if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第7話

刹那サイド

 

 

言わずもがな模擬戦はセシリア達の大敗に終わった。原因は慢心とコンビネーション不足に他ならない。なんとも情けない負け方に僕は頭を抱えた。大丈夫か代表候補生・・・。

その後は専用機持ち一人一人に何人か割り振って、ISの歩行等を教える事になった。特に変わった事もなく授業が終了した。織斑の所だけは妙に騒がしかったけど。

 

 

~昼休み[屋上]~

 

 

「何故全員が此処にいるんだ・・・!」

 

「・・・(あ、飛行機雲)」

 

 

昼休み、セシリアに呼ばれて屋上へ来た僕は何故か篠ノ之さんと織斑、デュノア君、鳳さんと一緒に芝生で食事を摂る事になった。面倒臭い事この上ない。こんな時に限って、会長はサボった仕事を片づけてるし・・・使えない。

篠ノ之さんの視線が怖いので空を見上げてボーっとする。

 

 

「えっと、僕が居ても良いのかな?」

 

「何言ってんだよシャルル。同じ男同士、仲よくしようぜ。なあ、刹那」

 

「・・・(帰りたい)」

 

「一夏!これ、作って来たから食べなさいよ」

 

「おお!鈴の酢豚だ!」

 

 

そう言って鳳さんが大きめのタッパーの蓋を開ける。そこには何とも美味しそうな酢豚が入っていた。僕もお腹空いたな。購買で何か買って来よう。セシリアは何の用だったんだ・・・?

 

 

「よっと・・・」

 

「せ、刹那さん!」

 

「ん?」

 

「わ、私サンドイッチを作って来ましたの。食べていただけますか?」

 

「良いの?」

 

「は、はい!」

 

 

セシリアがバスケットから美味しそうなサンドイッチを取り出した。まさかこの為に呼んでくれたのか・・・なんて良い子なんだ。そう言う事ならばありがたくいただこう。

一つ貰い、口に入れる。次の瞬間、

 

 

「っ!?」

 

 

思わず叫びそうになった。セシリアの作ったサンドイッチは不味いの一言に尽きる。分量などお構いなしにとばかりに入れられたナニカ。束が作ったナポリタンよりも酷い。

僕は飲みこんでセシリアに聞く。

 

 

「セシリア、これ味見した?」

 

「いいえ。刹那さんに最初に食べて欲しくて」

 

「そっか。はい、あ~ん」

 

「な、なにを!?」

 

 

セシリアにサンドイッチを向ける。デュノア君がおお、とか言いながら見てるけどそれどころじゃない。顔を紅くしてセシリアはゆっくりと口をサンドイッチに近付ける。そして、

 

 

「はむっ・・・まごふっ!?」

 

 

口に含んだ瞬間、白目を向いてひっくり返った。その光景に全員が驚愕するそしてフラフラとセシリアが起き上った。

 

 

「こ、これは人が食べて良い味ではありませんわ。どうしてこんな・・・」

 

「話を聞くに、味見もせずにオリジナルの味付けでもしたんでしょ?」

 

「そう、ですわ・・・うぷっ」

 

「料理出来ないんならオリジナルとかしちゃダメでしょ。馬鹿なの君は?」

 

「・・・反論出来ませんわ」

 

 

そう言ってセシリアが俯く。初心者なら無理せずにしなさいな。

僕はセシリアの横のバスケットを掴んで残りを食べ始める。

 

 

「刹那さん・・・無理して食べる必要は」

 

「不味いのは残して良い理由にはならないでしょ」

 

 

そんなの勿体ないじゃないか。毒が盛られてるならまだしも、ただ超絶不味いだけだ。食べられない訳じゃない。

 

 

「それに折角セシリアが作って来てくれたんだ。味は兎も角、凄く嬉しいよ」

 

「刹那さん・・・!」

 

「・・・御馳走様」

 

 

バスケットを空にした僕はポケットティッシュで口を拭う。それからセシリアに言った。

 

 

「今度は美味しく作ってくれると嬉しい、かな」

 

「はい!次はレシピ通りに作りますわ!」

 

「・・・一夏、あれが理想の対応よ」

 

