刹那サイド
就寝して翌日、僕達は荷物を持って寮から出発した。これから始発のモノレールで学園島を出て、父さん達と合流して祖父の家へと向かう。
既に大切な荷物は父さん達に預けて来ているので、最低限の荷物を持って歩く。シャロが楽しそうな笑みを浮かべて話し掛けて来た。
「ねえねえ。刹那のお爺さんの家って都会から離れてるんだよね?」
「うん。まあ、控えめに言ってド田舎かな。電波は通るけど、コンビニはすぐ閉まるし公共機関も一日に2本位しか通らないね」
「そうなんだ。ボクがお母さんと暮らしていた所もそんな感じだったよ」
「へえ。シャロの暮らした所か・・・ちょっと気になるな」
「何時か一緒に来てよ。お母さんにも会ってほしいんだ」
「シャロ・・・分かった、必ず会いに行こう」
「約束だよ」
そのまま進んでいると、僕達の目の前をランニング中の織斑と篠ノ之さんが通った。僕達を見て織斑が足を止める。
「あれ?刹那達、皆で何処に行くんだ?」
「祖父の家。それよりも君の連れが待ってるんだからさっさと行きなよ」
「ちょっとくらい平気だって。刹那のお爺さんか・・・俺も会ってみたいな」
「老人にストレスを与えるな。それじゃ」
僕達はその場を早足で通り過ぎる。後ろから織斑とそれに対して怒鳴りつける篠ノ之さんをシカトして駅を目指す。
そのままモノレールに乗り込み、島の向こうへと向かった。道中、ディスプレイを開いて"ある物"に必要なデータを入力して行く。
「刹那、さっきから何をしているんだ?」
「今日、僕の知り合いが来るって話はしたよね」
「うむ。確か、刹那のゲーム仲間だったな」
「あの人達には何かとお世話になってるからちょっとしたお礼だよ。この小旅行を楽しんでもらう為の贈り物さ」
データを入力し終えた頃には、目的地へと到着した。モノレールを降りて駅に出た僕達の前には、一台の小型バスが止まっていた。イリアステルのマークの付いたそれは会社特性の防弾機能付きの凄いバスである。
その防御力は、計算上であれば鈴のISである甲龍の龍砲すら無傷でいられる強度である。
「おはよう皆。さあ、乗ってくれ」
「おはよう父さん。和人達ももう乗ってるの?」
「ああ。二人共楽しみにしてくれている」
父さんに挨拶をして、バスに乗り込む。助手席には母さんが座っていた。
「おはよう、母さん」
「ええ、おはよう。皆もおはよう」
「あ、あの!おはようございます!シャルロット・デュノアです!」
「貴女がシャルロットちゃんね。刹那達から話は聞いているわ。夏休み中は、ゆっくりして行ってね」
「はい!」
シャロが元気良く返事をして、他の皆も挨拶を済ませる。そして奥へと進むと、席にはクロエと二人の男女が座っていた。一人は、前に電話をした《桐ケ谷 和人》。もう一人は和人の彼女である《結城 明日奈》さんである。
クロエと談笑する明日奈さんを余所に和人は気まずそうな表情をしていた。
分かるよその気持ち。ガールズトークに男一人って辛いよね。
「刹那様、おはようございます」
「おはよう、クロエ。和人に明日奈さんもおはようございます」
「おはよう。今回は誘ってくれてありがとな」
「今日から数日間、よろしくね刹那君」
「はい。二人共、思う存分イチャイチャしちゃってください」
目の前のカップルに微笑んで席に座った・・・所で和人が僕の隣に席を移した。そして僕にひっそりと言って来る。
「それで、今回の旅行を提供する代わりに俺に恋愛相談をしろと?」
「頼むよ。僕の周りで彼女持ちなの、君位しかいないんだ」
「まあ、その案を飲んだからな。責任は取るさ」
「ちゃんと二人きりになる様にセッティングするよ。部屋割は僕と相部屋で勘弁だけどね。流石に祖父の家で盛られても困るし」
「しないぞ・・・多分」
「説得力の無さ」
目を逸らす和人に呆れる。すると、視線を感じたのでチラッと見る。そこには頬を膨らませた明日奈さんがいらっしゃった。
「刹那君・・・そろそろ和人君を返して欲しいな」
「できればこの移動中は待ってもらえませんか?男同士、盛り上がる話もあるので」
