リリカルなのは×BLAZBLUE 無印編   作:シャケ@シャム猫亭

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目覚め

「………俺は………生きてる、のか?」

 

 

 

 目覚めたラグナが最初に見たのは、真っ白な天井だった。

 首を動かして辺りを見回す。

 清潔感溢れる感じのする部屋からして、どうやらここは病院のようだ。

 ラグナは身を起こそうとして、失敗した。

 右腕が上腕の中程から消失していた。

 それに視界がやたらと狭く、遠近感がない。

 

 

 

蒼の魔道書(ブレイブルー)が………」

 

 

 

 ラグナの右腕と右目となっていた蒼の魔道書が消えていた。

 いや、存在は感じ取れるから、機能していないのだろう。

 

 

 

「あ、起きられましたか。気分は如何ですか?」

「っ誰だ!?」

 

 

 

 ラグナが慌てて声のした方を向けば、そこには白衣を来た女性が立っていた。

 

 

 

「落ち着いてください。傷が開いてしまっては大変です」

「傷……」

 

 

 

 ラグナが自身の身体を確認すれば、身体のあちこちに包帯が巻かれていた。

 服も、青い病衣に着替えさせられている。

 

 

 

「お前が治療したのか?」

「いえ、私ではないですが、当医院で手術しました」

「そうか………一応、礼を言う。ところで、ここは何処だ?」

「海鳴大学病院です。あなたは三日前、市内で倒れていたのを救急搬送されたんですよ。身体がメッタ刺しにされていて、こうして生きているのが奇跡みたいなものです」

「メッタ……刺し?」

「何があったのか、覚えていませんか?」

「………ちょっと待て」

 

 

 

 自身の身に起こったことを瞬時に思い出せなかったラグナは、一つ一つ記憶を確認する。

 

 

 

 俺は、俺は確かレイチェルの奴に言われて、世界虚空情報統制機構のカグツチ支部へ「窯」の精錬を止めに行ったんだよな。

 んで、何とか「窯」のある最下層まで行ったは良かったが、お面野郎に邪魔されて時間食っちまって。

 そのせいで「窯」の精錬を止められなかった。

 その後は、 ν(ニュー) が現れて………。

 

 

 

「っつ!」

 

 

 

 突如、ラグナは鋭い頭痛に襲われ、それ以上考えられなくなる。

 それを見た女医が慌ててラグナを止めた。

 

 

 

「無理に思い出そうとしないでください」

「あ、ああ。わりいな」

「いえ……一時的な記憶障害だと思われます。今はゆっくり休んでください。それと、最後に名前を伺ってもよろしいですか?」

「………ラグナだ」

「ラグナさん。また参りますので、一眠りしたらナースコールして下さい」

 

 

 

 そう言うと女医は病室を出て行った。

 それを見送ったラグナはゆっくりと目を閉じた。

 今は、ただ、眠りたかった。

 

 

 

 

 

……………………

…………

 

 

 

 

 

 誰かが部屋に入ってきた気配がして、ラグナの意識は覚醒した。

 

 

 

「あ、おはようございます。起こしてしまいましたか?」

「いや………大丈夫だ」

 

 

 

 そこにいたのは先ほどの女医だった。

 ラグナはゆっくりと身を起こす。

 今度は左腕を使い、失敗はしなかった。

 

 

 

「あれから丸一日眠っていましたが、ご気分は如何ですか?」

「……前よりイイな」

「でも、まだ絶対安静ですよ。傷も塞がってませんし、血を流しすぎて貧血でしょう」

 

 

 

 女医は聴診器などを取り出すと検診を始めた。

 ラグナは言われた通りに深呼吸したり、口を開いたりしていく。

 包帯を取って傷の具合も確かめたが、治りがだいぶ早いと女医は驚いた。

 

 

 

「さて、ラグナさん。色々聞きたいことがあるのですが、よろしいですか? ああ、言い忘れました。私、海鳴大学病院女医の石田 幸恵(いしだ さちえ)と申します」

「俺も聞きてえことがあるが………まあいい。そっちから聞けよ」

「では、まずはラグナさんのフルネームを」

「フルネームつってもな…………ファミリーネームなんかねえ」

 

 

 

 ラグナの答えをサラサラと調書に書き込み、女医は続けて質問していく。

 

 

 

「ご住所は?」

「ねえな」

「住所不定………失礼ですが、何か身分証をお持ちですか?」

「それもねえな」

「………ご親族はおられますか?」

「俺は孤児院育ちだ。そんなもんいねえよ」

「……………その、孤児院は」

「焼けて残ってねえよ」

「…………………」

 

 

 

 質問に答えるごとに、どんどん石田女医の顔が暗くなっていく。

 住所不定で、身分証も身寄りもない。

 間違いなく、厄介事の匂いがする。

 

 

 

「し、質問を変えましょう。ラグナさんはここに運び込まれるまでのことを覚えていますか?」

「いや………思い出せねえ」

「では、覚えている範囲で構いませんので、お話していただけますか?」

「…………カグツチに居たのは覚えている」

 

 

 

 本当は全て思い出している。

 ニューと戦って、共に「窯」に落ちたことも。

 だが、ラグナに話す気はなかった。

 ラグナは世界虚空情報統制機構に反逆する、立派な犯罪者。

「死神」と呼ばれる、史上最高額のSS級の賞金首だ。

 今はまだこの女医に気づかれていないが、下手に情報を渡すとバレる危険がある。

 

 

 

「今度は俺が聞くぞ」

「……………あ、はい。なんでしょう?」

「俺はどうしてここに居る? どうやって連れてきた?」

 

 

 

 ラグナは確かにカグツチ最下層まで行っていたはずである。

 そこは一般人立ち入り禁止区域。

 目の前にいるような普通の女医が入れるような所ではない。

 

 

 

「ラグナさんは道路で倒れているところを、発見者が通報。この病院に運び込まれて手術を受けたんです」

 

 

 

 道路……?

 誰かが「窯」に落ちる俺を助けて、その辺に放置したってことか?

 いや、そんなはずはない。

 確かに俺は「窯」に「落ちた」。

 救出なんて出来たはずがない。

 

 

 

「……ここは何処だ」

「ここは海鳴市にある海鳴大学病院です」

「ウミナリシ? 聞いたことねえな、どこの階層都市だ?」

「階層都市? ……えっと、全部言うなら、日本国○○県海鳴市海鳴町1-3です」

「はあ? なんだそりゃ? 俺はどの階層都市だって聞いて…………」

 

 

 

 そこでラグナは言葉を切った。

 石田女医の言う言葉に聞き覚えがあったからだ。

 

 

 

 日本国……日本………そうだ、師匠の昔話でちらっと言ってたな。

 確か………暗黒大戦前にあった国の名前じゃねえか?

 だが、そんな名前付けてる都市なんかあったか?

 

 

 

「………まあいい。今日は何日だ?」

「4月13日です」

「4月!? ちょっと待て、四日寝ただけならどうズレったって1月4日か5日だろうが! それが4月ぅ!?」

「………ラグナさん、貴方の最後の記憶では、何年の何月何日ですか?」

「……2199年12月31日だ」

 

 

 

 それを聞いた石田女医はピシリと顔を固まらせた。

 数秒経って、気を取り直した石田女医は、大きく深呼吸して言った。

 

 

 

「ラグナさん……今日は2005年4月13日です」

 

 

 

 その言葉に、今度はラグナが固まる番だった。

 

 

 


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