ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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 初めてのハルケギニア側の話です。そして先に謝っておきます、シエスタファンの人、ホント申し訳ございません。扱いひどいですが、愛ゆえですので。


第十三話 使い魔召喚の儀式~その時ハルケギニアでは~ 前編

 ルイズが州に放り出されるより半年ほど前、ハルケギニア、ルイズが籍を置くトリステイン魔法学院があるトリステイン、その首都トリスタニアのとある酒場にて、老人が眼鏡をかけた若い女に酌をさせていた。老人は長い白髪に白髭、黒いローブをまとい、横に身の丈ほどありそうな長い杖を置くメイジ、彼こそトリステイン魔法学院学院長オールド=オスマンその人である。しかし今の彼を見て教職に身を置く者だなどと誰も考えはしないだろう。

「なあ、ミス・ロングビル?これだけ高いボトルを入れて、毎日のように通っとるんじゃから、たまにはアフターというのも、な?」

と、誰が見ても助平爺にしか見えぬ誘いをするオスマン。これにロングビルは上品な笑顔で、

「いやですわ、ミスタ!わたくしはそういったサービスは承っておりませんの、オホホ!」

と、答える。しかし本当に迷惑していれば店員に合図され、『怖いお兄さん』から叩き出されて出禁となるが、そうならないことから満更でない、または金額交渉をしようとしていると考えられる。

「フォッフォッフォッ、なかなかツレないねぇ。しかし本当にどうかね、ミス・フーケ?」

オスマンの語った名前にロングビルの笑顔が引きつる。

「な、何をおっしゃっていますの、ミスタ?」

「おぉ、すまんのぉ、歳を取るとどうもなぁ、ミス・サウスゴータ?いや、マチルダだったかのぉ?」

これを聞いたロングビルの笑顔はすでに凍りついてしまっている。

「わたくしはロ・ン・グ・ビ・ルですわ。そうですわね、ミスタ、アフターお受けいたしますので、外でしばらくお待ちくださいな。」

 

 店を出てしばらく歩くと宿につく。貴族御用達の高級宿などではない、宿帳もなく、鍵がフロントに無いなら『使用中』ということになる、かつての地球で言うところのモーテルの類いに近い。この宿は先の酒場と同じ経営であり、通りも酒場や宿に勤める者の下宿等で、女が飛んだり、客が無体を働いた場合はすぐに動けるようになっている。そんな宿に老人と若い婦人が入るのは誰が見ても『年甲斐もなく元気な爺と商売女』である。宿のフロントでは50を過ぎたくらいの女が受付をしていた。彼女は20年と少し前、先の酒場でナンバー1だった女であり、老いたといえど、どこか美しさを秘めている。

「お客さん、何号室?」

「一番良い部屋を頼む。」

オスマンはそう言いつつエキュー金貨を三枚出した。この宿は安い部屋、高い部屋、一番高い部屋の三種類あり、一番高い部屋は一部屋しかない。

「おや、そいつはありがとね、三階の一番奥だよ。新顔さん、頑張んなさいよ。」

と言いつつ受付の女は三階奥の部屋の鍵を渡し、二人は連れ立って三階に上がり奥の部屋に入る。

 三階奥の部屋は綺麗に掃除されており、調度品も高級品が使われ、部屋割りは広い寝室とリビングが一つになったような客室、奥には広いバスルームと、貴族御用達の高級宿に負けぬ内装となっている。なお、中級部屋とでもいうべき『高い部屋』は寝室に小さな洗い場のついた一般的な宿くらい、安い部屋は宿泊を前提としていない、洗い場と寝室が直結し、申し訳程度の仕切りがついただけの部屋である。ロングビルは部屋に入るとまずベッドを一瞥し、オスマンを導くように部屋に入る。

「少しばかり、先ほどのお話をうかがいたいのですが?」

「はて?何の話じゃったかのぉ?」

オスマンはわざとらしくとぼけ、ロングビルはこめかみに血管を浮き上がらせそうな形相で詰め寄る。

「わ・た・く・し・が、あの土くれのフーケだとかおっしゃった件ですわ!」

「ほぅ?なぜそこまで気にしておるのじゃ?」

「とんでもない勘違いですもの、かの怪盗が場末の酒場で働く女だなんて。」

「フォッフォッフォッ、まぁ結論を急くでない、順を追って話すとしよう。」

そう言ってオスマンがソファーに座り、ウェルカムドリンクであるワインを開けると、ロングビルはベッドに腰かける。

「こちらでよかろう?」

「いえ、最後はこのベッドを使いますわ、お構いなく。」

ロングビルの行動は不自然かつ礼を失するものだが、オスマンは咎めず話し始める。

 土くれのフーケ、ここ二年ほどハルケギニア中を騒がせている盗賊で、スクウェアに近い土のトライアングル・メイジである。ある時は巨大なゴーレムを錬成して建物を破壊し宝物を強奪、またある時は壁を錬金の魔法で泥にして侵入し盗み出すなど手口は様々、大胆、狡猾にして誰も傷付けず、姿も遠目で『ローブを羽織った正体不明のメイジ』としか知られていない。それだけならば異名がつくことはないだろうが、このフーケ、盗むものが決まって『正体不明のマジックアイテムらしきもの』なのだ。

