ZERO-OUT   作:Yーミタカ

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連続投稿二話目、虚無と系統魔法の関係ですが、以前友人と話してて出た設定を使いました。
わかりやすくていいかと思ったんですがその設定自体、アニメ2期、原作七巻だったかまでの情報で作ってますので矛盾あるかもです。


第十話 虚無と魔法

 城郭街、寧夢の別邸にてルイズは寧夢と共に地下室に降りた。

寧夢宅の地下室はジョーイ宅のように分かりやすい直通エレベーターなどでなく、草の床・・・畳の下に隠された、これまた寧夢の声で開く蓋のような扉の下に梯子で降りるようになっている。

「今さらだけどさ、何でどこもここも地下室あるの?」

「昔の戦争ん時の防空壕よ。多少なら核攻撃にも耐えらるんね。」

ルイズの疑問に寧夢はそう答える。

寧夢が多少ならと言ったのは、最終戦争のような全面核戦争となるとさすがに耐えきれず、崩落したり亀裂が入って放射能が流れ込んだり、外に出られるようになるまで耐えられるほどの備蓄が出来ない仕様だったりしたからで、寧夢の地下室は崩落していたものを修復したものだ。

その際出てきた人骨は当然、『丁重に』葬っている。

余談であるが、ジョーイ宅のものは最初から問題なかった、つまり戦争中逃げ込んだ者は奇跡的に生き延びることができた、いわゆる『当たり』の建物だ。

ここに降りた理由は二つある。

一つはジョーイからもらったホロテープ解析のため、もう一つは・・・

「早苗、こっち出る前に市長はんから『貰った』布、あったやろ?あれでルイズはんに服と下着、作ったろ。」

『は~い、了解しました~!

 では、ルイズさま、お召し物を失礼しますね~』

「え?ネム?いいわよ、帰ってからで、それにサナエ?何かそのハサミとか手?とかやらしいんだけど!?」

早苗は物を掴む用のハサミとマジックハンドを開閉し、その様が指をワキワキと動かしているようにも見える。

「約束しちょったやろ、今日明日で作るっちさ。

 それにホロテープから書き出すにも時間かかるけんその間に作ってまうわ。

 じゃ、そんなワケで・・・観念しぃ~!」

「いやぁ!!」

寧夢もふざけながら早苗と共にルイズの服を脱がせ、早苗はショーツ一枚になったルイズの身体をテキパキと採寸していく。

 

「うぅ・・・汚された・・・」

脱がされたメイド服を着ながらルイズは誤解を生みかねないことを口にする。

「念のためやけどウチ、そっちの気は無いけんね?」

「知ってるわよ、だってサイトと・・・」

ルイズは言いかけて口ごもる。

「ん?才人がどないしたん?」

「・・・何でもない。」

と、ごまかしたルイズの元に、早苗が布を持った来た。

そして寧夢は早苗が投影したルイズの立体モデルに、三種類の服を着せていく。

一つはルイズが着ていた魔法学院の制服を元にサバイバル仕様にしたものだ。

太ももを露出するような短いミニスカートなど州で身に付けるのは『そういった仕事』に従事する女か、一部ジョーイのように事務仕事、接客を業とする者くらいなもので、荒野を行く者や農工業に従事する女は長ズボンか、足を保護するスパッツを履く。

寧夢の場合はメイド服の下にスパッツだ。

制服を元にしたものはそのあたりを考慮し、スカートはスパッツの飾りにし、防弾繊維のマントには小振りなアサルトライフル『カービン銃』や、サブマシンガン一挺くらいならば分解して、拳銃ならば二挺を目立たずに隠し持てるよう細工が施されている。

飾りスカートの中には長さ5メートル、耐荷重10トンの特殊ワイヤーが仕込まれ、ベルトのバックルにはナイフとフックになるガジェットが隠され、それらを扱うためのハーフフィンガーグローブを身に付ける。

