ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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ハルケギニア編、もう少し続きます。そしてデスクローについては大部分想像が入っておりますのでご注意を。


第十四話 使い魔召喚の儀式~その時ハルケギニアでは~ 中編

 州の荒野を我が物顔で練り歩く彼は、いつもの縄張りの見回り中に奇妙な物を発見した。光る大きな球体、彼は警戒しながらそれに近づき吠えかけるが彼の遠吠えが台地にこだまするだけで球体に変化はない。

『小さい二本足がまた玩具でも作ったか?』

彼はそう呟くかのように首をかしげ、破壊しようと体当たりしたが、手応えなく光の中に放り出され、それを抜けると嗅いだことのない臭いに戸惑った。そして土煙が晴れると周囲に彼が見たことのない光景が広がっているのである。足元に広がる緑の絨毯、四角く切り出した石を積み上げた壁で囲まれ、たくさんの『小さい二本足』が自分を見上げている。しかしその『小さい二本足』は彼が見たことのない姿をしていた。彼が見る『小さい二本足』は動物の革や金属の鎧をまとい、火を吹く筒やこん棒を持っているが、足元のは布で体を包み、大小の差があるが少なくともこん棒でない木の棒を持ち、心なしか普段見る者達より小さい。

「う、うわあああぁぁぁ!!!???な、何だあのドラゴン!!!???」

小さい二本足の一匹が吠える。その声は彼が聞きなれた自分を怖れる鳴き声そっくりだ。彼は『サヴェージ・デスクロー』と呼ばれる、州の食物連鎖の頂点に君臨するデスクローの中でも力の強い種類である。人間も彼とであれば戦うことを避けるため、州でも彼の向かうところに敵は無かった。彼が唯一戦いを避けるのは水辺に群れる『甲羅背負い共』くらいなものだ。

 広場の出入口の影に隠れていたシエスタが口にした『サヴェージ』という意味をオスマン学院長は尋ねる。

「サヴェージ?なんじゃそれは?」

「デスクローの上位種です。あんなの相手するなんて想定しておりませんよ!!仕方ありません、少し時間稼ぎをお願いできますか?」

「時間稼ぎ?あ、待ちたまえ!!」

シエスタが走り出すのとデスクローをオスマン学院長は交互に見ると、覚悟を決め魔法を唱え始めた。

 

「え、エア・ハンマー!」

「ファイア・ボール!!」

一部の生徒達が恐慌状態でもデスクローに魔法を放つ。しかしデスクローはエア・ハンマーを風が吹いた程度にしか感じておらず、ファイア・ボールもせいぜい野火くらいにしか感じていない。攻撃とすら受け取られていないのだ。

「皆さん!刺激しないように!!目を合わせたままゆっくりと下がってください!!」

コルベール先生が生徒達に指示し、生徒達は指示どおりにする。ゆっくり、じわじわと下がる生徒達の中、長い金髪を立派な巻き毛にした女生徒がつまずいて転ぶ。

「あ!!」

「モ、モンモランシー!」

モンモランシーと呼ばれた女生徒をデスクローは視界に捉えた。この『奇妙な世界』で初めての彼の食事だ。彼が小さな二本足の群れを襲う時はまず一匹を血祭りに上げ、恐慌状態に拍車をかけ、団結しての抵抗力を削ぐ。そのいけにえがモンモランシーだ。しかし彼は知らない、人間とは力無き者でも捨て身となった時は本来以上の力を発揮する時があることを。

