リリカルなのは×BLAZBLUE 無印編   作:シャケ@シャム猫亭

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VS 黒服男

 病院を抜け出し、海鳴市を歩くラグナは驚愕していた。

 

 

 

「術式が全く使われてねえ……」

 

 

 

 2199年の世界では科学と魔術が融合し、生活に密接にかかわっている。

 それこそ、街灯一つとっても、術式が施されている。

 だが、目の前の光景に魔術は全く使われている気配はない。

 そこらを走る車なんか、化石燃料だけで走っている。

 そんな物は博物館にでも行かなければ見られないはずなのに。

 

 

 

「え、えー………マジかよ……俺、本当にタイムスリップしちまったのか?」

 

 

 

 認めたくはない。

 認めたくはないが、状況証拠は十分だ。

 大気中に魔素が全く存在しないし、目の前で繰り広げられている光景が暗黒大戦以前のものなのだ。

 頬っぺたなんぞ、引っ張り過ぎて赤くなっている。

 

 

 

「言葉が通じるのは幸いだが……ホントどうすっかな」

 

 

 

 ラグナは適当に街を歩きながらこれからについて悩む。

 

 

 

「最終目標は、元の時代に帰ることだ」

 

 

 

 手掛かりは「窯」だ。

 あそこに落ちたことでこの時代に飛ばされたというのならば、「窯」ひいては「境界」によって元の時代に戻れるかもしれない。

 

 

 

「この時代の「窯」を見つけるか?」

 

 

 

 ダメだ、そもそもこの時代に「窯」はない。

 最初の「窯」は2099年に出来上がったはずだ。

 今から……94年後。論外だ。

 なら、「窯」を作るか?

 いや、術式どころか魔素が存在せず、科学だって数段劣っているこの時代では、一筋縄ではいかないどころか夢物語に近い。

 なにより、ラグナ自身「窯」を作るのに反対だ。

 あれは、人が触れてはいけない領域だ。

 まあ、たとえ作ろうと思っても、知識も技術もないので不可能なのだが。

 

 

 

「………だめだ、帰る手段が思いつかねえ」

 

 

 

 こんな時、性悪ウサギが居てくれたらと思うが、残念ながら奴は必要のない時にばっかり現れて、必要な時には来ない。

 第一、本当に来たとして、元の時代に戻るなんてデカい借りを作ってしまったら、ここぞとばかりに面倒ごとを押し付けてくるに違いない。

 

 

 

「はぁ、こりゃ長期戦だな……」

 

 

 

 すると、考えなければならないのは、衣食住の確保だ。

 いくらラグナがサバイバルに慣れているからといっても、限度はある。

 先立つ物の確保は早期に行わなければならない。

 手っ取り早いのは、

 

 

 

「チンピラでも狩るか」

 

 

 

 つまりはカツアゲである。

 中期的には、どこかでバイトするつもりだが、取り敢えず所持金0から脱したい。

 でなければ、飯も食えない。

 いや、食い逃げという手もあるが、それは面倒なことになるのが目に見えているので、最後の手段だ。

 

 

 

「そうと決まれば、早速……」

「あー!! あなた道路に倒れてた!」

 

 

 

 チンピラがいそうな路地裏に入ろうとしたとき、ラグナは後ろから声をかけられた。

 訝し気に振り返ってみれば、そこに居たのは二人の少女だ。

 金髪の方はこちらを指さしながら驚き、紫髪の少女は目をまん丸にして驚いていた。

 

 

 

「あんた、なんでこんな所に居るのよ、あの傷じゃ当分安静のはずなのに。まさか抜け出してきたの!?」

「……何だこのガキ?」

「ガキですって!? アンタが倒れている所を助けたのはあたし達だってのに! お礼の一つくらい言ったらどうなのよ!」

「あ、アリサちゃん、落ち着いて。倒れてたときは意識なかったから、知らなくても当然だよ」

 

 

 

