if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第4話

刹那サイド

 

 

絶賛織斑に胸倉掴まれ中の僕は考える。

僕って何か怒られる様な事した?チラッと教師陣に目を向けると、織斑先生は大きく溜息を、山田先生は訳が分からずにオロオロしている。篠ノ之さんだけが織斑と同じ表情で僕を睨む。

 

 

「あの、本気で分かんないんだけど」

 

「お前さっきの試合、手加減しただろ」

 

「手加減?ああ、したよ。それがなにか?」

 

 

そりゃしましたさ。あれに本気を出す意味が見当たらない。それに次の相手が控えてるのに手の内を多く晒す気は無いし。

何気にこの子分析できるんだな。まさかわざと長引かせていたのがバレるとは。まあ、気付いてる人は多そうだけど。

どうやらそれを織斑はお気に召さなかったらしく、再び僕に怒鳴り付ける。

 

 

「男なら常に全力で行けよ!なのにあんな観察する様な戦い方して相手に失礼だとは思わないのかよ!」

 

「思わないね。僕にだって理由はある」

 

 

織斑の腕を強く握って、無理やり離す。乱れた制服を整えながら織斑に言う。

 

 

「僕はテストパイロットとして此処に居るんだ。国家代表候補の専用機が相手ならなるべくデータを多く取りたいに決まってるじゃないか。といっても収穫は無さそうだけど」

 

「お前企業の為だからって恥ずかしくないのかよ!」

 

「いい加減黙れよ君は!」

 

 

僕は軽くキレた。その勢いに織斑と篠ノ之さんは一歩下がる。あ、山田先生が貧血起こした!?ごめんなさい!

 

 

「君みたいに姉の後ろに隠れてるだけの脳足らずと僕とじゃ立場も何もかも違うんだよ!まともなデータも得られずに3年間経ったらただの無駄足だ!それはオルコットさんや他の代表候補生も同じ事なんだよ。自分で調べようともしない、知ろうとも分かろうともしないならもう何も喋るなこの馬鹿が」

 

「なっ・・・貴様ぁ!言わせておけば!」

 

 

どこからともなく木刀を取り出して振り下ろす篠ノ之さん。僕はそれを敢えて頭部で受けた。衝撃と共に熱い液体が体を伝うのを感じる。

それを見て顔を青ざめる篠ノ之さんと目を見開く織斑先生。頭に直撃したままの木刀を掴み、そのまま横へと投げ捨てた。脱力した篠ノ之さんの手から簡単に滑り落ちる。

カランカラン、と静かな空間に木材独特の音が鳴る。

 

 

「これで満足かい?」

 

「ち、違う・・・私は・・・!」

 

「・・・救急箱、ありますか?」

 

「あ、ああ。応急処置をしてから保健室に行くぞ」

 

「良いですよ別に。今ISでスキャンしましたけど異常はありませんから」

 

「そう言う訳には行かない。良いから行くぞ」

 

「じゃあ次の試合は僕の不戦敗って事で。良かったね織斑。君の勝ちだ」

 

「はぁ!?ふ、ふざけんな!俺と勝負しろ!」

 

「いい加減にせんかこの馬鹿者が!」

 

 

僕に掴みかかって来る織斑を先生が出席簿で沈める。

 

 

「相手は怪我人だ。もう少し考えて行動しろ」

 

 

こうして僕は織斑先生に包帯を巻いてもらった上に保健室まで着いて行ってもらった。結果は特に何もなく、傷もすぐに塞がるそうな。

保健室に来てから30分も経っていないので、待機室に戻る。僕が入ると山田先生のみがそこに居た。

 

 

「ふ、不動君!怪我は大丈夫ですか!?」

 

「はい。異常はないので次の模擬戦は出ます。それで、織斑は?」

 

「は、はい。それが・・・」

 

 

山田先生の隣に座らせてもらい、織斑とオルコットさんの模擬戦を見る。

織斑は《一次移行(ファーストシフト)》が終了した様で、純白の大きな翼の様なスラスターを装備した白式で戦っていた。

見る限り、装備は右手に装備された一本のブレードのみだった。すぐにデータを収集する。

なになに・・・《雪片弐型》?ブリュンヒルデが使ってた武装の二代目か。でもこの性能ちょっとピーキー過ぎやしないか?