ブラウスは一見変化が無いが、防刃、防炎仕様になっている。

二つ目は黒光りする全身タイツのような物で、ルイズは少し笑いそうになる。

「あ、ルイズはん笑いよんけど、これ、すごいんよ?」

寧夢はその全身タイツのような服のスペックを説明する。

全身タイツ・・・キャットスーツはステルスボーイを応用した光学迷彩服で、光学迷彩連続使用時間は驚異の一時間、徹底的に静音を意識した加工を施した表面は防弾、裏地は防刃繊維となっている。

しかし顔など露出した部分は熱源探知に反応してしまうこと、持続時間が長くなった代わりに適用範囲が狭くなり、拳銃すら持てないため武器は袖に仕込まれた小さな矢を放つ単発式ダーツガン、注射器を打ち出すシリンジャーガン、生物であれば切断可能な『見えざる刃』とでも言うべきワイヤーブレード、ナイフ、ルイズの場合は杖くらいに武装が制限されてしまう。

そして三枚目は、ある意味でルイズにとってもっとも使い慣れた武器とも言えるものである。

「これドレスよね?」

「そうや、ウチもフォーマルスーツ一着持っちゅうんやけど、偉いさん相手には一番の武器やね。

 スーツがええかなって思ったちゃけど、ルイズはんやったらドレス映えするやろなってね。」

「これ、素敵よ!

 でも、スカートは前をもう少し短めにして、その方がバランスよくなるわ。

 それと布は・・・これ、この薄桃色のヤツがいい!」

「おっけ!それじゃ早苗、生地をお願いね、下着は任せるわ。」

『了解で~す!』

早苗は布を手早くカットしていき、まずは服に使う布を寧夢に渡した。

「ほんじゃ、書き出しかかろうかね。」

「書き出しって、さっき目に映ったのを全部書き写すの?」

「まさか!とりあえずさっきのホロテープ、握ってて。

 そのままコレのここんとこ、手ぇ近付けてな。」

寧夢の指示に従い、ルイズはたくさんのボタンがついた、黒い大きな『窓』の下にあるネジのような部分に手をかざす。

同時に寧夢はボタンの一つを押し、黒い窓が淡い光を放ち、三頭身くらいの小太りな男が窓に映って親指を立て、最後に窓には下に小さな文字が書かれた四角い絵が無数に並ぶ。

「不明なデバイス許可、ホロテープ書き出し、保管場所は・・・『戦前資料』フォルダに『ブリムルデータ』フォルダ新規作成でええかね。」

寧夢は義手をルイズが手をかざしているネジとは別のネジにコードでつなぎ、ルイズには先住魔法の詠唱にしか聞こえない言葉を呟きながらボタン、そして義手に触ると窓が目まぐるしく映像を変え、最後には横向きの試験管のような絵に、左から水が満たされるような絵になった。

「このバーが消えるまでそんままにしちょってね。」

と言うと寧夢は義手をネジから外して、先ほど早苗から渡された布、そして糸と針を両手に一つずつ持つ。

ふとルイズは早苗を見ると、早苗は三本の腕を器用に使って、鉄床ないしまな板のような台の上に布を滑らせ、大きな取手のようなものの下を通している。

よく見ると、取手からものすごいスピードで針が出し入れされ、布を縫っているのである。

「ねえ、ネム?サナエが使ってるのを使った方が早くない?」

ルイズはふと思った疑問を寧夢に尋ねると寧夢は二本の針を使った手縫いを止めずに答える。

「早いっちゃ早いよ。けんどね、丈夫に縫おう思たらやっぱこっちがええんよ。」

そう言った寧夢の縫い方は二本の針で糸を絡めるようにしながら縫うもので、やっていることは早苗が使っている業務用ミシンと大差ない。

しかしミシンは糸を絡めているだけなので、二本の糸のうちどちらかが切れたりするともう一本も外れてしまう。

これに対して寧夢の縫い方は絡めると同時に二本の糸が独立して布を縫っているので、片方切れても、もう一本は残るのである。

複雑な縫い方であるが、寧夢の手つきはルイズの実家、ヴァリエール家付きの仕立て屋、針子の誰よりも丁寧で早い。

それも寧夢は片腕が義手だ、工具にはなっても細かい作業に不便であるのは間違いない。

縫っていたものが早苗の方が小さいというのもあって、さすがに早苗のミシンには負けたが、複雑な縫い方で三枚の服を、寧夢が言った窓の中の『バーが消える』前に完成させてしまった。