「・・・といったことは存じておるな?」

「ええ、そのような者がどうしてこのような賎しい女だと?」

ロングビルはわざとらしく己を蔑むように言うと、オスマンは首を横に振る。

「お嬢さん、自分をそう卑下するものではない。

 まず、かのフーケは確かに証拠を残しておらぬが、犯人像を推察することはできる。プロファイリングという手法じゃ。」

「ぷろ・・・ふぁいりんぐ?」

トリステインには存在しないはずの言葉にロングビルは首をかしげる。

「まぁ、簡単に言えば犯罪者がどういった人物か割り出す手法じゃ。実際にフーケで導いてみようではないか。まずフーケがなぜ盗みを働いておるかじゃ。」

「犯罪に理由などありますの?」

ロングビルが一般論で答えると、オスマンはロングビルの予想に反し首肯した。

「それも一つの答えじゃ。まれにおるじゃろ?『それを盗んでどうしたかったのじゃ』と聞きたくなるような盗みを働く者がの。」

ロングビルはそれを聞いて、手グセの悪い先輩を思い浮かべた。その女はいつも店で働く者や客から盗みを働いているのだが、まれに金や財布を盗むことこそあるものの大抵はガラクタ、または買おうと思えば給金で買えるような安価なものばかり盗んでは怒られているのである。

「そういった者は『盗むこと』が目的の、一種の病じゃ。」

「なるほど、ではフーケもそうだと?」

ロングビルの問いにオスマンは首を横に振って否定する。

「いや、フーケは間違いなく一定の人間、そして物品を狙っておる、そこからして『窃盗病』ではない。」

フーケが盗んでいる『正体不明のマジックアイテムらしきもの』はいわゆる好事家でなければ収集しないものであるが、同時にそれらの物は一定しており、なおかつ貴族でなければ狙わない。金持ち商人が持っていても平民であれば狙わないのだ。

「まず、狙う人物は貴族ばかりというところから考えてみよう。なぜ、貴族ばかり狙うのじゃろうかね?」

「それは、平民を狙っても儲けが少ないからでは?」

「ならばどうして金を持つ平民を狙わない?貴族よりははるかに簡単であろうに。そして盗まれている物も問題じゃ。盗まれた品物は全て『由来のわからぬマジックアイテムらしきもの』で、好事家でもなければ見向きもしない物ばかりじゃ。そのように処分の難しい物ばかり盗んでおるのは『金目当て』ではない証左じゃろうな。」

少しずつオスマンはフーケがまとう『謎』というローブをはがしていく。

「フーケの目的の一つは窃盗によって被害者を辱しめるという『復讐』、貴族や王家に不当な扱いを受けた人物なのじゃろう。そして手口、誰も傷付けず目的の物だけ盗んでいくという手法じゃが、これは逆に考えてはどうじゃろう、『しない』のではなく、『できない』とな。」

「『しない』でなく『できない』?」

「いくら復讐とはいえ、他者を傷付けるのを嫌悪しておると考えれば説明がつく、おそらく若い女子じゃな。ここまでのプロファイリングをまとめると、フーケは不当に取り潰された貴族で、他者を傷付けることに対する禁忌の強さから元はかなり高い身分にいた、若い女と考えられる。この条件に当てはまる者は、実は一人しかおらぬ。」

この時、ロングビルの顔からは作り笑いすら消えていた。

「もう三年か四年になるかのぉ、アルビオンで起こった『王弟モード大公による弑逆未遂事件』。この事件の後、連座で取り潰されたサウスゴータ伯家、モード大公は家人に至るまでことごとく処刑され、サウスゴータ伯家も一人を残して処刑された。この時、行方をくらましたサウスゴータ令嬢、名をマチルダと言ったな、彼女こそ、フーケの正体だ。」

オスマンがそう言い切ると、ロングビルはベッドから立ちあがり、

「じゃあ何だい、百歩譲ってジイサンの言うとおりフーケがそのサウスゴータとやらの生き残りの姫様だったとして、何でアタイがその姫様やフーケってことになるんだよ!?」

と、激昂した。その様は名家の娘だなどとは到底思えない。

「フォッフォッ、マチルダ君、君の話し方にはアルビオン特有の訛りがある。」

「そりゃそうさ、アタイは生まれも育ちもアルビオンだからねぇ、サウスゴータの姫様やフーケ以外にそんなヤツ何人いるやら?」

「それで誤魔化したつもりかね?ワシにはわかる、普段から何人も貴族の子女を見ておるからの、どのような生まれ、育ちか見抜くなど造作もない。」

「そ、そんなこと言っても、け、結局のトコ、アンタの妄想じゃないかい!?証拠なんざどこにもないね!!」

「なら、君の人相書を手配してみようかの?おそらく今までの事件があった近くで何度も目撃され、はたまた家に入り込んでいたり、もしくは事件後行方をくらました、それもロングビルという名以外をいくつも名乗っていた・・・どう思われるかのぉ?」

この瞬間、ロングビルはスカートの後ろ腰にはさんで隠していた杖を抜こうとしたが、それは叶わなかった。

「(ッ!?無い!!!)」

「お探しの物はこれかね?」

オスマンは袖口からロングビルが抜こうとした杖を取り出した。部屋に入った時、彼女からスッていたのだ。その腕前は『Pickpocket.Rank4』といったところだろう。

