if~刹那君は操縦者~   作:猫舌

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第18話

刹那サイド

 

 

そこそこ広い研究室の一角で、僕と束、ブルーノさんと簪は黙々とキーボードを操作して、データを入力して行く。ラウラとクロエはその隣で組み手をしていた。

造る側の人間じゃないしね、あの二人。

 

 

「・・・簪、マルチロックオンのデータにズレがある。今からハロと機体に修正データを送るから」

 

「分かった。ハロ、お願いね」

 

『ガッテンダ!ガッテンダ!』

 

「《かんちゃん》。この機能を追加したいんだけど良いかな?これがあれば接近戦の幅が広がるんだけど」

 

「お願いしても良いですか、《束》さん」

 

 

いつの間にか名前で呼び合う仲になった二人を横目に見ながら、作業を進めて行く。

この四人で進めたお陰か、データの入力は30分も掛からずに終了した。

後は束とブルーノさんの役目だ。外装の基礎は既にあるので、後付けのパーツを造るだけである。

 

 

「後は僕達の方でやっておくから、皆はゆっくりしてて」

 

「そうだね~大体5、6時間くれれば完成させられるよ」

 

「それじゃあ、お願いします」

 

 

僕達は研究室を出て、歩く。

 

 

「さてと、どうする?此処でも見学して行く?」

 

「良いのか?勝手にそんな事して」

 

「父さん達にはあらかじめ言ってあるから。君達の首に掛かってる許可証があれば、今来てるイリアステルの見学会に参加可能だよ」

 

「それじゃあ、見て行こうかな」

 

「私も書類でしか見た事が無いから気になっていた所だ」

 

「私は刹那様に着いて行きます」

 

 

全員が賛成した所で、見学会の場所へと向かう。

幸い、まだ開始時間では無いので待機室へと向かう。途中で見学会の担当社員の方に話を通してから入室する。

ドアを開けると結構な人が居た。そしてその中に一人・・・

 

 

「あっヤバ」

 

「・・・ようこそ、会長」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

 

僕と簪は頬を引きつらせながら、帽子とサングラスを付けた会長に声を掛ける。バレたと分かった会長は変装を止めた。

そして咳払いを一つすると、突然切り出した。

 

 

「お姉ちゃんは今回、イリアステルの企業見学に来ただけだから!本当だから!」

 

「「アッハイ」」

 

 

なんとも見事なまでにバレバレな言い訳だろうか。思わず簪とハモッてしまう。

 

 

「だ、だって簪ちゃんが不動君と一つ屋根の下で夏休みを過ごすのよ!?絶対に襲われちゃうわ!不動君が!」

 

「僕かよ!?」

 

「それは・・・ありえる」

 

「簪さん!?」

 

 

急にシリアスな顔になった二人がブツブツと話し始めたので、椅子に座って終わるのを待つ。

 

 

「安心しろ、刹那は誰にも襲わせん」

 

「そうです。刹那様の貞操は私が守ります」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

 

誰か、僕を一人前の男として見てくれませんか?

その後、担当社員に声を掛けられた事で僕達は見学会を始めた。

 

 

「では、次の場所へ・・・」

 

 

僕への視線は凄く多かったが何事もなく見学会が進んで行く。そして次に案内されたのは、イリアステルで販売している女性物のアイテムの部署であった。

僕はそっと後ずさりをするが、社員の一人に見つかってしまった。

 

 

「あ、坊ちゃまー!」

 

「坊ちゃま止めてください!」

 

「見てください!坊ちゃまが企画なされたこの前の商品、売り上げが今までの倍以上を叩き出したんですよ!」

 

「え、マジですか?」

 

「マジです。いやー、流石です。これには社長も思わず頬を引き攣らせましたよ」

 

 

そう言って社員の人がその商品を見せる。そこには口紅等の化粧品の類が並んでいた。

中学時代、同級生や先輩方に散々女装をさせられた事で化粧品の扱いも覚えさせられた。その際に、周りの化粧品に対する要望等を覚えて居た僕は食事の席で父さん達に話すと、何故か数日後にこの部署で企画を立てていたのだ。