バーが消え、寧夢から手を離してもいいと言われて完成品を受け取ったルイズは、その出来映えにも驚く。

まず普段使いの制服を元にした服は早苗が縫ったミシンによるものと遜色無いほど綺麗に揃えられた、機械のような規則正しい縫い目、そしてルイズにも見覚えのある縫い方であった。

「(この縫い方・・・馬の鞍とか手綱の縫い方じゃない?)」

寧夢の縫い方は馬具の縫い方と同じなのだ。

寧夢はかつて、皮革材料として戦前の鞄を解体しようとしたことがあったのだが、縫い糸を取ろうとした時、この縫い方をしているのに気付いたのだ。

普通なら片方の糸を抜いてしまえば外れるというのに、その一本さえ抜けず、無理に抜けば皮革そのものを傷付けてしまうほどしっかりと縫い付けられているのを見て、その縫い方を研究したのである。

そして2枚目のキャットスーツは、縫い糸が見当たらない。

境目はあるのだが、そこに縫い糸が無いのだ。

そこでルイズは裏地を見てみると、そちらに縫い糸があったのだ。

全て服の内側に縫い代を隠して表面積を少なくしているのである。

ここにもまた寧夢の技術が光っている。

服の構造を完全に把握して縫っているため、縫い代が体に触れているのを感じさせないほどのフィット感を与えるのだ。

極めつけは3枚目のドレス、驚いたことにこちらは完全に縫い目が無いのだ。

実は縫い目そのものは見えている、しかし縫い目として見えることはない。

この手品のタネは気付いてしまえば簡単なことである。

「ネム、このドレスさ、もしかして縫い糸を刺繍に組み込んでるの?」

「お、それ気付いてくれたん!?そうよ、この桜ん花と枝に隠してしもうたんや!」

刺繍と必要な縫い目を計算して縫い、縫い糸を消す。

簡単なようだが洗練されたデザインセンスと同時に神業とも言うべき裁縫技術がなければならない。

ルイズは今まで、『寧夢が作ったもの』にしか驚いていなかった。

あくまで彼女が作る『見たこともない物』に驚いただけで、ハルケギニアにも存在する物、この場合は服でもこれほどの神業を見せつけられてはぐうの音も出ない。

「(もしハルケギニアと行来できるようになったらウチに来てくれないかしら?)」

ルイズがそんなことを考えながら寧夢を見ると、寧夢は早苗が作った下着の出来をチェックしている。

「よし、大丈夫やね。ありがと、早苗。ルイズはん、これ、付け方教えるけん服脱いで。」

ルイズは言われたとおり服を脱ぎ、上半身裸になると寧夢はルイズが初めて着ける下着を胸に巻くように着せる。

「慣れるまではこのホック、体の前で架けて回しぃ、ほんで肩ヒモかけて、周りの肉集めて・・・よし!」

ルイズは初めてのブラジャーを着け、鏡を見て自分の胸に見惚れる。

ハルケギニアにはブラジャーは無いため、今までルイズは自分の胸の谷間など見たことがなかった。

さすがにツェルプストー、寧夢、次姉のカトレアには胸の総量の問題で敵わないが、ジョゼットならば僅差に迫り、シャルロットとは大きく差をつけている。

「生まれて初めて谷間見たわ・・・ハァ・・・」

喜んだかと思ったらルイズはため息をつく。

先ほどから感情のアップダウンが大きいことに寧夢は心配して尋ねる。

「どないしたんと、ルイズはん?さっきも才人の話出して落ち込んどったし。」

「いや、ほら、こっちでわたしが知ってる男の人ってサイトくらいしかいないのよね。」

「まぁ、市長はんとか親父さんくらいやろうし、他はよく知らんっちゅうとこ?」

寧夢がそう言うとルイズは首肯する。

「あのね、先に言っておくけど、横取りしようとかそういう訳じゃないからね?