「私もやっと和人君と二人になるチャンスが出来たんだもん。譲れないよ」
「あの、本当に勘弁してください。この相談に人生掛かってるんです。本当に頼みます」
「ねえ、和人君?君は、私と刹那君のどっちが大切なの?」
「そこでキラーパス!?」
驚きながらも和人は明日奈さんの所へと戻ろうとする。片や僕も和人の袖を掴んで見上げて言った。
「和人・・・僕と、いて?」
「・・・可愛い」
「あ゛?」
「なんでもないです明日奈様っ!」
敬礼をして戻ろうとする和人に今度はしがみ付く。本気で向こうに着いたら聞く時間の無い可能性が大きい。だから今此処で逃すわけにはいかない。
「お願い和人、何でもするから見捨てないでよ。責任、取ってくれるんでしょ」
「和人君、今のどういう事?」
「待って。待ってくれ。確かに責任は取ると言ったがそう言う意味じゃない。てか刹那は男だぞ!?変な事はしないって」
「それは刹那様には魅力が無いと?どうやら命が惜しくない様ですね」
「クロニクルさんはその銃何処から出した!?死ぬから!」
「安心してください。エアガンを特殊改造した物ですから、精々厚さ数十ミリの鉄板を貫通するだけです」
「だから死ぬからソレ!?SAOの時より命の危険を身近に感じるんですけど!?」
「それに貴方が365日メモデフやってた事は分かってるんです。大人しく撃たれてください」
「メモデフって何!?ヤメロー!シニタクナイ!シニタクナーイ!」
カオスな空気になっている中、バスは発進したそれから騒動が一通り収まるまでに30分程掛かった。
~30分後~
「・・・最初から明日奈も一緒に聞けば良かったじゃないか」
「そうでした」
「刹那君、モテモテだね」
「あの、頭撫でないでください」
あれから事情を聞いた明日奈さんがニコニコして後ろの席から僕の頭を撫でる。
何気にこの人とは小学校時代からの付き合いでもある。そこまで仲が良い訳では無いが、パーティー等で度々会っていたのでメアドの交換位はしていた。
流石にこの人がSAO事件に巻き込まれていると知った時は驚いた。まあ、僕にとっても姉の様な人で、この人にとっても弟の様な扱いだ。
「それで、お二人には色々と教えていただきたいんですよ」
「でも、プラン建てるのは向こうなんだろ?それだったらドンと構えて居れば良いじゃないか」
「そうなんだけどさ・・・皆、僕に好意を持ってくれている訳だし僕もなるべく誠意を持って答えたいんだ。でもそういう事には疎いから、恋愛真っただ中の二人が唯一の希望なんだよ」
「真面目だなー、お前」
「分かって無いなあ、和人君は。確かに刹那君は総受けってイメージが強いけど、こうやって自分から動こうと努力するからそこに皆惹かれるんだよ。何時までも鈍感主人公な誰かさんとは違うんだよ?」
「あれ?なんか言葉の所々に棘を感じるぞ?」
「いや、総受けのイメージの辺りについてちょっと聞きたいんですけど?」
「聞くも何も、皆刹那君は総受けのイメージだよねって。《和×刹》は常識だよ?」
「そんな常識今すぐ捨ててくださいお願いします」
だから僕の同人誌なんかが世に出るんだ。
目からオルフェンズな涙を流しながら項垂れる。尚、明日奈さんの手は止まる事は無い。
暫くすると、シャロが話し掛けて来た。その表情は焦燥感に満ちていた。
「せ、刹那。クロニクルさんが婚約者って本当?」
「本当だよ。僕も最初は驚いたけど、まあ慣れた」
「適応能力高過ぎない!?」
「そんな事無いよ。だって結婚に関してはちょっと躊躇いあるし」
「そう!それだよ!」
「シャロ、朝からテンション高いね」
「そうでもしないと着いて行けないんだよぉ・・・!」
「な、なんかすみません?」
取り敢えず謝る。その後、シャロもデートに参加すると宣言した事で僕の不安が一層増した。
「刹那、強く生きろ・・・!」
「これは和人君より凄いかも・・・」
「どうしろと?これ以上僕にどうしろと!?」
つまり僕はずっとシャロに好意を向けられていたって事?まあ、異性として少しは意識されてるかなって思った事はあったけどまさか恋愛感情まであったとは・・・。
僕って本当に何処でフラグ建てた?