そんな事を考える僕の耳に織斑達の音声が聞こえて来る。

 

 

『くそっ!近付けない!』

 

『幾ら専用機があるといえど、使いこなせなければ意味がありませんわ!』

 

『舐めるなよ!』

 

 

おお、なんか熱血してるね君達。

でも正直チャンバラしてるとしか思えない。片方射撃だけどさ。暫く経つと、織斑がビットの弱点を見つけた様で、ポンポンと斬り伏せて行く。僕の戦闘を見ていたのかそれとも最初から知っていたのか残りのミサイルの見事に両断した。

まあ前者の方なんだろうけどさ。

織斑が構えると白式のブレードが開き、エネルギーの刃が出現する。そのまま叫んで突っ込んだ。

 

 

『今度は俺が、皆を守る!』

 

『くっ・・・インターセプター!』

 

 

----勝者、セシリア・オルコット!

 

 

武装がぶつかり合う直前で放送が鳴り、二人がポカンとする。

僕と山田先生も同じような表情になっていると扉の方から声がした。

 

 

「やれやれ。自分の機体の事も分からんとはな・・・」

 

「やっぱり自爆ですか?」

 

「そうだ。白式の《ワンオフ・アビリティ》の《零落白夜》は自身のSE(シールドエネルギー)を削る事で相手のエネルギー性質を無効化、消滅させる」

 

「その前に随分と当たってましたからね」

 

「・・・情けない」

 

「まあ、僕との模擬戦で活かしてくれる事を願いましょうよ」

 

「そうだな」

 

 

そう言って織斑先生も椅子に座る。そしてピットに首を傾げながら織斑が戻って来た。自分が負けた理由が分かってないって感じだねあれは。

そんな織斑に優しく(大嘘)教えてあげる織斑先生。落ち込みながら上げた視線に僕が入ったらしく、笑顔で寄って来た。

 

 

「刹那!怪我は良いのか?」

 

「問題無いから君との模擬戦はやれるけどどうする?別に不戦敗でも良いよ」

 

「それは嫌だ。やれるんならやろうぜ」

 

「はいはい。そういえば篠ノ之さんは?」

 

「篠ノ之は指導室行きだ。立派な暴力行為だからな」

 

 

僕の疑問に答えてくれる世界最強さん。でも束の妹って扱いだからな・・・特にお咎めなしに終わりそうだ。

これ以上何か余計な事が起こる前に自分の準備に入る。また卑怯とか言われるのもアレだからエクシアのままで良いだろう。

 

 

----主殿。お体の方はご無事か?

 

----これ位どうって事ないよ。

 

----そうか。では不届き物を成敗するか。

 

----といってもすぐ終わりそうだけど。

 

 

白鋼と会話しながらデータを整理していると、織斑のエネルギーチャージが終わったらしく、僕との模擬戦になった。

ISを展開してピットから飛び出す。お互いに空中で向き合って得物を構えた。

 

 

「刹那、余裕なんてあると思うなよ」

 

「頑張れ~」

 

「行くぜ!はああああああっ!」

 

「単純。やり直し」

 

「がはっ!」

 

 

真っ正面から隙だらけの状態で来たので横に回避してGNソードで叩き斬る。落下するが途中で持ち直して向かって来る。

再び雪片弐型を振り回す織斑。僕は特に反撃するでもなく躱し続ける。

 

 

「どうした織斑。僕に余裕を出させないんじゃなかったのか」

 

「当たれえええええ!」

 

「五月蠅い」

 

「うぐっ!」

 

 