 ネム、サイトと付き合ってるんでしょ?」

 

 昨晩のことだ、宴会が終わり、寧夢の部屋で寝ていたルイズは夜中に目が覚め、隣で寝ていた寧夢がいなくなっているのに気付いた。

気になって探しに出ると、少し扉が開いていた才人の部屋から明りと寧夢の艶っぽい声がもれてきたのだ。

ルイズが気取られないように中を覗くと、一糸まとわぬ寧夢が才人の腕を枕にして話していた。

事後、いわゆるピロートークの最中であったのだ。

「今日はえらく積極的だったな?」

「だってウチ、アノ日前やし・・・それに才人、いつ帰ってけぇへんなるかわからんっちゃね、今日かてクィーンと・・・」

「無事だったからいいだろ?心配すんなよ。女は今日より明日かもしれねぇけど、俺は知れねぇ明日より今日ってな!つーわけで・・・」

「ヤン!」

二回戦に入りそうになったあたりでルイズは部屋に逃げ帰るように戻ったのであった。

 

「それはさ、一緒に住んでるんだし何もないってわけじゃないと思ってたけど・・・」

「ん?あぁ、昨日の見ちょったん?やったら混ざったらよかったんに。」

「ま、混ざ!?」

寧夢の爆弾発言にルイズはすっとんきょうな声を上げる。

「せ、正妻のヨユーとかそういうの?」

「ちゃうわ、才人とウチ、そういう戦前の夫婦?みたいなのやないし、多分才人も出先で他の女抱きよんやろうしさ。」

さらなる爆弾発言にルイズはまたもやショックを受ける。

「もしかしてネムも男の人たくさん・・・」

「ウチは才人だけ、まぁ英雄好色ってのはしゃあないと思うし、ウチが望んどるんはいつも才人が無事に戻ってくることやけんね。」

寧夢の口ぶりからルイズは、寧夢の気持ちを察した。

彼女は口ではこう言っているが、才人を愛しているのだと。

そして今、寧夢が言ったとおりだとするとルイズは望み薄だとも考える。

「(わたし、一緒にいても何も無かったのよね・・・)」

才人と出会ってまだ数日だが、口説かれたこともなければ最低限以上の接触もない。

「(って、違うわよ、他に男の人がいないからで、そもそもわたしはヴァリエール家の三女よ!結婚相手は・・・)」

『決まっている』と強く考えようとした時、ふと思い出す。

 

 親が決めた婚約者・・・10歳ほど歳上の青年と会うより前に出会った少年。

ルイズが一人で魔法の練習をしている時に出会った小汚ない革の服を着た少年で、聞いてみるとルイズと同い年であった。

ただ一日、共に遊んだ相手であるが、今でも思い出す初恋の相手である。

身分の差など考えない礼儀知らずな彼との、湖で奇妙な『オモチャ』を使って鳥を狩り、魚を素潜りで捕って二人で食べるという、今となっては考えられない初デート。

ルイズは当時、彼女が知っていた同年代の少年には無い、野生的な魅力を彼から感じたのだ。

何よりも彼は、魔法が使えず、『当主の子ではない』だの『拾われ子』などと影口を叩かれていたルイズを何の色眼鏡も無しに受け止めてくれたのだ。

 