「何がだよ?」

 

「やっぱ良いわ・・・アンタじゃ無理ね」

 

 

鳳さん達が小声で話しているが、無視して立ち上がる。

 

 

「セシリアの分も食べちゃったから学食に行かない?」

 

「そうですわね」

 

「お礼と言っては何だけど、明日は僕がお弁当作って来るよ」

 

「本当ですの!?」

 

「うん。何か食べたい物があったら言って」

 

「お、刹那の弁当なら俺も食べたいぞ!」

 

「アンタは黙ってなさいっ!」

 

 

織斑に鳳さんが怒鳴る。本当に空気読めないな・・・。

僕はセシリアと屋上を出て学食へと向かった。こうして騒がしくも穏やかな時が過ぎて行き、放課後になった。

 

 

~整備室~

 

 

「このシステムなら簪の機体も上手く制御出来ると思うんだ」

 

「なるほど・・・援護システム」

 

「そして分離可能な外部装甲の追加・・・しかも強襲用コンテナに接続して移動も可能・・・ね」

 

「その名も、《GNアームズ》さ」

 

 

イリアステルで制作する事になった簪の機体。その前に機体のコンセプトを決める事にした僕達は取り敢えず簪の要望を聞く事にした。簪の理想は、マルチロックオンシステムによる高性能誘導ミサイルを積む事。

そのシステムは数日前に組み終わったがシミュレーションをした結果、システムの動きに少しムラがある事が分かった。よって、簪の機体に新たに援護システムを組み込む事にした。それでシステムの動きをより完全な物へと近付ける。

ぶっちゃければ《ハロ》を造ります。それも簪専用の持ち運び可能なボディ込みで。

そして火力上げとしてGNアームズも造る。AとDの両方を造って換装出来る様にしたい。

 

 

「それにしても、このGN粒子って何なのかしら?」

 

「あはは・・・」

 

 

言えない。転生特典のセシアに積まれたシステムとか絶対に言えない・・・。

最初はガンダムなら宇宙行けるんじゃと思ったらセシアが、[マスターは自分の力で叶えられると思ったので、宇宙活動用の装甲は破棄しました!]と自慢げに言ったので思わず吹いた。

世界を動かすレベルの物を簡単にポイしちゃ駄目でしょ。結局装甲は普通の物にセシアのデータを映して使用する事になった。まあ、宇宙での活動に耐えきれないって事以外は設定通りの性能なんだよね。

 

 

「粗方決まった事だし、今日はもう帰ろうか」

 

「そうね。折角だし、三人でご飯食べに行きましょ」

 

「賛成」

 

 

僕達は整備室を出て食堂へと向かった。後は夏休みの内に簪の機体を完成させて新学期から使用してもらう事が出来る。僕も正直な所、ガンダムみたいな相手と戦ってみたかったんだよね。

食堂に着き、僕は食券を購入する。特盛りで出された天丼とぶっかけうどん、ナポリタンとコーンスープをテーブルに置く。そして自分の食事を持って来た簪達と食事を開始する。

 

 

「・・・刹那って食べるんだね」

 

「まあね」

 

「私も最初は驚いたけど、今となっては何時もの光景ね」

 

 

苦笑する二人に何も言えない。自分の食欲がアレな事も自覚してるし、治す気も無い。と言うか食べなかったら僕が死ぬ。

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 

食べ終わった僕達は片付けを終えて、食器を片す。それから僕の部屋で歩く雑談してからこの日は就寝した。

 

 

~翌日~

 

 

「今日からこのクラスにもう一人転校生が来る事になりました。それもドイツの代表候補生です」

 

 

山田先生の言葉に女子達が声を上げる。思ったけどこのクラスって偏り過ぎじゃないですかね。代表候補生が二人に男性操縦者が三人。そこにドイツの候補生が追加。どう考えても依怙贔屓だとしか思えない・・・。

そう思いながら正面を見直すと、山田先生の横に銀髪で眼帯の少女が後ろに腕を組んで立っていた。その少女に織斑先生が声を掛ける。

 

 

「挨拶をしろ、《ボーデヴィッヒ》」

 

「はっ!"教官"!」

 

 