そして現在もそれは続いている。

 

 

「えっ、じゃあ私達が使ってるのも・・・」

 

「はい!刹那様が関わってますよ!それに入れ物のデザインもです!」

 

 

社員の人の答えに見学者達がざわつく。というか、販売とかはそっちがやったんだからそっちの成果でしょうに。

そう思っていると、社員の人が僕の耳元で呟いた。

 

 

「恐らく、来月のお小遣いにはボーナスが入りますよ。坊ちゃまの功績は大きいんですから」

 

「いや、それを上手く販売したのはそっちなんだから、皆さんが受け取ってください。僕はあまり使い道ありませんし。基本買い食いしかしないので」

 

「いやあ、それは流石に・・・」

 

 

結局、僕がボーナスを受け取ると言う事になってしまった。

その後も色んな部署を周り、見学会は終わりを告げた。見学者の方々は、渡されたお土産を手に満足そうに帰って行く。

携帯を見ると時刻は昼ちょっと過ぎ。そろそろ終わっている頃だろう。研究室の方へ戻ろうとする僕達に受付の人が駆け寄って来た。

 

 

「刹那坊ちゃま。また例のお客様が・・・」

 

「分かりました。ごめん、皆先に行ってて。これ、地図ね」

 

 

地図のデータをラウラ達に渡して僕は応接室の方へと向かって行った。重い気持ちを堪えて応接室を開けると、其処にはスーツを着込んだ方々が座っていた。

僕は表情を引き締めて声を出す。

 

 

「遅くなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ。こちらも何度もすみません」

 

 

ならもう諦めてほしい。メールも含めればもう何十回も来てるぞ。そろそろ警察に突き出してやろうか・・・。

そう思いながら、目の前の《倉持技研》の社員達を見ながら向かいの席に座る。嫌気の刺した僕は単刀直入に聞いた。

 

 

「それで?また共同開発のお願いですか?」

 

「はい。こちらの資料をご覧になっていただけますか?」

 

「・・・」

 

 

渡された資料に無言で目を通す。倉持技研が長年積み上げたIS技術や、共同開発によるメリット等が細かく書き記されていた。

これ、普通の子供には理解出来るものではないよね。

 

 

----マスターは特別ですから。それにしても・・・。

 

----なんとも微妙な資料だな。

 

----資料っていうより、説明書?

 

----しかもこれで倉持の情報の47%って言うのがまた・・・。

 

 

ぶっちゃけこの知識、全部こっちにもあるんだな。

篠ノ之束と不動遊星の頭脳があるこっちにしてみたら、あまり他社の技術っていらないというのが本音である。

僕は資料を閉じて、答える。

 

 

「何度も申し上げますが、この共同開発は我々にとってメリットがあるとは思えません」

 

「そ、そんな。これはわが社n「失礼ですが、資料にあったISの新型ブースターとやらは、もう運用なさっているので?」い、いえ、まだ理論だけです・・・」

 

「それでは、その次のページの武装は?装甲は?」

 

「そ、そちらは御社の技術力と組み合わせれば可能です!」

 

「・・・つまりはこの資料はまだ試した事の無い理論だけって事ですか」

 

 

僕は頭を抱えそうになる気持ちを抑えながら溜息を吐く。これに対して僕達の会社の技術力の20%を寄越せと?