「お~い、ルイズは~ん?」

「え!?あ、ゴメンね、ネム!少し昔のこと思い出して・・・」

「昔の?あ、まさかコレ?ちょっと話してな!」

親指を立ててまくし立てる寧夢に、ルイズはあとずさる。

「た、大した話じゃないわよ、子供のころの話だし・・・」

「やったらえぇやん、ウチかて恥ずかしいトコ見られたんやし!」

「ま、混ざれとか言った人が恥ずかしがってるわけないでしょ!?」

その後、ルイズは結局押しきられ、初恋の少年の話をすることになった。

甘ったるい空気になるかと思ったルイズであったが、寧夢は予想に反して難しい顔をする。

「なしてその子のこと、思い出したん?」

「え?州に来てからはよく・・・あれ?そういえばどうして?」

「『こっちのニオイ』みたいなのがそん子からしたんちゃう?それとさ、そのオモチャってどげん形しちょった?」

ルイズはそう聞かれてオモチャの形を思い出す。

「・・・バリスタってわかるかしら?大きな槍とか石を撃ち出すのに使うヤツ。

 あれを小さくしたみたいな?」

「わかるよ、ウチも作ることあるけんね、『パチンコ砲』って言うてね、早苗、お願い。」

寧夢は早苗にパチンコ砲の映像を写させる。

パチンコ砲は金属の廃材等で作られている、弓の部分が下向きという違いこそあるが、おおよその形はバリスタそっくりである。

「似てるわ、むしろこっちの方があの子のオモチャに近いわね。」

「そう・・・それってこげなん?」

寧夢は、今度は自分の義手でそれらしい『オモチャ』を見せる。

Y字型の木にゴムを結びつけた、子供のオモチャとしての『パチンコ』だ。

「似てるけど、あの子のはもっとゴツゴツしてたし、木じゃなかったわ。」

「やっぱりね、コレで鳥を撃ち落とすのはムリやもん。

 コッチやないかな?」

寧夢はあえて違うと思いながらもオモチャの方を出したのだ。

そして本命として出したものを見て、ルイズは手を打つ。

「これ、これよ!でもどうして?」

「これな、オモチャやないよ。

 スリングショット、それもガチのヤツ・・・当たり所悪かったら人死ぬで。」

そう、少年が持っていたのは軍用ないし狩猟用の強力なスリングショットだったのだ。

少なくともハルケギニアでは材料となる特殊なゴムを作ることができないし、州ならまだしもハルケギニアではいくらなんでも子供がそのような武器を持ち歩くとは考えられない。

「そもそも、どないして会うたん?」

「それがね、よく思い出せないのよ。

 あの子がどこから来て、どこへ行ったのか・・・そうよ、あそこウチの敷地よ、考えてみたらただの平民の男の子が出入りできるわけないわ!」

少しずつ思い出してきたルイズは、自分の記憶にある二つの矛盾に気付く。

寧夢に言われてその少年がハルケギニアにいるはずのない州の人間であった可能性が高いこと、そしてヴァリエール邸の敷地内であったことから、誰にも気づかれず出入りするのは、かの怪盗土くれのフーケにも不可能であろうことだ。