----大体いつもですよね。
----なにせ父親が一級絆建築士だからな。
----そういうDNAを持ってるんだね。
脳内に失礼極まりない声が響く。そんな僕が女たらしみたいな言い方しないでほしい。
そう言うのは織斑の役目だろうに。アイツがヘラヘラと笑顔浮かべて、適当にIS乗って俺が守る的な事言えば周りの馬鹿共はすぐ堕ちるんだから。
ああ、鈴に失礼か。篠ノ之さん?勝手に滅びろ。
「ああ、悩んでたらお腹空いた。朝から何も食べてないんだ」
「ほら、刹那のお袋さんから弁当預かってる」
「ありがと。いただきます」
「皆の分もあるからね」
遅めの朝食を口に入れる。十数個の握り飯と、重箱に敷き詰められた卵焼きや焼きウインナー等のおかずに満足感を感じながら朝食を終えた。
「ごちそうさまでした」
「相変わらずの食欲で安心したよ」
「食べるのが趣味みたいなものだからね」
「前に賞金貰える大食いラーメン10杯以上食べたもんな」
「でも賞金はいらないからタダにしてって言ったよ僕」
「作る量半端ないから店主泣いてたぞ」
「それは誘っちゃった私にも非があるかなぁ」
明日奈さんが遠い目で外を見る。当時、明日奈さんと和人に大食いラーメン行ける?と誘われたので、奢ってもらう条件下の元着いて行って平らげてやったのである。
だって店主がガキには無理とか言って来るから。いやあ、最初に言われた制限時間内に6杯完食してやった時の店主の顔と来たらまあ。
「また行こうか」
「「やめたげてよぉ!」」
和人達に涙目で止められたので、今度は4杯で勘弁してやろうと思った。
そうこうしている内に、車は山道へと入っていた。
「さて、向こうへ着く前にプレゼントタイムと行こうか」
「プレゼント?」
「今回のお礼の一部みたいなものだから」
僕はバッグから、正方形の箱を取り出す。そしてそれを開けると、中には妖精の姿をした手乗りサイズの少女が目を閉じて座っていた。それを見て、和人と明日奈さんは目を見開いた。
「お前コレ・・・ユイ、なのか?」
「そ。明日奈さん、ユイちゃん連れて来ました?」
「う、うん。今は寝ちゃってるけど」
「あー・・・じゃあ後にした方が良いかな?」
『いえ、大丈夫ですよ』
「おはよう、ユイちゃん。起こしちゃった?」
『ついさっき起きたばかりなので大丈夫です』
明日奈さんの端末から子供の声が聞こえた。その正体は、和人がALO内でナビゲーションピクシーとして行動を共にしている《ユイ》ちゃんであった。まあ、この子も色々と事情があるのだが、語ると具体的にアニメ二、三話分掛かるので遠慮させていただく。
ちょっと特殊な彼女はこうして端末の中を移動出来る。
今日はそんな彼女へのプレゼントも兼ねている。
「その端末貸してもらえますか」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
僕は端末と、箱の中身の手乗りユイちゃんの首筋にプラグを差し込んで最終作業に入る。
「ユイちゃん、後は君がこの素体に入れば完成だよ」
『もしかして・・・!』
「それは入ってみてからのお楽しみだよ」
『はい!ユイ、行きまーす!』
そう言ってユイちゃんの声が端末から消えた。そして箱の中のユイちゃんがゆっくりと目を開ける。そしてゆっくりと辺りを見回してから、手を開いたり閉じたりして感触を確かめる。
「わ、私・・・」
「ユイ!」
「ユイちゃん!」
「パパ!ママ!」
和人達は箱からユイちゃんをそっと持ち上げ、涙を浮かべながら抱きしめる。ユイちゃんの方も涙を流して二人の頬に精一杯抱きついていた。
ふと後ろを見ると、事態を理解して居ないのか全員がポカンとしていた。うん、説明しなくてゴメン。
でも和人がキリトでキリトが和人でウィーアーッ!って事を説明しないといけないからちょっと怖い。せめてそれは本人の口から言ってもらおう。
「さてと、ユイちゃん。感動のシーンを邪魔するのは気が引けるけど、不具合とかは無い?」
「あ・・・大丈夫です。普段と同じくらい体に馴染んでます」
「そっか。いやあ、良かった」
「刹那。この素体は・・・」
「ふっふっふ・・・よくぞ聞いてくれました!」