僕は席を立ち上がって退室する。

 

 

「すみませんが、お帰りいただけますか?共同開発に関しては、お断りします」

 

「ま、待ってください!この話には日本のIS技術の未来が・・・」

 

 

その言葉に僕は一瞬怒りが湧いた。そしてそれを何とか抑えながら言う。

 

 

「自分達の仕事投げ出して目先の欲に駆られる様な方々と仕事なんかできませんよ。それに、こう言った話は僕で無く父に話してください」

 

 

父さんが怖いから子供である僕に寄って集るとか、ダメ人間の集まりかこの人達は。

本当、簪が可哀想だよ・・・。

受付に連絡を入れて、倉持の方々には帰ってもらった。まあ、この話は父さんにも行くだろう。彼等はいささかしつこ過ぎた。

 

 

~研究室~

 

 

「お、せっちゃ~ん!できたよー!」

 

「本当?おお・・・!」

 

 

ハイテンションで手を振る束に苦笑しながら歩いて行くと、完成された簪のISが姿を現した。それは打鉄をベースに白や青の装甲に彩られた、正に専用機と言った形をしていた。

僕も思わず声を上げるが、一番感動しているのは間違いなく簪であった。彼女は目元を濡らしながらもそのISを見つめる。

 

 

「やっと、一緒に飛べるね。私の、私達のIS・・・」

 

「いやー、二人が先にデータを作ってくれたから全然時間が掛からなかったよ!それにベースもほぼ完成してたしね」

 

「まさか一人で今まで組み上げてたなんてね。更識さん、良かったら将来此処に来ないかい?君の技術は僕達も欲しいな!」

 

「い、いえ、そんな・・・!」

 

 

束とブルーノさんの褒め殺しに簪が恥ずかしがる。それを何時の間にか来ていた会長が抱きしめて止める。

 

 

「簪ちゃんは私が養うから働かせません!」

 

「え、私ヒモ確定?」

 

「あの、何で会長がいらっしゃるので?」

 

「えっと、その・・・」

 

「かんちゃんを尾行してたのを警備員に捕まっちゃって」

 

「あの警備員可笑しいわよ絶対・・・私が手も足も出ないとか」

 

「お姉ちゃん一瞬で抑えられたらしいから」

 

「ああ、誰かなんとなく察した」

 

 

わが社の警備員にはとんでもなく無表情の人が居る。口癖は[~が人間のルールではないのか]と言うなんとも個性的な方である。何故か警棒からは[イッテイーヨ!]と声が出る特別仕様である。

正直、あの人には束も勝てなかった。

 

 

「どうして此処に篠ノ之博士が居るかは聞かないでおくわ。何か事情がありそうだし。正直、貴方達の機嫌を損ねたら世界が終わりそうだし・・・」

 

「適切な判断ですね。刹那様を敵に回す=束様を敵に回すと同義ですから」

 

「私、本当に敵に回さなくて良かった・・・!」

 

 

クロエの言葉に会長はその顔を髪の毛よりも青くしてマナーモードみたいに震える。放っておけば、クローゼットに隠れるのではないかと思う程に・・・。

取り敢えず会長を放置して、簪に声を掛ける。

 

 

「それじゃあ、最適化させるから簪は着替えて来て」

 

「あ、大丈夫だよ。下に来てるからすぐに脱ぐね」

 

「ま、待った待ったぁ!?」

 

 

僕はブルーノさんとダッシュで研究室から出る。あの子、テンション上がってるのかちょっと周りが見えてないな。僕達が部屋を出てから[ぴゃあああああ!?]と可愛らしい声が聞こえた。

数分後、許可の声が聞こえて僕達は部屋に入る。そこにはモジモジしながらISスーツを来た簪が居た。

 

 

「あ、そう言えば簪のISスーツって初めて見るかも。しかもそれって・・・」

 

「うん、イリアステル社製の新商品。思い切って買ってみたんだ。どう、かな・・・」

 

「僕は似合ってると思うよ。可愛らしくて良いね」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

 

そう言って簪は顔を紅くして俯く。恥ずかしいなら聞かなきゃ良いのに。

簪が来てるISスーツは簡単に言えば、僕と同じ物。商品名は《刹那モデル》と凄く死にたいくらい恥ずかしい名前である。

唯一の違いは僕や織斑みたいに上と下が別々になっていない所位だ。

 

 

「キー!不動君と簪ちゃんがペアルック~!?羨ましい妬ましい・・・!」

 

「・・・私も変えてみるか」

 