「グッ!!」

ロングビルはすかさずベッドにダイブし、ベッド裏にある警報器を作動させようとした。この警報器は簡単に使用できるマジックアイテムで、客が無体を働こうとした時に気づかれぬよう作動させて『怖いお兄さん』を召喚するものだ。しかしこれまた機能せず、オスマンは好々爺といった風に笑う。

「いかんよ?切り札をあんなマジマジと見ていては。」

ロングビルが部屋に入ったとき、ベッドを一瞥していたのをオスマンは目ざとく見て、警報器に感づき、自らの使い魔であるネズミのモートソグニルにそれを破壊させたのだ。

「こ、このぉ!!」

まだ諦めないロングビルは扉を開けて飛び出そうとしたが、部屋の扉は固く閉ざされ開かない。入る時に掛けた鍵を外しても扉そのものが開かないのだ。コモン・マジックのロック、扉を閉ざす魔法であり、開くにはそれを解錠するコモン・マジック『アンロック』を使わねばならないがロングビルの杖はオスマンが持っている。

「どうした?もう終わりかね?」

ここは三階、杖がなく魔法を使えないロングビルが窓を破って外に出ようものならば複雑骨折は免れないし、窓にしてもすでに『固定化』の魔法をかけられて破ることもできないだろう。

「案ずるでないミス・マチルダ、別に君を衛兵に突き出そうとかそういうつもりはない。何、少し頼み事をな。」

オスマンがそう言うとロングビルは顔を真っ赤にする。何度も酒場に来ては指名され、正体まで見抜かれたのに衛兵に突き出すつもりはない、ならば脅迫するつもりなのだと考えたのだ。ロングビルの脳裏に様々なことがよぎる。これまで彼女は潜伏しながら新たな獲物を探すためどのような場所で働いていても体は許さなかった、かつて貴族であったプライドが許さなかったのである。しかし今、そのプライドを捨てねば彼女の目的を達することなく、本当にトリステインの衛兵に突き出されて最後は縛り首だ。

「グッ・・・うううぅぅぅっ・・・」

ロングビルは服を脱ぎ捨て、涙を流しながら下着姿になりオスマンの目の前に座り込むと彼に吐き捨てるように言う。

「煮るなり焼くなり好きにしなよ!!」

彼女も女だ、まだサウスゴータと名乗っていた頃も、名を失い、『義妹』と森に隠棲することになった頃も、ある一件からマチルダの名すら隠し『フーケ』となってからも、いくら可能性が0に近くても想うことはあった。いつか義妹を受け入れる者が現れ、彼女が自分の手を離れて幸せになったあとだとしても互いに愛し合い、過去と決別して幸せにしてくれる相手に出会うことを。それだというのに処断された両親よりも歳上の老人に愛人として飼われることになる。そうであっても今はオスマンの言うとおりにするしかない、たとえトラウマになるようなことを強要され、最悪子を産めない体にされたとしても、目的を達するためには仕方がないのだ。

 だが、そんな覚悟をしたロングビルを、オスマンは鼻の下を伸ばすでなく、むしろ呆れ顔で見下ろしていた。

「何を勘違いしておるのじゃ?」

そう言ってオスマンは自分が来ていたローブをロングビルに頭から被せた。

「え?」

混乱するロングビルにオスマンは続ける。

「愛人になれとでも言うと思うたか?馬鹿なことを、歳を考えよ。勃たんなって何年になったと思うとるんじゃ?」

あまりに予想外のことばかり起こるためロングビルは混乱しながらローブで身体を隠して服を着なおしたのであった。

 

 あらためてロングビルことマチルダは椅子に、オスマンはソファに座り、向かい合って話し合う。

「単刀直入に頼む、ミス・マチルダ、君のメイジとしての腕を借りたい。」

「聞いてもいいかい?何でアタイなんだ?アンタはあの魔法学院の学院長だろ、そんならいくらでも、それこそアタイなんかよりよっぽど腕の立つメイジなんかいくらでも知ってんだろうに?そもそも、何をさせようってんだい?」

マチルダは次々に質問する。

「まあ落ち着きたまえ、順を追って話すとしよう。まず頼みたい仕事なのじゃが、当学院では二年に進級する生徒が使い魔を召喚する儀式を執り行う慣わしがあり、それを半年後に控えておる。君にはその場に立ち会ってもらいたい。」

使い魔召喚の話を聞いたマチルダはピクッと眉を動かして身を乗り出した。

「その生徒の中に、奇妙な魔法を使う生徒はいないかい?エルフの先住魔法とも、系統魔法ともつかない・・・こう、記憶を消しちまう魔法みたいなのをさ。」

「そういったものもあるのか?まあそれはいい、似たようなところじゃがその子達はどんな魔法を唱えても爆発させてしまうのじゃ。火、水、土、風の複合魔法を使った時のようにな。」

「達ってことは二人以上かい?」

「ああ、二人じゃ。君もある程度は知っておるようじゃし、少し昔の話をしよう。わしがまだトリステイン魔法学院の教師になったばかりのころじゃった。」

オスマンはそう言って昔話を始めた。

 

