if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第2話

三人称サイド

 

 

時は流れ、数か月。月も4月になり、新たな出会いが始まった。

そこはとある学校の教室。そこに一人、机に座り俯いた少年が居た。下から視線を移さない彼は心の中で呟く。

 

 

「(き、気まずい・・・!)」

 

 

そんな彼のストレスの理由はその周囲にあった。自分をひたすらに見つめて来る"大量の女子の視線"である。それもその筈。なにせ彼はあの"初のIS男性操縦者"なのだから。

その名は《織斑 一夏》。高校入試で道に迷い、間違えて入った部屋でISに触れ、起動させてしまったのだから。

それからは物事がスピーディーに進み、気が付けば現在の教室がある《IS学園》に入学する事になっていた。当然の如くISは女性にしか動かせない。よって彼の周りには女生徒しかいないのだ。これまでの経緯を思い出して溜息を吐きながら一夏はチラリと左を見る。その先に見えたポーニーテールの少女は視線に気付くとすぐに違う方向を向いてシカトを決め込む。

 

 

「(そ、そりゃないぜ)」

 

 

昔ながらの知り合いにして、実に6年ぶりの再会であった少女の反応に彼は再び重い溜息を吐く。そんな中、教室のドアが開き、緑色の髪をした女性が入って来た。なんとも頼りない雰囲気の彼女は元気よく声を出す。

 

 

「おはようございます!私はこの1年1組の副担任を務めます《山田 真耶》です。1年間よろしくお願いしますね!」

 

 

山田と名乗った教師の言葉に誰も反応はせず、静寂に包まれた。泣き出したい気持ちを抑え、なんと続行する。

 

 

「そ、それじゃあ出席番号順に自己紹介をお願いしますね」

 

 

そうして番号順に各々が自己紹介を始める。だが、その視線はさり気無く一夏の方へ向かっており、彼の緊張を加速させる。自分の事で精いっぱいの彼にそんな物は聞こえてはいなかった。

やがて一夏の番になり、それに気が付かない一夏。それに対し、教師である真耶が恐る恐る声を掛けた。

 

 

「織斑君?織斑一夏君!」

 

「は、はいっ!?」

 

 

頭が再起動し、顔を上げるとそこにはオドオドした何とも頼りない教師の姿があった。

 

 

「あ、あの、大声出しちゃってごめんなさい。怒ってる?怒ってるのかな?ご、ごめんね?でもね自己紹介が《あ》から始まって今《お》の織斑君の番なんだよね。だから自己紹介してくれるかな?だめかな?」

 

「そ、そんな謝らないでください!?自己紹介しますから!」

 

「本当ですか!?本当ですね?や、約束ですよ?」

 

 

真耶の言葉に苦笑しながら席を立つ。すると彼に先程とは段違いの視線が突き刺さる。顔が青くなるのを自覚しながら呼吸を整え、声を出す。

 

 

「織斑一夏です・・・」

 

 

その次には何を言うのか?真耶すらも真剣に見つめて来る中、彼の出した答えは・・・、

 

 

「・・・以上です!」

 

 

それだけだった。クラスの全員が新喜劇の様にズッコケ、更に気まずさが加速する。どうしたものかと悩む彼の頭上に突如、出席簿が炸裂した。

 

 

「お前は満足に自己紹介もできんのか!」

 

「げぇ!?関羽!?」

 

「誰が三国志の英雄か!馬鹿者!」

 

 

再び出席簿で頭を叩かれる。出席簿の持ち主である女性に真耶は話しかけた。

 

 

「織斑先生、もう会議は終わったんですか?」

 

「ああ。待たせた上に挨拶まで押しつけてすまなかった」

 

「ち、《千冬姉》!?」

 

「此処では織斑先生だ!」

 

 

三度目のアタックを決めて、一夏と同じ織斑と呼ばれた女性は真耶と入れ替わって教壇に立つ。そして冷たい目で生徒達にこう言った。

 

 

「諸君、私がこのクラスの担任を務める《織斑 千冬》だ。君達新人を一年で使える様にするのが私の仕事だ。私の言う事は絶対だ。聞けない奴はみっちり扱いてやるからな。覚悟しろよ、素人共」

 

 

独裁者の様な自己紹介を済ませた千冬に対し、一瞬の静寂の後に一斉に黄色い声が響き渡った。それはもう盛大に。

 

 

「千冬様!本物の千冬様よ!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!」

 

「ちくわ大明神」

 

「「誰だお前」」

 

 