『グオオオオォォォォ!!!!オォ?』

モンモランシーに飛びかかろうとしたデスクローの足が『地面に』つかまれる。アースハンド、ドットスペルだが足止めにはもってこいである。

「モ、モンモランシー、に、逃げるんだ!!」

プルプルと足を震わせながらモンモランシーとデスクローの間に立つ少年。先ほど大きなモグラを召喚した生徒だ。

「ギーシュ、あんた・・・」

「頼むよ、早く・・・『ワルキューレ!!』」

ギーシュは彼が最も得意とする魔法、『ゴーレム錬成』で青銅の戦女神像、『ワルキューレ』を彼の限界一杯である7体錬成した。各々が剣、槍、クロスボウ、戦斧等々で武装している。彼の力ではデスクローどころかハルケギニアの仔龍と戦うのすら無謀だ。しかし幼馴染で家同士の交流もある、そして淡い恋慕も抱いている彼女を守るため、彼は気付くとデスクローの前に立ちふさがっていた。しかしギーシュの渾身の抵抗もデスクローの好奇心を刺激する程度にしかなっていない。人間に直して考えれば、デスクローにとってギーシュの魔法など繋がれたチワワがキャンキャン吠えている程度にしか考えられないのである。デスクローは土の手を軽々と引きちぎり、ワルキューレを物珍しそうに眺める。これに気を取られている間にギーシュはワルキューレを囮にしてモンモランシーを連れ逃げるべきであった。しかしここでギーシュはミスを犯した、ワルキューレをデスクローにけしかけたのだ。

「行け!ワルキューレ!!」

一斉に襲いかかる7体のワルキューレにデスクローは一瞬驚いてのけぞったがそれだけだ。デスクローにしてみればワルキューレごとき、ただの動く青銅の塊だ。彼は『全身鎧の小さな二本足』と戦い、食い殺したこともある。その全身鎧はハルケギニアでは製造できない金属、樹脂で作られた物で、それに比べればワルキューレなど紙細工同然である。軽々と全てのワルキューレを引き裂き、叩き潰し、食いちぎり、一体を噛み砕いて咀嚼した。デスクローはイタチザメのように口に入るものは全て食べる習性がある。『州一番のスカベンジャー』の通り名は伊達ではない。それを見てかつてモンモランシーと出かけたラグドリアン湖よりも青くなっているギーシュ、そしてその後ろにいるモンモランシーを視界に捉えるデスクロー。他の生徒達はすでに広場から逃げ出しており、残ったのはギーシュ、モンモランシー、コルベール先生だけだ。

「いかん、二人とも逃げるんだ!!」

コルベール先生がデスクローの足止めのために手数を確保できるドットスペル、ラインスペルの火の魔法をデスクローにぶつけ、興味を自分の方へ向かせるが、モンモランシーは放心しており、ギーシュは彼女を抱き上げて逃げようとするが、細身の彼ではそれも難しい。そんな中、トライアングルスペルの火の魔法がデスクローを襲った。これはコルベール先生のものではない。

「キュルケ!?」

炸裂した魔法で我に帰ったモンモランシーが、魔法を放った者の名を叫ぶ。

「二人とも、とっとと行きなさい!」

キュルケに言われてモンモランシー、ギーシュは走り出した。デスクローはすでにキュルケ、そしてコルベール先生を標的にしており、二人には目もくれない。

「アンタ、ルイズの使い魔でいいのよねぇ?こんな不細工ドラゴン召喚しちゃうなんてさすがゼロのルイズだわ。」

ルイズとは喧嘩ばかりしている彼女だが、それはルイズを認めている部分が多々あるからだ。だからこそ、彼女の心に灯る炎は燃え上がる。

「ねえ、ルイズをどこやったのよ?まさかアンタが食べたなんて言わないわよねぇ?」

当然だがデスクローが答えるはずがない、しかしコルベール先生の手数を重視した魔法よりもキュルケのトライアングルスペルをデスクローは攻撃とみなし、キュルケを優先すべき敵と判断した。もっとも、『多少鱗が焦げた』程度であったが。

「ルイズを・・・返しなさいよおおおぉぉぉ!!!」

彼女の二つ名は『微熱』、されどその激情は大火のごとしが彼女の座右之銘だ。普段は恋の炎だが、今の彼女が燃やすのは怒りだ。召喚された使い魔が召喚主を食べたなど、ルイズであること以前にハルケギニアのメイジにとって許されることではない。対するデスクローは小さな二本足が仲間を食われると怒りに任せて向かってくる個体がいることを理解できない。今回はまだ一匹も食っていないため完全に言いがかりだが、さておきデスクローにとって弱肉強食が掟、食われた者より自分の命を優先するのが当たり前、仲間が食われているうちに逃げる双頭の跳ね回る六本足の方が自然なのだ。