 時を遡ること60年ほど前、オスマンが受け持っていた学年にルイズやジョゼットと同じような生徒がいた。どんな魔法を唱えてもジョゼットのような小さい爆発を起こすだけの男子生徒で、家柄も低く、自らの実力以外に頼るもののなかった彼は、ルイズとは違う方向であるが努力を惜しまず、座学のみは首席という生徒であった。彼は『いつか魔法が使えるようになったらトリステインの役に立ちたい』と、オスマンにいつも話していた。どれだけ蔑まれてもたゆまぬ努力を続けていた彼を待ち受けていたのは、使い魔召喚の儀式で起こった悪夢であった。幾度もサモン・サーヴァントを爆発させては笑い者になっていた彼がひときわ大きな爆発を起こした時、彼がいた場所には恐ろしい生物が座り込んでいた。

 ハルケギニアに存在する生物の中ではドラゴンに近かったが、その身体は火龍山脈のヌシと言っても差し支えないほどの巨躯、ウロコはハルケギニアでは作り出せないような高温の炎をくぐり抜けて来たかのような黒褐色、鋭い牙と爪、何よりも恐ろしいのは血に餓えたとしか形容のしようがない双眸であった。召喚主であったはずの生徒の姿はなく、束縛する者のいない黒いドラゴンに、先に召喚されていた者達の使い魔は皆、威嚇の鳴き声もあげられずに身体を縮こまらせ、尾を巻き怯えることしかできないでいた。

「う、うわあああぁぁぁ!!バ、バ、バケモノオオオォォォ!!!」

生徒の一人が悲鳴をあげ、恐怖が伝染していき、広場は恐慌状態に陥った。その時、召喚された使い魔には、火龍山脈に棲息する火龍や、風龍渓谷に棲息する風龍の成体もおり、火龍を召喚した生徒は果敢にも怯える火龍を叱咤し跨がると黒いドラゴンに向かっていった。

「この、この、このおおおぉぉぉ!!!」

彼は火のトライアングルメイジであり、彼が持ちうる最大火力に火龍のブレスも上乗せして黒いドラゴンに叩きつけたが黒いドラゴンはそれを尾の一凪ぎでかき消し、魔法学院を囲む城壁を蹴って高くジャンプすると生徒ごと火龍に噛みつこうとした。その瞬間、火龍は生徒を振り落とし生徒は間一髪牙を逃れたが哀れな火龍は黒いドラゴンの餌食となってしまった。

「ひ、ひいいぃぃぃ!!!」

風龍を召喚した生徒は風龍に乗ると一目散に逃げ出したのだが、それが黒いドラゴンの現れた瞬間であれば正解であった。しかし間を置いてしまってからでは、正解となる選択肢そのものがなくなってしまっていたのである。

『グオオオオォォォ!!!』

雄叫びと共に黒いドラゴンは捕食していた火龍を風龍に向かって投げ、速度の出る前であった風龍に直撃し、生徒は投げ出されたもののフライの魔法で受け身を取れたが風龍は墜落し首の骨を折って絶命した。これらは生徒達の恐慌状態にさらなる拍車をかけ、彼らは貴族の子女たる誇りすらかなぐり捨て、我先にと逃げ出してしまい、恐怖からフライの魔法すら使えず、ただ広場からの出入り口へ殺到してはそれを詰まらせてしまった。逃げ出さなかったのは新人たれど教師であったオスマン、正確には逃げ出せなかったのだが、行方不明となった生徒の友人であり、放心状態となった後の魔法学院教師ギトー、負傷して動けなかった先の火龍、風龍を召喚した二人だ。どちらにしてもオスマンは生徒達のため逃げるつもりなどなく、仮に自分の命と引き換えとなっても生徒達を守ろうと黒いドラゴンに立ち向かったのであった。

 

「当時、すでにわしは水のスクウェアじゃった。にも関わらず、あの黒いドラゴンはわしのあらゆる魔法をものともせんでの、わしそっくりに作った氷像を囮にして学院から追い払うのが関の山じゃった。見たまえ、ヤツにやられた傷痕じゃ。」

オスマンは自分の右肩をマチルダに見せる。そこにあった傷痕はドラゴンの爪痕に似ているが、明らかに大きい。オスマンが水のスクウェア・メイジで、すぐに自分の治療ができたという好条件がなければまず、致命傷になっていたであろうものだ。

「にわかには信じらんないけど、その黒いドラゴンってのがまた出るかもしんないからアタイにどうにかするの、手伝ってくれってこと?」

「それが一つ、もう一つは召喚した生徒がゲートに引き込まれぬよう止めてほしいというものだ。」

「ゲートに?引き込まれた!?」

これにマチルダは驚き身を乗り出す。

「・・・やはり、心当たりがあるんじゃな?」

オスマンがマチルダにこの依頼を持ってきた理由の一つは、マチルダは60年前の召喚事故に似たような事例を知っている可能性が高いというものである。それは盗んだ『マジックアイテムらしきもの』が全て、巷で『場違いの工芸品』と呼ばれる、どうやって作ったか、物によってはハルケギニアの魔法ですら作ることができない、それだけならばまだしも使い方もわからない物ばかりだからだ。たとえば火打石銃に似ているが、銃口が大きすぎる、または小さすぎて鉛玉を入れられない、無理に火薬と一緒に押し込んだとしても火打石の着火機構がない物、はたまた三本足のタコのような金属ゴーレムらしき物などエトセトラ。これらは一説によると『異世界からの漂着物では?』と噂されている。少なくともオスマンが60年前に遭遇した黒いドラゴンはハルケギニアに生息するものではない、マチルダも同じものを見たのだとすれば『場違いの工芸品』に手がかりを求めても不思議ではない。そしてこの推測は的中していたのだ。