再び避けてカウンターで応戦する。

SEの残りが少なくなった織斑は遂に零落白夜を発動した。流石にあれはGNソードじゃ分が悪いかな。僕が考えている間にも織斑は猛スピードで接近して来る。

そんな織斑に僕はGNビームダガーを投げ付けた。織斑は物ともせずに両断する。その瞬間、GNビームダガーは爆散して煙が発生する。そりゃあ爆発したら、ねえ。

一瞬怯む織斑の右手に向かって、ライフルを撃ち込む。直撃した織斑はその衝撃で雪片を落としてしまう。そのまま僕は接近してGNソードで斬り伏せた。

そして勝者を告げる放送が鳴る。

 

 

----勝者、不動刹那!

 

 

こうしてクラス代表決定戦は僕の完全勝利で幕を閉じた・・・。

 

 

~夜[自室]~

 

 

「あー疲れた」

 

「お疲れ様、不動君。圧勝だったわね」

 

「見てたんですか?」

 

「ええ。生徒会長ですもの。こう言った物は自分の目で確かめる主義なのよ」

 

 

そう言って開いた扇子には[敵情視察]と書かれていた。

 

 

「この前ボロ負けでしたもんね」

 

「専用機使ってまで負ける私って・・・」

 

「まあまあ。落ち着きましょうよ」

 

「元凶がそれ言う!?しかも頭に包帯巻いて帰って来るし・・・」

 

 

僕が部屋に戻ると会長は凄く心配してくれた。事情を知っていたそうだが、聞くのと見るのでは大違いだそうだ。

そこまで心配して頂けるのはありがたい事だ。そう思っていると部屋をノックする音がする。

 

 

「はい」

 

「あの、セシリアですわ」

 

「オルコットさん?」

 

 

ドアを開けるとそこには寝巻に着替えたオルコットさんの姿があった。取り敢えず中に入れて紅茶を出す。パックだから貴族様のお口に合うかは分からないけど。何もないよりはマシでしょう。

会長は気を使ってくれたのか部屋から出て行ってしまった。なんかすみません会長。

 

 

「それで、どうしたのこんな夜遅くに」

 

「不動さん。この度は本当に申し訳ありませんでした」

 

 

そう言ってオルコットさんは頭を下げる。まさか謝罪に来てくれるとは予想外だ。

 

 

「私は男に大きな偏見を持ち、貴方達だけでなくクラスの方々にまで不快な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい」

 

「良いよ別に。これで君の認識が少しでも変わってくれるのならそれで満足さ。ほら、データは渡すよ」

 

 

僕は録音したデータをオルコットさんに渡した。これで互いに蟠りは無くなった。

そしてオルコットさんは次に僕の頭の包帯に目を向ける。

 

 

「その傷はどうしましたの?」

 

「ああこれ?転んじゃった」

 

「ふふっ。不動さんにもそう言った面があるのですね」

 

「僕だって人間なんだから失敗の一つや二つあるさ」

 

 

オルコットさんの言葉に僕は苦笑する。どうやら冷徹な機械とでも思われていたらしい。僕ってそんなに怖いのかな。

オルコットさんは僕を見てこんな事を言い出した。

 

 

「その、聞いてくださいませんか?」

 

「何を?」

 

「私が、男性に対してどうしてあの様な偏見を持ったのかを・・・」

 

「それって僕で良いの?織斑とかの方が・・・」

 

 

あっちの方が女子にモテモテだったし良いんじゃないの?イケメンだし。

いや、アレに普通の対応を求めたら駄目だな。

 

 

「いえ。この事は私の目を覚ましてくれた貴方だからこそ聞いていただきたいのですわ」

 

「そっか・・・分かった。聞かせてもらえる?」

 

「はい。お話します」

 

 

そう言ってオルコットさんは話し出した。女尊男卑に染まった世の中で、母親に腰の低い態度で接する父の姿に失望した事。そして両親が事故でなくなり、残された莫大な遺産を目当てに有権者達に言い寄られた事。遺産を守り抜く為にイギリスの代表候補に昇りつめた事。