「私は既に寝巻にしています。刹那様に抱きしめられてる感じがして、最高でした」

 

「くーちゃん・・・(涙」

 

「これはひどい」

 

 

ペアルックって古いなまた・・・。体操着とかだってある意味ペアルックだろうに。

そう思いながら僕達は作業を始めた。

ISを纏った簪のバイタルを確認しながら簪の身体データを入力する。最適化は10秒と経たずに終了した。

簪は軽く腕を動かしたり手を握っては開いたりを繰り返す。目がキラキラしてる辺り、どうやらお気に召したらしい。ハロのインストールも終わらせて今度は模擬戦に入る。

簪の相手はなんと会長だった。二人は研究室内にある実験用アリーナでISを展開する。

 

 

「簪ちゃんと戦うのは初めてね。お姉ちゃん、ワクワクして来ちゃった♪」

 

「私も、お姉ちゃんと同じ場所に立てるなんて思ってなかった」

 

「それじゃあ、行きましょうか。どっちが勝っても文句無しよ」

 

「負けないよ。このISは、私と刹那達の・・・皆の絆で完成した機体だから」

 

 

そう言って簪は手に薙刀を構える。会長も本気の様で、専用機《霧纏の淑女(ミステリアス・レディ)》を展開した。

この会長、あんな性格しておきながらちゃっかりとロシア代表である。候補生ではなく代表だ。なんというか、何故世界はこうも理不尽なのか。

こちらも武器である槍を構える。そしてブザーが鳴った瞬間、二人はぶつかった。そして・・・、

 

 

「やあっ!」

 

「くっ・・・きゃっ!?」

 

 

会長はあっさりと競り負けて後ろへと下がった。それを逃さずに簪が攻める。まさか機体の基本スペックに此処までの差が出来るとは・・・。

思わず僕や束達も一瞬冷や汗を掻く。実は冷や汗を流した理由は他にあった。ラウラ達も気付いている様だが、簪の適応能力が高い。

元々自分で組み立てていたとはいえ、当初の何倍もオーバースペックに魔改造された機体を少しの感覚の差が出てるが、殆ど使いこなしている。もしかしたら、僕も危ないかもしれない・・・。

そんな僕等を余所に模擬戦は進む。

 

 

「行って、《ファング》!」

 

 

簪の声と共に両肩と両腰に二基ずつ、計四機取り付けられていたパーツが外れ、ビーム刃を展開して会長へと向かって行く。会長は目を見開きながらファングを避けて行く。だが、ビーム刃からビームが放たれ、その背中に直撃した。

長距離からの攻撃も可能なこの兵器は凄く便利である。

 

 

「この・・・いい加減にしなさい!」

 

「貰ったよ」

 

「なっ・・・狙撃!?」

 

「ハロ、《シールドビット》展開。10基中3基はアサルトモード」

 

『シールドビット、アサルトモード!アサルトモード!』

 

 

冷静な表情で薙刀からライフルに持ち替えた簪はハロに指示を出して、青色の縦長の六角形の形をしたビット兵器を新たに展開する。主にコントロールはハロの役目なので簪の負担は少ない。その内の三基が向きを変えて、銃口になっているパーツからビームを発射する。

弾幕に晒され、何も出来ない会長に簪は無言で射撃を当てて行く。会長がなんとか放つ射撃も全てビットに防御される。気が付けばビットの殆どがアサルトモードへ移行し、会長を蜂の巣にせんとばかりにビームが放たれる。

 

 

「か、簪ちゃん!?流石にお姉ちゃんもコレはキツイんだけど・・・」

 

「え、どっちが勝っても文句無しなんだよね?それにビット兵器は反則なんて言われてないし」

 

「そうだけどそうじゃないの!もっとこうザ・勝負!って感じの戦いを想像してたのに!」

 

「それは刹那との試合の時に取っておこうかなって」

 

「私との勝負は!?」

 

「それが嬉しいのは本当。でも、私はもっと先に行きたい。お姉ちゃんのもっと先に居る彼と飛びたい!だから此処で止まらない。止まれないの!」

 