「ああ、実はさ、アタイの妹がさっき話した『記憶を消す』魔法を使ってたんだ、いろいろ魔法を試させてもそれしかできなくてね、最後に使わせたのが、『サモン・サーヴァント』。結果はアンタの教え子と同じ、消えちまった。

 その代わりいたのが・・・まぁ、その黒いドラゴンじゃなくてよかったよ、肌が焼けただれたネズミみたいので、アタイに襲いかかってきたから咄嗟に殺っちまったんだ。」

「焼けただれたネズミか・・・このようなのか?」

オスマンは水魔法で氷の板を作るとその表面を刻み、ハルケギニアにいるはずのない生物、モールラットを描いた。

「ウソ・・・どうして!?」

「他にも、黒いドラゴン、デスクローと呼ばれておるそうじゃ、マイアラーク、蜂に似た習性を持つ化け蟹、スーパーミュータント、高い知能を持つオーク鬼・・・」

オスマンは氷板にデスクロー、マイアラーク、スーパーミュータントを描く。

「な、何なんだい、ジイさん!?アンタ、何を知ってるってんだ!?」

「それを包み隠さず話すということと、フーケの存在を忘れることが報酬じゃ。」

「クソッ、あと少しだってのに・・・じゃあ、何でアタイなんだい?」

マチルダはオスマンが自分に頼る理由を尋ねた。些細なことに思えるが重要である。必要もないのに頼むというのはとんでもない下心を隠し持っている可能性があるからだ。

「それはの、君が信仰を捨てておるからじゃ。」

「・・・何もかもお見通しってわけかい?」

「ああ、君の『義妹』、モード大公の落胤じゃろ?そしてその娘はエルフとのハーフ。ああ、安心したまえ、わしも60年前のあの日、信仰なぞ犬にエサとしてくれてやったからの。」

オスマンはマチルダに目をつけた際、モード大公の反乱に遡って調べていた。アルビオン王弟モード大公は特に野心家というわけではなく、アルビオン王に特筆するような政治的失点もなければ『殺らねば殺られる』というほど兄弟関係が悪化していたわけでもない。そして連座された、つまり反乱に協力しようとしたのが腹臣とはいえサウスゴータ伯家だけというのもおかしな話だ、計画があまりに杜撰すぎる。そこで『とある筋』に依頼して調査したところ、城に出入りしていたエルフの女の姿が浮上したのだ。これをもってオスマンは事件の真相に辿り着いたのである。

『大公は不倶戴天の敵であるエルフを愛妾としていた。露見すればアルビオンそのものが異端として糾弾されてしまうのを恐れ、モード大公にありもしない弑逆、反乱の罪を着せて処断した。サウスゴータはその母子を匿ったため連座された。』

というものだ。ブリミルを信仰する者達からすれば当然だろうが、愛した女を堂々と妻にすることができなかったモード大公やその母子を匿ったというだけで一族郎党皆殺しに遭ったマチルダからすればたまったものではない、信仰を捨てて当たり前だ。

「確証には至っておらぬが、わしが此度やろうとしておることは神の腹を裂く行為に等しいじゃろう。信仰を持つ者には頼めぬのじゃ。」

「なあ、報酬に関わらないなら教えてくれないかい?テファ・・・いや、あの娘やアンタの教え子達は何だってんだい?」

マチルダがそう尋ねるとオスマンは重々しく答えた。

「君の義妹、そしてわしの生徒達は・・・かのブリミルが使っておったという系統、虚無の使い手じゃ。」

万一、これを教会やロマリアの者に聞かれていればオスマンは間違いなく火炙りになることを口にした。そんな彼を見ていたマチルダはむしろ面白そうに笑ったのであった。

「フフッ、これはとんだ皮肉だねぇ、仮にも不倶戴天の敵だったはずのエルフの血を引いてるテファが虚無だなんて!」

「そうは言うがな、これまでも表沙汰になっておらぬだけで幾度も虚無は生まれておるようじゃぞ?」

「あぁ、わかるよ。ブリミルだって人間さ、同じ虚無が生まれても不思議はないって。

 よし、ジイさん、乗ったよその話!終わったら全部、話してもらうよ?」

「ああ、この命に代えてもな。」

「何言ってんだよ?話すだけで命がけか?」

「フォッフォッ、まぁ・・・の。」

マチルダはこの言葉の意味を半年後、召喚の儀式前の準備の時に知ることとなった。

 

 半年後、トリステイン魔法学院宝物庫前に一人の老人と二人の若い女が立っていた。老人はオスマン、女のうち一人はマチルダである。彼女はあの後、オスマンに身受けされる形で酒場を辞め、今は魔法学院の臨時講師兼学院長秘書として働く身だ。貴族子弟の多い魔法学院で素性がバレてはいけないので名は『ロングビル』と名乗り続けている。

「・・・『開門』。」

鍵を開け、小さな声でオスマンが魔法を唱えると、何重にも固定化をかけられた宝物庫の扉が開き、中に陳列された物が開門と共に自動で点灯するマジックアイテムのランプに照らされると、マチルダはそれを見て驚く。