騒ぎ出す女子に千冬は頭を押さえる。

 

 

「毎年よくこれだけ馬鹿者共が集まるものだ。私のクラスにだけ集中させているのか?」

 

 

その言葉に反省する者は誰一人おらず、更に女子は騒ぎ立てる。

 

 

「お姉さま!もっと叱って!罵って!」

 

「時には優しくして!」

 

「そして付け上がらない様に躾して!」

 

 

どうやらこのクラスにはドМしか居ない様だ。そんな中、一夏は一人呟く。

 

 

「千冬姉が・・・担任?」

 

「だから織斑先生だ!」

 

「あでっ!?お、織斑先生・・・」

 

「よろしい」

 

 

それ以降、千冬が進行を務めて自己紹介は終わった。全員分が終わった筈なのにクラスはざわついていた。その理由は一夏の隣の空席である。誰もが首を傾げる中、千冬が説明をする。

 

 

「諸君が気になっているその席にはあと一人在籍する生徒の物だ。だがソイツは今必要書類の提出で居ない。もうじき戻って来るので気にs・・・失礼」

 

 

話す千冬の声を遮って職員用の携帯から電話が掛かる。それに出て、数秒。携帯を仕舞い、話す。

 

 

「今、その生徒がこちらへ向かっていると報告があった。お前等、先程の様に無駄に騒ぐなよ?」

 

 

絶対零度の言葉にクラスは静まり返る。それから数分もしない内にドアをノックする音が響く。全員が件の生徒の全貌を目の当たりにしようと一夏の時と同じ視線を向ける。

 

 

「入れ」

 

「失礼します」

 

 

千冬の声に透き通った声が聞こえる。そしてドアが開くとその主が入室してくる。長く伸びたストレートの白髪に金髪のライン。そしてルビーの様な赤い目をした控えめに言っても美少女な人物は"男子用の制服"を身に纏っていた。

その姿を見て、クラスの全員が唖然とする。それは"彼"が数週間前にニュースに映っていた人物だったからだ。少年は女生徒の集団+一人に体を向けて笑顔で話す。

 

 

「この度、二人目の男性操縦者として入学する事になりました《不動 刹那》と申します。趣味は機械弄りで、女顔なのはコンプレックスなのであまり触れないでください。一年間、よろしくお願いします」

 

 

ペコリ、とお辞儀をする刹那に千冬が声を掛ける。

 

 

「書類は無事に出せた様だな」

 

「はい。お待たせしてすみませんでした」

 

「必要事項なら仕方あるまい。それに男性操縦者となればそう言った物も増えるだろう。席はそこだ」

 

「分かりました」

 

 

千冬の言葉に従って空席に腰掛ける刹那。それと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴った。

 

 

「では次の時間から本格的に授業に入る」

 

 

そう言って教室を教師達が出た瞬間、クラスの女子達の視線が男子二人に突き刺さった・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

 

刹那サイド

 

 

まさか入学当日になって書類の追加があるとは・・・。取り敢えず授業に置いて行かれなくて良かった良かった。

安心した僕は鞄の中からラムネ菓子を取り出して口に含む。爽やかな味を楽しみながら次の授業の準備をしていると、隣から話しかけられてきた。

 

 

「なあ、お前が二人目の男性操縦者なのか?」

 

「さっきそう説明したけど。見た目にはノーコメントって言ったよね?」

 

「悪い悪い。俺は織斑一夏。よろしくな、刹那」

 

「ごめんね。あまり初対面で名前呼ばれるの好きじゃないから不動でお願いできるかな?織斑君」

 

「そんな固い事言うなよ。同じ男同士仲よくしようぜ」

 

「・・・はぁ」

 

 

初対面で凄い馴れ馴れしいなこの子。まあ、これくらいのテンションじゃないとこの学園は辛いよね。

 

 

----《IS学園》

 

 

島の上に造られたこの学校は平たく言えばISの専門学校。世界各国の操縦者達が集まるこの学校は最新のセキュリティによって守られている上に、移動手段はモノレール一本と言うほぼ隔離に近い学園島だ。

と言ってもセキュリティは僕からすればザルの一言で、家の研究所とかの方がよっぽど固い守りだと思う。何せ地下にはヤバい兎がいるし。

それにしても、さっきから肩組んで来て暑苦しいったらないんだけど早く離れてくれないかな・・・。

 

 

「ちょっと良いか?」

 

「ん?」

 

 

そう言って無愛想な少女が織斑君に話し掛けた。この子が資料で見た束の妹か・・・。

 

