければマイアラークやスーパーミュータントの大移動のような事件が起こるかもしれないとして、城郭街からミブロウ団へ、市長としては主にその後ろにいる寧夢へ調査を依頼したのだ。最初はロボットで偵察、先行調査を行い、次に人を送る。もっとも、台地に行ける人間は才人以外には今のところ寧夢しかいない。二人では心もとないとして追加の人員をミギクの町で募集することとなった。ルイズは自分のことでもあるため当然志願したが、ルイズは一次選考で落選となってしまう。原因は彼女の『S.P.E.C.I.A.L』である。『S.P.E.C.I.A.L』とは戦前、Vault-Tec社が制定し、米の国にて使われていた能力適性指標であり、Strength(筋力)、Perception(知覚力)、Endurance(持久力)、Charisma(人望)、Intelligence(知力)、Agility(敏捷性)、Luck(運)の七つの頭文字を取ったものだ。州でもこれが使用されており、ルイズも測定したのだが結果が

 

S.1▽、P.4、E.1、C.8、I.5、A.3、L.7

 

といったものであった。なお、1▽は『低すぎて測定不可で便宜的に1とする』である。この結果を見た才人が言うには『Luck一本で台地を生き残ったのは奇跡としか言い様がない。』であった。さらに字の読み書きもできず、無線を通せば言葉が通じない。これでは連れて行くことができないというのが才人の判断で、ルイズは当然食い下がったが、その時点で選考は覆らず、選考は続けられた。しかし募集に志願した他の者も似たり寄ったり、二次で落ちた者がいたところだ。そこで、偵察が終わるまでの猶予期間の間にもう一度選考することになり、ルイズはその間、ずっと自らを鍛え続けていた。彼女はStrengthの値が低すぎることで一次選考を落ちており、Enduranceも低い。この底上げのため、寧夢からトレーニングメニューを組んでもらい、二週間の間、みっちり鍛え続けたのであった。寧夢と共に過ごしているため調査の進捗はある程度知ることが出来たが、いつ終わるかはわからない。もしかすると明日には完了するかもと考えるとルイズは全力でトレーニングに励み続けたのであった。日中はトレーニング、平行して夜は体内のPip-Boyの調査をしながら寧夢から日本語と英語を教わる。後になってわかったがルイズはPip-Boyの翻訳機能のおかげで相対している相手の言葉を理解できる。しかし無線など機械を通した時は機能せず、何より字が読めない。そのため、Pip-Boyの翻訳システムをOFFにして言葉を覚えることにしたのだ。マイアラーク襲撃の時のようにONでも別の言葉を聞かせることはできなくないが、あの時は寧夢が意思の伝達より言葉の伝達をしようとしたせいで英語のまま聞こえていたのである。勉強中にそのような使い分けをするのは難しく、寧夢とルイズで聞こえる音を共有できない以上、OFFにするしかないのだ。この言語の勉強で意外にも早苗が役に立った。ルイズの使う『ラテン語』は、音が同じでも字が違い、そのため早苗はルイズが書いた字を見てそれを元にラテン語とハルケギニア公用語の辞典を作成し、ルイズにはハルケギニア公用語、ラテン語を通して英語、日本語の辞典ができることとなったのだ。

 そして冒頭につながる。ルイズのStrengthは1にも満たなかったものが現在2、Enduranceも3まで底上げされ、日本語、英語も簡単な会話ならできるようになった。もっとも、日本語は少々寧夢のような訛りが混ざる時があるが。さておき、二次選考はバトルロイヤル形式の模擬戦で、ここで前回は全員脱落したとのことである。ルイズは現在、ルイズ以外の参加者6名中5名を脱落させている。内3名はヘッドショット、2名はハートショットで、実弾であれば全員即死である。

「(あと一人・・・どこ?)」

ルイズは潜伏場所を変えるとすぐに最後の一人を索敵する。この模擬戦の参加者は7名だが、ルイズ、そして他の参加者も内訳は知らない。この廃墟にいるのは模擬戦の参加者だけなので、あと一人を見つけたらそれが最後の一人である。