「この、この、このおおおぉぉぉ!!!」

キュルケの魔法はたしかにデスクローにダメージを与えているが、そんなものデスクローにとっては蚊に刺された程度。いつも州で戦う獲物達に比べれば攻撃というのもおこがましいが、鬱陶しいのに変わりはない。デスクローは最初の獲物をキュルケに定めたのだ。キュルケは最初、ルイズの仇を討とうと勇んでデスクローに立ち向かったが、自分の魔法が通用していないことに焦り、次の獲物が自分になったと感じた時、恐怖で足が折れそうになった。彼女の太股を水が伝うのも彼女は感じていない。心も身体も折れそうになっているのを支えているのは怒りだ。そんな彼女にデスクローが飛びかかった瞬間、彼女を青い影がさらっていく。風龍にまたがったシャルロットがキュルケを間一髪で救ったのだ。

「シャル!?離してよ!!あのドラゴンがルイズを・・・」

バシャッとキュルケは頭から水をかけられる。シャルロットの水魔法だ。

「少し頭冷やして!キュルケまで食べられちゃったらどうするのよ!?」

「うぅ・・・シャル、ありがと。おかげでちょっとは頭冷えたわ。」

「それはよかった。漏らしたのは黙っとくから。」

「&<¥@!?う!!シャル、避けて!!」

キュルケが声にならない声を上げ、そしてシャルロットに金切り声で指示する。

「え?キャアッ!?」

『キュイイイイィィィ!?』

デスクローが地面を蹴って土玉を飛ばし、シャルロットが召喚した風龍の子供を撃ち落としたのだ。デスクローはこのように道具を使う知性を有している、これもまた恐ろしいところだ。風龍は広場に不時着して気を失う。このまま逃げれば風龍はデスクローに食べられてしまうだろう。

「キュルケ、逃げて!」

「ダメよ、この子が食べられちゃうでしょう!?」

シャルロットはキュルケだけでも逃がそうとするが、キュルケは助けてくれたシャルロットのために残るつもりなのだ。

「アイシクルウインド!!」

「フレイムボール!!」

シャルロットとキュルケ、二人がかりのトライアングルスペルでやっと向かってくるデスクローがたたらを踏む。しかしそれが精一杯、ジリ貧なのは二人がよくわかっていた。フレイムボールですら鱗が焦げるだけ、アイシクルウインドの氷の矢も刺さりこそするが効いている気配がない。そんな二人を助けようとするかのように、デスクローの後頭部で小さな爆発が起こった。

「キュ、キュルケちゃんとお姉ちゃんに手を出さないで!!」

城壁の上からジョゼットが失敗魔法を放ったのだ。一見ろくなダメージも無さそうであったが、至近距離で爆発が起こったのだ、デスクローに最も不快感を与えたのはジョゼットの魔法であったのだ。

『グオオオオォォォォ!!!!』

デスクローがジョゼットに向かって吠えると、ジョゼットは壁の影に隠れる。その瞬間、デスクローの両足、そして尾が凍りつき、彼は完全にその場へ固定されてしまう。

「キミ達、ケガはないかね!?」

そう言ってキュルケとシャルロットに駆け寄って来たのはオスマン学院長であった。普段の好々爺のようななりは無く、彼の双眸はデスクローを睨み付けている。オスマン学院長はシエスタが逃げ出したため、自分の魔法、そしてコルベール先生の魔法でデスクローを殺処分しようとその場で画策したのだ。まず、自分の水魔法はまったく効果がなかった、ならばそれは足止めに使おうと、自分の持てる魔法全てを使いデスクローの足を凍りつかせてその場に釘付けにした。そしてコルベール先生の魔法がデスクローを襲う。

「『炎蛇』の名、今一度戻りましょう!!」

コルベール先生が放った炎がデスクローの顔の回りに蛇のように絡みつく。彼は炎のスクウェア、それだけの火力であれば大抵の生物は骨も残さず焼き尽くしてしまうが、それをもってしてもやはりデスクローの鱗を焦がすことしかできない。しかしキュルケの魔法と違い、デスクローはそれを嫌がっている。コルベール先生が焼いているのはデスクローでなく、デスクローの周囲の空気なのだ。どんな生物であっても、息ができなければ死ぬ、焼けた空気を無理に吸えば気管が焼けただれて死ぬ。コルベール先生はデスクローを窒息ないし気管を焼いて殺そうと考えたのである。