「そう・・・だったら、私も本気で行くわよ。貴女の視線を釘付けにしてあげる!」

 

 

そう叫ぶ会長を見て僕は皆に言った。

 

 

「全員今すぐ耳を塞げ!爆発するぞ!」

 

 

見学していた皆が首を傾げながらも耳を塞ぐ。するとすぐに変化は訪れた。会長達の周りを霧の様なが包み込む。会長のISの性能を思い出したのか、束が納得した顔をする。

そして次の瞬間、アリーナは大爆発を起こした。

会長の霧纏の淑女にはナノマシン生成器《アクア・クリスタル》が搭載されており、最大の特徴はISのエネルギーを伝達、変換する事である。

これによって、会長のISは水を自在に操る事が可能だ。そして今の霧と爆発は、ナノマシンによってISのエネルギーを熱エネルギーに変換して、霧を散布。からの大爆発で相手を木っ端微塵にするいともたやすく行われるえげつない行為である。

その技名は《清き熱情(クリア・パッション)》。

 

 

「ふふふ・・・どう?私の機体の真骨頂は?」

 

「・・・危なかった」

 

「ファッ!?」

 

 

何と言う事でしょう。簪さんは無傷ではないですか。その秘密はコレ、シールドビット。

量子変換の応用で、爆発直前にビットを収納。そして爆発が届く前に自身を覆う様に展開する事で、爆発から身を守ったのだ。お陰で会長の機体は本当の切り札を使う前にSEを削ってしまった。完全に詰みである。

 

 

「えっと、今のかなり自信あったんだけどな~・・・」

 

「悪いけど、これで終わり。マルチロックオンシステム起動」

 

『《神嵐》テンカイ!テンカイ!』

 

 

ハロの言葉に、簪の機体に大量のミサイルポッドやビーム兵器が展開されていく。そしてそれらは全て会長に牙を向いていた。

 

 

「神嵐・・・発射ぁ!」

 

『ハッシャ!ハッシャ!』

 

「いや、それもうオーバーキルよnアッーーーー!?」

 

「小林ィィィィ!じゃなかった会長ー!」

 

 

それはもう見事に会長はボコボコにされました。そしてブザーが鳴り響き、簪の勝利を告げた。簪はふう、と一息吐いてからISを解除してハロを肩に乗せて会長へと歩いていく。

 

 

「私の勝ち、だねお姉ちゃん」

 

「ええ。貴方達にボロ負けで心折れそうよ私」

 

「皆と造った機体だもん。此処で失敗したら合わせる顔が無いよ」

 

「お姉ちゃん、国に合わせる顔が無いわよ」

 

 

楽しそうに会話する二人に僕達は駆け寄った。

 

 

「やったね簪!初戦にして大勝利だ!」

 

「しかもビット兵器だけであそこまで圧倒するとは、凄いな簪は」

 

「それに初見であの身のこなし。尊敬します」

 

「凄い!凄いよかんちゃん!今の動きなら現役時代のちーちゃんと良い勝負出来るよ!」

 

「うん、ハロとの連携も良かったし問題無しだよ!」

 

「えっと、ありがとうございます・・・!」

 

 

そう言って簪は頭を下げる。束達も嬉しそうに簪の勝利を更に祝福する。僕は会長に肩を貸して、立たせた。

 

 

「簪ちゃんがあんなに笑うなんて初めて・・・不動君、本当にありがとう」

 

「別に礼を言われる程の事をした覚えはありませんよ」

 

「こっちにはあるんだから、素直に受け取っておきなさい」

 

「そうですか。では、お言葉に甘えて」

 

「ふふっ♪」

 

 

幸せそうに笑う会長に僕も思わず笑う。こうして、簪の専用機の開発と起動は成功に終わった。

その後、イリアステル社の近くの焼肉屋で僕達は祝いのパーティーを開いた。つい最近開いたばっかりだが、気にしない。

 

 