「(見つからない・・・どこにいるの?)」

気ばかり急いて移動しようとして、ルイズは頭の中で地図を思い浮かべる。この廃墟群は遮蔽物が多く狙撃銃を主武器とするルイズには不利だ。そもそも模擬戦用のペイント弾は弾速が遅く、無調整時におけるゼロイン(銃弾が照準の位置に当たる)の距離も危険域(銃弾が人の頭より低い位置を飛ぶ区間)も短い。だからといって高い建物から撃ちおろすというのは悪手である。なぜなら狙撃において重力というのは重要なファクターで、高いところから低いところへ撃つ時は重力の影響が大きくなりすぎるのだ。そのためルイズは約300〜400メートルほどの中距離狙撃に適した地点をいくつか選定し、それを移動しながら横槍で他参加者を脱落させ続けていたのだが、最後の一人には当然、横槍は使えない。

「(どの死角にいるのかしら?・・・もし、よ。わたしが狙撃しようとする限り必ず死角に入ることが出来る場所にいたら?)」

ルイズは自分が選んだ狙撃ポイントは仮に射程外でも戦場を完全に掌握していると自負していた。模擬戦場を外周部から内側を狙うように何カ所か設定し、万一気付かれても中央の遮蔽物が少ない広場へ追い込むようにしているのだから死角はないはずである。しかしその前提が崩壊していたとしたら?ポイント間の移動中は完全に見張ることはできない、スナイパーに気づき、今のルイズが考える『死角』に入っていたとしたら?もう一つ踏み込み、スナイパーの存在を最初から想定し、『死角』に潜んでいたとしたら?

「ッ!?」

ぞわっとルイズの首筋に冷たい感覚がする。何かが触れたのではない、殺気のようなものを感じたのだ。この時、ルイズは確信した。中央に向かって狙い続ける彼女の死角、戦場の外縁部、ルイズの背後に最後の一人はいると。

「そこぉ!!」

ルイズはライフルを自身の背後上方へ向けつつ発砲した。しかし背後にいた最後の一人はそれを避けながら銃口より手前に踏み込み、ルイズのライフルを外側へ反らしながらマウントポジションを取ってナタのような短剣を突き立てようとしてくる。短剣と言っても訓練用のゴム製、もしそれがルイズに突き立てられた場合、彼女と襲撃者を映すため、二人それぞれに光学迷彩で姿を隠してついているドローンのカメラが早苗にルイズの脱落を知らせることになる。ルイズは必死に抵抗した。襲撃者の腕をつかみ、押し返そうとする。しかし自分より何回りも大きく力も強い相手をS.2程度の腕力で押し返すことはかなわず、とうとうルイズの首に短剣が当てられた。もし真剣であればルイズは頸動脈を切られて絶命していたことであろう。

『はわぁ!?ルイズさま〜!!』

「早苗、試験官は公平に!!」

襲撃者は見えていないカメラの方向にアタリをつけて叫ぶ。

『才人さま、失礼いたしました〜!ルイズ、ダウン!』

脱落のアナウンスが流れてルイズは襲撃者、才人の腕を離し、大の字で寝転がった体勢のまま彼に苦言を呈する。

「サイト、試験官が混ざるなんて反則じゃないの!?」

「仕方ねぇだろ?ここが一番見やすいんだからよ。」

才人は模擬戦が始まってずっと模擬戦に参加して全員の戦いを見ていたのだ。隙があれば今、ルイズにやったように訓練用ナイフで脱落させるというのが彼の役目である。

「わたしだけじゃなくて、他の人だってサイトに勝てるわけないじゃないのよ!?」

「お前、それは通らねぇぜ?実戦じゃ敵を選べねぇんだからな。」

ルイズはこれに反論できず口ごもる。すると才人は、本来ならば後で言うべきことをここで言ってしまう。

「二次選考、合格だぜ。」

「え?どうして?わたし、サイトに負けたのに・・・」

「お前が答え言ったじゃねぇか?俺に勝てるわけねぇって。」

二次選考の基準は最後まで勝ち抜くことではなかったのだ。そもそも模擬戦に参加した者達では才人に勝てないのは当たり前であり、最後まで勝ち抜くことでは誰も合格できるはずがないのだ。