その数分程度の言葉には彼女の歩んで来た苦悩の全てがあった。

 

 

「・・・それが、理由ですわ」

 

「話してくれてありがとう、オルコットさん」

 

「いえ。口に出したらスッキリしました」

 

「えと。こういう時なんて言えば良いのか分からないけど、良いご両親だと僕は思うよ」

 

「そう思いますか?」

 

「うん。だって女尊男卑の中君のお父さんは離婚する事なくお母さんと一緒にいたんでしょ?きっと態度はどうであれ愛し合っていたんだと思う。それになんだかんだ言って、お父さんは君に色々してくれたんじゃないの?」

 

「そう、です・・・父は、私が泣くと抱きしめて撫でてくれました。夜、雷が怖かった時は一緒に寝てくれました。何かに成功すると何時も凄いって褒めて、くれました・・・!」

 

 

オルコットさんは父との思い出を噛み締めながら涙を流す。僕は自然とオルコットさんの頭を撫でていた。やがてオルコットさんは泣き止み、顔を真っ赤にする。

 

 

「お恥ずかしい所をお見せしました・・・」

 

「気にする事ないと思うよ。人間なんだから涙は流れるものだし」

 

「そ、それでは私は失礼しますわ。また明日、"刹那さん"」

 

「・・・ん。おやすみ、オルコットさん」

 

「むぅ・・・セシリアと呼んでください」

 

「良いの?じゃあ、おやすみ"セシリア"」

 

「っ!はい♪」

 

 

元気に返事をして、オルコット・・・セシリアは戻って行った。

それから暫くして会長が戻って来て少し雑談をしてから僕は眠気に襲われた。

 

 

「さてと。今日は僕もう寝ますね」

 

「あ、ちょっと待ちなさい!また髪の毛乾かさずに寝るつもりでしょ!」

 

「うっ・・・バレたか」

 

「ほらこっち来なさい。お姉さんが乾かしてあげるから」

 

 

僕は大人しく会長の隣に座ってドライヤーで髪を乾かしてもらう。だって疲れて面倒臭いんだから仕方無いじゃないか。

鼻歌を歌いながら櫛で僕の髪を梳かす会長。なんとも楽しそうだ。

 

 

「折角綺麗な髪してるんだから気を使いなさいな」

 

「正直切りたいんですよね。でも母さんがダメって言うので」

 

「その気持ち分かるわ。普段どんなトリートメントとか使ってるのよ」

 

「シャンプーだけですけど?」

 

「はい?」

 

 

僕の解答に会長が固まる。あれ?僕変な事言った?

 

 

「そ、そんな訳無いじゃない!そのシャンプーもお高いんでしょう?」

 

「いえ。購買で売ってる安物ですけど」

 

「嘘だ!」

 

 

会長はホラーな表情で叫んで布団に包まりだした。

 

 

「どうしました?」

 

「もう不貞寝する!お休み!」

 

「えぇ・・・(困惑」

 

 

結局僕も寝ました。

夜中に会長が[みこーん!]とか、[かしこみもうす!]とか寝言凄かったけどなんとか寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌日~

 

 

「クラス代表は織斑君に決定しました!一繋がりで良いですね!」

 

「えっ・・・?」

 

 

朝のSHR。山田先生の開口一番の報告に織斑は呆然となる。そりゃそうだ。全敗だった自分がクラス代表になったのだから。織斑は山田先生に聞いた。

 

 

「あの、普通は刹那がなるんじゃ・・・」

 

「それはですn「この私が辞退したからですわ!」わ、私の台詞・・・」

 

 

山田先生の言葉を遮って、セシリアが立ち上がる。クラス中の視線が突き刺さる中、セシリアは優雅な振る舞いで説明する。

 

 