「ミス・ツェルプストー、ミス・オルレアン、ご無事ですか?」

これまでルイズの仇を討つことしか考えていなかった二人は、今になって死の恐怖が甦り、コルベール先生に泣きながら抱きついた。

「ミスタ!!怖かったですぅ!!」

「ミスタ・コルベール!!ありがとう、ありがとうございます!!」

「あぁ、よしよし、二人とも、頑張ったね?」

困り顔でコルベール先生はオスマン学院長を見やると、オスマン学院長はシャルロットの風龍を水魔法で気付けしていた。

「やれやれ、主役は取られたのぉ、ミスタ・コルベール。今日、皆を守ったのはキミじゃよ。」

と、コルベール先生をねぎらっていると、風龍が目を覚ます。

『!?きゅい、きゅいきゅい!!』

風龍が鳴く声が何を指しているか、皆、気付かない。

『後ろ!!後ろね!!』

風龍が人の言葉を叫んだ。風龍はすでに絶滅したとされていた『風韻龍』という、高い知性を持ち、人の言葉を話し、エルフのように先住魔法を使うこともできる種類だったのである。しかしそれに驚くより、皆は風韻龍が指した方を見た。

『グオオオオォォォォ!!!!』

デスクローは生きていたのだ。炎が絶え、すでに絶命したとばかりに思っていたのに。これはハルケギニアに棲息する生物の関係もある。ドラゴンをはじめ、いわゆる『ハチュウ類』に属する生物は、ハルケギニアでは水に潜ることができる種類が確認されていない。しかし州が存在する、『地球』と呼ばれた場所には絶滅したりFEVや放射能で変異してしまったりしたが『ワニ』、『ウミイグアナ』といった、『水に潜ることができる』種類がいたのだ。これらは『息を止める』ことができ、デスクローにもその遺伝子が組み込まれていた。特にワニは鼻を塞ぐこともできる、そのため、デスクローは炎が絶えるまで息を止めることができたのだ。デスクローは下半身を束縛していた氷を砕き、コルベール先生、オスマン学院長、キュルケ、シャルロット、一番食いでのありそうな風韻龍を獲物として見下ろしている。まるで、

『ゲームオーバーだ、二本足共と青トカゲ。』

とでも言おうとしているかのように。そんなデスクローに無数の弾丸が襲いかかった。再度言うが、ハルケギニアにおいては火打石銃が最新型である。そしてこれだけの弾数を一度に放つにはハルケギニア中の銃士隊を連れてきても足りないだろう。それを放っているのは全身鎧を着た、一人の平民である。それも、背中から火を吹いて空を飛んでいる。

「ヒャッハァアアァァァ!!!来いやぁ、このトカゲ野郎!!」

全身鎧の平民はウェイストランドの合言葉を叫びながらデスクローに体当たりして吹き飛ばし、さらに銃弾の雨を浴びせる。全身鎧から聞こえてきたのはシエスタの声であった。彼女は逃げたのではない、タルブと通信し、この全身鎧、そして二つの『武器』を届けるよう頼みに行ったのだ。

「あれは・・・『龍殺しの鎧』!?」

コルベール先生の手がガタガタと震えている。彼は龍殺しの鎧を知っているのだ。かつて『炎蛇』と名乗っていた彼が一線を退くきっかけを作ったのが、平民の着るこの鎧だったのである。なお、『龍殺しの鎧』と呼ばれた理由は60年前、メイジですら敵わなかった黒いドラゴンを殺した平民の傭兵が使っていたという裏社会のウワサが元だ。