「俺が見てたのは戦ってる最中でも自分を含めて全体を俯瞰できるかどうかだったんだよ。」

たしかにルイズは常に全体を把握し、適した時に適した相手を狙撃してきた。これをルイズは知識として知っていたわけではない、全て直感でやってのけたのだ。

「ま、一次選考抜けられたら最後はお前が残るとは思ってたけどよ、想像以上だったぜ。」

「想像以上って何が?」

ルイズに尋ねられ、才人は恥ずかしそうに答える。

「最後な、実はお前が気付く前にナイフを当てるつもりだったんだけど見つかったろ?」

「え!?じゃあアレ、わたしの勝ち・・・イタッ!?」

コツンとルイズは訓練ナイフの柄で小突かれる。

「調子乗んな!死亡判定食らったのはお前だろ?」

才人は口ではこう言うが、もしルイズにもう少し経験があれば負けていたのは自分だと自覚している。

「あぁいうときは素直にサイドアームに切り替えろ。至近距離じゃライフルってのは取り回しにきぃからよ。」

あの時、ルイズがサイドアームのマシンピストルをバックショット、すなわち後方の敵を目視せずに撃つことができたら、できなくてもマシンピストルに持ち替えて撃っていたとしたら、死亡判定を出されたのは才人であったろうと彼は考えているのだ。狙撃の才能、何でも爆発させる能力、そしてまだ鈍いが後ろに目があるかのような洞察力。才人はルイズに対して空恐ろしいものを感じたのであった。

 模擬戦の翌々日、ルイズは才人、寧夢に連れられ、台地目指して旅立った。ロボットが怪しい反応を探知すると同時に通信が途絶えた場所があり、そこはなんと、件のB-rim-Lの研究関連施設付近だったのである。町の防衛設備等は今となっては完全に復旧し、とりあえずは問題ない。最悪、城郭街へ緊急連絡すれば応援も来てくれる手はずである。ルイズは寧夢のロードファイターの助手席に座り、いつでも機銃を使えるように気を張っている。後ろの席には早苗が待機モードで乗せられている。

「そんな肩ひじ張っちゅうともたんよ?」

「だ、だってこの前のばいかー?みたいなの来たら・・・」

「大丈夫よ、才人もおるし、こげんトコおるとしたら足の遅い盗賊やけん、振り切れるわ。」

と、寧夢は妙に慣れた口調で言った。

「ネムはさ、この辺通ることあるの?」

「うん。まぁ、才人とは違う道やけど。ウチね、たまに湯の国に帰ることあるんよ。アッチでもウデ、認めてもらっちゅうし。」

「帰る?ネムの話し方って訛りがあるらしいけど、もしかして『ユの国』から来たってこと?」

ルイズが尋ねると寧夢は年相応の笑顔で答える。

「半分正解、ウチの父ちゃんが湯の国の出でね、便利えぇんと母ちゃんと一緒になったけぇ、ミギクの町に移って来たんよ。」

寧夢の父は元々、湯の国で技師をやっていた。しかし湯の国でできる技師としての修行には限界があり、州の中心である火の国に技術習得のため来たのだ。ここでミギクの町を興した一族の末えいである彼女の母と出会い、二人の子を成し、台地を越えた交流の基礎を作ったのである。

「それまでは台地越えたとしてん、商売してもらえんかったんよ。やけど父ちゃんが来たけん、顔が繋がって直接やりとりできるようになったんや。」

これはハルケギニアでも同じだが、交易するには信用が必要だ。仮にどれだけ優れた物を持っていったとしてもどこの誰かもわからない人間とは交流のしようがない。寧夢は父親と母親の出会いが結果として生んだことを嬉々としてルイズに話す。