「確かに、昨日の模擬戦では刹那さんが私達に勝利しました。ですが彼はイリアステルのテストパイロットと言う使命があります。仮にクラス代表となった場合、どちらかが怠ってしまう事もあるでしょう。それはよろしくありません。それに、クラス代表は自分以外で好きに決めてくれと伝言をいただきました」

 

 

そう。僕は模擬戦の後に織斑先生に伝言を頼んだのだ。自分以外の二人が代表になる様にしてくれと。テストパイロットの仕事を優先したいし、面倒だし。

勝者の特権と言う事で決定権を次に勝ち星が多いセシリアに譲ったのだ。そしてセシリアは織斑を選んだ。

 

 

「そうなれば代表候補である私が就任するのが道理。ですが、私は自分の浅はかさを悟りました。そんな私にクラスを纏める資格はありません。ならば、世界初の男性操縦者にしてこれからに期待できる"一夏"さんになっていただくのがよろしいと考え、辞退しましたの」

 

 

そう締めくくった後、セシリアはクラスメイトに向かって頭を下げた。

 

 

「クラスの皆様には大変失礼な事を言ってしまいました。本当にもうしわけありません」

 

 

一週間前とは全く違う態度に全員が戸惑っていたが、一人、また一人とセシリアに声を掛ける。どうやら解決した様だ。

こうしてSHRが終了し、授業が始まった。

この日はISの実習の時間があったっけ・・・。

 

 

~IS実習[グラウンド]~

 

 

「これより基本的な飛行訓練を実績してもらう。織斑、不動、オルコット。試しに飛んで見せろ」

 

 

僕は腕に取り付けられた二つの金具で造られたブレスレットの内の一つ。ラファールを起動させる。

モードは会長との模擬戦で使った巨大な右拳が特徴の《ジャンク・ウォリアー》だ。モデルは嘗て父さんがガラクタの山から廃材を集めて造ったロボットである。

僕が展開を終えた後にセシリアが同じくISを纏う。未だに織斑は展開できていなかった。

 

 

----仕事してる?

 

----違うよ。単にこの子の練習不足なだけ。

 

 

白式のコアからそんな声が聞こえる。織斑先生に注意されながら、彼はようやく白式を身に纏う事が出来た。

 

 

「よし。では飛べ」

 

 

織斑先生の言葉に僕達は飛行を開始する。

背中のブースターを吹かしながら飛行する。やっぱり飛ぶのって良いね。早く宇宙行きたいな。

ゆったりと飛ぶ僕の後ろで織斑が苦戦している様なので速度を落として近付く。

 

 

「どうしたのさ。スペック的には君の方が速いだろうに」

 

「いや、空を飛ぶって感覚がいまいち分からなくてさ」

 

「一夏さん。イメージは所詮イメージ。自分がやり易い方法を模索する方が建設的でしてよ」

 

「それがまた難しいんだよ。刹那はどうしてそんなスムーズに飛べるんだ?」

 

「ん~?空を飛べるならこんな感じが良いなって思いながら飛んでるね。一度は考えた事あるでしょ?」

 

「空を自由に飛びたいな的なアレか?」

 

「コプターな道具よりも殺伐としてるけどね」

 

「刹那さんは楽しそうに空を飛びますのね」

 

「うん。こうやって普通じゃできない事を出来る事ってワクワクしない?」

 

「そうですわね♪」

 

 

手を広げて表現する僕にセシリアは笑いながら答えてくれる。それを見ながら織斑は何故か苦笑していた。

すると通信が入り、大きな声が聞こえた。

 

 

『一夏ぁ!何時までも話してないでさっさと降りて来い!』

 

「うっわ、怖い」

 

「ヒステリーはみっともなくてよ」

 

「ほ、箒・・・」

 

 