「い、今の声、まさかシエスタ!?」

「けど、雰囲気が・・・」

キュルケとシャルロットは、同年代で身分差こそあれど仲の良いシエスタのあまりの豹変ぶりに驚いている。

「み、みんなぁ!ケホッケホッ、大丈夫!?」

遅れながらジョゼットが広場に走ってきた。

「ジョゼット!?どうして来たのよぉ!?」

「だって・・・キュルケちゃんにお姉ちゃん、ルイズちゃんのドラゴンと戦ってたから・・・」

そう話していた三人の女生徒にコルベール先生は、

「三人とも、すぐこの広場から出なさい、後のことは先生達に任せて、ね?」

キュルケとシャルロットは納得していなかったが、ジョゼットが首肯し、二人を説得する。

「二人でもどうにもならなかったんだよ?できることなんてないよ!」

「・・・わかったわ、シャル、レビテーションを。」

「うん!」

『イルククゥは平気ね!』

キュルケはシャルロットと共に風韻龍を運ぼうと、レビテーションの魔法を使おうとしたが、風韻龍は首を横に振る。

『・・・【人化】!』

そう言ってイルククゥは長い青髪に、キュルケと遜色ないプロポーションの女の姿に化けた。一糸まとわずに。

「ちょっと!裸じゃないの!!」

「赤毛のチビちゃん、ドラゴンが服なんか着るわけないじゃん?」

「人間は違うのよ!」

キュルケはそう言いながら自分のマントをイルククゥに着せ、シャルロットと共にイルククゥへ肩を貸す。これならばレビテーションでドラゴンを運びながらフライで逃げるよりよっぽど早い。そして二人と一匹の避難誘導するジョゼット。

 三人と一匹が逃げる一方、シエスタはデスクロー相手に『龍殺しの鎧』ことパワーアーマー『T-45』に身を包み、両手で銃身をいくつも束ねた大砲のような『ミニガン』を構えている。これが放つのはドングリ形の5㎜弾で、その材質は劣化ウランという鋼鉄よりはるかに硬い弾丸だ。それは火のスクウェアスペルですら焦がすのがやっとであったデスクローの鱗を易々と貫いていく。

「チッ、弾丸切れ!ジジイ!デスクローの足を凍らせろ!!」

シエスタはそう言うと同時に、燃料がなくなったジェットパックをパージする。

「お、おぅ、わかった。」

オスマン学院長は言われたとおり、片足を氷漬けにすると、シエスタは次の命令を下す。

「よし、ハゲ!凍らせた足を焼け!!」

「ハ、ハゲって私ですか?」

「テメェ以外に誰がいるんだ!?」

コルベール先生は不承不承ながらデスクローの足にファイアボールを放つ。すると急激な温度変化に耐えられなかった氷が爆発し、これを受けたデスクローは片膝をついた。

「効いてんなぁ、それ、冷却手榴弾、おかわりさ、とっとけ!!」

シエスタは冷却手榴弾を投げつけデスクローの左肩が凍ると、今度はミニガンを捨て火炎放射機に持ち変える。

「汚物は消毒だあああぁぁぁ!!!」

と、最終戦争よりはるか以前に描かれた作品で、戦後に『未来予知作品』と言われたものの一つで書かれたセリフを叫ぶ。これを受けたデスクローの左腕が急冷からの急加熱に耐えられず肩から吹き飛んだ。

「っしゃあ、ヌカランチャ」

「それは使うなと言うたじゃろうが!!」

オスマン学院長が氷弾をシエスタに投げつけ、龍殺しの鎧と一緒に送ってもらったヌカランチャーを弾き飛ばす。

「チッ、覚えてろよジジイ。しゃあねぇ、コレだ!」

シエスタはヌカランチャーの代わりに、同じくタルブから送ってもらった、トゲがはえた金棒を持つ。

「サイコバフ投与!・・・ヒャッハアアアァァァ!!!!!ぶっ殺おおおおぉぉぉぉす!!!!」

サイコバフとは州でも出回っている薬品で、かつて『米の国』の軍人が戦う際に使っていた薬物、『サイコ』と、アスリートが使用していたドーピング剤『バファウト』を調合し、相乗効果でバラバラに使用するよりはるかに効果の高くなった薬物だ。これをパワーアーマーは液化して静脈注射するためさらに高い効果を発揮する。