「・・・すごい、どうしてこんなにたくさんの『場違いな工芸品』が?」

「いつ、あのデスクローが現れても大丈夫なように集めておったのじゃ。シエスタ君、これだけあれば大丈夫かね?」

シエスタと呼ばれたのはもう一人の方の若い女であった。年の頃は魔法学院生徒と同年代である彼女はエプロンドレスを着た、学院で働くメイドの一人である。

「・・・学院長、ハッパ、よろしいでしょうか?」

「ハッパ?」

マチルダは聞き慣れぬ言葉にシエスタを怪訝な目で見る。

「おぉ、そうじゃったの、シエスタ君はアレが無いといかんかったな、構わぬよ。」

オスマンがそう言って許可を出すとシエスタは嬉しそうにポケットからタバコを吸うパイプのマウスピースを取り出した。

「ちょっとこんな狭いところで・・・」

マチルダは副流煙を吸うのを嫌い、シエスタから離れるとシエスタはマウスピースをくわえてその先に白い紙の筒を取り付けた。ハルケギニアの貴族では一般的でない、いわゆる『紙巻きタバコ』で、これはシエスタの故郷であるタルブ自治領で作られた品だ。貴族が吸うタバコは、オスマンが愛用する水タバコ、パイプを使うタバコ、そして葉巻が一般的で、それらは平民が簡単に手を出せる代物ではないが、タルブの紙巻きタバコは安価で、火をつけるためのマッチ、ライターという道具も同時に売っており、平民はこぞってこれを買いたがるのだ。シエスタは四角い金属のライター、いわゆる『ジッポ』で火をつけようとするが、オイル切れなのか火がつかない。このライターも最初の頃は『平民が火の魔法を使った』と驚かれていたもので、オスマンは若い頃実際にそう言ってしまったことがある。

「ああ、これを使いたまえ。」

オスマンはシエスタにコモンマジックで起こした小さな火を貸し、シエスタは

「お心遣い、痛み入ります。」

と感謝しその火を借りてタバコに火をつけた。

「すううぅぅ・・・ぷはー。」

タバコを吸ったシエスタは少しすると端から見ているマチルダにもわかるほど雰囲気が変化していく。

「カアアアアアァァァァァッッッッッ!!!!!ハッパはいいねぇ、ハイんなるわあああぁぁぁ!!!」

この変化を見たマチルダはオスマンにそれとなく寄り添い、シエスタの豹変について尋ねる。

「学院長、彼女が吸っていたの、まさか・・・」

「その『まさか』で間違いはない。」

先ほどの瀟洒な様子など州まで吹き飛んでしまったようなシエスタはオスマンを火のついたタバコで指す。

「なぁ、ジジィよぉ、こんなカビくせぇとこでウチらとファ○クしようってわけじゃねぇよな?」

「フォッフォッ、そんなことしたらわしはまだしも、学院の大事な秘書が変な病気もらって鼻モゲになってしまうじゃろ?」

「ケッ、言いやがるぜ、このクソジジィ!」

手慣れた様子で言い返すオスマンにマチルダは呆れながら尋ねる。

「どうしてこんなヤク中雇ったんですか?」

「好きで置いとるわけではなくての。」

このシエスタはマチルダがオスマンに連れられて学院に来た頃にはすでに一年以上働いていた。ルイズやジョゼットの入学前から働いているのだから召喚の儀式対策で連れてきたわけではない。

「おっとジジィ、命は惜しいだろ?その話するのはナシだぜ?」

「残念ながら、惜しくはないのぉ。」

思考が追い付かないマチルダに関わることなく言い合う二人であったが、オスマンの一言にシエスタはオスマンの胸ぐらをつかんで睨み付ける。

「どういうこった、コラ?」

「召喚の儀式、もし上手くいけばわしは彼女に『タルブの秘密』に関わる話をしようと思っておる。」

「ほぉ、死にてぇって聞こえたけど気のせいだよな?」

「ちょっと、アンタやめなよ?相手はジイさんでしょうが!?」

不穏な空気にマチルダが仲裁に入るがオスマンは言葉を止めない。

「殺してくれても一向に構わん、その代わり秘密の守り手を彼女にしたい。彼女はその一部に感付いておっての、老い先短いジジィより彼女を守り手にするのがよかろう?」

と、好々爺然として言ったオスマンに、シエスタは失笑する。

「プッ、ジジィのそーいうマッドなとこ、本当に好きだわ!わかった、ちっとナシつけてみるわ。・・・あぁ、もしもし?ウチ、シエスタだけど・・・」

シエスタは左腕に着けた腕輪のような物に話しかけ、それを怪訝な目で見るマチルダにオスマンが簡単に説明する。

「伝書フクロウのようなものじゃよ、届けるのは互いの声というな。」

 

『・・・話はわかった、タルブにとっても重要になるやもしれん、ただし全てを明かすには一度その守り手候補を連れて来て秘密を守れる人間かテストしてからだ。オスマン氏の処遇はその後、決定する。』