山田先生からインカムを強奪して怒鳴り散らす篠ノ之さんに溜息を吐く。何でも昨日の僕の頭に木刀をぶち込んだ件の処罰は反省文数枚で終わったらしい。

束の妹だから下手に言えないんだろう。朝に束に連絡したらモニターの向こうで土下座された。まあ、避けられる物を避けなかった僕にも責任はあるし・・・。

考えながら通信のディスプレイを見ると、篠ノ之さんが織斑先生から出席簿による打撃を喰らっていた。それから改めて通信が入る。

 

 

『3人共急降下と着地をやってみせろ。目標は地表から10センチだ』

 

「では、お先に失礼しますわ」

 

 

そう言ってセシリアは余裕な表情で着地する。流石は代表候補生。僕も負けていられないな。

 

 

「じゃあ僕も先に行くから落ち着いてやるんだよ」

 

 

織斑に軽く言ってからスピードを上げて急降下し、目標の位置で停止する。

 

 

「ふむ。あのスピードから中々の対応だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

お礼を言って、セシリアと下がった後に織斑が降下して来る。だがそのスピードは止まる事など考えていないかの様なスピードだった。なんて殺人的な加速だ(子安感)

予想通り織斑は地面に激突して大穴を開けた。ISの防御があるから怪我はないだろうけど。そんな事お構いなしに篠ノ之さんは大穴へと入って行く。

恋する乙女は大変だねぇ。本人は気付いていないと思ってるみたいだけど、クラス全員が君の織斑に対する恋愛感情に気付いてるよ。

 

 

「大丈夫か一夏!?」

 

「あ、ああ。なんとか・・・」

 

「地面に穴を開けおって、この馬鹿者が」

 

「す、すいません・・・」

 

 

織斑先生の態度にタジタジする織斑。その後は特に何もなく授業が進み、終了のチャイムが鳴った。

 

 

「今日はここまで!織斑はグラウンドを片づけておけ」

 

「わ、分かりました」

 

 

疲労困憊の織斑を余所に、クラスメイト達は更衣室へと戻って行く。僕も行こうと歩き出した瞬間、肩を掴まれた。予想するまでもなく織斑だ。

 

 

「なあ刹那。手伝ってくれよ」

 

「なんで?僕だって次の授業の準備があるんだけど」

 

「友達なんだから助けあうのが普通だろ?」

 

「君と友達になった覚えは無い。それなら篠ノ之さんとかに手伝ってもらいなよ。幼馴染なんでしょ?」

 

「こういうのは男の仕事なんだから俺達でやるべきだろ」

 

「なんで僕を頭数に入れるんだい?とにかく離せ!」

 

「あ、おいっ!」

 

 

手を跳ねのけて更衣室へと向かう。後ろで何か聞こえるけど無視だ無視。結局織斑は次の授業にかなり遅刻して出席簿の餌食になっていた。

 

 

~放課後~

 

 

『織斑君クラス代表おめでとう!』

 

 

クラスの女子達の声と共にクラッカーの音が軽快に鳴り響く。食堂の一角を貸し切ったそこには、[織斑一夏クラス代表就任パーティー]と書かれた紙と食べ物やお菓子、ジュースなどが並べられていた。

 

 

「おぉ・・・!皆、ありがとな!」

 

 

で、出たー!織斑のイケメンスマイル!これにはクラスの女子達もメロメロだ。お菓子を食べてボーッとしているのほほんさんと紅茶を飲むセシリア。超不機嫌な篠ノ之さんを置いての話だけど・・・。

何処から聞き付けたのか他クラスの女子も混ざっている様だ。どうにか織斑とお近付きになりたいみたいだけど篠ノ之さんのガードが固くて無理みたいだ。

その光景を遠巻きに眺めながら僕はオレンジジュースを口に含んだ。すると後ろから声を掛けられる。

 

 

「貴方が、不動刹那ね?」

 

「えっと、どなたですか?」

 

 

自分のクラスではない薄紫の髪をツインテールにした女子生徒が僕に話し掛けて来た。なんかこう、大人な雰囲気だな。

 

 