「V.A.T.S・・・」

シエスタがそう呟くと周囲の時間がゆっくりと流れていく。『Big Leagues』『Blitz』を使った、もはやワープとしか言い様のない高速移動から繰り出される一撃、州では『ベースボール』と呼ばれた決闘法で、『タルブの核弾頭』を自称するシエスタが最も得意とするのは、実は接近戦である。

「スワッタアアアァァァ!!!」

シエスタは片足立ちから勢いをつけてデスクローをフルスイングで殴り飛ばす。いわゆる『一本足打法』だ。シエスタの気合いと共に繰り出された一撃はデスクローを城壁にめり込むほど吹き飛ばし、地面に倒れたデスクローにシエスタは追撃を仕掛ける。

「スワッタスワッタスワッタスワッタスワッタアアアァァァ!!!」

何度も何度もシエスタはトゲバットでデスクローが動かなくなるまで打ちすえた。そこへオスマン学院長、そしてコルベール先生が駆け寄って来る。

「たしかシエスタくんと言ったかな?どこからこの鎧を・・・」

「このトカゲ野郎が出たのを見てな、前に宝物庫の掃除した時にコイツがあったのを思い出してね。おあつらえ向きに鍵が開いてたから持ってきたんだよ。」

「いえ、こんなものありましたっけ・・・まあいいでしょう。それよりこのドラゴン、聞いたことはありましたが、60年ほど前の行方不明事件で現れたという・・・」

コルベール先生がデスクローを一瞥すると、キュルケ、シャルロット、ジョゼットが戻ってきた。イルククゥはモンモランシーが治療する中、ギーシュが韻龍と知った上で声をかけ、モンモランシーがギーシュを制裁するのを見てケタケタと笑っており、存外打ち解けていたため置いてきた。

「先生方、大丈夫ですか!?」

「お、あぁ、ミス。大丈夫ですよ。」

コルベール先生が教え子達に答えている間にシエスタはパワーアーマーを脱ぎ、ポケットからマウスピース、そして紙タバコを取り出すとライターを探すが見当たらない、戦っている時かパワーアーマーを受け取りに行った時に落としたのだ。

「おい姉ちゃん、火。」

「え?あたし?」

「他にいんのか?」

「は、ハイ・・・」

シエスタはキュルケにタバコの火をつけるように言う。本来なら仲がいいとか身分差等関係なく無礼な行為だが、先からの雰囲気、そして最後の方しか見ていないがデスクローを殴り殺したシエスタへの恐怖からキュルケは言うとおりにしてしまった。

「・・・ぷはぁ。一仕事終えてのペーは格別ですわ。失礼しました、ミス・ツェルプストー。わたくし、ハッパを吸っているとあのようになってしまいますの。」

「よ、よかった、いつものシエスタね?むしろシエスタなのよね?」

「ええ、わたくしはわたくしですわ。お詫びに皆さんも一本、いかがです?ペーもいいですが、わたくしはやはりハッパがお勧めですわ。少しチクッとしますがポンもございますよ?」

「え、遠慮しとくわ。」

シエスタが勧めるタバコ、そして注射器に、ルイズの『くされ縁』三人は顔を青くする。

「これ、穢れない若者を悪の道へ引き込むな!」

「えぇ、別に禁止されていないから構いませんでしょう?」

「そういう問題ではない!」

この時、デスクローは絶命したものと皆、油断していた。事実、呼吸も無く、心臓も停止していたはずであった。しかし絶命したとばかりに思っていたデスクローは息を吹き返し、シエスタへと残っていた右腕の爪を突き立てたのだ。

「あ、危ない!!」

ジョゼットがとっさにシエスタの手を引いたため直撃は避けられたがメイド服、そして背中が大きく切り裂かれた。

「う、あああぁぁぁ!!!」

激痛にのたうち回り、年相応な恐怖をたたえた目でデスクローを見上げるシエスタ。

「そ、そんな・・・まだ生きて・・・」

ハッパ無しのシエスタでは普通の少女と大差ない。デスクローはせめてシエスタを道連れにしようと襲いかかってくる。

【この野郎ぉぉぉ!!!】

シエスタに追い討ちをかけようとしていたデスクローの首に何者かが取りついた。ハルケギニアでは見られない鎧を身に付けた青年、身長は2メートル近く、皮革で作られた服を着た体格のいい彼は、デスクローを暴れ馬のように誘導してシエスタや学院の生徒、先生から引き離す。