「あんがと、サキョー。ウチもこのジジィ気に入ってっからさ、処分するのは気が引けるんだよ。」

話がついたシエスタは腕輪・・・Pip-Boyの通信を切り、オスマンとマチルダに向き合う。

「話は保留だってよ、まぁテストなんざ簡単なもんさ、ネーチャン。」

「あぁ、シエスタだっけな?ずいぶん雰囲気が変わるもんだね?」

マチルダは少々気後れしながらシエスタと話す。

「普段のアレ、肩がこってワリィわ!ネーチャンもどうだい?イッちまったみてぇにトべるタルブ産のハッパ、そこのジジィの夜の相手も大変だろ?」

「遠慮するよ、それにアタイは別に学院長の愛人なんかじゃないからね。」

「ほぉ、こんな美人に手ぇ出さねぇとか、インポってウワサはホントみてぇだな?」

マチルダも泥棒稼業の副業で働いていた店でいろんな女を見たが、ここまで下品な者には会ったことがない。

「・・・ハハァ、ネーチャン、その歳で男、知らねぇってか?」

マチルダを覗きこむシエスタがそう言うとマチルダは顔を真っ赤にしてシエスタを突き放す。

「ちょっといい加減にしなよ!」

「カワイイねぇ、今晩、ウチとどうだい?」

マチルダのあごを捕まえ、唇を奪う真似をするシエスタに辟易したマチルダは涙声でオスマンに助けを求めた。

「が、学院長!!」

「シエスタ君、その辺にしたまえ。宝物庫の『場違いの工芸品』、使えるものはどれだけある?」

オスマンは『ハッパ』で本能むき出しのシエスタに呆れながら仕事を促す。

「ホイホイ、本業は忘れちゃいませんぜ。ほぉ、コイツはいい!ミニガンにショットガン、おぉ!ヌカランチャー!!30年前にサキョーが使ったのってコレか!?弾は・・・」

「シエスタ君、その『ぬからんちゃー』とやらはやめてくれんかの?学院がどうなるかわかったものでないし、何より未来ある若者がここにはたくさんおる、何かあっては取り返しがつかん。」

「・・・チッ、わぁったよ、久しぶりに撃ってみたかったのに・・・」

シエスタは不満をこぼしながらヌカランチャーを元あった場所に戻した。

「学院長、場違いの工芸品ってやっぱり武器だったのかい?」

「予想はしておったかの、大部分はそのとおりじゃ。しかしこれらを使えるのはタルブの者だけじゃ。」

「ジジィ、聞こえてるからな、その辺にしとけよ。」

シエスタは場違いの工芸品を調べながらもオスマンとマチルダの話に聞き耳を立てていた。

「わかっておるわ、そちらも約を忘れるでないぞ!」

 

 そんな準備を終えて一週間、召喚の儀式の日を迎えた。マチルダは学年主任のコルベール先生補佐という名目で儀式に立ち会い、オスマンとシエスタはいつでも出られるよう、広場のすぐ外で待機する。

「あぁ、ベルダンディ、なんと可愛らしいのやら!」

巨大なモグラ、ジャイアントモールを召喚した男子生徒が中々下がらず、コルベール先生に引きずられるようにして下がらせられる。コルベール先生は細い身体、本人が言うには剃髪しているという髪の無い頭といった見た目とは裏腹に中々力持ちで、合計すれば100キロにはなろう男子生徒とジャイアントモールを一人で担ぎ上げて下がらせた。

「せんせ~、残りはゼロのルイズと能無しジョゼットでしょ~?」

「もう終わりじゃないですか~?」

小太りの男子生徒とかつてジョゼットの姉シャルロットといざこざを起こした男子生徒がからかいの声をあげると、コルベール先生は普段と違う雰囲気で二人を睨む。

「あと二人、まだ終わっておりません、静かに待ちなさい。」

そんなコルベール先生にしり込みした男子生徒は、いつの間にか背後に立っていた二人の女子生徒に気付かずぶつかる。

「ヴァリエールはまだしも、可愛いジョゼットが何ですって?」

「ひっ!?」

一人はツェルプストー、火のトライアングル・メイジにして、二つ名は『微熱』されどその高温は何であろうと焼き尽くすと言われる、ルイズとは犬猿の仲である女子だ。しかし本当にどうでもいいのであればいちいち名前を出しはしないだろう。好きの反対は嫌いではなく無関心と言うが、彼女は何かとルイズを気にかけている。

「妹達に言いたいことがあるなら聞くよ?」

もう一人はジョゼットの姉にして北方の雄、魔法工学の先進国たるガリア王国王女シャルロット。『雪風』の二つ名を持つ彼女はツェルプストーと対等にして対極の魔法を操る。本来ならば仲がよくなるはずもない二人だが、何があったのかは別の機会に話すこととしよう。

「いや、別に何でも、ハハハ・・・」

乾いた笑いを残して男子生徒二人は逃げていく。

「キュルケ・・・ルイズ、大丈夫かな?」

シャルロットが少し不安そうにツェルプストー・・・キュルケのマントの裾を引っ張り尋ねる。

「大丈夫よ!あれだけやってるヴァリエールが召喚出来ずに留年とかなったらロマリアだろうと殴り込み行くわよ。」

冗談めかして答えるキュルケの顔には不安の欠片も無い。ルイズとジョゼットが必ず成功すると確信しているのだ。

「ミス・ヴァリエール!」

「ハイ!」

ルイズが広場の中央に立ち、アレンジが加わった呪文を唱えると大爆発が起こる。しかしその爆発の瞬間、前知識のあるマチルダは爆風に逆らいルイズの手をつかんだ。

「悪いけど、行かせないよ!これが何なのかわかれば、テファを迎えに行けるかもしれないんだからね!!」

ルイズの手をつかんだマチルダはルイズが作り出した巨大な召喚ゲートに驚くと共に、ルイズがゲートに自然落下しそうになっているのではなく、ゲートに強い力で引き寄せられていると理解する。