 湯の国は戦争以前から交通の便が悪く、排他的なところがあった。そこで台地北側にあり、戦前の州における中心で、そのため核攻撃を受け現在では州で最も汚染が酷く、かつての都市を鉱山として生計を立てる『白の国』を通して交流していた。しかし白の国がいわゆる中継交易をする以上、手数料を取られる。それは白の国も商売だから仕方がない。ここに台地を越える新たなルートができたのだ。最初は白の国も不満を持った。仕事を奪われる以上、これも当然である。しかし台地越えはどれだけ準備をしても危険地帯を越えることに変わりはなく、道も険しいため大規模輸送ができなかったのだ。白の国でも小規模輸送は請け負っていたが、それは大規模輸送に付随するサービスに近く利ざやはそれほど大きくなかった。バイク便で良いところを大型トラックを使っていたと考えればわかりやすい。結果として白の国は利ざやの少ない小規模輸送を失うかわりに大規模輸送を効率化して増やすことができ、火の国城郭街をはじめとする大規模輸送を白の国に頼んでいた所は使用できる大規模輸送が増え、生産、供給する者達は増産できるようになり、在庫を預かるいわゆる倉庫業者のような者達は空いている倉庫というものがなくなった。需要供給をつなぐ流通が太くなった結果はWIN-WINどころでなくWIN-WIN-WIN-WINといった状態であったのだ。念のため補足するが、寧夢の父母の出会いはきっかけの一つであり、これらの発展は州に住む人々皆の功績で、寧夢は多かれ少なかれ両親のことを誇張している。両親のことであるから多少は大目に見てやってほしい。

「じゅよー、きょーきゅー、りゅーつー?」

ルイズは、ハルケギニアではまだ経済学として確立していない言葉を尋ねる。

「ほら、ルイズはん練習したやん?取引の。何かを欲しがっちゅう人んところにそれを持っていく。代わりにこっちが欲しい物か他の人が欲しがりそうな物もらう。欲しがるんが需要、持っていくんが供給。ウチらは歩いて運んだけどそれが流通。それがたとえばよ、部品をぎょーさん作って、街中の店にトラック何台も使うてぎょーさん卸したらどげなるやろ?」

この説明を聞いてルイズはピンと頭に浮かんだ答えを口にする。

「ラーメンがいっぱい食べられる!」

ガクッと寧夢はハンドルに鼻をぶつけてしまう。

「あら?わたし、ヘンなこと言った?」

早苗から、『クスクス』といった風な電子音声が流れている。

「いやね、間違っちょらんよ、その通りなんよ、けど何でラーメン?」

「それは、ほら、おいしかったから。」

「せやね、帰ったらまた行こね。」

寧夢は笑いながらも運転はしっかりしていく。

 途中、肌が焼けたような熊や大きなハエといったものを見たが、向こうも追いつけないとわかっているからか追ってこない。デスクローはルイズが州に来た頃、才人とルイズで狩ったからか縄張りの空白地帯となっているらしく見ることはなかった。そして目的の場所、ロボットの偵察で不審なエネルギー反応を探知した地点付近。才人は突然バイクを止めてしまう。

「才人、どしたん?」

寧夢もロードファイターを止め、窓を開けて才人に尋ねる。

「なぁ、俺、外で見張りしてていいか?」

ルイズは寧夢の後ろから才人の顔を見て尋常でないと悟る。彼の顔は蒼白、冷や汗を流し、小刻みに震えている。

「らしゅうないねぇ・・・そやった、ここらやったね?」

寧夢は原因に勘付き、目を閉じる。

「わかったわ、待っちょってええよ。」

そう言って寧夢は窓を閉めるとエンジンを止め、降りると来る途中にスリープモードになっていた早苗を小突いて起こし、ルイズも降りてライフルの準備をする。

「ルイズはん、建物の中は狭いけん、マシンピストルがええよ。」

「ええ。」

ルイズはスナイパーライフルを背中に担ぎ、マシンピストルを手にして準備を終え、目的であろう建物を見る。それは小さい倉庫のような建物で、魔法学院であれば厩舎よりも小さい、物置といったくらいの大きさだ。しかしルイズは寧夢の別宅やジョーイの診療所を見ているため、同じように地下室への入り口だと考えた。

「早苗は先鋒でクリアリングして。次にウチ、呼んだらルイズはんもついてきて。」

寧夢はルイズと早苗にそう指示し、才人を心配そうに見た後『物置』をにらむ。早苗がまず物置に入り、しばらくして早苗が続き、呼ばれてルイズも中に入る。直前、ルイズも心配になり才人を見るが、彼は右手をこめかみに当ててルイズに『大丈夫だ』とアピールするように敬礼し、ルイズはそれに答えるように中に入る。中は長い階段で、かなり深いところまで続いている。最初に出た部屋には大きなゴキブリの死骸が転がっていた。あるものを両断され、あるものは焼け焦げ絶命しており、ルイズはそれを嫌そうな目で見る。