「考えられないことが起こった時に疑うべきことは二つよ、一つは観測結果の誤認、今の話やったらルイズはんの記憶違いとか・・・」

「それは無いわ、記憶はあいまいだけど、あの日のあの気持ちだけは間違いないし、そもそもあの頃のわたしは州のことを知らなかったのよ。」

「やったら二つ目、どっか見落としとる。

 新発見やったり、今まで起こったこと、やったことを見落としたりね。

 とりあえずその子は、ここ200年以内からそっちに行った子やろうね。

 ほんでルイズはんはそっちで言うところの魔法の練習をしよった。

 そこで考えられることやけど、一つは『サモン・サーヴァント』を成功させた。」

ルイズは少し考えて首を横に振る。

「それは無いと思うわ、人間呼ぶなんて聞いたことないし、百歩譲ってあの子を召喚したのなら、わたしはずっと彼と一緒にいたはずよ。」

「そやったらもう一つ、何らかの方法・・・まあ、考えられるのは今のところB-rim-L絡みやけど、その子は偶然ハルケギニアに行く方法を使い、さらに帰ってきた。」

これにルイズは思案する。

「そうだったとしても、それが何なの?」

「闇雲に探すのと、ある程度当たりがついてるのとじゃ、大違いよ。

 仮にジョーイはんから貰たホロテープに手がかりが無いなら、早々に打ち切れるしね。」

「それはそれでイヤね・・・」

「んなことないわ、ムダなことしなければその分早く、核心に辿り着けるんやからね。

 ただ、行来する方法があったんやとしても、少なくともウチはまったくもって聞いたことないんよね。

 それがなんちゅうか、不穏やわ。」

そう言って寧夢はあらためて大きな窓を見ながらその下のボタンを生身である右手の指を使ってものすごい早さで叩いていく。

左手の義手は先ほどのようにネジと繋いでいる。

ルイズが見るに、ボタンは窓の中の字を、義手は矢印を操作しているようである。

「むぅ・・・ワープゲート実験、触りはあるけど、細こうは書いとらんね。」

寧夢がそう言うとルイズは肩を落とす。

「物事はそう上手くはいかないのね。」

「いや、言い方悪かったわ、実験施設のことが書かれとるんよ。

 場所は・・・うわ、アーソー台地やな。

 そこにね、初期のワープゲート作るんに使われよった補助装置があるんやて。

 そっちにまとめて専門的な資料を置いとるんやろね。

 それより、こん中はB-rim-Lの概論やね。

 さっき言うた仮説・・・ルイズはんとこの魔法とB-rim-L、関係がわかるかんしれんわ。」

「そうね、それも大事よ。

 違ったならその方がいいしね。」

ルイズは寧夢の仮説が正しいことを半分期待し、そして間違っていることを半分希望した。

間違っていれば帰る手段は遠のくが、自分がデスクローの類の子孫でないことがわかるのだから。

 

「・・・なぁルイズはん、そっちの魔法のこと、簡単でええけん、教えてくれん?」

「え?どうして?」

「正直、読み方がわからん言葉が多いけん、分かりやすい言葉を当てた方が良さそうなんよ。」

寧夢の頼みにルイズは頷き、これまで学んだ魔法についての知識を寧夢に教える。

火、水、土、風、四つの系統魔法、それを編み出した始祖ブリミル、魔法は重ねることで強さを増し、重ねがけの数に応じてドット、ライン、トライアングル、スクウェアとメイジのランクが上がる、よほど息があってなければならないが複数人による重ねがけというものもあり、例えばトライアングル二人によるヘキサゴンスペル があるという話など。

ルイズは座学首席だったということもあり、学んだ内容なら全て覚えている。

「ありがとな、とりあえずホロテープに入っちょったことに当てられる『系統』はわかったわ。

 ほんでさ、B-rim-L・・・とと、ブリミルはどの系統を使いよったん?」

「始祖ブリミルは四系統のどれでもない、『虚無』っていう系統を使ってたそうよ。

 その虚無は今となっては誰も使えない、幻の系統と言われてるわ。」

ルイズがそう言うと、寧夢は首をかしげる。

「ルイズはんがおるやん?」

「ぶりむるが始祖ブリミルで、わたしが同じことをしてるってのは寧夢の仮説でしょ?そもそも、虚無ってどんな魔法かわからないのよね。」

「そこなんよ、どんな魔法かわからんのやったら、むしろルイズはんの『失敗魔法』を『虚無』っち考える人が出らんかったんかね?」

「実は・・・一人だけ知ってるわ。」

ルイズはそう言っておずおずと手を上げる。

「ね?その人はどない言いよったって・・・もしかしてルイズはん?」

ルイズは首肯して答える。

 

 ルイズがまだ幼かったころの話だ、爆発する『失敗魔法』を『火の魔法の類』と考えていた彼女は、本で見てもそれらしい魔法が火系統どころかどこにも無いことに気付き、

『もしかして伝説と言われている虚無なんじゃ?』

と考えた。

 

「何となく予想がつくんやけど、どうなったん?」

「エレオノール姉さま・・・一番上の姉さまに言ったらビンタされたわ。

 もともと怒りっぽい人だったけど、後にも先にもあんなに怒った姉さま、見たことないわね。

 その後、母さまに聞いて何でかわかったわ、もし、『虚無』を僭称したらよくてわたしだけ吊るし首、悪ければ家族全員火炙りかもしれないって。」

ルイズはあえて話さなかったが、次姉カトレアに話したとき、彼女は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