 

「おお、《箒》だよな?」

 

「ああ。此処ではなんだ、外で話がしたい」

 

「分かった。ごめんな刹那」

 

「だから名前は・・・もう良いや。ごゆっくり」

 

 

ようやく解放された僕は机に突っ伏す。そして顔を横に向けると一人の少女と目が合った。

 

 

「じー」

 

「・・・」

 

「じー」

 

「・・・何か?」

 

「さっきのラムネちょーだい、《ふーちゃん》」

 

「ふーちゃんって僕?」

 

「不動だから、ふーちゃんだよ~」

 

「なるほどね。はい、どうぞ」

 

「ありがと~♪」

 

 

ラムネを渡すと少女は嬉しそうに口に入れる。やがてラムネがなくなったのか僕の方へ向き直して自己紹介してくれた。

 

 

「私は《布仏 本音》っていうんだ~。のほほんって呼んで~」

 

「えっと、のほほんさんで良いかな?」

 

 

渾名ならまだ良い。束から何時もせっちゃん呼びだし。ただ誰でもいきなり名前呼びは慣れないんだよね・・・。よく父さんはそう言うの平気だったな。

これが前世から受け継がれたコミュ症の差か・・・!

 

 

「あ、そろそろ先生が来るから戻りな」

 

「うん!またね~」

 

 

そう言ってのほほんさんは戻って行った。やがて織斑君達も戻り、先生達が教室へ入って来た事で授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・となります。此処までで何か分からない人はいますか?」

 

 

山田先生の声に誰一人として手を上げる者は居ない。まあ、基本的な勉強はして来るよね。僕は小さい頃からIS関連の書物を読み漁ってたから問題は無い。

だが、僕の隣はそうではないらしい。

 

 

「織斑君に不動君、どこか分からない所はありますか?」

 

「僕は大丈夫です」

 

「山田先生・・・」

 

「織斑君?何処が分からないんですか?」

 

「ほとんど分かりません!」

 

「ほ、ほとんど・・・ですか?」

 

 

織斑君の言葉に先生は目を点にする。僕もまさか此処で突っかかるとは思ってなかった。だって今時の女子中学生でも知ってる分野だよコレ?

 

 

「えっと、他に分からない子はいますか・・・?」

 

 

答えは沈黙。手を上げない僕を見て驚愕する織斑君に対して織斑先生が聞く。

 

 

「織斑。入学前に手渡された必読の冊子は読んだか?」

 

「えっと・・・古い電話帳と間違えて捨てましだぁっ!?」

 

 

織斑君の頭に出席簿が叩きこまれる。えぇ・・・捨てたの?アレを?馬鹿じゃないの?

 

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「馬鹿ってなんだよ!」

 

「あ、やっば」

 

「あんなの間違えるに決まってるだろ?」

 

「必読って大きく書いてあったけど?」

 

「そうだったか?」

 

「はぁ・・・」

 

 

その言葉に僕は大きく溜息を吐く。あれ?これって僕がおかしいのかな?

 

 

「織斑、再発行したものを渡す。一週間で覚えろ。良いな?」

 

「いや一週間なんt「覚えろ」・・・分かりました織斑先生」

 

「山田君、授業を再開してくれ」

 

「は、はいっ!」

 

 

こうしてこの時間の授業が終わり、教科書を片づけていると織斑君が机にピットリと密着していた。

 

 

「刹那ー、助けてくれ」

 

「ファイト」

 

「ええ!?教えてくれたって良いじゃないか!」

 

「捨てた君が悪いでしょうに・・・はい、放課後まで貸してあげるから」

 

「おお!サンキュー!」

 

 

そう言って織斑君は僕の渡した冊子を開いてノートに書いて行く。はたして、間に合うかどうか。

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

「あ、織斑君。此処は基礎の基礎だから絶対に覚えておく事」

 

「おう、分かった。此処ってさ・・・」

 

「それはこの説明の・・・」

 

「ちょっとよろしくて!?」

 

「悪い、今忙しいから後にしてくれ」

 

「ごめんね。でないとこの子本当にマズイから。それとも緊急の用事?」

 

「い、いえ、そう言う訳では・・・」

 

「それじゃあ後で話聞くから今はちょっと待ってもらえないかな。今の状況は本当に笑えないから」

 

「えっと・・・此方こそごめんなさい?」

 

 

僕の気迫を分かってくれたのか、金髪ドリルの少女は首を傾げながら席へ戻って行った。僕は再び織斑君の勉強を見る事に集中する。マジでアカンよマジで。

 