「ネム、何してんの?」

「や、ホラこれも貴重な食べ物やし、才人にお土産でもって。」

ルイズが見た時、寧夢はゴキブリを解体し、肉を回収していたのだ。ルイズもこの二週間のうちに、今までは使用人の仕事であった動物の下処理を覚えていたが、できるからといって虫を食べる気だけは起きなかった。

『ご主人さま、あんまり欲張ると後できつくなりますよ?』

「ほい、早苗。持ってな?」

『はうぅ、結局私に持たせるんですね〜』

文句を言いつつも収納庫にローチの肉をしまう早苗もやはりロボット、三原則には逆らえないのかもしれない。

 建物に入ってからは早苗が先鋒なのは変わらないが、移動中はルイズが真ん中、最後尾が寧夢という並びになった。扉を開けて中に入る時は建物に入った時と同じくルイズが最後である。これは早苗はロボットであるためAI基盤が破損しない限りは問題ないため攻撃を受ける可能性が高い先鋒、安全確保のため二番目に寧夢、確保されてからルイズが入るという順番と、移動中は前からの敵と、万一見落としたりして後ろに回られた時に対応するため寧夢が最後尾となっているのである。しばらく進んで寧夢は休憩を提案した。ルイズの顔に疲労の色が見えたため、出来るうちにと思ってのことであった。最初、ルイズは向かい合って座ろうとするが寧夢に止められ、背中合わせに座り、休憩の必要が無いのと、来る間寝ていたことに対する罰で早苗を周囲警戒させる。これは万一、奇襲された際にすぐ動けるようにするための休憩方法だ。ここまでのことをルイズは寧夢から教わり、自分がまだまだ知らなければならないことが多いと痛感する。

「ずっと気をつかってくれてたのね。ゴメンね、ネム。」

「お礼言わないけんのはウチよ。ルイズはんが来てくれんやったらここ、下手するとウチと早苗だけで入ることになったかもしれんけん。」

「それなんだけど、サイト、どうしたの?てっきりわたし、早苗が見張りになって三人で来ると思ってたのに。」

「ホラ、話したやん。ミブロウ団のこと。ここら辺やったんや。この中かはわからへんけど。」

二人は背中合わせのまま話している。互いの表情は見えないがルイズには寧夢が顔をゆがめているのが声から感じ取れた。ミブロウ団の壊滅、生存者は才人一人。40人、それも大部分は才人以上の猛者達が壊滅したという。

「変なこと聞くかもしれないけど、死体とかどうしたの?こんなところ、取りに来れないでしょ?」

「それなぁ、死体がなかったんよ。見たトコ、この中にもないしね。まぁ、レーザーとかプラズマで跡形もなく消し飛んだとか、動物に食われたとかも考えられるけんど、それにしては綺麗すぎてん。で、才人はボロボロで帰ってきて、何も覚えちょらんやったし。」

「本当に、何があったのかしらね?案外・・・」

ルイズは何かを口にしようとして言うのをやめる。

「どしたん?」

「いえ、バカバカしいこと考えただけよ。いくらなんでもそんな都合良くないわ。」

ルイズは『実はみんなハルケギニアに行ってたりして』と、考えた。しかしそんな都合のいい話があるわけないと考え、言うのをやめたのだ。

 ルイズ達が休憩していたのは施設のラウンジのような部屋だ。ここまで進んできた寧夢の見立てでは、何らかの研究所で間違いないが、これといって特殊な施設には思えないというのが寧夢の談だ。

「地熱利用、カルデラ地層研究・・・関係ない書類ばっかり。変やとすれば、一貫性がないんよね。」

「ネム、ちょっといいかしら?」

ルイズが寧夢と共に調べていた書類を並べて見ながら尋ねる。

「わたしさ、難しいのは読めないけど気になったことがあってね。これってさ、同じ人が書いたのかしら?」

「どゆこと?」

「こう、字の形が違うっていうか・・・」

ルイズの見立ては素人目であったが、同時に寧夢が見落としていた部分を見つけていたのだ。

「ホンマや、これ、フォントがちゃう!それに続きの書類で変わっちゅうのはおかしいわ!」

普通、字のフォントは素人が適当に打った文章でもないかぎりコロコロと字体、フォントを変えたりしない。同じ書類ならばなおさらだ。つまりここにある書類はどこかからバラバラに持ってきただけの擬装用なのだ。