いわゆる『ノーコメント』であり、今となってはルイズにとって、エレオノールのビンタよりもその優しさの方が痛いのだ。

ルイズの昔話を聞いた寧夢は自分のこめかみを指で突きながらあきれ返る。

「そん調子やと、ルイズはんみたいな人、何人か・・・いや、何人『も』おるやろなぁ。」

「似たようなのなら、さっき話したジョゼットもそうよ。

 ただ、わたしみたいなのじゃなくて、ホントに『ポンッ』くらいだけどね。」

ジョゼットもルイズと同じく魔法が使えず、ルイズほどの大爆発ではないがどんな魔法を唱えても爆発する。

「そう、おるんやね・・・やったら、だいぶルイズはんとこの魔法、虚無が何なのか絞れてきたわ。

 まず、ルイズはんがもう虚無を使いよるって前提で話すけん、おかしいトコがあったら言うてな?」

と言って、寧夢はルイズに今、ホロテープから読み取った内容とハルケギニアの魔法を読み合わせていく。

「まずね、メイジ一人やったら四つまで魔法を重ねられる言うてたけど、それはさ、『火、水、土、風』ってバラバラに、同じ力で組み合わせることはできるん?」

この話はルイズも昔、気になって長姉エレオノールに尋ねたことがあった。

彼女はその時、すでにトリステイン王立アカデミーに在籍しており、同じような研究がなされたことを知っていた。

特に守秘されていることではなく、多かれ少なかれ専門的な書物には書かれていたことであったため教えてもらえたのである。

「やろうと思って出来なくはないらしいけど、現実的には不可能って教わったわ。

 メイジは四系統のどれかが『主系統』になってて、残りはその補助にしかならないの。

 その『補助』を鍛えて主系統と同じくらいにしようとしたら全部終わるまでに1000年はかかるんですって、寿命がなくなるわ。」

「ほぅなん?やったらさ、ヘキサゴンスペルみたいに何人かで四系統全部合わせるのは?」

これはかつて、トリステインどころかハルケギニア中で同様の実験が行われ、全てが同じ結果になったため、トリステイン魔法学院でも遊びでやらないように『禁止事項』として教わる。

「それをやると大爆発するらしいわ。

 危ないから学院でもやっちゃいけないって教わるのよ。」

ルイズがそう答えた時、寧夢は獲物をもてあそぶ猫のように笑った。

虚無と系統魔法の関係、その核心に至ったのだ。

「何か思い当たらん?」

「え・・・いえ、おかしいわよ!そうだとするとわたし一人で四系統重ねてることになるじゃない!?」

ルイズも寧夢が言わんとすることに気付いた。

寧夢はルイズが使う魔法、『虚無の魔法』は四系統全てを等しく使っていると考えたのだ。

正確には寧夢は、『虚無を分けて使っているのが系統魔法』と考えているのだが、それはB-rim-L、虚無を基点にしているか、系統魔法を基点にしているかの違いだけなので大差ない。

「それができてまうのが『虚無』やないんかな?

 虚無っちゅうのは先天的に四系統全てが主系統で、生まれつきのスクウェアメイジなんやないやろうか?

 あとはこれが正しいか実証すればええ、ルイズはんの魔法が『四系統全てを使う』やとすれば、意図的に一つの系統を使えば普通の魔法も使えるはずやけんね。

 それを観測して、このホロテープん中にあったことが観測できれば、B-rim-Lがそっちの始祖ブリミルやって関連付けられる。」

これにルイズは難しい顔をして答える。

「同じなら帰る手段に近づける、違ったらあの子のことを追うのに専念できる・・・なら、やってみましょう。」

「決まりやな、じゃあ、すぐ準備するわ!」

寧夢は子供のように無邪気に、実験の準備を始めた。




虚無=火、水、土、風の四系統を等しく使える生来のスクウェア・メイジっていうのが友人と話してた設定です。
そうでもないと、虚無のメイジたるブリミルが系統魔法使えないのでは?と言う疑問から生まれたものです。
そしてルイズ、やっとメイド服からいつもの服(改造あり)になりました。
+2着はオリジナルですが、おまけということで。
では、次が連続投稿の最後一話です。

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