 いきなりかみついてきた金髪の少女を、紫髪の少女は抑える。

 

 

 

「……おい、そっちの紫。どういうことか説明しろ」

「それが人にものを頼む態度なの!?」

「ギャーギャーうるせえ。黙ってろ金髪」

「なぁんですってえッ!!」

「アリサちゃん、私は気にしないから」

 

 

 

 フカーッとまるで猫のように怒る金髪の少女を、ラグナは鬱陶しそうに見つめる。

 何とか落ち着かせたところで、少女は自己紹介した。

 

 

 

「私、月村すずかと言います。こっちはアリサ=バニングスです」

「それで?」

「こっちが名乗ったんだから、アンタも名乗りなさいよ!」

「あーあー、わかったわかった。ラグナだ。それで、俺を助けたってどういうことだ?」

「えっと、4日前ですけど、私たち二人で買い物に行っていたんです。そのとき、雨が降って来てしまって、二人で迎えが来るまで雨宿りしていたんです」

「そしたら路地で何かが落ちるような音がして、気になって見てみたらアンタが血だらけで倒れていたってわけ」

 

 

 

 つまり、病院で言われた発見者とは、この二人のことだった。

 

 

 

「それにしたって、アンタ何でこんな所にいるのよ? 医者の話じゃ二週間は絶対安静だったじゃない」

「どうでもいいだろ、そんなこと」

「んなぁ!? 人が心配してるってのにアンタは!」

「それより、俺が倒れていた所に案内してくれ」

 

 

 

 もしかしたら、魔素の残滓があるかもしれない。

 今は少しでも手掛かりが欲しい。

 

 

 

「いいですけど、ちょっと歩きますよ?」

「すずか、こんな奴の言うこと聞く必要ないわよ!」

「でも、ラグナさん困ってるみたいだし……」

「別に一人いれば案内には十分だ。金髪、お前はいらん。帰れ」

「―――ッ!! 行くわよ! アンタみたいな奴とすずかを二人っきりにさせられないわ!!」

 

 

 

 そう言うとアリサは肩を怒らせながら、すずかの手を引いて歩き出した。

 ラグナはそれに数歩遅れるかたちで、二人について歩くのだった。

 

 

 

 

 

……………………

…………

 

 

 

 

 

「ここか」

 

 

 

 そこは商店街から少し外れた路地だった。

 横幅が2メートルもないため、かなり狭い。

 

 

 

「それで、アンタ何で此処に来たかったのよ?」

「ちょっと待て、金髪」

「アタシの名前はアリサよ!」

「わーたから黙れ金髪」

「分かってないじゃない!!」

 

 

 

 ラグナはアリサのことを無視して周囲を探る。

 魔素の残滓は……僅かだが、ある

 これで、この世界に魔素があることが証明された。

 魔素すら存在しない世界だったらどうしようもなかった。

 だが、ラグナを過去に飛ばしたような次元転移の術式は感じ取れなかった。

 それが4日の経過で霧散してしまったのか、それともそもそもそんなものは存在しないのかは分からない。

 

 

 

「ねえ、アンタ何でこんな所で倒れていたのよ?」

「知るか、今それを調べてるんだよ」

「調べてるって、地面に手を付いているだけじゃない」

「わかんないなら黙ってろ。つーか、もう帰っていいぞ」

 

 

 

 その言葉にアリサの我慢は限界だった。

 助けたことも、案内したことにもお礼の言わず、あげく帰れ?