「早苗、壁と床を調べて!多分、隠し通路があるはずや!」

『は〜い、りょ〜かいで〜す!』

早苗と寧夢は壁と床をコンコンと叩いて調べていく。ルイズはそれがどのようになってるかわからず、手伝うこともできずに壁にもたれかかって眺めていた。と、その時、ルイズが触れた壁が『カチッ』と音がして掌ほどの広さ分だけ壁に沈み込む。すると、ガラガラガラと音を立てて壁がルイズが背を預けている箇所を軸に回転した。

「え?ちょ!?ネム、サナエ!?」

「ルイズはん!?どんだけよ、自分のLuck!?」

この世界かどうかはわからないが、州で米の国と呼ばれる海の向こうで将軍と呼ばれた男はとある秘密結社を偶然見つけてしまったというのと同クラスの強運である。Luck.7は伊達ではない。

 隠し扉の向こうは洞窟、壁はむき出しの岩肌に最低限の光源があるだけだ。どんどん下へ降りていき、広い部屋にぶつかると早苗と寧夢はルイズが先に行かないよう制止した。

「どうし・・・むぐ?」

「静かに。」

寧夢がそう言いながらルイズの口を手で押さえる。部屋の中には白い骨人間のようなものが歩いていたのだ。骨人間は金属のような光沢を放っている。

「どうして人造人間が・・・」

「人造人間って州の人と成り代わるっていう?」

「ん?言うたことあったっけ?」

「前、サナエからね。」

寧夢は早苗を一瞥する。『いらんこと言っちょらんよね?』といった視線だ。

『い、いえ、その以前左京さまのお話をした時に・・・』

「そうよ、それだけ。それよりどうする?」

ルイズに尋ねられ、寧夢は人造人間の数を確認する。

「・・・2体、いけるね。ルイズはん、左の遠くのヤツを。」

「え?ええと・・・」

「安心しぃ、あのタイプは左京と違うてメイメイや立花ほどのAIも積んじょらん、人造人間言うても人間やない、ロボットとも言えん人形やけん。」

ルイズが逡巡しているのを悟った寧夢が、ルイズが撃てないであろう疑念に答える。するとルイズも落ち着き、すっと深く息をする。落ち着くとたしかに人造人間には生気といったものがない。ルイズにスイッチが入ったのを見た寧夢は近くにいる『右側』に忍び寄り、後頭部を義手で掴み、高圧電流を流した。バチンと音がして人造人間はダラッと腕を降ろして動かなくなり、もう一体はルイズが頭に三発、寸分違わず同じ場所に銃弾を撃ち込み破壊する。二体の人造人間が倒れると寧夢は早苗と共に部屋を調べる。部屋の中は機械、ホロテープ、書類が散乱し、どうも人造人間達はこれらを処分しようとしていたようである。寧夢は早苗と残された書類、資料を片端から回収し始める。ルイズはあらかじめ資料は持ち帰って調べると言われていたので、部屋の奥を確認しに行く。奥には別の部屋があり、中には壊されて原型をとどめておらず、大部分が持ち去られた機械の残骸が転がっていた。こちらには何も無さそうだとルイズが判断し、元の部屋に戻ろうとした時、

「ウソや、ウソやウソやウソやあああぁぁぁ!!!」

と突然、寧夢の叫び声が聞こえ、ルイズは飛ぶように戻った。

 