「こちとら・・・負け、らんないんだよ!!」

コルベール先生は爆風にはね飛ばされていたため助力は期待できず、マチルダ一人の力でルイズをつかまえていた。

「(ッ!?なっ!?)」

しかし力比べはある物に気を取られたことでマチルダの敗北に終わった。召喚ゲートから黒い大きなドラゴンが出てきて、それに気取られたことでマチルダはルイズと共に召喚ゲートに引き込まれてしまったのだ。

「うわあああぁぁぁ・・・!!!」

マチルダの悲鳴が少しずつ小さくなりゲートが閉じたことでハルケギニアでは聞こえなくなった。

「シエスタ君、どうだ!?」

広場を覗いていたオスマンは奇妙な眼鏡を着けたシエスタにそう尋ねる。彼女は例のタバコを吸うと本能が抑えられないため、召喚が終わるまでは吸わないようにしていたのだ。

「・・・残念ながら、ミス・マチルダごと引き込まれた模様です。」

「ダメか・・・して、召喚されたのは?」

「V.A.T.S起動・・・そんな、こんなことって・・・」

シエスタはV.A.T.Sによる索敵を行い、召喚したものが何かを知ると手に持っていたライターと口にくわえていた『ハッパ』を驚きのあまり取り落としながら、眼鏡・・・サーモグラフィを外した。

 

 一方、広場には嘲笑が溢れコルベール先生は服に着いた土ぼこりを払い落としながら立ち上がると姿の見えないルイズとマチルダに呼び掛ける。

「ミス・ヴァリエール、ミス・ロングビル!ご無事ですか!?」

返事はなく、土煙の向こうに黒い大きな影がコルベール先生の目に映る。

 それとは別に、嘲笑の中で怒りを燃やすキュルケは自分が召喚したサラマンダーの様子がおかしいのに気付く。

「こいつらは・・・あら?どうしたのかしら?」

『キュル・・・キュルキュル・・・』

尾を丸め、不安そうに鳴くサラマンダー、そして隣にいたシャルロットはいつの間にかいなくなっており、周囲を見回すとジョゼットの手を引いて戻ってきていた。

「乗って、キュルケ、サラマンダー(その子)も一緒に!!」

血相を変えるとはまさに今のシャルロットのことだ。彼女は説明もせず、自分の召喚した風龍の仔の背中に乗るよう促す。双子の『勘』からかジョゼットはシャルロットの言うとおり彼女の背中に抱きつくように乗り、キュルケも戸惑いながらサラマンダーを風龍の背に乗せ、それを確認するとシャルロットは風龍を空に飛び立たせた。

「ねえ、説明くらいしてよ!」

キュルケがそう叫ぶが、シャルロットはそのような余裕もなく、ひたすら高く風龍を飛ばす。

「・・・ね、ねえ、お姉ちゃん、キュルケちゃん、何、あれ?」

恐る恐るといった風に、ジョゼットは召喚の儀式を執り行っていた広場を指差す。それをキュルケも目で追い、ジョゼットが何を差しているか、そしてサラマンダーがなぜ怯えていたのか理解した。シャルロットも風龍の様子でルイズが召喚したであろう『バケモノ』に気がつき、キュルケとジョゼットを連れて逃げたのだ。

 

 土煙が風で飛ばされ、ルイズがいた場所にたたずむ『バケモノ』が衆目にさらされる。『メイジを見るにはまず使い魔を見よ』という格言があるが、それに従うならばルイズがその場にいたならば将来の大魔法使いと呼ばれたかもしれない。しかしその場にいないのであれば、猛獣を首輪も着けずに放したに等しい。

 

「う、うわあああぁぁぁ!!!???な、何だあのドラゴン!!!???」

「ルイズのヤツどこだ!?」

「ミス・ロングビルもいないぞ!?」

広場が恐慌状態に陥るも、『バケモノ』は60年前のデスクローと違い、悠然とその様を見下ろしていた。自らに自信を持つ『彼』は、獲物がどれだけ恐れ、逃げ惑おうと動揺したりしないのである。

 

 ルイズと入れ替わりにハルケギニアに解き放たれたのは『サヴェージ・デスクロー』。かの悪名高きデスクローの上位種であったのだ。

 

 




シエスタがまさかのヤク中、原作での酒癖悪さをポストアポカリプス風味にしたらこんなカオスなことに・・・そしてオールド=オスマン、あんた何者だよ?

さて、ここで用語解説というより原作との変更点ですね。

オールド=オスマン(80代)
トリステイン魔法学院の学院長、原作ではただのセクハラジジイでしたが、本作では新任教師だったころ、行方不明になった生徒のことがきっかけで虚無を追う男になっております。その結果、『誰だお前!?』状態です。一応、年齢は20代の頃召喚事故に遭遇、それから60年経過で80代としております。正直どれだけ調べても系統そのものがわからなかったので、話の都合も込みで水のスクウェア・メイジとしました。

タルブ自治領
シエスタの故郷。原作ではただの農村でしたが本作ではメイジによる貴族統治世界において平民による自治がなされております。表向きはタバコや酒などの農業加工品を主要生産物としている地方ですが、きな臭い話が絶えない場所でもあります。

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