『グオオオオォォォォ!!!!』

デスクローはやっとの思いで青年を放り出すと青年は受け身を取ってデスクローに向き直り、先ほどシエスタが放り出したヌカランチャーを足で踏んで浮かせて手にする。

「い、いかん!キミ、それはいかんぞ!!」

オスマン学院長が叫ぶが、青年はデスクローを睨み続け、ヌカランチャーを手放さない。

【ん?テメェ『サヴェージ』か?ま、いい、来いよ!】

青年が挑発するとデスクローは雄叫びを上げ、青年に襲いかかる。それを青年はすれ違い様にヌカランチャーから弾を外して、時限起爆するようにしてデスクローの口の中に放り込んだ。

【お前は、もう死んでいる。】

青年がそう言うとデスクローの体内でヌカランチャーの弾、小型の核弾頭が爆発し、デスクローは口と肛門から内容物を噴き出しながら絶命した。デスクローの『口に入ったものは何でも食べる』習性を利用した狩り方だ。しかし青年もデスクローが爆死すると同時に倒れる。

「ミス・オルレアン。シエスタくんを頼む。ミスタ・コルベール、手を貸してくれたまえ。」

「ええ。シエスタ、診せて。」

「わかりました、学院長。」

オスマン学院長はコルベール先生を伴い、青年に駆け寄る。

「キミ、傷を診せてくれないかね?」

【?この言葉・・・】

青年は言葉が通じておらず、コルベール先生が何を言っているかわからない。無論、それはコルベール先生も同じだ。

【アナタ、ダイジョブ?ナマエ、オシエテ】

しかしオスマン学院長は片言ながら彼と同じ言葉で話した。

【ん?老体、言葉がわかるのか?】

【スコシダケ、ニポンゴ、ワカル。ナマエ、ナニ?】

【勇治だ。ゆうじ。】

【ゆうじ、サン?ワタシ、おすまん。ヨロシク、ヨロシク。ケガ、テアテ、スル。ワタシ、アナタ、キキタイ、ハナシ。】

【ありがたいが・・・少し、休ませて・・・くれないか?】

青年、勇治はそう言うと目を閉じた。デスクローと戦う以前に彼はボロボロだったのだ。

「学院長、どうして彼の言葉が?」

「そんなことは今はよかろう、男手と医務室の準備を頼む!」

オスマン学院長はコルベール先生に指示しながらも水魔法による治療を勇治に施した。コルベール先生はキュルケ達に続いて戻ってきた生徒の一人に指示を出す。

 一方、背中を切り裂かれたシエスタを治療するシャルロットはシエスタの背、左肩甲骨のあたりに描かれた刺青を見つけた。桃色で五枚の花弁を持つ花の上に、斜めの『D』という形の記号が描かれ、その周囲を白い狼が走って囲むように描かれている。

「シエスタ、このタトゥーは?」

「・・・できれば見ないでいただけますか?」

左肩甲骨など、余程器用な人間でなければ自分で刺青を彫ることなどできないだろう。これは他人に描かれたもので間違いない。そして女の背に彫る刺青の意味は、ハルケギニアでは『コイツは俺の【モノ】だから手を出したヤツは殺す』という意味だ。妾、奴隷、可能性はいくつかあるが、彼女が触れられて愉快なものでないと考えたシャルロット、キュルケ、ジョゼットはそれ以上触れないようにした。

 一方、オスマン学院長が応急処置をする青年は、処置の過程で彼がしていた手袋を外し、青年の左手に刺青があるのを確認した。片刃の刀剣をくわえた白い狼を蹄鉄のように囲む桃色の花弁、蹄鉄形の空いている部分に左からI、II、III、D、Vと五つの記号がある。意匠が少し違うが、シエスタの背に彫られていた刺青とパーツが似ている。