 

「はい次此処」

 

「おう!」

 

 

こうして勉強を続ける間に先生達が来てチャイムが鳴った。授業が始まり、織斑先生は言った。

 

 

「本来はSHRで決めるべきだったのだが都合が合わなかったのでな。再来週に行われるクラス対抗戦に出場するクラス代表を今の時間を使って決めたいと思う」

 

 

クラス代表・・・か。パンフレットにそんなイベントあったね。僕としては夏休みの後にあるISのレースが楽しみで仕方ないけど。

 

 

「クラス代表者は対抗戦などの代表になるだけでなく、生徒会の会議や委員会の出席もある。学級委員だと考えてくれれば良い。そしてクラス対抗戦は現時点でのクラスの実力を測るものだ。こういった催しはクラスの向上心に繋がる。一年間務めてもらうからそのつもりでいろ。自薦他薦は問わん」

 

「私は織斑君を推薦しまーす!」

 

「あ、じゃあ私は不動君で!」

 

「お、俺!?」

 

「織斑先生。僕はその推薦辞退したいんですけど」

 

「他薦された者に拒否権はない」

 

「・・・この馬鹿教師」

 

 

文句言いたいけど流石にこの人に手を出したらヤバいよね。

織斑千冬はISの世界大会王者。《ブリュンヒルデ》の称号を持つ教師。

実力は多分全盛期よりは下だけど、この人に下手な事をすればファンの方々に何されるかたまったもんじゃない。この状況をなんとかせねば・・・。

そう思っていると、僕の後ろから立ち上がる音が聞こえた。

 

 

「納得行きませんわ!」

 

 

さっきの金髪ドリルは人が反対した。

 

 

「この《代表候補生》であるこの私《セシリア・オルコット》が選出されないのですか!そこのお二人方は何かありませんの!?」

 

「言いたいけど先生が話を聞かないんだけど」

 

「えっと・・・君誰だ?」

 

 

織斑君の言葉で空気が凍った。さっき自己紹介してたじゃん。僕も移動しながら渡されたクラスのデータを見て覚えたんだよ。ちゃんと聞いてなよ。

 

 

「わ、私を知らないですって!?このイギリス代表候補生のセシリア・オルコットを!?」

 

「おう。あと、代表候補生ってなんだ?」

 

「織斑君、君はやっぱり馬鹿なんだね。言葉で分からない?」

 

「ん?・・・ああ、国の代表候補か!」

 

「そう。でも飽く迄も候補だからそこまで有名ではないよ」

 

「なんですって!?」

 

 

僕の言葉にオルコットさんは顔を真っ赤にしながら怒鳴る。

 

 

「いや、候補生なんだから漏れ出る可能性だってありえるんだよ?それにクラスの反応で分からない?」

 

 

周りの女生徒はオルコットさんの活躍だのなんだのは全く知らない様で揃って首を傾げていた。僕は一応知ってる。面白いIS使うんだもん。

でも機体性能を活かしきって無いって感じだった。

 

 

「くっ・・・それはともかく!このような選出、認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!この貴族である私に一年間屈辱を味わえと言いますの!?」

 

 

ワタクシって本当に貴族の話し方だなこの人。僕の知ってる限りでは多分爆弾発言するんだよね。うん、間違いない。僕は小声で首元の相棒に話しかけた。

 

 

「・・・録音よろしく」

 

『はい、マスター』

 

 

録音が始まった事にも気付かずにオルコットさんは好き放題に言い始める。

 

 

「実力から言えば私がクラス代表になるのは必然!それをただ珍しいからと言うだけで代表になられては困ります!ISの知識も無い猿の下になれと!?私がわざわざこの様な極東の島国に来たのはIS技術の修練を積むためであって、サーカスをする気など毛頭ございませんわ!」

 

 

オルコットさんの言葉にクラスメイトの顔が嫌悪感を示して行く。それもそうだ。この人が言った極東の島国の人間がISを造ったのだから。なのにこの言い様は日本人が殆どのIS学園の生徒達からすれば気に入らないの一言だろう。

さて、此処で録音した物を・・・

 

 

「大体ですね、文化としても後進的な国で暮らさなくてはならない事自体、私にとっては耐えがたい苦痛ですのに・・・」

 

「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一マズイ料理で何連覇中だよ」

 

 

空気も読まずに言い返した馬鹿が居た。なんで火に油注ぐどころかニトログリセリンに衝撃与えちゃうかなこの子は・・・!