そう言ってボーデヴィッヒと呼ばれた少女は織斑先生に敬礼をする。織斑先生は顔を顰めて静かに言った。

 

 

「此処では織斑先生だ」

 

「いえ、私にとっては教官ですので」

 

 

分かった。この子、話聞かない子だ。面倒事が振って来るどころかナパーム弾追加して来たよ。そして彼女は正面を向いて口を開いた。

 

 

「《ラウラ・ボーデヴィッヒ》だ」

 

「・・・えっと、それだけですか?」

 

「以上だ」

 

 

何とも言えない空気がクラスに漂う。そしてボーデヴィッヒさんが席へと歩き出し、その途中で織斑の横に立つ。織斑は首を傾げながらボーデヴィッヒさんに視線を向ける。そして、

 

 

「貴様が・・・!」

 

「痛っ・・・なにすんだ!」

 

 

見事な平手打ちが織斑の頬を捉えた。キレる織斑にボーデヴィッヒさんが睨みながら言った。

 

 

「私は認めない。貴様があの方の弟であるなど・・・!」

 

 

そう言って席に向かうボーデヴィッヒさん。ギクシャクしたクラスの空気を振り払う様に織斑先生が声を上げる。

 

 

「これでSHRを終了する!全員第三アリーナに急げ!」

 

 

織斑先生の指示で全員が立ち上がり、行動を開始した。それ以外は特に何もなく時は放課後へと流れて行く・・・。

 

 

~放課後[アリーナ]~

 

 

「こうするのよ!分かんない?感覚で分かるでしょ!」

 

 

鳳さんの説明に織斑が首を傾げる。再び練習に付き合わされて、アリーナで織斑の動きを見ていた。これまでにセシリアと篠ノ之さんが説明したけど酷かった。

篠ノ之さんは、

 

 

『こう、ズバーンと言って、ドーンと言った感じだ』

 

 

小学生か(呆れ)

その次にセシリアがやったのだが・・・

 

 

『斜め45度に向けて・・・』

 

 

織斑の頭脳でも分かる様に説明してあげて(切実)

あの時の織斑は頭から煙出してたから。

結局僕が説明する事になったし。

 

 

「織斑。僕の動きを真似して。腕はこうして」

 

「こうか?・・・おお!なんかしっくり来る!」

 

「君の体格と今までの動きを考えるとこれが一番自然に動けると思う。後は自分なりに直して行くんだ」

 

「分かった。刹那が一番分かり易いな」

 

 

おい馬鹿変な事言うな。ほら、篠ノ之さんと鳳さんの視線が僕に向いたじゃないか。だから関わりたくないんだよ。君達の小競り合いに僕を巻き込まないでくれ。

そんな事を考えていると、デュノア君と織斑が模擬戦を始めた。結果は余裕でデュノア君の勝利。重火器のオンパレードで織斑を近付ける事なく勝利を掴んだ。

 

 

「シャルルは強いな・・・」

 

「一夏は単純に、射撃武器の特性を把握していないって感じかな?」

 

「一応分かってるつもりなんだけどな・・・」

 

「分かってないからボコボコにされたんでしょうが。勉強しなよ」

 

「うぐっ・・・」

 

 

僕の言葉に何も言えなくなる織斑。その後はデュノア君に射撃武器を使わせてもらったりしていた。すると辺りが騒ぎ出したので、その中心を見るとピットの先でボーデヴィッヒさんが黒いISを纏ってこちらを、正確には織斑を見下ろしていた。

そして降り立って声を掛けて来る。

 

 

「おい、貴様も専用機持ちだそうだな。私と戦え」

 

「嫌だね。理由がねえよ」

 

「私にはある。貴様さえいなければ教官が大会を二連覇する事が出来たのだ。だから、私は貴様の存在を認めはしない」

 

「っ・・・じゃあな」

 

「ならば・・・戦わざるを得なくするだけだ!」

 

 

そう言って左肩の巨大な実弾砲を織斑に向けて放った。次の瞬間、轟音と爆煙がアリーナに広がる。そして煙が晴れた先では、織斑の前に出てシールドを展開したデュノア君と、その先に設置されたくず鉄のかかしがあった。余計な真似したかな。