「では、かんちゃんの専用機完成と大勝利を祝して~、乾杯!」

 

「「「「「「乾杯!」」」」」

 

 

束と合図で皆のコップがぶつかった。そして中身を嚥下して行く。作業で火照った体に冷えた飲み物はよく効く。

父さんと母さんも二人でディナーに向かったそうだ。相変わらずラブラブで安心したよ。

 

 

「んぐっんぐっ・・・ぷはぁ!おばちゃーん、ビールもう一杯!ピッチャーで!」

 

「と、飛ばしますね篠ノ之博士・・・」

 

「おっと、《たっちゃん》。外に居る時の私は《篠ノ山 貴音》だよ♡」

 

「は、はい、篠ノ山さん」

 

「貴音、でも良いからね~。それにしても・・・」

 

「な、なんでしょうか?」

 

「せっちゃんとそこそこの付き合いみたいだけど、どうして名前で呼ばないの?」

 

「・・・そう云えばずっと会長って呼び方」

 

「と言う訳でせっちゃーん、カモーン!」

 

「貴音、飲みすぎ」

 

 

束の大声に溜息を吐きながら向かう。丁度ビールも来た様で、ピッチャーに入ったそれをゴクゴクと飲みながら僕に言った。

 

 

「さ、たっちゃんを名前で呼んでみよ~!」

 

「何で?」

 

「わ、私も名前呼びが良いな~って。ほら、そこそこ付き合いも長いし。不動君の事も名前で呼びたいし・・・」

 

「そうですね。では、《楯無》さん」

 

「はうっ♡」

 

 

僕が名前で呼んだ瞬間、会長・・・楯無さんは胸を抑えて倒れ込んでしまった。それを笑いながら束が撫でた。

 

 

「やったねたっちゃん!これで一歩前進だよ!」

 

「は、はい・・・!キュンキュンしました!」

 

「うんうん!私もしたよー!」

 

 

この二人は仲良くやれそうですな。そう思いながら僕は席に戻って、肉を焼こうと・・・した所でクロエに焼けた肉を差し出された。

 

 

「刹那様、どうぞ」

 

「ありがとうクロエ。でも君も食べなよ?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「刹那!この冷麺とやらはとても美味だな!」

 

「この店はラーメンも美味しいよ」

 

「ラーメン!そういうのもあるのか・・・」

 

 

ラウラも初めての焼肉屋でテンションが上がっているらしい。

暫く食事を楽しんでいると、簪が僕の隣に来て座った。そして僕を見る。その顔はほんのりと赤く染まっており、手にはビールが・・・って

 

 

「簪にビール飲ませた馬鹿は誰だ!?」

 

「いっけね、やっちった☆彡」

 

「馬鹿兎マジでチクる。父さんに」

 

「すんまっせんしたー!」

 

「な、なんて見事な土下座」

 

「最早天災の欠片も無い・・・」

 

 

束に拳骨を食らわそうと思ったその時、僕の服を簪が引っ張った。

 

 

「む~・・・」

 

「か、簪さん?」

 

「かまって」

 

「へ?」

 

「ぎゅー!」

 

「」

 

 

突如抱きついて頬をスリスリして来た簪に僕は戸惑いを隠せなかった。そんな僕を無視するかの様に簪は続ける。

 

 

「せつな~だいしゅき~♡」

 

「お、おう・・・」

 

「せつなは~、わたしのこと、しゅき~?」

 

「う、うん、好きだよ?」

 

「むふふ~、やった~!んっ♪」

 

「んむっ!?」

 

「んっ、ちゅるっ、れろっ、んちゅ・・・ぷはっ♡」

 

「・・・へ?」

 

「・・・むにゃ」

 

「・・・へ?」

 

 

この子、散々人の口の中蹂躙しといて寝オチっすか。それとさっきからラウラとクロエが頬にキスして来て心臓がヤバイ事になってます。

どうしてこうも女子と言うのは時折とんでもない行動に出るのでせうか・・・。

 

 

刹那サイド終了

 


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