 

 

「なっ、貴方ねえ!私の祖国を侮辱いたしますの!?」

 

「先にこっちを悪く言ったのはそっちだろ!」

 

 

二人はどんどん罵り合う。そんな二人を織斑先生は何も言わずに見ていた。いや、普通止めるだろうに。この先生駄目だ。ポンコツだ。そう思いながら僕は席を立って大きく咳払いする。そして携帯端末を取り出して液晶をタッチした。

端末からは先程の二人の発言が流れる。先に理解したのかオルコットさんは顔を青くして、織斑君は頭に?を浮かべていた。

 

 

「はいストップ。これ以上続けたらこの会話を各国の上に送り付けるよ」

 

「なんでそんな事するんだ?」

 

「少しは学ぼうよ君。良いかい?さっきの会話は国家間に亀裂が入るレベルなんだよ?」

 

「いやだからなんでだよ?ただの口論じゃないか」

 

「ただの口論じゃないから言ってるんだ。まずオルコットさんの発言が一番危ない。ISを造った国を馬鹿にしたんだよ?自分がISを学びに来てるのに」

 

「そ、それは・・・」

 

「次に織斑君。君はそれに対して言い返したのがいけなかった」

 

「なんでだよ!お前は日本を馬鹿にされて悔しくないのか!?」

 

「別にそこまで愛国心無いし。子供の癇癪みたいなものでしょ」

 

「お前それでも男かよ!」

 

 

よく分からない事を言う織斑君に本日何度目かの溜息を吐いて話を続ける。

 

 

「君達は此処に居る以上発言には注意するべきだ。特に代表候補生や世界に二人しかいない男性操縦者なんて大層な肩書き持ってるんだから。もう高校生だろう?よく考えて発言しなさい。それで?続ける?」

 

「いえ・・・申し訳ありませんでしたわ皆様」

 

「えぇ・・・俺も謝るのか?」

 

「当然。此処は喧嘩両成敗って事で」

 

「・・・悪かったよ」

 

「こちらこそ」

 

 

オルコットさんはクラス全員に、織斑君は渋々と言った様子で頭を下げる。そして織斑先生が手を叩いた。

 

 

「ではこうしよう。一週間後にオルコット、織斑、不動の三人で模擬戦を行い、勝者がクラス代表だ」

 

「良いぜ。四の五の言うより分かり易い」

 

「異論はありません。この私の実力を思い知らせてあげますわ!」

 

「仕方ない。それで行きましょう」

 

 

なんかやる気を出す二人に対して僕は考える。仮にやるなら"どの機体を使うかな"と。

一応僕はイリアステルのIS部門のテストパイロットとしてもこの学校へ来ている。僕の存在が明るみに出た事や、束達との計画が表沙汰にならない為に隠れ蓑のIS部門を創設してそこのテストパイロットになった。

機体は父さんが知り合いの所と提携して貰った物を改造した。学園側に申請してちゃんと複数の機体を所持する許可をもらっている。自分の会社の機体だ問題はあるまい。セシア?あの子はオーバーテクノロジー過ぎるのでもしもの時以外はお休み。だって粒子化とかダメでしょ。

考える僕を余所に、再び織斑君が馬鹿な事を言い始めた。

 

 

「それで、ハンデはどうするんだ?」

 

「あら?さっそくお願いですか?」

 

「いや、俺がどの位ハンデをつければ良いかなって」

 

 

その言葉にクラス中が笑った。この子本当に何も分かって無いな。ブリュンヒルデの弟って嘘じゃないの?

 

 

「お、織斑君はそれ本気で言ってるの?」

 

「男が女より強かった時代なんてもうとっくの昔の話だよ?」

 

「今じゃ女の方が強いって常識だよー?」

 

 

周りの言葉に織斑君は思い出したのか顔を顰める。

 

 

「じゃあ、ハンデは良い」

 

 

彼の言葉に対して女子から更に声が上がる。

 

 

「寧ろ織斑君達がハンデ貰った方が良いよ。そうじゃないと何も出来ずに負けちゃうよ?」

 

 

これは心配というよりも馬鹿にしてるよね。なんか今日は馬鹿って言葉沢山使うな。こんなの母さんに聞かれたら小一時間位説教されてしまう。

 

 

「男が一度言いだした事を覆せるか。ハンデは無くていい」

 

「僕は寧ろハンデ付けても良いよ?」

 

 

僕の言葉にクラスメイトの視線が突き刺さる。そんな中でも飛び抜けてオルコットさんの視線が凄かった。

 