「う・・・これは、ミブロの・・・いや、少し違う?」

オスマン学院長の応急処置を手伝うコルベール先生はその刺青を見て青ざめた。

「コルベールくん?・・・そうか、そういえばキミはかつて・・・」

オスマン学院長がまるでコルベール先生の過去を知っているような物言いをしたため、彼は驚いてオスマン学院長の顔を見る。

「・・・ご存知なのですか?」

「ああ、アカデミー実験小隊。20年前、異端者狩りにてある村を襲うが、その村を守っていた、たった一人の平民に敗れ解散となった名無しの部隊。唯一の生き残りにして隊長であったのがキミ、コルベールくん。間違いはないかの?」

オスマン学院長が語ったことはコルベール先生の過去で間違いなかった。彼は今でも覚えている、トリステインのアカデミーにて作られた仮説を戦闘にて実験するための小隊、通称『アカデミー実験小隊』。しかし行われるのは汚れ仕事ばかりの、事実上の『破壊工作員』。コルベール先生はそれでも自分が必要悪として職務を続けていた。しかしそんな彼が一線を退いたのは、たった一人の平民相手に実験小隊が全滅したことであった。スクウェアメイジとトライアングルメイジばかりで構成されていたというのに、龍殺しの鎧をまとった平民一人に鎧袖一触とばかりに全滅させられたのである。あらゆる魔法で傷一つつかないその鎧をまとった平民はあらゆる魔法の障壁を貫通する、鋼よりも硬い弾丸を時雨のように叩きつけ、ゴーレムどころか人を泥のように融かす光の矢を撃ったかと思えば一瞬で人間を氷像にしてしまう冷気を放ち、何よりトラウマとなっているのはその平民が夜を昼にしてしまうような、『人工の太陽』を撃ったことである。その太陽を放った砲は、先ほどシエスタが持っていた『ぬからんちゃー』に酷似したものであった。人工の太陽にさらされた隊員は見るも無惨に焼け死に、コルベール先生が生き残ったのは偶然廃屋の影に隠れ、廃屋ごと吹き飛ばされた結果、奇跡的にである。一通りの『仕事』を片付けた平民が龍殺しの鎧を脱ぎ、コルベール先生が知らない言語で独り言を話していたことと、紫色のタンクトップから覗いていた刺青、平民が所属すると思われる『ミブロ』という組織名がコルベール先生の頭の中に残ったのだ。この時コルベール先生はその平民を恐れたのも去ることながら、自分が今までやってきたことに戦慄したのだ。かの平民と同じように人を殺めてきたのを、トリステイン王国のため、否トリステイン王国のせいにしていたのだと。部隊を失ったことと、自分がやってきた人殺しの罪の意識に苛まれ退役したことによってアカデミー実験小隊は解散、存在そのものが闇に葬られた。

「ええ、しかしどうして・・・」

「これは、キミには話さねばならんかのぉ。」

脅威が去り、恐怖より野次馬根性の方が勝った生徒達、騒ぎを聞き付けた使用人、教師達が集まってきた広場を見ながらオスマン学院長は呟くのであった。

 




まさかのシエスタ無双、そしてフォールアウト世界での野球も外せません。
さて、解説入ります。

サヴェージ・デスクロー
デスクローの上位種で、見た目はあまり変わりませんが強くなってます。普通のデスクローだと思ってたらコイツで、ビビったのは作者だけではないはず。

ヌカランチャー
言わずと知れたデイビークロケットもどき、個人携行型核ランチャー。撃つ時は『後方の安全確認』より、『前方の安全確認』したほうがいいシロモノです。室内で自爆したことある将軍並びにコンパニオンや味方モブ巻き込んだことある将軍、怒らないから手ぇ挙げて。
ハァイ(作者)

ハッパ、ペー、ポン、サイコバフ等
ハッパ、ペー、ポンは有名な隠語ですね、それぞれ大麻、阿片、覚せい剤。サイコバフ、サイコ、バファウトはフォールアウト内の薬物です。自分は薬物使う暇があれば攻撃タイプの将軍でしたが。
詳しい説明よりこの一言が大事ですね。
『クスリ、ダメ、ゼッタイ!!』

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