質問して来た和人や、皆の視線に僕はちょっと楽しくなって来た。
「ユイちゃんのその素体は、僕が自己流に開発した小型アンドロイドさ!」
「アンドロイド・・・マジか!?」
「マジだよ。それも食事や涙を流す事も可能な高性能アンドロイドの素体に、人間に近い感触と人工皮膚を使って更にリアルにしたんだ。それだけじゃなく、ISの技術も応用して空を飛ぶ事も可能だよ」
「ごめん刹那君。貰った私達が言うのもアレだけどコレはもうプレゼントの枠に収まらないと思うの」
「でも制作は一週間ちょいで、時間が開いた時に少しずつで済みましたし気にしないでください」
「それでこの完成度かよ・・・」
「パパ、本当に飛べますよ!ほら!」
そう言ってユイちゃんは楽しそうに和人の周りを飛び回る。それを後ろの皆は可愛いと連呼しながら見つめていた。
それに気付いた和人が溜息を吐く。
「やっぱり言わなきゃ、か」
「僕もこの前口滑らせてクロナだってバレちった♪」
「お前何度も言ったのに・・・」
「だって相手が普通に教えて来たから反射的につい、ね?」
「・・・次は気を付けろよ」
「了解です」
僕の返事を聞いてから和人は苦笑して後ろの皆に言った。
「えっと、取り合えず説明させてくれ」
~30分後~
「・・・それで、今に至るって話だよ」
和人が説明を終えると、女子達はキャッキャッと騒ぎ出す。SAO内でラブロマンスしてた二人にテンションが上がってる様だ。まあ、思春期の女子高生ならそう言う話題は好きなんだろうなと思う。
・・・しかもそのベクトルが僕に向いてるとか。僕って思ってるよりも幸せ者なのかもしれない。
----前世が前世でしたし、これ位は良いのでは?
----私達は話しか聞いていないが、主殿はもっと欲張っても良いんだぞ。
----うん。もっと欲しがっても良いと思うよ。
----そういうもんかね?
セシア達の声に応えながら楽しそうにする皆を見る。ああ、この時間がずっと続けば良いのに・・・。
----あの馬鹿姉弟にまた会いますからね。
----新学期は地獄だぞ。
----そろそろ白式も裏切っちゃえば良いのに。
マジで夏休み終わらないで・・・!
珍しく毒を吐くラファールに頬を引き攣らせながら僕は空を見上げた。ああ、空はあんなに青いのに・・・。
「・・・寝よ」
僕は不貞寝する事にした。
刹那サイド終了
三人称サイド
刹那達がバスの中に居る頃、ISコア達の憩いの場と化している空間では他のコア達が話をしていた。
『あーあ。私も刹那達と旅行に行きたかったな~』
『それはこの場の全員が同じ考えですよ。皆さん、紅茶のお替りはいかがですか?』
『あ、欲しいな』
愚痴る甲龍をティアーズが宥めながら白式のカップへと紅茶を注ぐ。暫くすると、この空間へ控えめに入室して来た人物がいた。
赤い髪の少女が周りを見ながら来る。
『あの・・・不動様はいらっしゃいませんよね?』
『いないよ~。いい加減《紅椿》も普通に来れば良いのに。別に刹那は君に怒ってる訳じゃないんだからさ』
『で、ですが・・・福音との戦いであの方に剣を向けてしまったのは確かですから』
『それだったら私だって馬夏が迷惑かけてるよ』
『この前のリンチは笑ったね』
『趣味が悪いのは分かっていますが、あの時ばかりはスッキリとしましたね』
甲龍達は、夏休み前の事を思い出しながら紅椿のコア人格を歓迎する。
紅椿のコア人格である少女は、刹那に謝罪をしたかったのだが勇気を出せずにこうして刹那の居ないタイミングにやって来るのだ。
そして紅椿の後ろからもう一人やって来た。入って来たティアーズと同じ金髪の女性は、シャルロットと瓜二つの顔で微笑む。
『皆さん、こんにちわ』
『やっほ~、シャルロットのお母さん。今は、ラファールのコア人格さんかな?』
『それだと刹那君のラファールちゃんと被っちゃうから、前者の方で良いわよ』
そう言ってシャロの専用機・・・否、シャロの母親は微笑んだ。
何故こうなったのかと言うと、話はシャロが転校して来る少し前に遡る。シャロの母親は、自分が死んだ後も意識があった。ただし、その体は幽霊になっていた。