 

「貴方、先程の忠告を聞いていませんでしたの?」

 

「聞いてたよ?でも僕だって伊達にテストパイロットをやってないからね」

 

 

その言葉にクラスの人達が首を傾げるそんな中、のほほんさんが声を上げた。

 

 

「あー!ふーちゃん、自分の会社のパイロットやるって言ってた!」

 

「そう言う事」

 

「不動・・・あのイリアステルの!?」

 

「今更ですか・・・」

 

「なあ、イリアステルって何だ?」

 

「君はもう黙っててくれないか」

 

 

騒いでる織斑君を無視してオルコットさんに言う。

 

 

「おい」

 

「な、なんですの?」

 

決闘(デュエル)しろよ」

 

 

改めて僕からの戦線布告。こうして僕達のクラス代表を決定する模擬戦が開催される事となった・・・。

 

 

~放課後~

 

 

「なあ、頼むよ!」

 

「嫌だ。僕はさっさと帰る」

 

 

僕の服を掴む織斑君に苛立ちを覚える。彼は僕の貸した冊子をくしゃみの唾で汚した上にページを破りやがった。それでも尚、勉強を教えてくれだの一緒にISの練習をしようだの冗談じゃない。

僕は家に帰ってストレス解消におじちゃんのレースを見てから束とISの計画のデータを見るって決めてるんだ。そんな僕の希望を裏切るかの様に山田先生が教室へ入って来た。

 

 

「織斑君、不動君。良かった。まだ残っていたんですね」

 

「どうしたんですか山田先生?」

 

「お二人の部屋が決まりました」

 

 

山田先生の言葉に首を傾げる。

 

 

「あの、しばらくは自宅から通うと聞いていたんですけど」

 

「僕は家の迎えが来るからそれで行き来しろと」

 

「ですが学園からの通達で部屋が決まったと」

 

「でも荷物g「それなら問題無い」・・・織斑先生」

 

 

織斑君の言葉を遮って、先生が来た。

 

 

「荷物は既に部屋へ届けてある。携帯の充電器と着替えがあれば十分だろう」

 

「ありがとうございます・・・」

 

「不動の方もお前の家の者から荷物を預かっている」

 

「どうも」

 

「それじゃあ、これがお二人の部屋の鍵です」

 

 

そう言って山田先生が部屋の鍵を渡して来たのでそれを受け取る。すると織斑君が僕の部屋番号を覗き見して来たのでポケットに入れて隠す。

 

 

「なんだよ。教えてくれたって良いじゃないか」

 

「嫌だよ。だって勉強教えてって来るでしょ?て言うか君の新しい冊子と僕の交換してよ。唾付けたり破ったりしたんだから」

 

「何でだよ。別にまだ使えるから良いだろ?」

 

「君には常識がないのか?」

 

 

織斑君・・・もう織斑で良いや。溜息を吐くと、先生が新しい冊子を僕に渡して来る。

 

 

「織斑が悪かったな。これと交換すると良い」

 

「話が分かって助かります」

 

「ええ!?なんでだよ!?」

 

 

ギャーギャー騒ぐ織斑をシカトして僕は教室を出る。てっきり織斑と同室だと思ったけど部屋の番号は別だった。寮の部屋を進むと、目的の部屋へ着く。どうせ一人部屋だろうと思いながら鍵を開けて中へ入ると・・・、

 

 

「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも、ワ・タ・シ?」

 

 

僕はそっと扉を閉めた。

・・・ナニコレ?もう一度開ける。

 

 

「もう、閉めちゃうだなんてイケズね♪」

 

「・・・!」

 

『刹那ヘルプ発生!刹那ヘルプ発生!』

 

「ちょっ・・・!」

 

 

やっぱり幻覚ではなかった裸エプロンを身に纏った女性を前に僕は首のセシアのチェーンを引っ張った。セシアから機械質な音が流れ、女性が僕を押さえて部屋に入れて押し倒す。僕はパニックになって悶えていると、ドアが開いて女性の肩を叩く。

そこには、

 

 

「なんで家の息子に手を出してるのかしら?」

 

「え、えっと・・・お母様デスカ?」

 

「ソーンウィップ!」

 

「アッーーーー!?」

 

 

どこからともなく現れた母さんは首に掛けた聴診器で女性を叩き始めた。こ、これが父さんに毎晩やっていたソーンウィップ・・・!

・・・ってなんで此処にいるのさ!?

 

 

刹那サイド終了


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