「私は2組の《藤原 雪乃》よ。よろしくね、坊や」

 

「どうも、よろしく」

 

 

握手を求められたので返す。坊やだなんて舐められてる気がするけど気にするだけ面倒だ。握手を終えると藤原さんは僕の隣へ座る。

 

 

「ねえ、私と模擬戦してくれないかしら?」

 

「別に良いけど、何故急に?」

 

「私は強い男に魅かれるの」

 

「・・・んっ」

 

 

そう言って藤原さんは僕に近付いて来る。そして僕の頬に手を添えて軽く撫でる。くすぐったさに声を上げる僕を妖艶な笑みで見つめる。

 

 

「普段は可愛らしいのに、ISに乗った時はあんなにも強い。私は貴方の全てが知りたい。そして、私に相応しい男であれば・・・」

 

「それだったら織斑の方が良いよ。イケメン出し、男らしいじゃないか。正々堂々って感じで」

 

 

面倒事の匂いがしたので、織斑へ押し付ける。なんか嫌な予感しかしないんだよねこの人。

僕の言葉を聞いて藤原さんは笑みを深めた。

 

 

「彼は私の心を動かす物が無かったわ。でも、貴方にはそれがある。だから、私と戦って・・・そして、全てを見せて」

 

 

そう言って顔を近づけて来る。そして唇同士が触れ合いそうな距離で、

 

 

「な、何をしていますの!?」

 

「あら、残念♪」

 

 

そう言って藤原さんは僕から離れて食堂から出て行く。

 

 

「またね、坊や。戦える日を楽しみにしてるわ」

 

 

ウインクをしながら彼女は廊下へと消えて行った。なんだったんだあの人は・・・。

 

 

「・・・織斑に押しつけられなかった」

 

「刹那さん!あ、あの方と何をお話していらしたのですか!?」

 

「何か模擬戦してくれだって。なんでも強い男に魅かれるらしい」

 

「そ、それってもしかして・・・!」

 

「どうしたの?」

 

「何でもありませんわ。さあ、こっちで一緒に食事でもしましょう」

 

「そうだね。何食べようかな~♪」

 

「あちらにチョコレートがありましてよ」

 

 

僕とセシリアは皆の元へ行って、料理を食べる。うん、美味しい。食べる量自重しようかと思ったけど皆が僕の更にドンドン盛ってくれるから遠慮なくいただきます。

食べ進めて行くと、カメラを持った女子生徒が話し掛けて来た。あの人先輩か。

 

 

「はいはーい。新聞部の《黛 薫子》でーす!話題の新入生の織斑一夏君と不動刹那君に突撃インタビュー!」

 

 

そう言って僕と織斑の前でメモ帳を取り出す。

 

 

「では織斑君から。クラス代表になったんだから一つ、意気込みを!」

 

「えーと・・・なんというか、頑張ります?」

 

「普通だなぁ。こう、俺に触れたら火傷するぜ的なのとかさみたいなの欲しいな」

 

「自分、不器用ですから」

 

「うわっ、前時代的すぎ。まあ後は適当に捏造しておくから良いか」

 

 

うわぁ、ダメな人だ。

次は自分かと気を重くしていると、予想通り相手の視線が向けられる。

 

 

「ではでは!あの不動博士の息子さんである不動刹那君にも色々聞いちゃおっかな!」

 

「僕で答えられる範囲であればどうぞ」

 

「それじゃあ、君のスリーサイズは?」

 

「ノーコメント!?」

 

「次に好きな髪型は?」

 

「えぇ・・・ロング?かな」

 

 

いきなり何を言い出すんだこの人は。自分のスリーサイズとか分からないし。それに織斑と全然質問内容が違うじゃないですかヤダー!しかもクラスの何人かが落ち込み始めたし。セシリアは何を喜んでいるんだい?

 

 

----この女、殺りますか?

 

----斬首あるのみ、だな。

 

----そ、それは可愛そうだよ~!