くず鉄のかかしを解除して僕はアリーナを離れようとする。ところがボーデヴィッヒさんに声を掛けられた。ちくせう。

 

 

「おい。何故私の邪魔をした」

 

「周りに人がいるのにドンパチやらかすとか馬鹿なのかい君は?」

 

「なんだと・・・!」

 

「うっわ。篠ノ之さんと同じ類か」

 

「どう言う意味だ!?」

 

 

何か叫んでいる人が居るけど無視だ無視。すると放送が掛かる。

 

 

『そこの生徒!何をしている!所属クラスと学年、出席番号を言え!』

 

「邪魔が入ったか・・・今日は引いてやる」

 

 

そう言って去って行くボーデヴィッヒさんに呆れながら僕も帰る事にした。ああ、面倒臭い。すると織斑達も終わりにしたのか着いて来た。そしてデュノア君が話し掛けて来た。

 

 

「ありがとう刹那。さっきは助かったよ」

 

「いや、名前・・・もういいや」

 

「同じラファールに乗る者同士としてさっきのシステム凄く気になるな」

 

「悪いけど、企業秘密さ。僕は先に行くよ」

 

 

デュノア君の言葉を無視してさっさと着替えて部屋に戻る。すると山田先生に会った。山田先生は僕に聞く。

 

 

「不動君、今からお時間ありますか?」

 

「ありますけど、どうかしました?」

 

「実は織斑君に渡す書類があるんですけど・・・どうしても外せない用事が出来てしまって」

 

「・・・渡しておきます」

 

「ありがとうございます!」

 

 

山田先生にプリントを数枚渡される。ああ、この前の小テストの補習プリントだ。織斑の成績良くなかったんだもんね。僕?クラス一位ですが何か?

織斑の部屋まで行き、ドアをノックする。返事が無かったので留守かと思ったがセシアの声が聞こえた。

 

 

----マスター、中に一人居ます。

 

----寝てるの?

 

----いえ、シャワー中ですね。

 

 

なら机に上に置いて行こう。そう思った時、

 

 

「お、刹那じゃないか。どうしたんだ?」

 

「山田先生からの頼まれ物」

 

「うっ・・・」

 

 

見せたプリントを見て織斑が苦い表情をする。自業自得だ。織斑にプリントを渡したのでさっさと帰ろうと思ったのだが、織斑にしつこくせがまれてお茶を頂く事になった。部屋に入れてもらうと織斑が思い出した様に言う。

 

 

「あ、そう言えばボディソープ切れてたんだ。シャルルに渡さないと」

 

 

そう言って織斑が浴室へと向かう。何も考えずにボーっとしていると浴室から織斑達の悲鳴が聞こえた僕は溜息を吐くと浴室へ向かう。そこには、顔を紅くする織斑と、"胸のふくらみ"を隠すデュノア君の姿があった。その二人に僕は言う。

 

 

「・・・避妊はしてよ?お邪魔しました」

 

「「ちょっと待ったァーーー!?」」

 

 

二人に止められる。そしてデュノア君がジャージに着替えた所で部屋の鍵を掛けて椅子に座る。

 

 

「それで、どうして女子の君が男子として居るのかな?デュノア君。いや、《シャルロット・デュノア》と言うべきかな?」

 

「・・・バレてたんだ。何時から?」

 

「転校初日。デュノア社のデータベースを少し覗かせてもらった」

 

「そっか。最初から掌で転がされてたんだね」

 

 

そう言ってデュノア君・・・デュノアさんは自虐的な笑みを浮かべる。唯一状況を飲み込めない織斑が声を上げる。

 

 

「それって、どう言う意味だよ?」

 

「企業スパイだよ」

 

「・・・スパイ?シャルルが?」

 

「その通りだよ、一夏」

 

 

呆れて何も言えない。女子が男子として転校して織斑にずっと接触してたんだ。そう考えるのが普通だろうに。

するとデュノアさんが織斑と僕に語り始めた。

 

 

「刹那の言う通り、ボクはデュノア社のスパイとして送り込まれたんだ。父の命令でね」

 

「何でシャルルの父親がそんな事するんだ?」

 

「ボクはね・・・愛人の子なんだよ」

 