そしてシャロの後ろにずっと憑き、見守っていたある日の事だった。シャロの使っていたラファールが訓練の負荷で破損し、コアに異常が生じた。その際に、シャロの母親はチャンスと思い、破損した事で消滅したラファールの本来のAIにすり替わったのだ。
憑依と言う裏技を使って・・・。
『そろそろ刹那にネタバレする頃じゃない?ほら、シャルロットも刹那に乙女の宣戦布告した頃だし』
『そうね。一度言われてみたかったの。[娘さんを僕にください!]みたいな事』
『言わなくてもあげるつもりでしょ?』
『勿論よ。あの子、凄く優しい子だもの。私もあと10年若かったら間違いなく落ちてたわ』
『此処に居る全員はもう落ちてるけどね~』
そう言って甲龍は頬を染めながら笑う。ティアーズ達も同じ表情で黙り込んだ。
『そういえば、篠ノ之博士は旅行へ来なかったのね』
『あの人はコミケだから。人気サークルだから新刊落とす訳にもいかないしね』
『最早、あの天災の欠片もありませんね』
『でも今の方が私は好きだよ』
『それは此処の皆がそうだと思います』
白式と紅椿の言葉に全員が頷く。最初の頃の束の性格を知っているコア達はその変わり様に、改めて人の影響力を感じた。暫く話し込んだ後、ふと白式が思いだした顔をした。
『ねえねえ。モンドグロッソで刹那が優勝した時に貰えるコアってどんな子かな?』
『白式ちゃん、あの人は最初からコアを渡す気なんてないわよ』
『・・・どゆこと?』
『簡単に言えば口実作りだよ~』
『ああ、なるほど』
シャロの母と甲龍の言葉に白式は納得が行った。つまりはダミーのコアを渡す事で、セシアがもしも世間に露見しても大丈夫な様にする為だ。
モンドグロッソで優勝すれば、その立場を利用して融通を利かせる事が出来るようになる。そうすれば表立って宇宙への進出を目指せるかもしれないのだ。
『まあでも他の所と共同で作業する気は無いみたいだけどね』
『技術だけ狙って来る輩しか居ないからでしょ』
『篠ノ之束と不動刹那の共同研究・・・世界を動かすレベルの話じゃない』
二人のチート具合に戦慄しながら、コア達はゆっくりと過ごしていた・・・。
~フランス[とある一室]~
フランスの一室で一人の男が悪い笑みを浮かべてパソコンの写真を吟味していた。大統領その人である。
「クフフフ・・・彼の写真は面白いものばかりだね」
画面に映されたのは、メイド服や、和服。日本で流行っている魔法少女系のアニメのコスプレ衣装に身を包んだ刹那の写真だった。彼は刹那の罰ゲームに向けて、写真集を絶賛制作中である。勿論、仕事はサボった。
「・・・本当にいい加減仕事してくださいませんか?」
「まあまあ、良いじゃないか」
「どうせ、彼が負けるとは思って無いんでしょう?」
「当然。流石のシェリー君も勝てないだろうね」
「なら何故、仕事を放り投げてまで無駄な事してるんですかこのナチュラルサイコ野郎。・・・失礼、クソジジイ」
「君、段々と口が悪くなってないかい?まあ、理由は一つだよ」
「・・・まさか」
秘書の引き攣った顔に大統領は口角を吊り上げて言った。
「そう!優勝して、幸せの余韻に浸っている所でこの写真達をばら撒くのさ!なに、ちょっとしたサプライズだよサプライズ。後で侘びとしてビックリマンチョコでも送るさ」
「それで思春期の心の傷を癒せるとでも思ってんのかジジイ」
「冗談だよ。まあ、高級フレンチを満足するまで奢るさ。いやあ、本当に彼は面白いなあ!こんなにも楽しめるのなら食事代なんて安いものさ」
「また国家予算に手付けるの止めてくださいよ。前回、奥様に筋肉バスター掛けられてお尻ペンペンされたの忘れたんですか?」
「忘れる訳無いだろう。アレは私のトラウマだよ。全く・・・ちょっと国家予算で課金しただけなのに」
「人の血税をソシャゲに貢ぐとか勘弁してくださいよくだらない」
「うるさいな。ゾーイが出ないのが悪いんだよゾーイが」
「日本に染まり過ぎだろアンタ」
相変わらずのゴーイングマイウェイぶりに溜息が止まらない秘書であった・・・。
こうして刹那の預かり知らぬところでとんでもない不幸が進んで行く。
三人称サイド終了