 冗談も大概にしろ。

 

 

 

「帰るわよ、すずか! アタシは一分一秒たりともコイツとは一緒に居たくないわ!」

「え、あ、うん」

 

 

 

 アリサは路地の出口に向かって歩き出し、すずかもラグナに一礼した後でそれを追った。

 背を向けていたラグナは一礼に気づかなかったが。

 そうして路地から出た所で、突然二人の前に黒塗りの車が乱暴に止まった。

 中からダークスーツに身を包んだ男たちが降りてきて、二人を囲む。

 

 

 

「な、なによアンタたち!?」

「黙れ、大人しくしろ!」

 

 

 

 突如、バチンッという音がしたかと思うと、隣に居たすずかが倒れる。

 

 

 

「すずか!?」

 

 

 

 倒れるすずかに手を伸ばすアリサだったが、その手が届く前に意識が途切れた

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

「すずか!?」

 

 

 

 ラグナの後方でアリサの叫び声が聞こえた。

 

 

 

「あん?」

 

 

 

 訝しげに振り返ってみれば、二人を囲むようにダークスーツに身を包んだ男たちがいた。

 そのうちの一人がアリサの腕をつかみ、強引に車へと放り込む。

 同様にすずかも車へ放り込むと、車は男を一人残して急発進した。

 後に残されたのはラグナとダークスーツの男。

 

 

 

「ありゃどう見たって誘拐、だよなぁ」

 

 

 

 残ったこいつの目的は、深く考えなくてもわかる。

 目撃者であるラグナの排除だ。

 懐から取り出した拳銃には、ご丁寧にも消音機がついている。

 だが、それを向けられても慌てるラグナではない。

 そんなものが怖くては、賞金首なんぞやってられない。

 

 

 

「あー、くそっ。やるなら俺の居ないところでやれよ」

 

 

 

 ラグナは足に力を込めて姿勢を落とす。

 

 

 

 

 

「RAGNA=THE=BLOODEDGE」 VERSUS 「DARK SUIT MEN」

 

 

 

 THE WHEEL OF FATE IS TURNING

 

 

 

 ACTION

 

 

 

 

 

 ラグナは男が引き金を引いた瞬間に走り出した。

 一瞬前まで居た所を弾が通過していく。

 ラグナと男の間には20メートルの距離があったが、瞬く間にそれが半分になる。

 男は続けて、二射、三射とラグナに向けて発砲するが、ラグナはそれを大剣の腹を盾にすることで弾く。

 その間も距離を詰めるラグナ。

 そしてすぐにラグナは男を己が間合いへ捕らえた。

 

 

 

「オラッ!」

 

 

 

 ラグナの蹴りが男の鳩尾に入り、男は身体をくの字にゆがめる。

 そこにすかさず足払いをかけて男を転ばせる。

 

 

 

「まだ終わりじゃねえぞ!」

 

 

 

 男の襟をつかんで持ち上げたラグナは、腹に蹴りを叩きこむ。

 吹き飛ばされた男は地面を数メートル滑ると、そこで動かなくなった。

 

 

 

「んだよ、雑魚じゃねえか」

 

 

 

 ラグナは放り出された銃からマガジンを抜き、適当に投げ捨てると男のもとまで歩いていく。

 

 

 

「おら、起きろ」

「がはっ!」

 

 

 

 気絶していた男に蹴りを叩きこんで強制的に起こすと、ラグナは男の右手を踏みつけながら言った。

 

 

 

「お仲間さんはどこ行ったわけ?」

「誰が……言うか!」

「ふーん」

 

 

 

 その返答を聞いたラグナは容赦なく男の右手を踏み潰した。

 まるで小枝を踏んだかのような音がした。

 

 

 

「がああああああッ!!」

「あのよ、面倒だからさっさと吐いてほしいんだけど」

 

 

 

 続けてラグナは左手を踏む。

 

 

 

「ま、街外れにある廃ビルだ! そこに連れて行く手筈になっている!」

「廃ビルね。方角は?」

「あ、あっち……だ」

 

 

 

 男が折れた手で廃ビルのある方角を差す。

 必要なことを聞いたラグナは、用済みとばかりに男の顎に蹴りを入れて気絶させる。

 

 

 

「………めんどくせえ」

 

 

 

 廃ビルへと向かうラグナの背中には、鬱々とした空気が乗っていた。

 


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