「なっ!?」

 

「二年前にお母さんが亡くなった時に引き取られたんだよ。父の部下がやって来てね。色んな検査をして、ISの適正が高かったからデュノア社のテストパイロットをやる事になっただよ」

 

 

デュノアさんの話を黙って聞く。織斑は拳を血が出そうな位、握りしめていた。デュノアさんは話を続ける。

 

 

「父にあったのは二回位かな。会話も数回しかしてない。本妻の人に[泥棒猫の娘が!]なんて言われて殴られた時は驚いちゃったよ」

 

 

そう言って力無く笑う。その目は段々と虚ろになっていて、自暴自棄にでもなりそうだった。

 

 

「こんなところかな。一夏と刹那に話しちゃったし、ボクは本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は多分、他企業の傘下に入ると思う。・・・話したらなんだか楽になったよ。今まで騙しててごめん」

 

 

そう言って頭を下げるデュノアさん。そんなデュノアさんに僕は言う。

 

 

「君は、呼び戻された後どうなるか分かってるの?」

 

「分かってるよ。でもそれがボクの罰だから・・・」

 

「そう。ならご自由に。僕は何も言わないさ」

 

「刹那!お前シャルルの話を聞いて何も思わなかったのかよ!」

 

「別に」

 

 

怒る織斑に僕は冷静に返す。すると胸倉を掴まれた。

 

 

「ふざけんな!シャルルはずっと苦しんでたんだ!何かしてやるのが友達だろうが!」

 

「友達じゃないし。だったら白式のデータを渡してやれば良いじゃないか。ただし、君のお姉さんや山田先生がどうなるかは保障しないけどね」

 

「千冬姉達が何で出て来るんだ?」

 

「・・・自分の担当してたクラスの生徒が企業のスパイで、しかも専用機のデータを盗まれました。そんな事があったら間違いなく教師の責任にもなる。しかも盗まれた相手は教師の弟だ。たとえブリュンヒルデと云えど、何も無しって訳ではないよ」

 

「それじゃあ・・・どうすれば良いんだよ!」

 

「逐一僕に聞くな!自分で何も出来ないなら何もするな!下手に動けばいたずらに物事を面倒な方向に持って行くだけなんだよ」

 

 

織斑の腕を払う。あ、皺付いた。制服を直していると、デュノアさんが言った。

 

 

「刹那の言う通りだよ、一夏。これ以上関わったら色んな人に迷惑が掛かる。だからもう僕の事は気にしないで」

 

「そんな事出来る訳ないだろ!何か方法は・・・そうだ!」

 

 

何かを思い付いた様で、織斑は机の引き出しから生徒手帳を取り出す。そしてそこに書かれていた文章を読み出した。

 

 

「特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

 

それはこの学園の特記事項の一つであった。それを読み上げると織斑はデュノアさんに向かって行った。

 

 

「この学園にいる間は何処の国も手出しできない。少なくとも3年間は安全だ。それだけ時間があれば解決法だって見つけられる」

 

 

織斑はお得意の真剣ボイスでデュノアさんに叫んだ。

 

 

「お前は此処に居て良いんだシャルル!」

 

「一夏・・・」

 

「・・・あ、終わった?」

 

 

織斑の言葉が終わった様なので声を掛ける。いやあ、実にどうでも良い内容だった。それ位頭に入れときなよ。この態度が癪に障ったのだろう。織斑が再び僕に怒鳴る。

 

 

「お前はなんでそんななんだよ!」

 

「君の今言った事は意味を成さないからだよ」

 

「・・・」

 

 

どうやらデュノアさんは分かってるみたいだね。さてと、この馬鹿に世界の厳しさを教えますか。

 

 

「こんな薄っぺらな特記事項、意味無いに決まってる。それに彼女の意思なんて関係無く、戻されるに決まってるでしょ」

 

「そんな事ねえ!」

 

「あるんだよ。君は国家代表候補生達の立場を理解しなさすぎだ」

 

 

国家権力と言う物を知らないのか彼は?