『ご主人さま、お気をたしかに!!』

早苗は寧夢の隣で彼女を落ち着かせようとしているが、寧夢は叫び続ける。

「ネム、どうしたのよ!?」

ルイズは寧夢を早苗と挟むように寄り添い、話を聞こうとして寧夢が直前まで見ていたものを見た。

「・・・何、これ?」

ルイズもそれを見て思考停止してしまう。同時に、『カツン、カツン』と上から足音が聞こえてくる。

 時間を少し遡る。外で見張りをしていた才人の元に男が一人、近づいてきた。才人はここまでこの男の気配にまったく気づかなかったが、驚くより先に才人は男に銃を向けた。

「止まれ!」

これまた才人らしくない、彼ならば台地で見知らぬ者が近づいてくれば問答無用で発砲する。にもかかわらず、指が引鉄を引けないのだ。

「禁則事項No.11さ、撃てるはずがない。」

「な、何だよ、それ?」

近づいてきた男はとうとう自分に向けられていたショットガンの銃口を横に払い、才人の額に人差し指で触れる。男は寧夢ほどの身長しかなく、才人目線では手足もヒョロヒョロ、身体はガリガリ、なのに才人は男に抵抗らしい抵抗ができない。そして男の服装も目を引いた。我々の世界においても地域ごとで服飾というのは変わる。東アジアという狭い地域で見てもかつてはまったく違ったし、洋の東西となればさらに大きい。才人から見た男の服装は別世界のものとしか思えなかった。近いとすればルイズの服装に近い。

「rim-s-m-3No.117、コードstyeygxi5371。」

男がそう唱えると才人の全身に電流のようなものが走った。そして自分の意思と関係なく男に向かって直立不動の姿勢をして銃を立て、男に敬礼のような動きをする。

「117、地下に侵入者あり、速やかに排除せよ。」

「グ・・・この・・・」

「以前と違って頑張るじゃないか。しかし、いつまでもつやら?」

才人は壊れたからくり人形のようにゆっくりとルイズ達がいる研究所に入っていった。

 寧夢とルイズが見つけたデータは削除される途中であったものを寧夢が復元したのだ。その中の一つは人造人間名簿、そこにrim-s-m-3No.117という文字列と才人の顔写真が載っていたのである。カツン、カツンと足音がしてルイズは寧夢を安心させようとして考えついたことを口にする。

「きっと手の込んだイタズラよ、サイトが人造人間ですって?バカも休み休み言ってほしいわよね?」

「ええよ、気安めなんか言わんで。これをウチらが見るとか、予測でけんやろ?」

寧夢がそう言った時、足音がとうとう部屋に入ってきた。

「ほら、本人に聞くのが一番よ、ねえ、サイト・・・」

ドンッとショットガンの発砲で才人は答えた。

「・・・コロセ・・・」

抑揚のない才人の声、ハラッと地面に落ちる桃色の髪。才人の撃った散弾の一つがルイズの髪にかすり、二、三本ほど髪が切れたのだ。

「ルイズはん、こっち!!それはもう才人やない!!」

寧夢はルイズが先ほど入っていったガラクタだらけの部屋の方で手招きしているがルイズはあまりのことに放心して動けずにいた。

「あぁもう!早苗!!」

『はい、ご主人さま!!』

早苗はルイズの元に全力で飛んでいき、ルイズを抱えて戻ってくる。

「しっかりしぃ!!」

「ふぇ!?ネム!?さ、サイトが、サイトが!!」

「あれを才人なんて呼ばんで!とにかく、下!!」

幸いにも才人の動きは壊れかけのガーゴイルのように鈍重で、ルイズ達は難なくガラクタ部屋に入ることができたのであった。

 ガラクタ部屋の入口は広く、ドアなどない。岩盤がむき出しの洞窟のようになっており、寧夢はタレットをクラフトして入口に備え付け、早苗と共にガラクタの一部を解体して簡単な防壁を作ってルイズ、早苗、寧夢は身を隠す。

「なんで、どうして!?サイトが、わたしを・・・」

「せやから、アレは才人やない、才人の皮被った人造人間なんやって!!」

寧夢はルイズの肩をつかんでまくし立てる。彼女の目には涙、ルイズは泣いている寧夢の手に自分の手を重ねた。彼女からすれば、愛した男はとっくの昔に殺され、別人に成り代わっていたということだ、平静であれというのが無理な話である。

「ゴメンな、ルイズはん、取り乱して・・・ねぇ、お願いがあるんやけど・・・」

寧夢はルイズが握るマシンピストルをルイズの手の上から握って静かに言う。

「あの、才人のフリした人造人間を・・・壊して。」




まさかの才人が人造人間!
さて、ルイズは成り代わることのできる人造人間であった才人を何と考えるか!?

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