 

 

セシア、白鋼に続いてほわほわした声が頭に響く。この声の主こそ僕のラファールのコアの人格だ。人見知りであまり話そうとしない子なのだが、若干声が本気だったセシア達を慌てて止めに入ってくれた様だ。

 

 

----二人共落ち着いて。それとラファールはナイス。

 

----へうっ!えへへ・・・。

 

----また点数稼ぎですかラファール!

 

----ネットワーク裏に来い。話をしよう・・・。

 

----ち、違います!マスタぁ~!

 

----やめい。

 

 

今日も賑やかなコア達の会話に溜息を一つ。会話が聞こえているのは僕だけ。よって、世界はそんなのお構いなしに進んで行く。

 

 

「じゃあ、不動君は今2,3年生の間で人気だけど」

 

「ちょっと待って。僕が人気?」

 

「うん。だって同室の先輩の服にアイロン掛けてあげたり、お弁当作ってあげた事もあったのよね?」

 

「会長の事ですか。確かにありましたね」

 

 

なんて事は無い。会長に訓練を付き合ってもらったお礼をしたかったから食堂の厨房を借りてお弁当作ったり、制服にアイロン掛けたり部屋掃除しておいたりしただけなんだけど。

 

 

「それと人当たりの良さから、1年の良妻賢母って言われてるのよ」

 

「嬉しくないなぁ、その呼び方」

 

「そんなお嫁にしたいランキング一位の不動君!今後の意気込みをどうぞ!」

 

「そのランキングを奈落にぶち込みたいのですが?」

 

「気にしない気にしない!」

 

「・・・イリアステルのテストパイロットとして自分の仕事を全うしたいですね。後は、同じ男として織斑には負けたくないです。捏造はしないでくださいね」

 

「はいはいどうもいただきました!後は[僕をお嫁さんにして♡]とでも入れておけば完璧ね!」

 

「言った矢先にそれかい!?」

 

 

僕の言葉をのらりくらりと躱して、セシリアに声を掛けた。

 

 

「それじゃあ、セシリア・オルコットさん!今回、貴方にクラス代表の決定権が渡ったと聞いたけど、どうして織斑君に?」

 

「それはですね!私の失言から全てg「あ、長くなるならいいや」なんですの!?」

 

「最後に代表候補と男性操縦者で写真を撮るから寄って寄って」

 

「わ、分かりましたわ」

 

 

そう言うとセシリアは僕の腕を掴んで一緒に立ち上がった。それから僕の手を一向に離さない。

 

 

「良いよ良いよ!そのまま笑顔行ってみようか!」

 

 

言われた通りに笑顔を作る。ふっ・・・常日頃母さんやセシア達に写真を撮られている僕には容易い事!

 

 

「それじゃあ行くよ~」

 

 

そう言ってカメラのシャッターが切られた瞬間、僕達の周りにクラスが全員集まった。

 

 

「あ、貴女達ねぇ・・・!」

 

「オルコットさんだけずるいよ~」

 

「そうそう。私達も織斑君や不動君とツーショットとか欲しいもん」

 

「ツーショット一枚2000円からでどう?」

 

「「買ったぁ!」」

 

「僕達が撮られる事確実ですか?」

 

 

結局この後、取り分の6割を貰うと言う条件でツーショットを許可しました。そこそこお小遣いが潤ったのは良かったと思う。

パーティーも終わり、夜風に当たってから校舎に戻ると声が聞こえた。

 

 

「もーっ!総合事務受付って何処よ!」

 

「あの・・・お困りですか?」

 

「え、うん!総合事務受付が分からなくて」

 

「それなら案内しますよ」

 

「ありがとう!貴方、もしかして不動刹那?」

 

「はい。貴女は?」

 

 

僕が聞くと、少女は笑顔で自己紹介をした。

 

 

「私の名前は《鳳 鈴音(ファン・リンイン)》!よろしくね」

 

 

刹那サイド終了

 

 


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