 

 

「そもそも国が介入して来る時点で学校側はデュノアさんがスパイだって察するんだよ。そして互いに事が大きくならない内に妥協点を見つけるんだ。間違いなくデュノアさんの引き渡しだろうね。後は用事で会社に戻ったとか幾らでも言い訳の理由はある」

 

「そんな事許される訳が・・・」

 

「君は世界を単純に捉え過ぎだ。君の持論ならデュノアさんがスパイなんてする必要ないだろうに」

 

 

僕の言葉に織斑が押し黙る。僕はデュノアさんに視線を向ける。一瞬ビクッと震えてから僕を見た。

 

 

「と、言う訳だけどどうする?織斑の話に乗るならすぐにでも具体策を出さないと時間が無いよ」

 

「・・・ボクは」

 

「まあ、君がどうなろうと知った事ではないけどね」

 

「テメェ!」

 

「・・・痛いな」

 

 

織斑に頬を殴られる。口の中を切った様で、温かい感触が口から垂れるのが分かる。それを手で拭う。コイツ自分が何も言えないからって暴力に頼りやがった。

 

 

「もう良い!シャルルは俺が助ける!お前の手なんていらない!俺達の前から消えろ!二度と近づくな!」

 

「一夏!言い過ぎだよ!」

 

「シャルルは優しいんだな。でもコイツはそんなお前を見捨てようとしてるんだ。最低な奴なんだ!」

 

「一夏!」

 

 

デュノアさんの制止を振り切って僕にもう一発パンチを叩き込んで来た。口の中の血の味が濃くなったのを感じながら僕は立ち上がる。デュノアさんがそれを支えてくれる。

 

 

「大丈夫?」

 

「別に。本当に、これからどうするの?」

 

「それは・・・」

 

「何時までも周りに流されてないで自分で決めたら?」

 

「自分で・・・」

 

 

僕の言葉にデュノアさんが俯く。この子は自分で何かをしたいと言う思いが無さ過ぎる。そんなのだからスパイとか良い様に扱われるんだ。内部告発とか自由になる方法はあっただろうに。別にその父親とかに慈悲の心を持つのは結構な事だけど、そう言う類の奴らは付け上がるだけだ。

 

 

「君の人生だ。自分の手で未来を切り開け。誰かに導かれる訳でもない、君の意思で」

 

「ボクの・・・意思で」

 

「君はどうしたい?何時までも支配に怯えるか、自由に生きるか」

 

「ボクは・・・」

 

「もう出てけ!お前に話す事なんて無い!」

 

 

そう言って織斑が僕の腕を掴んで部屋の外へ放り投げる。背中を床に打ちつけて一瞬呼吸が止まる。軽く咳き込みながら立ち上がって部屋へと歩いた。

暴力沙汰になりたくないから一方的に殴られたけど、やっぱり一発入れとけば良かったな。

 

 

----刹那、ごめんね。

 

----気にしなくて良いよ。

 

 

白式の声が頭に響く。君が謝る事無いのに・・・。

 

 

----織斑だって暫くすれば事の大きさに気付くでしょ。

 

----そう、かな・・・。

 

----まあ、気長に待つさ。

 

----・・・うん。

 

 

そう言って白式との会話を切る。口の中を舌で確認すると、もう傷は塞がっていた。相変わらずの回復力だ。

すると携帯端末が震える。会長かと思って画面を見ると、デュノアさんのアドレスだった。数日前に織斑が男子同士がどうだのと言って無理やり交換させられたのだ。織斑のメアドは既にブロック済みである。内容を見た僕は行き先を屋上へと変えた。

 

 

~屋上~

 

 

「・・・織斑は?」

 

「一夏には、一人にしてって言ったよ。本人は渋々だったけど」

 

「それで?僕に何の用かな」

 

「お願いがあるんだ・・・」

 

 

そう言ってデュノアさんは僕に自身の作戦を告げた。それを聞いた僕は思わず苦笑する。

 

 

「多分行けるけど、君も大胆だね」

 

「どうかな?君達にも悪い話ではないと思うんだ」

 

「・・・良いよ。その話乗った」

 

 

僕はデュノアさんに手を差し出す。彼女も何かを決めた表情で僕の手を握った。

この日、一人の心に変革が訪れた・・・。

 

 

刹那サイド終了


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